紅と蒼の間にて、王を待つ 2
恋は盲目、その気持ちの根幹にすら自分では気付けない。
続きでごぜぇます!少しでも楽しんで頂けると幸いでごぜぇます!
2
時は少しさかのぼる。
杉崎魔理は新たな友人と共に先日から引き続いて放課後に街へと遊びに行っていた。学園の紅の優等生に見つかると非常に面倒な事になる組み合わせの三人組だが、パシリとして劣等クラスの生徒を連れ回している奴も少なくないからか、怪しまれる事は無かった。それも、真紀が持っている魔改造デバイスによって三人を思考会話の魔法でつないでいた事で黙ったままで会話が出来ていたのだ。
傍から見れば優等クラスの人間の小間使い二人を連れているように見えただろう。
その調子で周りの目が気にならない喫茶店の隅っこの席に座ると、魔法を解いた。
「はぁ、このデバイスは便利だけど普通に話すのが一番いいね」
「魔法だとなんだか会話って感じがしないからね」
魔理は真紀がテーブルに突っ伏す様子をニコニコしながらそう返事をした。それにいちごも反応して深呼吸をしている。魔法の会話に息が詰まったのだろう。
「何頼もうか? ここはパンケーキがおいしいけど、ダイエットとかしてる?」
「してないよ、太っていた事ないし。それに、好きな人がずっと隣の家に住んでいたから人一倍敏感かな」
「幼馴染って事!? いいなぁ、私はお姉ちゃんだけだよ。昔の事はあまり覚えてないから」
いちごは真紀の言葉に不思議そうな顔をするが、それよりも魔理の幼馴染とのコイバナの方が興味がそそられたのか、そちらの方へと反応する。
メニュー表とにらめっこしている魔理は、正直な事を言ってしまった事に顔を赤くしている。その様子はいちごの少し意地の悪い部分を刺激するのには十分すぎた。
「本当の意味で初恋なんだ? へぇ、可愛いわね」
「え!? あっ、そ、そうだけど! で、でも翔はもう兄妹みたいな感じで! そ、そうなんだけど! えっと、もう! いきなりそんなこと言うのは反則!」
「ふふっ、ごめんね? でも、幼馴染って大切な存在よね。私も幼馴染に助けてもらったことがあるからなんとなくだけど、わかる」
そう呟くいちごは前髪の髪留めを指で撫でた。
イチゴの髪留め、高校生にしては子供っぽいがそれが大切なものだという事は魔理も察しがついた。
「幼馴染かー、うーん・・・・・・どこが好きなの? 翔太郎君でしょ?」
「う、うん。翔ってね、昔から変わらない奴でね。曲がった事が嫌いな奴で、他の男子とケンカばかりしていたよ。私も沢山アイツに助けてもらったんだ」
「ナイト様って訳なんだね」
「あの時は本当にそう思ったんだ。私は自慢じゃないけど、勉強は得意な方でね。それを嫉まれて中学生の頃結構いじめられていたの、毎日辛くて・・・・・・心が痛くて、それが嫌で・・・・・・引かないでね? 手首とか、切ってた。そうすれば心の痛みが、別の所に移って楽になるような気がして」
「辛いなら、話さなくてもいいよ? ごめんね、軽い感じで聞いたりして」
真紀が焦った様な表情を浮かべる。
決して引いている訳ではなく、本気で彼女が思い出したくない過去を引き出してしまったと言う罪悪感が見えた。
「私が勝手に話した事だから気にしないでよ。それでね、その時に翔が私をいじめていた奴らを全員倒してくれたの。女子に対しては言葉で、教師に怒鳴り込んでまで止めさせるように言ったり、男子はみんなぶっ飛ばしていたよ。そして、私の手を掴んで(独りぼっちにはしない! 最後まで付き合うよ!)なんて言うんだよ? キザっぽいし、臭い台詞・・・・・・でも、私は凄く嬉しかった。子供のころから好きだった人にそんなこと言われたら、諦められないよ」
魔理の言葉に、いちごは穏やかな表情をしていた。
