表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/289

進化を辿る時 2

続きです

3


「なんだよこれ」


 俺の両腕に白銀の手甲がくっついた。

 一見、魔具のようだが俺には使い方がわからない。

 くそっ! やるしかねぇ、奴が来る!


「よう! 兄弟!」

「魔力強奪犯!」


 俺は奴が飛ばしてくる糸の軌道を読んで身を屈める。


「なに!? 飼い猫の奴にかわせなかった俺の糸を、かわした!?」

「以前よりは速いけど、俺よりは遅い!」


 拳を固く握り、奴の腹部に打ち出す。


「新調したパワードスーツだ! お前が破壊した竜崎由紀子のそれよりも優れたものだ、傷一つつかねぇよ!」

「うぉらぁ!」


 固い音が響いて、奴の身体は壁をぶち抜いて部屋を二つほど貫通して飛んでいった。

 この手甲、すげぇ! パワーが段違いだ!


「そんな出来損ないの魔具なんかに、このパワードスーツが苦戦するはずがない!」

「うるせぇ!」


 俺は奴がぶち抜いて行った穴を通って更に奴にパンチをお見舞いする。

 鎧は壊れねぇか、衝撃でダメージ与えてる訳か。


「兄弟! お前も少しずつ強くなるのか!」

「そんなの知るか! 美樹は何処だぁ!」

「アレはまだ使い道がある! 弱い奴は搾取される、アイツも重々承知のはずだぜ!」

「この屑野郎が! 彼女は物じゃない!」


 組み付いて俺は父さんに教えてもらった投げ技で魔力強奪犯を壁へと投げ付ける。

 その時に背後から援護する様に魔法が放たれて、壁に奴の身体を縛りつけた。


「魔力を解放しろ、その手甲は余分な魔力を吸収して力に変える。完全にはお前の力をセーブ出来る訳じゃないから過信するなよ」


 振り返るとそこには一体のパワードスーツが浮いていた。全身的に非常に簡素なタイプなものだが、模様が複雑であり、まるでそれが一つの魔法陣の様だった。体付きと声から女性だろう。


「お前は誰だ!」

「良いからやれ、それにここに美樹はいない。早くしろ、一緒に奴を確保しよう」


 解らないが、飼い猫達は撤退した様だからオーダーからの応援だろう。

 魔法を解除した魔力強奪犯が魔法陣を大量に展開する。


「弾幕が来る、オレの背後に回れ」


 言われるがままに彼女の背後に回ると、直後に凄まじい密度の弾幕が放たれた。

 その弾幕を彼女は両手にまるで時計のような魔法陣を展開して丁寧に一つ一つ術式を組み立てて攻撃を捌いている。そして、空いた腕に魔力を集中すると正面に深紅の波動を放つ。


「行け」


 俺は矢のように駆けだして魔力を解放する。すると、背中から放たれた魔力は手甲に集結して鎧は薄い桜色に輝く。

 その時に俺の頭に複雑な魔法術式が浮かび上がった。

 何だ⁉ この魔法術式! 知らない、でも、俺には使える!


「これで、最後だ! 吐いてもらうぞ、美樹の居場所!」


 右腕に複数の魔法陣が浮かび上がって膨大な力を解放する。


「っ! このぉ! 最高じゃねぇか兄弟!」


 俺の右腕に大量の糸が巻き付けられ、そこから魔力が吸い取られる。

 だが、俺は奴以上の力で拳を胸部装甲にぶつける。


「うおおおおおお‼‼ 甘いぜ、兄弟!」

「何っ⁉」


 俺は体制を崩して直撃を避けた魔力強奪犯から掌を向けられる。

 この化けモンが! その糸マジでチートだ!

 だが、奴は魔法を撃たなかった。


「な、なぜだ! 魔力は足りていたはず! なくなる事なんか有り得ない!」


 魔力強奪犯はそう言うと、咄嗟にパワードスーツの腕を武器に変形させる。


「避けろ! 翔太郎!」


 助けてくれた女性が魔法で魔力強奪犯の腕をそらして直撃は避けたが、弾丸は天井を吹き飛ばして奴の姿を眩ませてしまった。

 しまった! また逃げられる!

