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第5話奇跡と偶然。

続きでございます!

1


 鴉の情報提供の翌日。


「オーダーだ! 屋敷内に不振人物の侵入と、怪しげな物があるとの情報を掴んだ! 再度、家宅捜索をさせてもらう!」


 遠山が元気いっぱいにそう言うが、警察に押し退けられてフェードアウトし、警察は書類を使用人へと見せる。

 告発された為の再度の家宅捜索となっていた。

 一般人からの告発と表ではしているが、その一般人がどうも怪しい。多分偽の国籍を作ったスペクターズの仕業だろうな。

 俺は白いロングコートにルビーが埋め込まれた腕章をつけて屋敷へと押し入る。鴉が見せてきた見取り図では確実に地下に存在していたが、入り口は見つけるしかないな。


「隊長は簡単にスペクターズを信じるのですね?」

「嫌味は辞めてくれないか? 上級生であっても許容できねぇものもある」

「ふん、お前は北条のお気に入りだからその席にいるだけだ。アイツはお前が現れてからずっとお前の話しかしてない」

「そいつはどうも、探すぞ」

「ハイハイ、隊長殿」


 そう言って上級生は屋敷の中へと入って行った。前からそうだが、やはり優等クラスの選民意識は強いな。少し言い争ったら手が出そうだ。

 美樹の親父が文句ありげに俺の前に現れた。転移魔法でやって来たのだろう、流石は1つの組織をまとめるだけあって魔法使いとしては中々の腕だろうな。


「これはこれは隊長殿! いかがなさいましたか? 家の馬鹿娘は今は海外だと申し上げたはずですが?」

「そうか、だがこれはどういう事だ?」


 俺は空中に御堂が持ってきた解析映像を浮かべる。

 そこにはしっかりと美樹の親父の姿もある。さらには鴉と人狼が持ってきた写真の男、縛られてぐったりしている美樹の姿が。


「なっ! パワードスーツは、破壊したはず」

「明かしたな? お前の負けだ、美樹を返してもらうぞ!」


 俺の心臓が爆発する様に高鳴ると、マグマのような血が魔力を全身へと流し込んで行くのを感じる。


「まぁまぁ隊長。ここは穏便に行きましょう? まだ確定じゃないし、でも告発されてなんか変な映像とかも出てきたら、こちらとしても黙っていられないので念のためです」


 華音が俺と美樹の親父との間に入るとそう言って俺を奥の方へと引っ張っていく。


「何するんだよ! アイツは確実に」

「感情で動いて良い場面はまだ先だよ? こんな玄関先で挑発したら乱闘が起きるよ。相手はまだこっちが人払いの魔法に気付いてるとは思ってないだろうし、今がちゃんと美樹さんを探せるチャンスなんだよ?」


 確かにそうかもしれない。

 北条家は魔力強奪犯との癒着が疑われるって遠山が話していたが、確証はない。そのラボを見つられたらこちらの勝ちだ。


「そうだな。冷静になろう、まずは地下のワインセラーだな」

「そう、そこからね」


 華音が笑顔を見せるが、その奥にまた奇妙なものが目に入った。

 白い2つの耳だ。

 以前にも、その白いしっぽを見ている。確実に伊達正明の妹、真紀の着ているパーカーだ!


「華音、先に行ってくれ。俺は少し別の場所を調べたい」

「わかった、出来るだけ速く来てね!」


 華音は先行した連中の元へと走って行った。

 よし、彼女は何でここに?


「真紀ちゃんなんだろ? 出てきてくれ」

「嫌」


 しっかりと返事は帰ってきたが、物影から見える耳は引っ込んで走り去って行く音が聞こえる。

 俺の足なら簡単に追い付くと踏んでいたけど、既に彼女は何処にもいなかった。劣等クラスの人々は戦闘を行えるだけの魔法は使えない、使えたとしても護身用程度だ透明になってもここまで気配は消せない。

 転移魔法で逃げたのか。


「なんで、真紀が?」


 俺は疑問を抱きながら華音の後を追った。

 その時、屋敷中に魔方陣が浮かび上がった。

 なんだよ、これ。一体何が起きたんだ!?