「今も、痛いんでしょ? いじめは無いけど、今度はその好きな人のために」
「翔は悪くないよ! 私が、勝手に」
「それが、ダメなのよ? 私も昔、心の痛みが嫌で同じような事していたの」
いちごはリストバンドを外すと、魔理に手首をみせる。
そこにはおびただしい数の切り傷が残っていた。まだ新しいものもある、その上、切り傷を何かで縫い合わせたような跡まである。
「そんな事じゃ、私は引いたりしないわ。でも、自分の所為にはしないで? 大切な人って、案外側にいるし、簡単に遠くへ行ったりしないものよ?」
いちごはそう言うとニコッと笑う。
その笑顔は落ち着いた雰囲気の彼女が別人様に変わった証拠なのだろうか、魔理はもう薄くなっているがまだ残っている自分の傷跡を見つめる。
これを止めさせてくれた彼は大切。でも、だからこそ寂しい。
まるで、誰かに取られるみたいで。
「そうだよ。それに、昔がどうであれ友達は出来るし、気にかけてくれる人もいるし、魔理ちゃんは怖がらなくていいと思うよ? 人は1人だけど、きっかけがあれば1つにもなれるってね。お姉ちゃんの受け売りだけど」
魔理は胸を抑えて切ない笑みを浮かべる。
だが、昨日よりは少しスッキリしたような表情をしている。
「ねぇ、そ、その・・・・・・この気持ち、伝えた方が良いかな!?」
魔理は少し大きな声でそう言っていた。
出会ってから日の浅い二人だが、真紀は一緒にいると何故がとても落ち着く上にわかってくれるような気持ちになる。いちごは多分だが、魔理と心の形が似ているのだろう、他人の様な気がしないのだ。
不思議な物だ。どんな魔法でもこんな気持ちを作る事も、感じさせることは出来ないのだろう。優等クラスの人間でも力だけに溺れた人間には、劣等クラスでも力に屈服した人間にはこんな芸当は出来ないだろう。
魔理はこの二人に自分の気持ちを少しでも聞いて欲しかったのだ。
「まずは、自分を許してからかな・・・・・・私ならそうする」
真紀はサファイアブルーの右目を彼女に向けてそう言う。
その事にいちごは触れなかったが、同意見と言わんばかりに首を縦に振った。
「自分を許す? 私は、自分の事じゃ無くて翔の事を」
「彼の事を考えてみるのは良いけど、今の自分って本当に恋してる?」
「え?」
「今の気持ちがスッキリしたら、大声でぶつけちゃいなよ! 好きだって!」
真紀はそう言うと、メニューのパンケーキを指差して「私コレ!」と言った。
「私はいちごパフェ」
「ぶれないね、いちごちゃん!」
「偏食気味なの」
「あっ、じゃあ私もパンケーキで」
「決まり! ぽちっとな。店員のお兄さんお願いしますよ!」
彼女の言葉にが心の中にすんなりと入って来た事に魔理は少し困惑していた。真っ向から今の気持ちを否定されたような物なのに、今の自分は自分に嘘を吐いているといとも簡単に魔理は受け入れてしまった。
何かの魔法を使ったのだろうか? しかし、高校生で精神支配系統の魔法を習得するのは天才でも難しいだろう。いや、正確には禁止されているから教えてもらえない。
それに劣等クラスの人間が出来る魔法ではない。
これは、魔法ではないのだろう。では、何なのだろうか? その人間が持つカリスマとで言うのか、なぜか彼女の持つ雰囲気に魔理は、翔太郎が話していた死神の飼い猫を重ねてしまった。
少しの時間雑談していた三人だが、その時に1人の男が魔理たちのテーブルの前に立った。不気味な雰囲気の男で、中折れ帽子隙間からは紫の瞳が覗いていた。
本能的に危険を感じた魔理が何かを言う前に、真紀が腰から伸ばした青白く光る尻尾で男を突き飛ばした。
「逃げよう! 速く!」
真紀の叫びに、いちごが魔理の手を引きながらポケットからカッターナイフを取り出していた。
