第一話 新装備と幼馴染みの憂鬱 1
新装備の所はアイアンマン観てたらやりたくなったんです。自動装着よりも手間のかかる方がロマンがあって好きです。
1
「新装備が出来ました」
午後の時間、オーダーの隊長室にゴーグルを着けた女の子が入り込んで来た。ちなみに彼女と俺は初対面だ。
「なんだ? いきなりどうした?」
「あっ、すみません」
「お前は? 見ない顔だな?」
「申し遅れました。私は魔具開発専門のエンジニア志望の生徒で。御堂衛師匠の一番弟子である魔咲 桜子と言います」
桜子と名乗った少女はあまりハッキリと声は出していないが、何気に御堂の一番弟子だと名乗ってやがる。ゴーグルをつけ、髪を後ろにまとめている上に顔にはオイルがついている。一見活発そうな格好だが、当の本人はうつ向いて自信がなさげだ。
俺は椅子から立つと彼女に右手を差し出す。
少し驚いた様だが、桜子は恐る恐る俺を見上げてきた。
「三神翔太郎だ。現オーダー隊長を務めている、新装備の開発に感謝する」
「あっ、こ、こちらこそ!」
彼女はホッとした様に笑うと俺の手を握り返す。
その時に隊長室の扉を少し乱暴に開いて美樹が入って来た。その手にはパンフレットの様な物と事件の資料だろうか? 紙の束を持っていた。
「美樹、どうした?」
「どうもこうも無いわよ! また飼い猫よ! 昨晩に10人も殺されたわ、全員急所を攻撃されて即死らしいけど遺族に見せられたもんじゃないわよ? 心臓を中心に押しつぶされた死体もあったから現場を見た鑑識には同情するわ」
「飼い猫か、殺されたのは一般人か?」
「強力な武装を持っていたから一般人ではないわよ。でも、なんで奴らは先回りできるのよ⁉ 意味が解らないわ!」
美樹はそう言うと、俺の椅子にドカッと座る。
そして、ようやく桜子に気が付いた様だった。
「ん? 誰よ?」
「あ、ああ、あの、私」
「え?」
「彼女はエンジニアで御堂の弟子だ。今回はオーダー隊員への新装備を持ってきてくれたらしい」
俺がフォローを入れると、桜子は慌てた様に魔法で新装備の立体映像を映し出す。
そこには脚と腕、そして背中のブースターだけが出て来た。
「パワードスーツ? でも、身体と顔の装甲が無いわね」
「えっと、これは魔力譲渡システムを応用した高速飛行と地上での小回りをコンセプトに作られています」
魔力譲渡システム。
それには聞き覚えがある。元々魔力自体を術式や魔法に変換せずに操るのは不可能だ、だが、魔力を術式へと移動させるなら可能であることの発見から発展した技術であると聞いている。魔力強奪犯のスキルを参考にさらに便利になったようだが?
街中にある魔導線によって人々は生活に必要な魔具を動かすだけの魔力を供給されている。だが、魔力の移動はいまだに有線接続以外に方法はない。
魔力の生成術式はそれこそ高等な魔法だ。それが出来て、魔力生成職に就けば人生は安泰だ。
「背中にある供給口に魔力充填ユニットを接続して補充をします。武装は自由にカスタマイズできますが、それによってブースターの魔力供給形式がことなります。攻撃なら、攻撃へ魔力を優先して使い、防御したいならそちらへ、機動力なら凄い小回りとスピードが手に入ります」
なるほど、パワードスーツのように全身を固めるのではなくて装甲を最低限にして火力と機動力に魔力を注ぎ込むって訳か。パワードスーツはコンセプトごとに作り替えるか、新しいものを手配しなければならない。
これなら背中のユニットを切り替えるだけだ。
「凄いな、御堂は本物の天才だな」
「そうなんです! 師匠はまさに希代の天才です! パワードスーツが現れてまだ一年も経ってません、それなのにこの進化のスピード! 時代の最先端こそが彼です!」
いきなり桜子が大きな声を出して小躍りし始めた。感情の起伏が激しい娘だな、自分が好きなものにはテンションが上がるタイプなのかもな。
自分が大声を出したことに気付いたのだろう、桜子は顔を真っ赤にして小さくなってしまった。
