新装備と幼馴染みの憂鬱 3
お待たせいたしました!
次回予告とは名ばかりなので後書きは気にしないでね!
3
「うーん、まだ魔力の供給ラインが不安定なのかな? 過剰に魔力を放出しながら飛んでた見たいですねぇ」
俺は優等生専用校舎の一角、魔法工学ラボでスーツについて桜子と打ち合わせをしていた。
美樹もいるが、彼女はラボを興味深そうに見学している。
「いやー、でも運が良いですね。私なんか全裸で海に放り込まれましたぁ!」
「下手したら美樹も裸で墜落してたのか・・・・・・あぶねぇな」
「はぁ!? 下手したら私は学校中に全裸をさらしていたってこと!?」
「そうだと言っているだろ?」
話を聞かない奴だな。
俺は美樹が何かを言う前に桜子へと言葉を投げた。
「俺はこのパワードスーツを一つのターニングポイントにして、オーダーを変えようと思う。桜子、これは女性用しかないって言ってたな」
「試作段階なので、これだけです。でも、男性用も造れますよ?」
「いや、男性は軽量化したパワードスーツにしよう。実戦で前に出るのは男でいい。女の子は後方支援や索敵、敵頭上からの攻撃に回ってもらう」
俺はそう言うと、美樹は少し難しい顔をする。
「納得するかしら? オーダー所属の女子生徒はかなりいるけど、実動部隊は結構限りられるわ。でも、その連中はプライドがかなり高いわよ? 援護なんてしたがらない」
「少し前のお前見たいに?」
「うっ、そうよ」
俺はやれやれと頭を掻くと、通信魔法を女性隊員に発信した。
(こちら隊長の三神だ。急で悪いが、新装備の件で話がある。魔法工学ラボに集合して欲しい)
それだけ伝えると、俺は通信魔法を切る。
すると、次々と転移魔法で女子隊員達が集まって来た。
「何ですか? 隊員。新装備の件とは、また予算がかかることをやりますね」
やはり刺々しいな。
俺は優等クラスになる前からこの雰囲気や、連中の傲慢な態度が嫌いだ。しかし、俺は何の因果かそんな連中の上に立つオーダー隊長になってしまったからな。
好き嫌いは後だ。今はこいつらを掌握しなければ話にもならない。
「予算の事はこちらで考える。話と言うのは、本日よりオーダーは前々隊長である竜崎由希子のやり方である集団での事件解決を復活させる」
俺の言葉に集まった女子生徒達はざわざわと騒ぎ始めた。そして男子生徒も転移魔法で次々と現れる。
「すまねぇ隊長。遅れちまったが、なんの話だ?」
「信じられない事よ? 竜崎のやり方に戻すって」
「マジかよ・・・・・・戻してくれるのか!? 頼むぜ、隊長! 単騎で事件解決なんてやっていたら後輩達が育ってくれねぇよ」
「はぁ!? 頭おかしいの!? 弱い者が淘汰されるのは当たり前でしょ?」
「後に続く連中の面倒も見れないで何が優等だ! 教え方を学ぼうとしないバカは引っ込んでいろ!」
「プライドはないの!? この雑魚!」
「無くて結構! 後輩達が育ってくれるなら俺は道化にもなろう!」
男性陣と女性陣の言い争いが始まった。俺は男性陣の意見を推したいが、女性陣が何でそんなに頑なかのか知りたい。
「なぁ、何で女子はそんなに単独で事件に当たりたいんだ?」
即答で返事が来る。
「弱い奴のお守りはごめんよ。それに、そいつらのせいで経歴に傷が付いたら大変だし」
まぁ、清々しい屑。
完全無欠に自分の事しか考えていない。多分この連中は人を助けるだとか、街に安心を届けたいなんて綺麗事は本気でこれっぽっちも抱いてないな。
学歴、経歴だけしか脳みそに詰まってない。
俺はため息を吐くと、少し考え事をする。
こいつらが、一年前に由希子に従っていた理由はきっと彼女とその同級生が桁違いに強かったからだろう。だが、今の三年生は普通に弱い。後輩達が勝てると踏んでいるのだろうな、実際に俺も普通に勝てるだろうし。