何が何だかわからないまま喫茶店の出口まで走るが、男は転移魔法で先回りしてきた。魔理は必死に護身用の攻撃魔法を構築するが、男が懐から拳銃を抜く方が速い。やはり、攻撃に向いた魔法使いではない魔理ではラグが大きく出る。
だが、男が引き抜いた銃よりも早くいちごのカッターナイフが男を切り裂いた。
なんて度胸をしているのだろうか、カッターナイフは魔具であるようで風の攻撃魔法が付加されている様で男の上着に袈裟がたに切り傷が付く。
それに続いて真紀が男の顔面に鋭い飛び蹴りを突き刺した。その隙に魔理は重力波を形成して男へとぶつけると盛大に壁をぶち抜いて奴は外へと吹き飛ばされていった。
「あ、あれ誰!?」
「お姉ちゃんが、紫の瞳をした男を見たら何をしても良いから逃げろって!」
「驚いたけど、変な奴ね。避けなかったわよ?」
背後を気にしていたが、魔理は咄嗟に真紀をかばう様に腕を開いて前に出た。
その瞬間、彼女の身体に強烈な熱が襲い掛かって来た。
「魔理!」
誰の声かも彼女には解らなかったが、その声を最後に彼女の意識は途切れて大量の出血を伴って道路に倒れ込んだ。その光景に周囲の人々が耳をつんざくような悲鳴を上げた。女子高生でロクな力も持たない二人が泣きもせずに男を睨み付けているのに、のんきな連中だ。
「外した。が、次は無い・・・・・・早く本気を出したらどうだ? 俺の顔を忘れているなら、嫌でも思い出させてやる」
「何のこと!? なんで、彼女を!」
真紀はいちごに視線を送る。
彼女を引きずってでも、逃げてくれと目で訴えたのだ。その通りに、いちごは魔理の傷口を抑えながら遠ざかる。
その様子を紫の瞳をした男は察したのか銃口を2人へと向ける。
「あー、思い出した! あの、あれ、何だっけ!? あの話にならなかった奴!」
「何だと?」
「そうそう、印象が薄すぎて今まで忘れていたよ。顔見てもここまで時間が掛かるって相当だよ」
「貴様っ! お前の所為で俺はッ! 大切な人までも手放したんだ!」
真紀は正明が良く使う手を思い出して男を挑発した。
すると、銃口を真紀へと向けて男は声を荒げた。多分だが、この男は正明と過去に因縁がある人間だろう。彼の行いは遺恨を多く残すものだが、大切な人を奪ったのではなく、手放したと言うフレーズが気になった。
天が引っ繰り返ろうが、正明が他人の女性を寝取るなんて事はしないだろう。
彼が一番嫌いな事だ。
ならば、この男は自分から手放したのだ。
「そうだね。私もね、そんなつもりは無かったんだけど・・・・・・大切な人を手放したのは君の勝手、私には関係無いし」
「殺してやる! 俺だけでなく、あの方の前に立ちはだかる天敵が!」
「撃てば? でも、知りたいことは水の泡かもね」
「ん? 何のことだ!」
張ったりだ。
真紀は少し男から顔を逸らして息を吐いた。このまま男の気を引かなければならない。
「私と(あの方)って呼んでいるの? そいつとの間に1つの取引があったんだ。それを知らないと、なると・・・・・・命令で狙った訳じゃないよね?」
「取引!?」
「そう、私の持つ」
真紀はここで言葉に詰まった。
兄が持っている即死魔法の事を話して良いのだろうか? 話せば自分が関係者だとバレる。それでも、言うか? 咄嗟に彼女は右目に手を持って行って薄く笑う。
「その眼・・・・・・あのお方の力の1つなのか?」
コイツ間抜けだ。
「ふふっ、あははははははははは! 私を殺したいのなら、心臓を撃てばいい。まぁ、そうすればお前の言うあの方は、取り引き1つ満足に出来ないバカって事になるけどね?」
足が、腕が振るえるが、それを必死に打ち砕く。
