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第一話 猫は少年の足元で空を見ろと鳴く

 物語の始まりであり、なんのこっちゃわからん展開ですが伏線や謎は直ぐに回収します。御見苦しいですがお付き合いいただければ幸いです。

1


 翔太郎は家を出ると、魔理とは時間をずらして学校へと歩き出した。

 理由は彼達が通う学校の状況であった。

 翔太郎達の通う学校、操魔学園は大学と高等部に分かれて同じ敷地に複数の校舎が存在しており、高校を卒業するとそのまま同じ敷地の大学へと入学する生徒が多い。

 だが、その学校には生徒の中で派閥が生まれている。

 一つは、特に秀でた才能を持たない魔法使いの派閥である蒼の劣等生。

 もう一つは、優秀な才能を持ち合わせた天才の派閥である紅の優等生。

 この二つの派閥は仲が悪い所ではなく、半ば主従関係の様になっているのだ。蒼の劣等生達は校則でも縛りが多く、紅の優等生達の命令を受ける事もある。完全に学校内では蒼の劣等生は使いっ走りとしての生活を余儀なくされる。

 そんな関係であるためか、紅の優等生と蒼の劣等生はプライベートでも良好な関係を持ってはいけないと言う暗黙の了解がある。

 その所為で、蒼の劣等生である翔太郎は魔理と共に登校は出来ないのだ。


「嫌な学校だ。クソが、折角落ち着いて来たのに」


 熱く拍動する左胸に手を当てながら彼はそうぼやくと、両手をポケットに突っ込んで大きく深呼吸を始める。今のタイミングで精神安定剤を使ってしまってはもしもの時に暴れ出しかねない。

 周りに同じ学校へ向かう生徒の姿が増えて来た。道路を走る高級車は紅の優等生達だろう、何気に金持ちが多い連中だ。

 その車をぼんやりと眺めていると、翔太郎の肩に何かがぶつかった。


「おわっ⁉」


「あっ! ごめん、よそ見しちゃって」


 ぶつかって来たのは一人の女子生徒だった。前髪に蒼いメッシュを入れ、左目だけが蒼く、白い猫を模したパーカーをブレザーの下に着ていると言う妙ちきりんな格好をしているが、その顔つきや雰囲気はまるで猫の様に可愛らしくそして何処か掴み所がない。


「あぁ、こっちもすまない。俺もよそ見を、してた」


「ううん、ぶつかったのは僕だし、謝るのはこっちだよ。転ばなくて良かった。大丈夫なら、僕はもう行くね? じゃあ」


 そう言うと、彼女は走り去って行った。とは言っても足が遅い上に何度も転びかけている。よほどの運動オンチなのだろう。

 いつも転ぶからズボンを履いているのだろうか、と彼女の事を考察すると翔太郎は学校へと再び歩き始める。


「随分、可愛い奴だったな。アイツも、劣等か。あの髪と、目、まさに蒼の劣等生って感じじゃないか? いじめられるぞ?」


 独り言を呟くも翔太郎は学校の前まで来ると目つきを少し鋭くした。

 下手をすれば紅の優等生達が厄介事を押し付けて来るかも知れないからだ。

 紅の優等生達は殆どが「オーダー」に所属しているためか、それが選民意識に拍車をかけている様な感じがして否めない。

 翔太郎は辺りを見渡す。


「優等生は・・・・・・いないな。良し」


 満足気に彼が学校へと入ろうとした時に、異変は起きた。

 まず翔太郎の動きを止めたのは女子生徒であろう、の叫び声。続いて聞こえた鈍い音と何かが倒れる音。


「・・・・・・?」


 顔に冷や汗が噴き出す感覚を翔太郎は直に感じていた。

 後ろを見るのが躊躇われる。確実に何か、良からぬ事が背後で起きている。

 喧嘩ではない。もっと、殺意が籠った生々しい暴力の匂いが彼に恐怖を抱かせ、背後を向かせる。

 そこには、口から血を流して地面に倒れ込む女子生徒。ネクタイの色から蒼の劣等生だ。そして、首を掴まれて痙攣しながら何かを吸い取られている人物。

 それも女の子だ。

 周りにいた他の生徒は悲鳴を上げながら我先にと何処へともなく逃げていく。

 動けないのは翔太郎だけだ。


「な、なん・・・・・・だ? 何が、起きて?」


 言葉を発するが、身体は動かない。

 目の前で起きているのは何だ? 殺人? 傷害事件? 甘く見積もり、ただの喧嘩?