なら、俺が由希子のようになるしかない。
だが
「それに、由希子さんは経歴があるわ。彼女、単騎で数十人規模の犯罪者集団を確保して、その後に何事も無かったように私達のミッションに合流してたわよね」
「そうよ、彼女は強かった。だから従っていたわ、勝てる気がしないのよ。でも、貴方は魔力強奪犯を三回も取り逃がして最後はギリギリ勝った程度じゃない」
ぐうの音も出ないな。
まさにその通りだからだ。
「そうだな。なら、証明してやろう。実績を上げて」
俺は挑戦的に女子達を睨み付ける。
そんな事じゃ引かない彼女達も鼻で笑うと、ゲートを開く。
「ふん、待っているわ新しい隊長さん」
俺を横目で見てクスクスと笑って去っていく女子達を見て、俺は直ぐに空中へ街で起きてる事件の資料を召喚する。
「美樹、桜子。力を貸してくれ、オーダーは変わる必要がある。俺は魔力強奪犯とスペクターズ・・・・・・死神の飼い猫達に会って気付いたんだ。これからは、個人の力の強さだけの時代は終わるって」
俺は資料を整理しながら二人に訴えかける。
奴の進化し続ける強大な力、奴らの圧倒的な団結力と周到で冷静な問題解決能力。独りで進化出来る人間が現れるまで、待つことなんか出来ないだろう。なら、倣うしかない。
スペクターズに、死神の飼い猫のように一人ではなく皆で戦える様にしないとオーダーは壊滅する。
今のオーダーは、スペクターズと対峙しただけで完全敗北する程にもろい。
「皆で戦えないと、これからは勝てない。人を育てないと、弄ばれて壊滅する。俺一人じゃ、強敵を一人抑えられるだけだ」
「わかってるわよ。私は貴方の師匠よ? 弟子を置いていく師匠なんていないでしょ?」
「わ、私も! きょ、協力します」
美樹は俺の隣に来て、資料をまとめてくれる。桜子は俺と美樹が指定した欠点の改善に努めてくれる。
遠山と華音は協力してくれるだろうか?
収集に応じてはくれなかったな。
*
「新装備は、私には合わないですよ。なんか恥ずかしいので」
「御堂のデザインだったな。すまない、私もあの装備には否定的だが、あの格好が最適らしい・・・・・・あれでも見える面積を抑えたらしい」
「えぇ・・・・・・そうなんですか?」
由希子の執務室で華音は新装備の件で苦い顔をしていた。先程の通信魔法は聴いていたが、あの場に彼女が言っていたら話がややこしくなっていただろう。
彼女は新装備の試着はしたものの、体質なのか合わなかったのだ。パワードスーツも彼女には合わずに、結局はコートの防御力を上げるしか無かったのだ。
それもあるが、新装備は純粋に恥ずかしいと言うのもあった。
「御堂の奴、なんで私には着させたがらないんだ? いつもなら真っ先に試すクセに」
「それは殴られると思ったからだぜ? 隊長」
由希子のオフィスに御堂が笑いながら入ってくる。
「あの装備な? 服を着て装着すると魔力が上手く四肢のユニットに行き渡らないんだよ。つまり、設置台には全裸で乗らないといけない。それに、術式のコントロールが下手な奴が装備の魔力切れを起こした場合は全ての装備が取れてしまう。裸にならずに済むのは優等クラスの人間でも美樹ぐらいだろうな、他の連中は身一つで放り出される」
「私が、術式のコントロールを失敗すると?」
「あの格好のお前を見たら確実に爆笑するから試着させなかっ、ぶべらっ!」
「女らしくないって言うか! それ以前に危険な装備じゃないか、なぜ私に試さなかった。私ならある程度の危険なら乗り越えられる、部下を危険にさらせるか! それに私の戦い方にも幅が出来るだろ!」
「トップが何言いやがる! お前はそうやって痛い目見たばかりだろうが! そしてな、お前の戦い方は敵を(待つ)もしくは(強襲)の二つで構成されている。あの装備は強襲型の装備だ、由希子お得意のパリィ向きじゃねぇんだよ。お前は面倒事は全部俺に任せて前だけ向いてりゃいいんだ。部下の安全ぐらい俺だって考慮してやってる!」