 *


「真紀が行ったね。みんなも遅れを取らないようにね」


 正明はデバイスで仲間たちに言うと、身体を起こして北条邸をビルの上から眺める。宗次郎の千里眼を持ってない正明は中の様子を見ることなんて出来ないが大体は理解できる。

 人払いの魔法でラボの存在は理解している、でも、見つからない。なにせ、人払いは無意識に存在を滑り込ませる魔法。

 理解したところでスキャンが出来る正明にも千里眼を持つ宗次郎にもわからない。

 だが、魔法を解く方法ならわかる。そうしなければ正明のスキャンする左目で見取り図なんか作れないからだ。


「さぁてと、僕も本気で頑張っちゃうぞ」


 正明は用意していた水が大量に入ったタンクを蹴飛ばすが、彼の脚力では倒れなかったため、両手で掴んで押し倒す。

 すると大量の水が空中へと浮き上がり、魔方陣を形成した。

 正明を中心にドーム状に広がった魔方陣は、くるくると複雑に回りながら、陣が形成された場所から動きを止めていく。


「紺碧の水、青より蒼し箱庭に、映せし姿は儚き夢よ。真の平穏とはあてのなき旅よ、降りしきる不幸に寄せては折れる。独りを怖れよ、その惨めなる本性を現世へ導きたまえ」


 正明は詠唱を終えると、息を大きく吸って歌い始めた。歌声は染み渡る湖畔のように爽やかなものだが、言葉がわからない。何語かも分からない歌が始まると、魔方陣が曲を奏で始めた。正確には陣が完成する際に鳴り響く音がメロディーになっているのだ。

 その歌を仲間たちも聴いたのだろう、屋敷のなかで騒ぎが起きた。正明は屋敷の中に魔方陣を張っておくようにと伝えていた。メイドや執事に変装した仲間達がやってくれたのだろう。

 この騒ぎは魔方陣が発動したせいだ。

 真紀には翔太郎を監視しておくように頼んだが、隠れるのが下手なのだろう、どうやら姿を見られたらしい。


「足りない、かな?」


 正明は小瓶から魔法を発動して水が入ったペットボトルをひっくり返す。魔法陣の規模を水増しして彼は更に腰の魔力を多く注ぎ込む

 

「よし、上位魔法一級魔術 領域魔法霧散!」


 正明は魔方陣が組合わさり、魔方陣を形成している水が光を乱反射させた。

 正明を中心にして透明な波動が広範囲に広がる。その瞬間に波動が届いた範囲の領域支配系の魔法が全て砕け散った。

 魔法の効力が切れた水が正明に降り注ぐ。

 Yシャツと制服のズボンからしてびしょびしょになってしまう。

 魔力切れの所為で仮面も消えて素顔を晒してしまうが、正明は足元の発電機のような魔装を蹴りつける。すると、正明がいる屋上に人払いの魔法が展開される。

 魔装は発動に魔力は必要ないが、繊細に操るためには多少は必要となってしまうが、今は発動するだけで事足りる。


「水気持ちいいなー」


 正明は濡れて邪魔になったYシャツを脱ぐと、前髪をかき上げてグーッと伸びをした。

 人払いの魔法が施されているが、何も知らない人間が見ればビックリする光景になるだろう。正明は大の字になってその場に倒れ込んだ。



 今の波動で足元から砕け散ったガラスのような魔法の残骸が浮かび上がる。

 なんだ⁉ 今の波動は、相当強力な魔法だぞ!


「何かの魔法が解けたぞ! 何処の魔法だ!」

「鴉の情報忘れたのか先輩! そんなのは、地下の人払いの魔法に決まってる」


 人払いが切れたせいなのか、俺は簡単な事を見落としていた事に気が付いた。

 入口なんて、探さなくても良い! ないなら、造る!

 

「みんな下がれ!」


 ワインセラーの床に視線を向けると、俺は両腕に手甲を出現させて魔力を充填する。背中に熱を感じるが、翼が生えているのだろう。みんなが「深紅の、翼!?」「紅の英雄がまとった翼に似ている」「まさか、神話の魔法!?」とか言っているが、今は美樹の救出が最優先だ!


「ッ! ラァ‼‼‼‼‼‼」


 ドゴオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!!!!!!!!!