 翔太郎は困惑していた。今までの人生で、ここまでの暴力を目の当たりにしたことは無かったのだから。

 そうこうしている間に、何かを吸い取られていた女の子が地面に転がる。その眼には光がない。


「死んだ?」


 思わずそう言ってしまった。

 だが、この状況で被害者の生存は絶望的である事は知っている。


「おお? 君、逃げなかったのかい? 勇敢だね。でも、ぶるって拳も握れないか」


 犯人だろう。その男が口を開いた。軽い感じの妙に鼻につく声をした若い男の声。


「な、何をしたんだ?」


「魔力を貰ったんだよ? それがどうしたのさ?」


 翔太郎は全身に鉛が絡みついたように身体が一気に重くなった。

 魔力を奪う、そんな事が出来るのは一人しか知らない。


「魔力連続強奪事件」


「ご名答! そうだよ? 俺が魔力強奪犯だ」


 翔太郎は自分の足元に目を移す。

 純粋に相手の顔(最も仮面を着けていたので素顔はわからないが)を見ていられなくなったのだ。その視線の先に、倒れた二人の女子生徒の姿が映った。

 気の毒だ。

 今の状況、翔太郎は堪らなく怖い。だが、今ここに倒れている二人はもっと怖かったはずだ。

 抗う力も無いのに、普通に学校に来ただけなのに襲われてゴミの様に地面へと伏せさせられた。

 翔太郎の心臓が、跳ねる。


「チッ、この野郎」


 彼の中で感情が入れ替わる。

 粘着質に絡みつく恐怖から、灼熱の怒りへと変質して行く。


「知らねえぞ?」


 体中に電気が一気に走る抜ける様な感覚。


「俺も知らねぇんだからな。この・・・・・・スキル」


「んん?」


 魔力強奪犯が首を傾げる。

 それと同時に翔太郎の意識は半分だけ真っ白に染まった。


「死ねよ」


 ゴバッ‼‼‼

 腕を振りあげた音だと魔力強奪犯は気付くと、転移魔法で後方へと下がる。

 その仮面には小さなヒビが入っている。


「おほほほぉ? 凄いねぇ! その力、身体能力強化魔法かな?」


 頭がおかしくなっている。

 自覚できる分マシなのかはわかっていないが、翔太郎は意外と冷静だった。

 ただ一点、目の前の男を物言わぬ肉塊に変えなくてはと言う使命感を除いては。

 翔太郎は一歩手前へ踏み出すと、また手を前に出した。

 拳ではない、掌だ。それには理由がある。


「避けるな。心臓を握り潰す」


 身体を貫いて心臓を鷲掴みにして握りつぶすためだ。普通ならば不可能だが、今の自分には息をするかの如く普通の事であると感じてしまう。


「クレイジーだなぁ。じゃぁさ、お前が死ね」


 無造作に放たれたショットガンの様に面で放たれた無数の小型火球。

 常人なら、大火傷する危険な魔法だ。


「邪魔だ」


 それを翔太郎は踵落としで消滅させ、その勢いのまま今度は拳を突き出す。


「嘘だろ? 防御魔法を使いうのが普通だろ⁉」


 強奪犯が嘲るような声を出す。翔太郎の拳をバリアを展開して防ぐが、その威力に後ろへと吹き飛ばされていく。


「化け物め、この力・・・・・・人のモンじゃねーぞ」


「死ね! この屑野郎‼」


 怒りが身を焦がしていく、だが、まだ静かだ。

 それはまだ心の中で翔太郎がセーフをかけてるからだろう。

 身体の中に何かが大量に流れ込んでくる上に、身体がアクティブに動く。


「スキル・・・・・・か?」


 強奪犯は納得した様に声色を変え、右手を翔太郎に突き出す。

 翔太郎はその右手を払おうとするが、相手も中々に身体能力が高く、しばらく交戦が続いた。

 だが、接近戦では翔太郎の方が分がある。幼い頃から父親に仕込まれたのだから、魔法以外にも頼りに出来る技術は必要だと言う理由でだ。

 眼前に迫る得体の知れない右腕をいなし、強奪犯の右わき腹に肘を打ち込み、ひるんだ隙に胸に飛び後ろ蹴りを叩き込む。

 骨がへし折れる鈍い音が響き、強奪犯は地面へと叩き付けられた。


「ぐぅおお⁉ マジか⁉」


 意外と言わんばかりに、強奪犯は倒れた状態で折れた骨を回復魔法で治癒していく。

 天才の分類に入るだろう。

 通常は、魔法という物は複数の使い分けが出来る人間自体少ないのだ。訓練を受ければ戦うだけの技量は誰でも習得は出来る。だが、一人で攻撃と防御、果てには回復までの魔法は中々使える人間はいない。