「す、すみません・・・・・・早速どなたか試着してみてくれませんか?」
桜子はそう言うと、ポケットからメダルのような魔具を出すとそれを床に投げる。
メダルは魔力を解き放ち、変形と巨大化を行って一人が乗れるほどの台となった。メカメカしいと言うか、工事のアームのようなものが、人が立てるスペースを取り囲む様にして設置してある。そして、そのアームたちに映像と似た装甲が召喚される。
「まだ召喚術式を身体にまとえる様に調整してないのでこれでお願いします」
「へぇ、凄いわね。私はパワードスーツとか邪道とか思ってるけど」
「北条さんに試着をお願いします」
「はぁ!? なんでよ!」
「これを機会にパワードスーツを知って下さい! それに装着するには裸になってもらわないとダメなんですよ」
「えっ! な、なんでよ!」
「服が巻き込まれますので」
「せめて下着ぐらいは」
「結構繊細なんです。魔力の伝達に支障を来すので是非とも全裸で!」
「翔太郎がやりなさいよ! 隊長でしょ!」
俺はパワードスーツを身体に召喚する。俺は両腕と同化している手甲から召喚出来る。出し入れは手甲含めて自由だ。
「俺は間に合っているので、副隊長にお願いする!」
「このドスケベ!」
「さすがに部屋からは出るわ!」
「さぁ、始めましょう!」
「まっ、待って! ひゃあああ!」
再びハイテンションになった桜子に美樹は服をひんむかれていった。俺が退室してないのに既に下着姿だ、白って意外だな。
「さっさと出ていきなさいよ!」
「そっちが早いんだろ! 待て! 物を投げるな!」
*
真紀はお昼休みに劣等クラスの食堂でサンドイッチを頬張っていた。彼女の胃袋は兄と比べて容量が多いのだろう、結構な食いしん坊だ。
正明と体格が同じなのは彼女がそれだけ動き回る上に、体質も非常に痩せやすいものだからだろう。
そんな彼女は同級生の女の子と席を挟んで座っている。
「ねぇ、もう手首とか切って無いよね? いちごちゃん」
「うん、気付く事があってね。本当に痛いのが何かって、わかったから」
真紀がいちごと呼んだ女の子は、まだ傷口が残る手首を掻くと少し嬉しそうに笑う。
前髪にいちごの髪留めをして、眠そうな目付きをしているが出会った頃に比べるとかなり明るくなった。彼女はその名前を意識しているのか、いちご味のアイスクリームを食べている。
真紀は残るサンドイッチを全て食べると、いちごの顔を眺める。いちごも気付いたのか、真紀の頭を優しく撫でて来た。
「今日は、お姉さんと一緒じゃないんだね」
「うん、何か忙しいってさ・・・・・・最近構ってくれないの」
「心細いって言うか、不安だよね」
いちごはそう言うと、アイスクリームを一口舐める。真紀はそんな彼女をみてニコッと顔を緩めると、
「それって、経験?」
「ん? どうだろう。でも、見てくれている人はいるし・・・・・・それに、お姉さんが傷つくのって自分が傷つくより痛いと思わない?」
「そうだね、いちごちゃんの言う通りだよ。ごめんね、グチって」
「いいの、誰にも言えないのも辛いでしょ?」
「ふふっ、いちごちゃん。変わったね」
真紀がそう呟くと、彼女は最後の一口をパクっと平らげた。
*
楯神志雄は運動場の天井から吊り下げた砂鉄を入れたサンドバックを殴っていた。砂鉄を包むバックは防刃使用でありながら防御魔法を内包した高価な魔具だ。それを彼女は魔法も何も込めていない素手の拳で殴りつける。
普通のサンドバックなら拳が貫通してしまう。
蹴ろうものなら真っ二つだ。
だがこの特注品ならトレーニング程度の攻撃なら彼女の拳にも耐えられる。見た目はスポーティな体格ではあるが、決してゴリゴリのマッチョには見えない。鬼となっている彼女は体質が違うのだろう。
「なぜ、学校のカリキュラムには素手での戦闘訓練がないのでしょう、ね!」
彼女は右ストレートを撃ち込みながら横で雑誌を読んでいるアイリスに問いかける。彼女は欠伸をすると雑誌を置くとのんびりした声で返事を返す。
