紅と蒼の間にて、王を待つ 3
続きです!
魔法と科学は紙一重?魔法があっても人間は機械を作ったと思いますよ?
3
正明は真紀が紫の瞳をした男に襲われている現場を遠くから観ていた。
彼女自身の力を計っていたのだ。
無論、彼女と自分の立ち位置を何時でも交換できるようにしてはいたが彼は大量の冷や汗をかいていた。まさか、敵の銃口を舐めるなんて挑発を行うとは予想してなかったのだから。
まるで自分がそこにいたかの様な挑発だった。
上手く相手が撃てない状況を作り出し、その上で固有能力で精神をコントロールして自分に釘付けにする。相手の正気をこっそりと奪う伊達兄妹の得意技だ。
土壇場で実践するとは、と感心していた正明だが何故にあの紫の瞳をした男は真紀やその友人達を狙ったのだろうか?
正明は建物に隠れて冷静に考える。
紫の瞳をした男は誘導されたとは言え、真紀を始めから狙っていた。だが、彼女は誰かに恨まれるような事は出来ないし、恐らくしないだろう。ならば考えられる事は一つだった。
奴は真紀ではなく、正明を探していたのだ。
出なければあんなに感情的にならないし、情報を話したりもしない。相手からしたら正明は殆どの事を知っている様なものだ。ド派手にばらしたりしなければある程度は話す。
正明はデバイスを開くと巧へとかける。
「やぁ、アイツ勘違いして真紀を狙ったよ。僕が行こうと思ったけど、真紀は強いね。僕顔負けのハッタリ決めてたよ」
(まぁ、間違えるだろうな。だが、アイツはなんて言った?)
「あの方って人物が出てきたけど、それは誰?」
(あの方ねぇ、オレも知らない。兄弟達ではないのか?)
「どちらかと言えば、僕達寄りかな。精神汚染された兄弟達は誰の下にも付かないのは知ってるでしょ?」
(あぁ、そうだな。じゃあ、人外化施術が出来る奴のことか)
「誰なのか? だよね、やっぱり」
(少なくとも、アイツと兄弟達の繋がりは謎のまま。それに、この街はトレライ・ズ・ヒカイント。何が起きても、誰が現れてもおかしくない)
巧との通信を終えると、正明はゲートを開いて学園に戻る。
紫の瞳をした男の所為で生徒はオーダーの実働部隊以外に残ってはいないだろう。実働部隊だけだとオーダーの数は限られる。殆どの優等クラスの人間は入隊しているが、本気で命を懸けられるバカはそんなにいない、大抵は技術部門や情報処理だ。
そんな連中はそそくさと家に帰っているだろう。
「紫の瞳をした男の相手はオーダーに任せた方が得策かな?」
デバイスに八雲から通信が入る。
(さっき強盗事件が起きてオーダーが制圧してたけど、少し刺激的な装備を使っていたよ。ハイレグにパワードスーツの手足とブースター付けたようなの)
「あぁ、新装備だね。例のエロ装備でオーダーが頑張るなら、僕達はネタ装備で行こうか?」
(メイド服で戦うのはごめんだよ?)
「勘のいい、ネタバラシ前に言い当てないでよ。じゃ」
(続けて捜索するよ。今は京子ちゃんといるから防御は完璧)
「決定打を与える攻撃魔法は存在しない組み合わせだね。僕も少しお手伝いしてくるよ」
通話を終えると、正明は人払いの魔法をデバイスで発動させてオーダーの事務所へと転移する。
屋根に登ると腰のホルスターの魔力で透明化を発動させて、デバイスを術式に分解して顔の周りに浮かせる。これは盗聴と左目のスキャンを強化する物だ。
そこから聴こえて来る会話は慌ただしくする女性隊員の声だった。
どうやら実績を上げた新装備に食いついたようで、早速装備している様だ。金属が擦れるような音が聞こえて来る。
「剣部隊のコンセプトを真似しているのかな? 速さと火力で早期決着? なら、場所を選ばないと厄介そうだね。それよりも号令が遅いね・・・・・・そろそろ、怒り狂った翔太郎君が」
そう言いかけた時に、空から紅い光が流星の様に近づいてくるのが見えた。
誰かは言うまでもない。
4
俺はオーダーの事務所に戻ると、会議室に入る。
そこにはあらかじめ招集していたオーダー隊員の姿、その中には華音と遠山の姿もある。
「先ほど、操魔学園の生徒が襲撃を受けて重傷を負った。犯人は目撃者の証言から、紫の瞳をした男と呼ばれる魔法使いだ。この男は卑怯にも女子に奇襲をかけ、半殺しにする悪党だ」
「魔理って貴女の幼馴染の・・・・・・大丈夫なの!? 一緒にいてあげないと!」
美樹がそう言うが、俺はもう止まるつもりは無い。
「彼女の側にいてあげたいが、奴を倒さないとまた狙われてしまうかもしれない。魔理なら大丈夫だ、彼女は強い。昔から知っている俺だから信じられる」
「で? 相棒、どうするよ! 俺も気が収まらねぇ!」