「お前、三神翔太郎? そだろ?」


 翔太郎は目を大きく見開く。

 握っていた拳を緩めると、何かを言おうとするがうまく言葉が出てこない。


「なんで知っているんだ? だろ? 教えた方がフェアかな?」


 強奪犯は立ち上がると、何処からともなく取り出したアタッシュケースを蹴り開ける。

 するとその中に入っていた光が形状を変えながら彼の身体に張り付いていく。

 その光は軽量の鎧とでも言えばいいのだろうか、両腕と両足をプロテクトし、他には胸当てと顔にかぶっていた仮面も一体化して形状を変える。

 魔具だ。

 翔太郎は頭の中で彼が使った物の概要を思い浮かべる。封じ込めた魔法を装着者から魔力を貰い発動すると言う代物だ。


「君は、そうだね。引き金なのさ、俺達の兄弟が殺し合いを始めるために用意されたゴング」


「何を言っている? いきなり何だ?」


「戸惑うなよ? と、言うよりも自分の身体に何が起きているかわからないだろ? 教えてやるよ、兄弟」


 身体にまた熱い液体と電気の様な刺激が駆け巡っていくのを感じる。


「お前、その身体で凄まじい量の魔力を生成しているぞ? 空きっぱなしの蛇口だ。その力が内側からお前の精神を食い荒している。今は正気だろうが、いずれまともな考えではいられなくなるぞ? 俺達の様にな。兄弟‼」