「戦う必要が、ないから」
「いえ! 強くあるべきです! みんなが強ければ不毛な争いは起きません!」
「脳筋、誰もが心まで、強くはなれない」
「でも認めたくなんかありませんよ!」
志雄は息を止めると拳に意識を集中させて放つ。
するとサンドバックに六つのくぼみがいっぺんに現れて大きく揺れる。
「そうだね、私も同じ」
「アイリス、貴女もどうですか?」
「私は、やらない」
「私は遠慮なく!」
突然サンドバックが勢いよく志雄へと揺さぶられる。
彼女は拳で打ち返すと、反対側から同じ力で押し返されサンドバックは停止した。
「いつからそこに? 一応人払いの魔法は使っているのですが?」
「私は影、何処にでもいて、何処にもいない。なんてね」
姿を現した加々美は軸足を変えるとサンドバックに連続して蹴りを叩き込む。そして反対側から志雄が同じく連続して拳を叩き込む。
「ねぇ! 志雄ちゃん、何か焦ってない? あの日?」
「焦りとは違います。そして、もしその日ならサンドバックではなく貴女を殴り飛ばしてます」
「ふーん、なんでサンドバックとそのたわわなブツを揺らしているのかなってぶぁ!」
加々美の顔にサンドバックが叩き付けられる。
「昨晩見たあの男ですが」
その言葉にアイリスが丸眼鏡の位置を正す。
「何者でしょう? 凄まじい力でしたし、正明は何のためらいも無く即死魔法を使う決断をしました」
「正明は武器を壊したって言っていたけど・・・・・・確実に防がれていたよね?」
「正明の固有能力も、効いていなかった」
昨晩に出会った男はこちらの全員の事は知らない様ではあったが、正明の事は良く知っている様だった。それに、即死魔法の秘密は仲間内でしか知らない。
その上、あそこまでの人間離れの力を有する存在を彼女達は1つしか心当たりがない。
「あの男も、私達と同じ・・・・・・人外化施術を」
「い、いやいや! 正明しか出来ないんだよ⁉ それに、もしそれが出来たとして・・・・・・誰でも固有能力を持てるように」
加々美が志雄の言葉を遮るが、アイリスも思いつめたような顔をしている。
「もし、それが可能なら・・・・・・この現状は変わってしまう」
アイリスの言葉を最後に志雄はゲートを開くとその中にサンドバックのロープを切って落とす。同時に人払いの魔具を切る。
「これ以上は不毛です。ご飯でも食べに行きましょう」
「おごりって事!?」
「嫌です、私も金欠なんです」
「うへぇ、聴きとうなかった」
加々美がそう言いながら志雄の後を付いて行く。
「私は炒飯と、わかめスープ」
「いいね! 私は・・・・・・うどんで良いや、がっり肉が食えるメニューがありゃしねぇ」
アイリスのメニューを聴いて加々美は劣等クラスの食堂のメニューの無さに絶望する。
志雄はそんな二人を眺めながら、今日学校に姿を現さなかった正明の事を考えていた。
おそらくだが、何か思う事があったのだろう。考え事や心の整理はいつも人気の無いところで行うのが正明のクセでもある。
人外化施術と言う技術は、対象の人間を精神の形に沿った怪物へと変貌させる魔法的手術である。
対象は人間を越える身体能力、そして必ずスキルと類似した固有能力を有する事が出来る。仮に施術前の人間が欠損(重度の障がいや、四肢の有無など)があったとしても完全な肉体にすることが出来る。
だがこの施術を施された人間は不老となり、子を産めない身体となる。そして、強靭な精神力が無ければ施術に耐えられず、後に理性無き怪物になり、二度と人間には戻れない。
伊達正明はそれを六人の仲間に与えた。
始まりの夜に、自分と同じく親を殺した子供たちに。そして、封印した。
欲深い人々から、未来を守るために。
近くにあったものが遠くへと去っていく
私の心が見せる錯覚か、それとも歪むこと無き現実か
夢見の悪い朝のように、見えない何かが絡みつく
彼女は黒猫とすれ違う




