奇跡と偶然 3
次回で一章は終わりですねー。
主人公がチートし始めますよーするする。死神の飼い猫はチートではなく、逃げ足や引き際が良いのです。そうです三神は立ち向かい、正明は逃げ回りながら戦います。
3
俺は目の前の光景に目を丸くしていた。
体を貫こうと放たれた高火力の魔法は、クロスさせた手甲に完璧に防がれてあらぬ方向へ弾き飛ばした。俺への衝撃や、ダメージは一切ない。
この手甲、普通じゃない? 死神の飼い猫が召喚した物だし、何かの魔法が施されているのか? そもそも、魔法が発動して無いのに上位魔法を弾くなんて聴いたことがない。
だが、チャンスだ!
「よそ見してんじゃねぇぞ!」
俺は奴の装甲を掴むと思いっきり壁へと叩きつける。
鈍い音が響くが、俺は更に奴の頭部に拳を叩きつけた。装甲までは砕けなかったか、流石に硬いな!
「クソ! この化け物が!」
魔力強奪犯はヘルメットの硬度に物を言わせて俺へ頭突きを喰らわせて来やがった。身体強化・極をしている所為か、頭の中が揺れる、半端じゃない威力だ。
そのまま俺は糸に絡め取られると壁へ、床へ、天井へと叩き付けられる。
「くたばるまで俺に歯向かった事を後悔させてやる!」
俺は力に任せて糸を引っ張り返して奴を引き付ける。
「なにっ!」
「おらぁ! お返しだぜ!」
近づいてくる奴の顔面へと腰を入れた右ストレートをぶち込んでやる。
叩き付けられたから体中が軋んでいやがる! なんて奴だ。
「強化魔法を使ってねぇクセに、なんでそんなに肉体が強くなっている⁉ 人間の腕力じゃねぇぞ!」
「知るか! しぶといんだよ! さっさとくたばれよ!」
「いい加減うっとしくなって来た! 惜しいが、そろそろ死んでもらおうか!」
魔力強奪犯が装着しているパワードスーツが変形して、まるで銃の様になる。そこから深紅の光弾が放たれ、俺のオーダーのコートに直撃した。
まるで無防備な所に飛び膝蹴りを喰らった様だ、肋骨がミシッと音を立てる。
「がはぁ!?」
「死んでないのか⁉ 嘘だろ、対パワードスーツ用の攻撃だぞ⁉」
俺はそんな声を聴く余裕もなく、床を転がる。更に怒りが俺の心を支配していく、もう俺は奴を殺す事しか考えていない。
俺は立ち上がると両腕を前に出す構えを取ると、次々に放たれる光弾を手甲で防いでいく。
だが、いくら手甲には魔法が効かないとしても、衝撃は手甲を貫いて確実に俺に疲労を蓄積していく。そう考えていた時だった、光弾が美樹が捕らわれている魔具に跳弾してしまった。
「しまった! 美樹!」
炎に包まれる魔具の周りを見渡しても、遠山も華音も追いついていない。それも無理は無い事、俺と奴の戦闘はきっと並みの魔法使いだと介入どころか、巻き添えを喰わないようにする事で精一杯だったのだろう。
「そ、そんな」
「はははっ! 惜しかったな、ぜーんぶお前の所為だ」
「貴様ぁ‼」
俺は燃え上がる魔具を背にして奴へと殴りかかる。
だが、奴の光弾を直撃して俺は更に後方へと吹き飛ばされ、美樹が見える位置で止まった。きっと彼女はもう助からないのだろう、と俺は顔を上げた。
「よう、時化た顔だな」
そこには左目が蒼い光を放つ、仮面があった。
燃え上がる魔具に腰掛けるその姿はまるで死んでしまった美樹の魂を刈り取りに来たかのようだ。
だが、違和感に気が付いた。飼い猫は魔具ではない、空中に足を組んで座っている。
「は?」
飼い猫は地面に降りると魔法陣を展開してその中に炎を吸い込んでいく。すると、魔法防壁で身体を守られた美樹が姿を現した。
「落ち着いて来たんじゃないか? ほら、立て」
飼い猫は魔法で俺を無理矢理立たせるが、その瞬間に彼女の身体に紅い糸が絡まった。
「隙を見せたなぁ! 飼い猫ちゃん! 魔力をよこせぇ!」
「飼い猫!」
俺は彼女を援護しようとするが、笑い声で腕を止めた。
「ふふふふふふふ、おかしいな? どうした強奪犯」
「な、なぜだ! 魔力が奪えない⁉ 防御魔法か?」
「魔力を吸い取るお前のスキルは一度絡みつけば防御魔法も攻撃魔法も吸い取ってしまう。仲間達には不利だったからな、有利な俺が来たんだよ」
飼い猫はそれだけ言うと、魔法で浮かせた俺を魔力強奪犯へと放り投げやがった。
バカ! タイミングがっ!