「ふざけるな! 私が前に出ないでどうする! 影に隠れてリスクを自分だけ回避する頭に誰が付いてくる!」
「あぁ⁉ 新装備はお前が付けているパワードスーツと比べたら玩具だ! 速いだけだぞ! 羽虫の装備を象が着れるか!」
言い争いをする二人の間に華音が割って入る。
「そこまでにしてくださいよ~、もう、仲が良いのは解りましたから」
「仲は良いのは認めるが、なんで私を頼らん? いつも御堂には世話になっている。私は御堂の様に頭は回らない、ならせめて身体が頑丈な分は協力したいだけだ」
由希子は腕を組んでそう拗ねた様に呟く。それに対して御堂はサングラスの位置を正しながら、静かに口を開いた。
「十分だ。俺はお前を実験に使うが、今回はいつもとは少し違う。大丈夫だ部下は守る、責任は俺が持つ。その上で由希子はしっかり構えていてくれ。なぁに安心しろ、また扱き使ってやるから覚悟しておけよ? 俺にそんなこと言って、後で泣いても知らねーぞ?」
「ふん、望むところだ。ただ、お前は心を隠すのが上手いからな・・・・・・心配なだけだ」
華音は2人の様子を少し顔を赤くして眺めていた。
何だか、大人の恋人同士の様で憧れがあるのだろうか。
御堂はその言葉に笑うと、一言だけ言って去っていく。
「なんだそりゃ?」
転移魔法を使わずに御堂は廊下を歩いて帰って行く。天才の領域にいる魔法使いには珍しい事だ、才能ある殆どの魔法使いは転移魔法で移動するが、彼がそれを使う所を華音は観た事が無い。
「アイツに任せてばかりだが、忙しそうだな。翔太郎が新装備を早速正式に採用してしまった。私には止める理由が無い、改善は出来る様だが急ぎ過ぎだ。なんでそこまで」
「多分、オーダーを立て直そうとしているんだと思います」
「立て直す?」
「今は竜王の剣部隊が、主力です。OB、OGの皆さんに戦力では寄りかかっています。オーダーには確かに優秀な魔法使いが実働部隊に大勢います、でもいないんです。由希子先輩の様な努力と情熱を持って戦っている人が」
「い、いやぁ・・・・・・私なんか、魔法だって昔から何とかこなせてきた程度だし、優に色々教えて貰えて・・・・・・それに、御堂がいないと私は人の上に立つなんて出来なかった訳だし」
由希子は割と本気で照れている様な顔をして口元を抑えている。
だが彼女は事実、人に恵まれた上で、本気の努力をしてきた人種だった。魔法の力で言えば他の優等生程の規模の魔法は使えない彼女は、自身の身体と心を鍛えて立ち回りや機転で実績を上げて来た人間だった。だから、挫折も後悔の味も飽きるほど知っている。
それに憧れ、彼女の恋人であった優が失脚しても人が付いて来たのだ。
今のオーダーには彼女の様な象徴となるリーダーがいない。
「そんな事ないです! 今は翔太郎君がそれになろうとしています。彼も同じく焦っているのでしょう」
「・・・・・・私はそうは思えないな。確かに言う通りだろう、だが、三神翔太郎と言う人間はそれほど単純ではないと私は思う。無意識下ではあるが、奴の性根は優等クラスの連中と同じだ」
華音はそう言う由希子の顔を見て首を傾げた。
その顔を見て、華音が思い出した人物は奇しくも竜崎由希子にとって最大の敵であり、ある意味は最高の理解者とも言える死神の飼い猫。その素顔でもある、伊達正明のそれと似ていたのだ。
「それに、華音の時は瞳の色が変わった。個人差なのかもわからないが・・・・・・奴は瞳が紅いままだ。思い過ごしであればいいのだが」
蔓延する焦りはまるで毒素の様にゆっくりと影を這う
長く伸びるそれを私は眺め、心を空にする
静かな均衡に波風が立つとき
彼女の後ろ姿を見かけた