 状況が逆転した。

 強奪犯の動きが格段と速くなっている。翔太郎は防御も出来ないままに哀れにも吹き飛ばされた。


「待てよ、吹っ飛ぶな。顔をもっと見せろ、折角会えたんだかな。兄弟」


 足を掴まれ、勢いを殺されてた上で地面へ叩き付けられる。


「ぐうおあああああ⁉ 化け物が」


「おい、寝ぼけんなよ? 戦闘能力が高い魔法使いは生態系の頂点だ。フィジカルでも、知識でも対等に戦える生物は同じ魔法使いだけだ‼」


 そのまま、相手の拳が顔面に飛んでくる。

 翔太郎は首を横に曲げて拳を必死に回避するが、奇妙な物に気付いた。

 それは、糸だ。

 電流で出来たような、細い糸が強奪犯の右手の指先から伸びている。


「なんだか、ヤバい!」


 振り払おうと動くが、それ以上に糸の動きの方が速かった。糸は翔太郎の首に巻き付き、輝きを強くする。

 直後、急な脱力感を翔太郎は感じた。


「かっ、は? んだ? これ」


「兄弟、すげぇなこの魔力。質! 量! 共に申し分なし! もっとだ。よこせぇぇぇ!」


 凄まじい勢いで身体から魔力が引き抜かれていく。

 例えるなら、へとへとに疲れている時に大量の仕事が追加されたような脱力感にも似た不快な疲労感。それが魔力とすれ違いで注入されている気分だ。


「お、俺は・・・・・・まだ」


 だが、翔太郎の心までその浸食は訪れない。


「な、め、るぅぅぅぅ・・・・・・なぁ‼‼‼」


 首に巻き付く糸を翔太郎は掴む。

 負けられない。負ける訳にはいかない。

 彼には、足元で倒れた力ない二人の赤の他人を救う仕事が残っている。


「俺は、てめぇみてぇな屑と同じじゃ、ねぇんだよぉ!」


「同じだ! 今、お前どんな顔していると思う⁉ ハハハ、俺と、兄弟達と同じ、紅い瞳。神の血統だ!」


「ごちゃごちゃ・・・・・・うるせぇんだよ‼‼‼」


 バジィイイイイイイイイ‼‼‼‼‼‼‼

 空中に破裂音が響き渡る。

 それは翔太郎の胸から現れた。紅い輝きを放つ、雷の音。

 強奪犯は、それに弾かれたように後ろに飛ぶ。


「弾き返した?」


「貴様を殺す‼‼」


 雷の様な電流はギュゥワ! と彼の右腕に絞り込まれると、光を落ち着かせる。

 その拳を、翔太郎は強奪犯へと放つ。


「バカか? さっきも防いだろうが!」


 強奪犯は防御魔法を展開するが、彼の拳はその障害を食い潰す様にかき消して相手の身体をえぐりとる。

 間一髪で避けた強奪犯だが、彼の魔具の鎧が掠った程度でヒビだらけになる。


「避けるな。殺す、殺す、殺す‼」


 翔太郎は両目が変質していた。

 それは紅く光を飛ばし、虹彩が縦に割れて爬虫類を彷彿とさせるものとなっている。それだけでなく、周りには凶暴な電流が所構わずに放電されている。

 翔太郎はその電流を収束し、相手に飛ばす。

 高圧電流のカッターとでも言えばいいのだろうか。それを強奪犯も右手の糸で斬り崩していく。


「こりゃあ、早めに殺すか。クソ面倒な事になりそうだ」


 突如、強奪犯は冷静な声を出す。


「上位魔法二級魔術、ナルカミ。消し炭になれ」


 辺りが白い光に包まれた。

 光による目暗ましなどでは断じてない。範囲魔法での面制圧だ。


「ちぃ!」


 この手の魔法を封じる魔法は翔太郎に使えない。

 今は、力に守られているから死にはしないだろうが大怪我は免れない一撃。

 その、暴力の中。


「はぁ、杜撰な術式だ」


 その言葉の直後、光が吹き散らされた。


「はぁ?」


「大丈夫か?」


 翔太郎は声の主を探すが、何処にもいない。


「ど、どこだ?」


「下だ。お前、少し頭を下げろよ」


 翔太郎が頭を下げて下を見ると、そこには一人の人間がいた。

 下顎は凶暴な肉食獣の様な造形で、目元を隠す部位には派手な装飾は無く、細いスリットが左目に空いているだけの仮面を着けたローブ姿で非常に怪しい。声からして女の子だが、マスクのせいでひどくくぐもっている。