「くっ! 死ね、兄弟!」
手甲で光弾を防ぐが、俺は部屋の隅へと追い込まれてしまった。
「飼い猫が来たなら直ぐに終わらせてぇんだ。しぶとく生きてんじゃねぇ!」
奴の銃が俺に向けられる。飼い猫は何も言わずにこちらを見ているが、顎で俺の隣の物を差した。横を見るとアタッシュケースがばらばらと転がっている。どうやら試作型の出来損ないパワードスーツの様だ。そうか! アイツが言う通りだ!
俺はその一つに手を伸ばす。
「試作のゴミで何が出来る!」
起動!
その瞬間に俺の身体は魔法陣で覆われて白い装甲が展開された。
同時に俺を中心に波動が周囲に広がって行く。
「くっ! この衝撃は⁉」
奴は驚愕しているが、俺は自分が何をしているか理解していた。
試作型でも、俺の魔力と術式の組み換えで強力な装備にする事が可能なはずだ! パワードスーツの魔法術式を俺の魔力で満たして再構築すれば、お前のパワードスーツに追いつく!
白と紅の装甲、手甲は紅のラインが入り俺の過剰魔力を力へと変えてくれる。
「だが、流石に俺の調整されたパワードスーツの防御魔法術式を貫通する威力は出せないだろう!」
「それはお前の次元での話だろう!!!!!!!!!!!」
俺は脚を踏み出して、腰を入れ、全力で右ストレートを放つ。
放たれた右の拳は奴の胸部の装甲にぶち当たると、魔力を爆裂させてパワードスーツを引きはがす。そして、そのまま俺は素顔の奴の顎へとアッパーをぶち込んだ。
弧を描いて飛ぶ魔力強奪犯は床に叩き付けられるとそのまま意識を失った。
「はぁ、はぁ・・・・・・勝った」
「おめでとう! 三神翔太郎! 君は兄弟達の一人を倒した! 俺でもコイツを倒すのは骨が折れただろうな、生け捕りって無理だ」
拍手をしながら飼い猫はそう言うと、美樹に毛布を巻き付けて華音と遠山の近くに降ろす。
「なんで助けたんだ? お前は、人殺しだろ」
「同じ世界の住人じゃないからね。彼女は嫌な奴だけど、幸せになる権利がある。失敗作なんかじゃない」
「それは、そうだな」
「だが、この魔力強奪犯は頂いて行く」
「なっ!」
その台詞の後に天井から境界の人狼と鋼夜の鬼が降りて来て遠山と華音を抑えた。俺は拳を飼い猫に構えなおすが隣から薙刀を持った小さな女の子に割って入られた。
狐のお面に和風のドレス姿、その背丈は飼い猫よりも小さい。145㎝ほどしかないだろう。
彼女のウワサも聴いている。
「九群の化け狐!」
「お返しに来たよ! このバカ力野郎!」
狐は小さな体を一杯に使って薙刀の柄を俺の膝にぶち当てて来る。それでバランスを崩した俺に飛び上がって蹴りを撃ち込んで来た。
咄嗟に右手で受けたが人間の蹴りじゃない!