 俺は拳で床をぶち抜く。

 だが、勢い余ったのだろう。かなり広範囲にわたって床を吹き飛ばしてしまった。


「みんな、すまん!」


 グラッと揺れが来たかと思えば、俺や華音、遠山をはじめとしたメンバー全員が地下の空間へと滑り落ちて行った。

 着地に失敗して情けない声を上げている遠山を尻目に、俺は空中で身体をひねって落ちて来る華音を受け止めた。


「大丈夫か、華音!」

「ありがとう」


 華音は俺の腕から降りると腰の銃を引き抜くと魔力を注ぎ込んで周りを警戒する。ストイックな所があるな、普段はおっとりしているのに。


「翔太郎! 大丈夫か! 俺は瓦礫に腰をやられた程度で済んだぜ!」

「遠山、お前のそれは無事じゃないぞ」

「回復魔法で余裕でした! ってか! この施設、白っ! 床も天井も! バ〇オかよ!」


 遠山の言う通り、辺りはやたらと白い色の廊下や、ガラスで中が見える部屋が多数並べられている。無菌状態で研究でも進めていたのだろうか?

 いや、今は美樹の救出が優先だ。

 

「遠山、油断するなよ」

「お前もな。自分に失敗が無いとか思うなよ? ・・・・・・てか!? ハハッ! 俺がいるんだから安心しろ!」


 一瞬だけ遠山の目が鋭くなった気がしたが、直ぐにとぼけた態度に戻った。そんな遠山はいつの間にか片腕だけパワードスーツを纏ってサイレンサー付きの拳銃を握っていた。

 その時、他の隊員が声をあげた。


「うおっ! パワードスーツ⁉ 隠れていたのか? 一撃でやられてる、隊長凄いっすね!」

「ん?」


 一年生の隊員が手錠をかけていたのは透明化の魔法を付与したステルス製のパワードスーツを来た三人の構成員だった。そいつら全員の装甲の鳩尾には銃創があった。

 誰かが一瞬で仕留めたんだ。


「よし、後輩君! そいつらの拘束は頼んだぜ! 我々は前進して犯人を殴る!」


 遠山はそう言うと先へと俺を引っ張って行く。

 後を華音、上級生達が続いてくる。


「おい、遠山」

「正面に二人、殴れ!」


 俺は咄嗟に正面へと掌底をぶち込む。勘だが、なんとなく敵の位置が読めた、父さんが言っていた明鏡止水って奴かもしれない。

 続いて俺は魔法で電撃を生成して残った奴にぶつける。

 二人のパワードスーツは壁にほぼ同時に激突して動きを止めた。


「威力やばいな。ははは!」


 俺は遠山のうるさい声を背後に聴きながら施設を走る。

 鴉が見せて来た見取り図は全部頭の中に入っている、そこまで広い施設じゃないが、一番下の階層に特別に広い場所があった。

 階層をぶち抜けば、簡単に行けるだろう。



「人払いの魔法が、消えた。ああ、来ているのか! 彼女が、彼女が来ている! はははっ、最高だ! 今度は直接彼女に会える!」


 ロビーで狂喜乱舞している変態をスペクターズは眺めていた。


「彼女って、お兄ちゃんの事?」

「そうでしょうね、残念ですが正明は来ませんよ。魔力を使い果たしたので、今の彼は・・・・・・はぁ」

「志雄さん?」


 真紀はメイド姿でため息を吐く志雄を見上げるが、他のメンバーも顔を抑えている。

 大穴が開いたロビーから覗く青空、そこに太陽を背に翼を広げる人影が見えた。

 急降下してロビーに着地したそれは突然周囲にいる人間から、蒼い光を放つ光を腰の小瓶に吸収していく。反射で拳銃を引き抜く警官の腕を魔法障壁で包んで無力化するその人影は、先程びしょ濡れだった伊達正明の物だった。

 仮面を着けて、流石に着替えているが、髪の毛は濡れたままだ。

 だが、服装は黒い猫耳パーカーに黒いブーツを付けている。戦う魔装は身に着けているようだ。背中には翼のような形状のブースターを付けているが、それは蒼い光となって消える。


「こんにちは」


 正明はそう言うと魔力を15本一杯に奪い取ってから何も知らないと言った感じで屋敷のワインセラーまで行こうと歩き始める。

 その様子を仲間達は確認すると、仮面を出現させて身体をメイドや執事服ではなく、魔装で固めた姿になってロビーを見下す廊下から飛び降りる。その様子を見て、真紀も正明と同じだが、白い魔具に身体を包んで続く。


「来ないんじゃないんですか?」

「上半身裸で寝転がっているのも良いけど、ちょっかいかけたくなって」

「飼い猫の上半身裸とかシャッターチャンスじゃん!」

「くたばってください、この駄犬」


 志雄と加々美がいつものやり取りをしているが、周りの人間は腰を抜かす勢いで委縮していた。


「おに・・・・・・お姉ちゃん」

「ここから先、翔太郎に何かあったら君の番だ。殺しはするな」


 色違いなだけで声も背格好も同じ二人は傍から見れば死神の飼い猫が分身でもした様だ。

 その光景に歓喜していたのは北条の父親ただ一人だけだった。彼は魔力を奪われてろくに動けないはずなのに這ってスペクターズの元にまで行く。その姿を正明は氷よりも冷たい左目で見下す。他の仲間達も興味深そうに彼を取り囲む。