 俺は必死に手を伸ばすが、そこにはもう誰もいなかった。


「くそっ! 俺は、また奴に・・・・・・ちくしょう!」

「無駄口叩くな、奴を追うのはお前だけじゃない。嘆くな、次に何をするか考えろ。もうオレ達は王手をかけている」

「王手⁉ 手がかりなんて無いんだぞ? 追い詰めてなんかいないんだ!」

「この屋敷への襲撃は荒いが、効果はある。これだけの被害だ、この屋敷の主人も黙ってはいられない。それに、無理矢理にでもオーダーは干渉しなければいけない」

「はぁ? 何を言っているんだ? バカなのか、オーダーは隊長が変わったりでグダグダだ。そんな余裕は無い!」

「元隊長が隊長の座を譲った直後に無断欠勤。直後に彼女の実家に殺人鬼集団のカチコミ、館の使用人や主人が怪我、おまけに家屋は半壊状態。だが、娘である美樹は行方知れず。もう解るだろ」

「・・・・・・そうか!」

「その時には好きに暴れろ、じゃあ機会があったらまた会おう」


 彼女はそう言うと霧を発生させる。

 おい、そのゲートは・・・・・・


「兄弟」


 パワードスーツの瞳が深紅に染まったのを俺は見逃さなかった。

 飼い猫の仲間にも、俺や魔力強奪犯の様な奴がいる。それだけで今の俺は動揺を隠せなかった。



「フェーズ1に至ってもまだ使い方がわからんらしいな。基本は教えたから死ぬことはないだろ」


 元酒場の虚ろいに意識を戻した巧は第一声にそう言った。

 早目に戻っていたメンバーは不機嫌な奴がちらほらと見られて、正明がフォローを入れている。


「戻った? どう? 彼は」


 正明は意識を身体に戻した巧から空の小瓶を受け取るとホルスターにしまう。

 パワードスーツと正明達が作る鎧は基本的に同じだが、鎧の方が魔法面では優れている。術式を複雑に組み込んだ魔装であり、武装による攻撃ではなく魔法による攻撃が得意なタイプと言えよう。その代わりに素の防御や肉体補助はパワードスーツには劣ってしまう。

 今回は鎧とパワードスーツに意識だけを憑依させて動かす魔法で暴れただけだから怪我人は一人もいない。ただ、納得行かない負けかたをした連中はふて寝したりしている。


「こんなお遊びの術式じゃ、全員で襲いかかっても致命傷は難しいな」

「生身なら?」

「三秒で殺せる」

「やっぱりねー。魔力強奪犯と違って彼は迷うからね」


 正明は呑気にそう言うと、テーブルに置いてあったキャンディーを小さな口に咥える。

 何度も戦った相手に逃げられるのは何回もある。正明達は手探りで生きてきた連中だ。かなり死にかけたし、敵にも随分逃げられた。

 だからなのかは謎だが、この集団、世間からはスペクターズと呼ばれている正明達は敵の手の内を考察する事を念頭に置く。


「てか、パワーだけなら志雄とも互角じゃない?」

「そうかも知れませんね。今度キャッチボールでもしたいですね、車で」

「車でお手玉したときは僕でも引いたよ。冗談だから怒らないでよ」


 正明はとにかく、情報魔法が構築するネットワークにデバイスの術式で入り込むとそこに広がるSNSを閲覧する。

 そこには早速❮北条邸宅へスペクターズ介入してた!❯ ❮飛んでいたパワードスーツ見たけどそれかも❯ ❮今、オーダーと警察が来て大騒ぎになってやがる❯ ❮真っ先に駆けつけたオーダーの隊員がスペクターズを追い払ったって!❯ ❮結構その隊員がイケメン❯などの書き込みがされていた。