「帰るよ」
「くぅ、惜しかった」
「待て!」
飼い猫は霧を発生させると、その中へと魔力強奪犯を引きずって連れて行く。狐もそれを見計らって霧の中へと飛び込んで行った。
捕まえようとするが、鋼夜の鬼が俺の腕を弾いて人狼が蹴りを撃ち込んで来て俺は下がる事しか出来なかった。その時、天井から小さな瓦礫が落ちて来る。
見上げると、そこには蒼い右目と白い耳が覗いていた。
「真紀ちゃん⁉」
「知らないよ。私じゃないよ」
それだけ返すと、彼女も何処かへと走り去ってしまった。
俺は毛布にくるまる美樹の元へ駆け寄ると、身体を抱き起して声をかける。
「おい、おい! 美樹、大丈夫か!」
「う、うぅ・・・・・・翔太郎?」
「あぁ、もう大丈夫だ」
「何よ、生意気ね・・・・・・弟子のクセに」
彼女はそう言うと俺のパワードスーツの仮面にキスをして来た。
「ご褒美、だけどこれだと無効ね。ふふっ」
「あ、あの~美樹先輩」
「俺達もいるんですけど! やべぇっすよ!」
顔を赤くして頬を抑えている華音と遠山を見て、美樹の顔が見る見るうちに赤くなって行く。
そして、自分の今の格好を思い出したのだろう。泣きそうな顔になると、頭からすっぽりと毛布にくるまるといつもの様子で声を張り上げた。
「な、何するのよ! 翔太郎! 変態! 私始めてだったのに!」
「やめろ! その台詞は誤解される、ってか! ヘルメットだからノーカンだろ!」
「うるさいうるさい! 人前でなにやらせてんのよ!」
「やったのはお前だろうが!」
ボロボロの施設内に俺と美樹の言い争う声は少し間止まる事はなかった。
*
「え? 撤退したって⁉ 待ってよ! 応援よこしてよ、こんなのマジでキツイって!」
「羊の分際で良くも粘れるものだ! 魔封じの名はこけおどしではないようだ!」
「なんだが雰囲気変わったよね! 由希子さん!」
八雲は手に持っている斧を由希子へと投げるが、左腕の盾で防がれて一気に距離を詰められる。空中の斧は吸い寄せられるように八雲の手に戻ると、彼女の大剣とぶつかる。
冷気が辺りに放たれ、地面を凍り付かせる。自慢の庭園であっただろうにまるでその一角だけが冬になったようだ。
「ふぅ。僕も少しムキになっちゃうよ」
「私もだ、飼い猫に会わせろ!」
宗次郎は腰からハンドアックスを引き抜くと、空いた左腕を振り上げて斬りかかる。それを由希子は盾で防ごうとするが、彼はそのまま後ろへ引いて斧を投げる。
投げられたハンドアックスは彼女の足に絡みつく。
「おっと!」
「それよりも早く!」
八雲は彼女を転ばせると、大型の戦斧を構えて彼女を斬りつけるが、彼女は背中のブースターで加速すると八雲に体当たりをして来た。
身体のバランスを崩した八雲はそのまま大剣を叩き付けられた。
ハンドアックスの鎖を巻き付けた左腕で防いだが、衝撃が強すぎる。
「うわっ!」
「浅いか!」
「その通り!」
八雲は衝撃波を掌から放つと彼女を離れた場所に吹き飛ばして、更に追撃で斧を投擲した。
金属同士がぶつかる硬質な音が響く。
「当たった!」
だが、八雲は直ぐに仮面の下で目を丸くした。
鎧に外傷無し。八雲が良く使う斧の投擲は彼の使う技でも自身があるものだが、彼女のパワードスーツには斧が弾かれてしまった。という事は彼女のパワードスーツは対魔法用の術式がコーティングされているという事だ。なんて贅沢なパワードスーツだと八雲は頭を抱える。
「やるな! 羊!」
「あー、僕もう帰るよ。お大事にね、由希子さん」
「くっ! 待て!」
足元に霧を出現させた八雲は倒れ込むようにその中へと消えて行った。
その場に残された由希子は通信魔法で翔太郎へと連絡を飛ばす。
「こちら竜崎、応援に来たが妨害にあった。そちらはどうなった?」
(こちらは三神。魔力強奪犯は死神の飼い猫に奪い取られた。捕まっていたお姫様は回収したが、奴等には逃げられた)
「了解した。私も現場に向かう、警戒を怠るな」
由希子はそう言うとブースターを使って高速で屋敷へと向かった。
罪は誰かの罪に組み込まれ、連鎖して行く
繋がった先にあるのは罰か?それとも無関心なだけの一生か?
掴み取れない背後の影は準備を始める
歌う彼は闇の先を冷たく見つめ返す
計画は動き始めた・・・目覚め始めた