 

「なんか、この構図だとただの親父狩りじゃねぇか?」


 巧の言葉に宗次郎が噴き出す。

 京子は彼を少し眺めると回復魔法をかけ始めた。だが、この男は魔力を吸い取られただけで怪我なんかしていない。

 志雄も加々美はだたその様を眺めているだけだ。

 アイリスは無言で懐から謎の液体が入った注射器を取りだすが、八雲に止められている。


「無視するか、面倒だ」

「そうですね」

「そうだね!」

「大丈夫なのかな?」

「くたばれ」

「親父狩りって、あはははは! や、やべぇ笑うわ」

「はぁ、一般人でしょ? 優しくしようよ」

「オレはそんなに面白い事行ったか?」


 そう言いながらメンバーは去って行こうとするが、北条の父親は真紀の足を掴む。


「ひゃあ‼」


 真紀が体中に鳥肌を立てて飛び上がると、同時に正明の蹴りが北条の父親の顔面に入った。


「妹に触ってんじゃねぇ! この変態が!」

「き、君なんだろ! あの日、僕を助けた」

「あ? あの時の親父だろ? 覚えているよ、俺の足を触りまくりやがって! 妹に同じ事して見ろ、生きたまま豚の餌にしてやるぞ!」


 志雄に保護された真紀は異常に震えている。正明はその様子を見て苛立ったのか、彼をもう一度蹴りつける。

 警察官が力の入らない腕で拳銃を構えるが、放たれた弾丸は八雲が張った防御魔法で防がれた。

 その発砲の音で正明は落ち着きを取り戻す。


「さて、行くか」

「ま、待って! わ、私も連れて行ってくれぇ!」

「あ?」


 その言葉に正明は耳を疑った「何を言っているんだこの男は?」と。

 

「あの日から君が忘れられない! 触れただけで敵を瞬殺するその圧倒的な魔法、最弱の色でありながら他者を見下すその蒼い瞳、その身に纏う死の恐怖、そしてその美しい姿! 私は君になりたかった! しかし、私にはなれない。いくら魔法の鍛錬を積んでも、いくら姿を美しくしようとも、君にはなれないんだ! 今日君に会えたのは奇跡だ、運命なんだ! 夢にまで見た君のその姿、僕が幾度となく理想を夢見ても現実の君には敵わない! 静かに夜を映し出す妖艶な月の様に、美しい・・・・・・君が欲しい! 僕の物になってくれないなら、せめて私を仲間に! 君達が優雅に腰を下ろす闇の円卓に、私を加えてくれぇ! 君の夜に連れて行ってくれ!」


 正明はあっけに取られていた。

 それは仲間達も同じだった。完全におかしくなっていると思ったのだろう。

 ハッキリ言ってこの男は危険すぎる。まるでヤンキーに憧れてグレ始める普通の家庭に育ったバカの様にも映る。それか、ギャルに憧れてビッチに身を落とした地味だった女の子。下らない憧れなんかで今ある幸せをぶち壊し、自分の魅力や持ち味を活かせないまま空中分解するかのように人生を棒に振る阿呆だ。

 正明はそんな人間を多く見て来た。憧れで自分を失う人間達、自分を持って生きる事が出来なかった愚かな連中。憧れなんか幻だ、自分であることを拒否したバカの戯言だ。根底に自分があるなら良い、しかし、この男には根底に自分はいない。

 今ここに這いつくばる男はそんな人間だ。


「拒否する、以上」


 それだけ答えると正明は逃げるようにその場を去ろうとする。


「頼む! お願いだぁああああああああ! 私を、その輪の中に入れてくれぇ!」

「お前は、幸せに生きて来た。これからもそうしろ、お前はどんなにあがいてもこの席には就けない」


 正明はふりかえりもしないでそう呟いて仲間達と共に屋敷の奥へと消えて行った。

 ロビーにはうずくまって地の底から響くような声で叫び声を上げる男が残された。

拳に握りしめたのはかつての夢、破壊するは過去の自分

彼が断つのは過去

血族が舞う、その遠い因縁が動き始めた

彼女が変わる

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