「遠山、少し静かにしてくれ。これはこの世代のオーダーでは初かもしれない、経験者もいるだろうが由希子の世代と違うのは・・・・・・俺に任せてくれないか?」
「は?」
遠山が首を傾げた。
それを俺は無視する。
「由希子は団結していたが、指揮権は班に分けて与えていた。この世代は、俺に指揮権を全て任せてくれないか?」
「おいおい、お前全員の上に立つってか?」
隊員の一人が突っかかって来るが、俺も譲らない。
一度オーダーは決定的なリーダーが必要だ。その地位には今の所は最強の俺が付くべきだ、少なくとも安定するまでは。
「上に立つ人間は必要だ。仕方ないが、今のオーダーで一番強いのは俺しかいないだろ?」
「てめぇ! 調子に乗るな!」
隊員が俺に魔法を放とうとするが、俺は魔力を手から放出してその術式をねじ伏せて無効化する。そして彼の顔面に軽く拳をヒットさせるが、彼は大袈裟に吹き飛んでしまった。
「あっ! 済まない! 手加減したんだが、受け身は習ってなかったのか!?」
俺は倒れた隊員を助け起こすが、彼は完全に気を失っていた。
おかしいな、かなり手加減して撃ち込んだんだけど・・・・・・当たり所が悪かったようだな。
「流石、新しい隊長なだけあるわね。オーダーの戦闘員を一撃で伸せるなんてただ者じゃないのは解ったわ」
その様子を見ていた女性隊員が感心したようにそう呟く。
それに合わせて他の隊員も口々に「今の拳見えたか?」「体術も出来るのか」「魔法を魔力量の差で無効化してたぞ!?」などと話している。
これは良い雰囲気だ。
「安定して活動できるまで、俺に任せてくれないか? みんなの力は知っているし、信頼している。その上で俺と一緒に戦おう!」
「「「三神翔太郎隊長に、敬礼!!」」」
隊員達は二つ返事で了解してくれた。
俺は早速、紫の瞳をした男の物と思われる事件の資料を広げる。
「まずはコイツの身元だな。捜索班は魔理が襲われた現場に向かってくれ、手掛かりがあるかもしれない。実働部隊はヴァルキュリアに慣れていてくれ、技術班はヴァルキュリアの事で実働部隊の意見を聴いて改善してくれ。美樹、華音は俺と来てくれ死神の飼い猫を探す。アイツは紫の瞳をした男と戦闘している、味方ではないはず。締め上げてでも話をさせてやろう」
「おいおい! 俺は?」
「遠山は捜索班と現場に行け、もしもの時にはお前が一番戦えるだろう?」
「あー、俺は護衛ね? そうか、まぁ・・・・・・頑張っちゃいますよ!」
遠山は相変わらず能天気に大声でそう叫ぶと、捜索班を連れて転移魔法で現場へと飛んで行った。
実動部隊の女子たちも同じく訓練場へと歩いて行く。
残された俺と美樹、そして華音は自分の装備を確認する。
死神の飼い猫は油断ならない相手だ。未知の魔法、未開の技術、恐ろしいスキル持ちの仲間達、調べた限りだとかなりイレギュラーな存在だという事だった。
俺の事を助けたし、由希子の命も救ったが、最近も魔眼の闇鴉の仕業とも取れる殺人事件が起きている。殺されたのは一般人だ、もし、この事件が死神の飼い猫が関係して起きた事件なら連中はかなり危険な集団となる。
現段階で俺一人で勝てないと断言できる。
それに、独りで戦う事自体アイツはしないだろう。
「奴は手強いわよ?」
「知っている。ただ、アイツは事件の現場に現れるらしい。そこを叩く」
「私は、一度そのメンバーに助けられたけど・・・・・・なんだろう、憎めない人達なんだよね」
「華音、連中は人殺しだ。気を引き締めろ」
俺が華音にそう言うと、彼女は金色の髪を耳にかけながら複雑そうな顔で「うん」とだけ答えた。
華音が腰に拳銃を差している姿を見て、何処か謎の懐かしさを覚える。彼女のエメラルドグリーンの輝きを覗き込むたびに何処か他人に思えないのだ。
「華音、ヴァルキュリアを忘れてるぞ」
「ごめんなさい、私はパワードスーツもその装備も体質が合わないの。だから、このままで行く」
「体質?」
「たまにいるのよ、パワードスーツを着ると魔法が使えなかったり体調不良になる人間が。彼女もその一人って訳でしょ」
「そうか、もしもの時は俺を盾にしろ。出来るだけカバーする」
「大丈夫、気にしないで? 対策はしているから」
華音はそう言うと、腰に巻いている魔具のスイッチを指で弾く。
すると、彼女の身体にグリーンの膜が張られたようになり、染み込んでいくように消えた。これは防御魔法の一種だろう。
「よし、準備完了か? よし行くぞ」
「俺を探しにか? 英雄の諸君」
突然の言葉に俺は弾かれる様に振り向いて魔法を放っていた。
俺から放たれたバスケットボール程度の大きさの火球は、空中で霧散すると音も無く蒼い蝶に姿を変える。
術式を組み替えやがったのか!?