 いつの間にそこにいたのだろうか、全く気が付かなかった。


「小さ!」


「やかましい! お前、女を助けたいのは良いが周りを見ろ! 俺が庇わなかったらお前の力で死んでいたぞ!」


 ハッと我に返ると、翔太郎は辺りを見渡す。

 校門の裏に先ほどの二人は隠されていた。仮面の少女が回復魔法もかけてくれたのか、顔色も良くのんきに寝息を立てている程だ。


「魔力の補充と、片方は頬骨が砕けていたからポーションを使っておいた」


「ん? ポーション?」


「あぁ、知らんで良い。それよりも、運がいいな・・・・・・こんな所でパクリ野郎に会えるなんて」


 仮面の少女がそう言いながら強奪犯を睨む。そう見えたのは、スリットから冷たい蒼い光がそちらを見たからだ。


「し、死神の飼い猫」


 強奪犯は初めて焦ったような声を出した。

 そのセリフには翔太郎も驚く。


「死神の飼い猫。お前が? じゃあ、アイツは? ニュースの情報は」


「全部嘘だ。俺は何もしていないし、こんなに朝早くから女性を襲うなんてバカはしない」


 その言葉の後に、彼女は消えた。

 彼女は強奪犯の懐に現れると、軽く腹部に触れる。


「チッ! 力場障壁!」


 強奪犯は身体の周りに衝撃波の盾をドーム状に展開するが、それも死神の飼い猫にかき消される。


「中和された?」


「違う。お前のスキルと同じだ。だが、俺のは反復呪文を詠唱して魔法の術式を分解し魔力に還元しただけだがな。今の魔力は俺のものだ」


 何を言っているかは翔太郎にはさっぱりわからない。

 そもそも、反復呪文という物すら存在していない。普通は真正面から防御するか、避けるか、攻撃によって打ち砕くかしか方法はない。

 死神の飼い猫は未知の魔法を使う。

 その噂を翔太郎は聞いた事があるが、実際にこの目で見ても信じられない。


「砕け散る事も、諦める事も、遜る事も許されん。我、悠久なる時の中に溶けいる他に滅する事を良しとされん」


 死神の飼い猫は何かを呟きながら強奪犯の攻撃を避ける。

 呟いている言葉が呪文なのだろうが、翔太郎には日本語にすら聞こえない。聞いては見るものの、英語でもなければ、ドイツ語、イタリア語、そのどれとでもない様だ。

 ハッキリ言えば意味不明だ。

 どうやら防御系の魔法らしい、死神の飼い猫はその細い体で攻撃を受けても堪えた様子がない所からそう察しただけだ。


「ここでお前には退いてもらおうか」


 死神の飼い猫は右手を横に一閃すると、何かを強奪犯に飛ばした。

 早すぎて見えないなかったが、強奪犯の身体を見るとその身体には無数の羽が突き刺さっている。


「野郎!」


「引け、此処は勝負を預けてやる。魔具の不調、ダメージの回復も出来ていない。自分でも、吸い取った魔力を操れていないな?」


 死神の飼い猫の言葉に強奪犯の声が一気にトーンを落とす。


「そうだな。まだこの力も全く試せていねぇ、お前も切り札が切れない状況らしいな」


「いや? 俺は、いつでもお前を殺せる。だが、嬲って貴様を殺すと仲間達がうるさいからな。なんで、俺達も参加させなかったんだ? ってな」


 恐ろしい事を言っている。

 複数人で殺さないと仲間割れが起きると言っているのだ。死神の飼い猫のスリットから冷たい蒼い光が強奪犯へと向けられる。

 最弱の象徴でもある蒼い左目が、天才であり実力者でもある強奪犯を見下す。


「次会ったらその減らず口叩けなくしてやるよこのクソ女」


 憎悪の籠った強奪犯の声を虫でも払うような調子で、


「早く行け、俺の気が変わる前に逃げろ。しかし、次回は俺一人だけと思うなよ? 今度は俺と仲間達でお前の相手をしよう」


 まるで魔王の様な口ぶりだ。凄まじく傲慢な態度ではあるが、彼女の言葉はそれがけして脅しや嘲りは一切なく、次に会ったら確実に殺すと言う警告、いや、死刑宣告の様にも翔太郎には聞こえた。


「仲間ごと、殺す‼」


 叫ぶと、強奪犯は風で身体を包むと消えた。


「俺も、心を込めて殺してやるよ」


 死神の飼い猫はそれだけ呟くと、翔太郎を見上げてくる。


「戦えると確信がないなら、逃げろ。お前のスキルを使っている時の腕力なら女の子二人なんて抱えて逃げられたろ! お前、何回も人を殺す一撃を放ったろ! 自分のスキルぐらい制御してから他人に気を向けな」


 翔太郎は思わずたじろいてしまった。まさか怒られるとは予測できなかった。


「えっと、ごめん。俺、今日このスキルを初めて使ったんだ」


「あ? 初めて使った? マジかよ。お前、俺がいなかったら初めての殺人もクリアしてたな」


「あ、あの二人を助けてくれてありがとう。確かに、でも不思議だ。お前、なんで普通に俺に話しかけて来るんだ? 世間では殺人犯って」


「殺人犯だけど? それがなんだよ。他人を助ける事に、立場や理由が必要か?」


 翔太郎は自分の殺意や怒りが消えていることに気付く。

 意外と大したことはなかった。と言うのは、死神の飼い猫がいてくれたからだろう。彼女がいなければ今の翔太郎は人殺しだったのだから。


「アンタ、ホントに人を殺したのか?」


 翔太郎は話が出来でいる事に現実味が湧かないながらも更に質問をする。


「人はぶち殺している。日常的に、狩り殺しているよ」


「なんで?」


「んー? 必要だからだな。あ、勘違いするな! 子供や、罪の無い人間は殺してない。可哀想だし、夜に眠れなくなる」


 変だ。

 変な奴だ。コイツはひょっとしてギャグで言っているのではなかろうかと疑問に思ってしまう。

 何でこんなにも警戒心が無い奴が警察から逃げ遂せているのかがわからなくなって来た。

 何処から見ても今の会話は一般の高校生と殺人犯の会話ではない。

 まるで友達同士の談笑だ。


「じゃ、帰るか。のろまなオーダー達のお出ましだ。じゃーな、疲れたりイライラしたら甘いものって意外と落ちつくぞ? あーそう! スキルは注意して使えよ⁉」


 お節介な事を言うと、彼女は霧の中に歩いて行き、その場から消えた。

 その後に、学校からオーダーの面々が駆けつけて来た。

 翔太郎は溜息交じりに駆け付けたオーダー達に状況を説明した。

 死神の飼い猫の事、以外は

 彼女とは、また何処かで会えると予感しながら翔太郎の心臓は信じられない程に穏やかに動いていた。


 魔王になったり、お節介だったりと変な奴が出てきましたが、この物語は翔太郎君と死神の飼い猫との二人三脚で進んで行きます。

 はい、二人です。主人公は、二人です。

 

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