 正明はそれを空中に広げる。仲間達はそれを見上げると京子はふくれっ面をすると近くのアイリスのお腹に顔をうずめる。


「みんな雑魚扱いされてるよ! ははは! 追い払らわれてるよ僕たち!」

「よーし、俺ちゃん一丁狙撃してやるぞぉ。索敵範囲外からの狙撃で吹き飛ばすぜぇ」


 宗次郎もにこやかな顔で物騒なデザインの弓を取りだす。爆裂魔法と幾重にも強化魔法が掛けられた危険な弓だが、志雄に殴られて彼は壁にめり込まれて止められた。

 八雲は苦笑いしているが、もし本人が目の前に居たら殴りかかるだろう。彼も中々に負けず嫌いだ。

 電子タバコを咥えて煙をふかせる巧はそのSNSを見ていたが、首を傾げた。


「魔力強奪犯の事は見ていないのか? 誰も?」

「転移魔法、使ったのかも」


 アイリスが京子の髪を撫でながらそう言うが、巧は首を横に振らない。


「魔法が使えない状態だったんだ。魔具を持っていても転移魔法でいつでも逃げられた、自己顕示欲の塊でもオレ達が来れば普通なら引くだろ? やり合うメリットがない上に、あのパワードスーツは未完成品だ」

「正明ならそれに直ぐ気付いたんじゃないですか?」


 志雄にそう言われて正明はニヤリと笑うと、一言。


「ごめん余裕なかった」


 志雄は呆れたと言わんばかりにソファへと寝転がった。正明が嘘を吐いているかいないかぐらいは彼女には解るのだが、本気で言っている。

 巧はSNSを改めて眺めるていると、壁にめり込んでいる宗次郎がもう一つの映像を展開する。そこには魔力強奪犯が逃げている写真が張られていた。どうやら裏から車で逃げ出している様が映されている。


「魔具で逃げたんだろうが、もしかしたらあの屋敷は直接の拠点じゃないにしろ手掛かりはあったぜ? まぁ、本人だが」


 宗次郎は壁から出て来るとその画像をデバイスに戻すと、千里眼を発動する。

 メンバー全員が「あっ」と言う声を出した。

 宗次郎は千里眼と言う固有能力を保持している。それをデバイスの術式と併用すると彼は念写が出来る。のだが、メンバーはその力の存在を忘れていたようだった。

 敵の存在を知らないといけない、無条件で念写できるのは二回までと制限はあるが、彼の得意技だ。


「あっ、じゃないでしょ! 何のために真っ先に戻って来たと思ってんだよ! 俺がまさかマジで負けたって思ってた?」

「僕はシンプルに負けたって思った」

「正明は後で風呂でいたずらの刑として」

「しないで」


 正明はそう言うと宗次郎に笑いかける。

 魔法陣が展開される。


「いつも通りだが、ここはオーダーとの連携が必要か」


 正明はそう言って魔法陣を折りたたむと、探知魔法を阻害する術式を発動させる。

 宗次郎も同じタイミングで千里眼を発動する。そして映し出された物はとある建物だった。


「なるほど、情報をオーダーに渡すか」


 正明がそう呟くと同時にデバイスが振動する、そこには華音の術式が浮かび上がっていた。

 通信魔法を発動させる。


(正明?)

「うん、そっちはどう?」

(屋敷の調査は出来たけどそこまで怪しい事は無かったよ? パワードスーツの試作品と仕事に使う資料かな・・・・・・逃げた奴の居場所とかはつかめていないよ)

「パワードスーツを御堂 衛のラボに持って行って解析してもらって」


 華音から送られて来た画像を見ると、その試作品は似ている姿をしていた。

 仲間達も何やら考えると、加々美と志雄は店を出て行った。


(後、資料の方は)

「フェイクだね、本命はパワードスーツの方だよ。もしかしたら自爆するかも知れないから早く魔法無効術式で保護して」

(わかった! それと、美樹先輩はいなかったよ)

「パワードスーツが手掛かりになるよその時にはスペクターズが援護するから安心して」

(ありがとう、じゃあ戻るね)


 通信魔法を切った正明は振り返ると、そこには八雲しか残っていなかった。

 

「みんなは?」

「学校だってさ」

「気が早いね、僕も準備しないと」


 正明と八雲もその場から姿を霧の様に消した。

鴉が観るは悪意の足跡

腕を覆う力は胸に巣くう疼きの様に増していく

足元にある力を感じ取る時、少年は他者へと手を伸ばした

また・・・・・・彼女の歌が聴こえる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