「やぁ、三神翔太郎。随分と隊長らしさが板について来た様だね」
「なんでこの事務所に入って来れるの!? 毎回侵入出来ないように防御魔法の種類も変えているのに!?」
美樹がヴァルキュリアを装備してライフルを向ける、その瞳には涙が滲んでいた。
「お父様を、殺したのはアナタね?」
「うん? そうだよ。僕が、殺した」
「貴様!」
「待て、美樹!」
俺は引き金を引こうとする彼女を止めるが、死神の飼い猫はテーブルの上に座ったままの姿勢から動こうともしない。
ただ、仮面の下の口だけを動かした。
「君の父親は魔力強奪犯に操られていた訳ではない。僕になろうとしたんだ、身体も顔も変えて、大量の武器で強くなって・・・・・・僕になりたいって」
「な、なにを?」
「その為に、沢山の人間を殺していた。だから、殺したんだよ。彼は放置すれば確実に世間を揺るがす怪物になっていたはず」
「それでも、あんなのでも、私の父だったのよ!」
「謝りはしない。ただ、僕から言わせてもらえればアレは君の事なんか愛してなかったよ」
「だまれぇえええええええ!」
美樹はライフルに魔力をフルにチャージして飼い猫へと放っていた。
死神の飼い猫は転がるようにテーブルから落ちると、無駄のない動きで小瓶を放ると、ライフルの魔力弾は小瓶へと軌道を変えてしまう。
「人殺しは人殺しに、殺されるのが良いオチだ。許せないなら僕に好きに復讐を誓うがいいさ、でも、君は今のままでは僕にすら勝てないよ?」
飼い猫は懐から取り出した小さな缶を美樹に投げると、破裂して飛び出して来た鉄の網に取られられてそこから放たれた電流でヴァルキュリアの魔力供給回路が焼き切れたのだろう。下着姿になって彼女は気絶した。
「美樹!」
「おっと、激高するなよ? 今のは彼女と俺の問題だ」
「あんなことを言われて怒らない人間はいないだろうが!」
「三神翔太郎、俺はこの子の父親を殺したから解るが。この子は今の方が幸せだろ? 心を許した男と暮らし、落ち着いた事で少しずつ友人も出来ているだろ? 父親がいなくなった事で手にした幸せだ」
「お前の価値じゃ測れない事もある!」
「それはお前もな? それより、紫の瞳をした男について聴きたいんじゃないか?」
こいつ、知っている!
なんて奴だ。一見動き自体は早く見えないが、動き自体にはムラが無い上に効果的な攻撃しかしない。実際に今もヴァルキュリアの弱点を的確に突いてきやがった。
「紫の瞳をした男・・・・・・それは、俺達が起こす事件を追えば出会えるさ」
「なに? それはお前も知らないのか!?」
「知っているのは奴の狙いは俺って事だけだ。どうだ? 俺と組むって言うのは?」
「ふざけるな! こんな事をして置いて連携なんか出来るか!」
「交渉は決裂だ。話はこれだけ、後はそこに倒れている北条美樹に御父上の死の真相を話す事」
「そんなの!」
「魔力強奪犯は探すだけ無駄だ。そいつも俺が殺したからな。出来るなら殺したくは無かっただが、奴は既に心をスキルに喰われていた・・・・・・残念だ」
本当に心のそこから残念そうにそう言うが、俺はコイツが本気でそう言っている様には聞こえない。
コイツにも、人間の心なんかない! あるのは得になるかならないかだけだ!
「魔理が襲われたのも、美樹が傷ついたのも、真紀が怯えていたのも、お前の所為だ」
「不思議だな、似たような名前の女がお前の周りには集結する法則でもあるのか?」
「貴様っ!」
死神の飼い猫は俺の顔を少しの間眺めると、鼻で笑い霧を発生させる。
逃げられる!
「待て!」
「三神翔太郎、ヴァルキュリアを使え。そうすれば、もしかしたら行きつくんじゃないかな?」
彼女は霧の中へと消えて行く。
俺は床で気絶する美樹を抱えると、急いで医務室へと運んだ。
奴には、まだ、俺も勝てないだろう。だから、強くなる必要がある。
俺自身の力の根源を見つける為にも。
積み重なる死が彼を戦慄させる
鉛板で作られた空を乙女の翼で切り裂くとき
その奥に見えるは悲しみか?
それとも、君にしか聴こえぬ鐘の音か