真紀は男に歩み寄ると、銃口を小さな舌でペロッと舐めた後に、男を睨み付ける。
「撃てば? あの方の意思も汲み取れない、無能だったならだけど」
「き、貴様ぁ!」
男は意外と自分が冷静な事に気付いてない。
真紀の固有能力は「幸福感の増強」であり、上手く使えば相手の気持ちを落ち着かせて激高の手前であるにも関わらずに、冷静に損得を思考させる事が可能だ。
その時に背後から大きな男の声が聴こえた。
「現行犯でぇえええええ! 貴様をボコる!」
その台詞が終わるよりも早く、白いコートのオーダーが男に組み付いて銃を弾き飛ばした。
徒手空拳で応戦する紫の瞳をした男だったが、オーダーは暴徒鎮圧用の魔力弾を数発撃ち込んで動きを封じた後に蹴りを撃ち込んだ。
ベリーショートのオーダーは腕章をかざして名乗る。
「トレライ・ズ・ヒカイント治安学生部隊! 操魔学園支部オーダー 遠山タケル隊員が貴様を拘束する!」
「オーダーの雑魚に何が出来る!」
「そうかなぁ!? 俺は意外と真面目に、正義の味方してるからよ!」
オーダーの隊員と紫の瞳をした男が戦闘を始めた瞬間に彼女はドっと身体中に冷や汗が噴き出し、足は震えて腰からは力が抜けてその場にへたり込んで、意識もせずにボロボロと涙を流していた。
「真紀! よかった、もう救急も警察も呼んだから!」
いちごが駆けつけて、真紀を抱きしめてくれる。
だが真紀の頭には、兄と仲間達は毎日この世界にいるのだと言う現実に戦慄していた。そして、我に返ると斬られた魔理の元へといちごに抱えられながら駆けだしていた。その時に背後が一層騒がしくなったような気がしたが、今は振り返る時間すら惜しい。
「魔理は!?」
「危険な状態よ、でも、回復魔法が使える人がいて最低限の止血はしてもらえている!」
真紀は持たされているポーションを出そうとするが、それは強力な劇薬。
薄めて使用するのが普通だが、真紀は正明達の様に用途に合わせての使い方を知らない。だが、何もしないよりはマシだろうと、水を魔法で生成してそれにポーションを一滴垂らして魔理の元に向かう。
そこには通行人、たぶん医術系の魔法を先行する専門学生だろう。その人に止血をしてもらう魔理の姿があったが、それでも出血は多すぎると思える。
専門学生風の男性も息を荒くして焦った様子だ。
「少しすみません! これを!」
真紀はポーションを薄めた水を魔法陣にして彼の術式に組み込んだ。
すると、傷自体はなっていないものの止血の範囲は劇的に広まった。
「これって、え? 君、なんて術式を?」
「ごめんなさい、私じゃなくて姉の魔具の力です! 薄め過ぎたかな、お願い頑張って!」
真紀は水にポーションを少しずつ注いで、少しずつ魔理の傷口へと振りまいて行く。
そうしている内に、ゲートが開きその中から救急隊員が現れて魔理の止血を変わる。
「速く運びましょう! 出血が酷い!」
「しかし、見事な応急処置だ!」
隊員達は彼女の身体を浮遊魔法でゆっくりと浮かせるとゲートの中へと運んで行った。
付き添いとして、真紀といちごも同行したが、魔理は直ぐに手術室へと運ばれ彼女達は無事を祈る事しか出来なかった。
もし、この場に兄か仲間達がいたのならこんな事は起きなかっただろう。
正明ならあの男を上手く誘導できた。志雄なら渡り合えた。加々美なら素早く逃がしてくれた。京子なら使い魔で助けてくれた。アイリスなら怪我を治してくれた。宗次郎なら銃なんか抜かせなかった。八雲なら必ず守ってくれた。巧なら争いすら回避してくれた。
彼らに比べて、私は役立たずだ。
そんな思いが真紀の中に芽生えていた。
少年は戦乙女達と立ち上がった
紫の瞳は子息の成長に安堵し、猫は呑気に爪を研ぐ
繋がりは見えてきた
後ろの正面、だぁれ?




