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成長型魔法使いと死神の飼い猫  作者: 稲狭などか
日常の中に見る君編
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第1話 butterfly seimmer

夏が終わりに近い


 俺は1週間後の運動祭で行われる競技の練習をしなくていいのかと美樹に聴いたが、彼女は「そんなモノは必要ないわ」なんて言いやがる。

 家のソファーに身体を沈めて、俺は呑気に欠伸をしていた。なんか、久しぶりに安心したって言うか、なんと言うか。

 平和だ。

 色々あった。スペクターズ、猫狩り部隊。美樹や伊達兄妹、オーダーへの入隊、そして紫の瞳を持つ男。

 そして、俺のスキル。


「翔がゆっくりしているの久しぶりに見たかも、はい」


 魔理がコーヒー淹れて来てくれた様だ。


「ありがとう。なぁ、魔理・・・・・・色々あったよな」

「うん、沢山あったね・・・・・・こ、この前はごめんね? 私が弱気になって」

「魔理は悪くない。あんな地獄は君が見るような物じゃないし、それに解っただろ? アイツは、飼い猫は目的がある奴だけど残酷な殺人鬼だって事実に変わりはないって」

「うん・・・・・・私に力をくれた人、翔が遠くに行かないようにって私が願ったら彼女が現れた」

「俺が? 魔理、俺が何処に行くんだよ。それに、今は一緒に住んでいるだろ?」

「彼女がそれを叶えてくれたのかも、もしかしたら」


 魔理は少し思いつめたような顔をするが、直ぐに気丈な笑顔に戻った。


「なんでもない! 翔はゆっくりしてて、私、洗濯してるね!」

「だったら俺はお前のヴァルキュリアをメンテナンスしてやるか、桜子から基本は習ったし出来るぞ」

「それがおかしいよ。普通は基本を聴いただけでメンテナンスなんか出来ないのに」

「お前のいう事しか聴かないが、修理と改修は出来るからな」


 俺はそう言うと魔理の背中を指でなぞる。


「ひゃあ! もう! くすぐったいよ、翔!」

「すまない、お前はからかい易いな」

「はぁ、優等クラスの運動祭はきついよ? 翔は・・・・・・う~ん? 大丈夫か」

「なんだよ?」

「ううん? 翔なら楽勝かな? って」

「俺を過大評価し過ぎだ」


 笑うと俺は転移魔法で学園のラボへと向かった。



「連中の運動祭をジャックしてやろうと思いまーす。異論のある人手を挙げて?」

「はぁああああああああい!!!!」


 正明は学園の空き教室で宗次郎のバッシングを受けていた。


「なんでさ!」

「正明! お前、官邸にお邪魔しまーすって言ったばかりだろ!? なんで運動祭に乗り気なんだ!?」

「いやー、暇じゃん? 一週間」


 宗次郎の言葉に正明は何気なしに答えるとデバイスを投げて特設ステージの図面を召喚する。

 そこに映っているのは大きな✕印、それが1つ。他には小型の✕印が多くある。


「なんだ?」

「魔導スピーカーと大型魔力障壁スクリーンの位置。おまけでやる、花火の・・・・・・位置」

「バカなのか!? 不自然だろ! 劣等クラスのお前が花火まで準備して、それに魔導スピーカー!? ライヴでもするのか!?」

「おー、イグザクトリー」

「バカだろ?」

「Exactly」

「そう言う事じゃねーよ! 発音いいな、畜生!」

「一応8各語しゃべれるからね。魔装での外付け修得した偽装だけど」


 正明は無邪気な笑顔でノリノリな感じで指先で完成図を描いて行く。花火が上がって、大きな魔導スピーカーと魔力障壁スクリーンで映し出されるライヴ映像と音楽。その光景はお祭りそのものだった。宗次郎は諦めた様に笑うと正明の頭を撫でて机の上にドカッと座る。


「だってさ、学校の行事に参加したいじゃん? ただでさえみんなはロクな学生時代じゃ無かったんだから・・・・・・楽しんでもいいんじゃない?」


 問いかける様にそう言う正明に志雄の顔が意地悪な者になる。


「嘘つきですね正明。全部教えてくれないのは狡いじゃないですか?」


 志雄はそう言う正明に一言突き刺す。


「本当は華音さんですよね? 彼女を見ていたいんでしょ? その証拠にその魔導スピーカーの術式、華音さんが作ったマフラーを参考に作ってますよね。スクリーンだって、しかもライヴやるのは貴方ですよね?」


 正明はその言葉を聴くと鼻で笑う。


「ははは、志雄も鈍ったね。華音は別に関係ないよ、ただ僕は優等クラスの運動祭をジャックしてやろうって思っただけで」

「あっ、声裏返りそうになってる」


 京子にそう言われて正明は猫耳パーカーを被る。


「あっ、耳隠した。正明、照れた時、それがクセ」


 アイリスにそう言われると正明はそっぽを向く。


「おいおい、どうしたんだよ? 模型はそっちじゃないぞ?」


 巧にそう言われるが正明は無視して椅子に膝を立てて座る。


「正明? おーい。怒ってるの?」


 八雲に猫耳をぐりぐりされても無言で膝に顔をうずめる。

 そして、加々美が大き目な声でとどめを刺しに行く。


「運動祭ってさ、恋が始まるイベントでもあるよね?」


 正明の猫耳がピクッと動く。


「華音ちゃんも女の子だもんね。もしかしたら、良い人見つけるかも! いいじゃん、後押ししてあげようよ! 正明のライヴで」

「嫌だ! あっ」


 正明は飛び上がると加々美に掴みかかっていた。

 その顔は頬も耳も赤くして、瞳もうるんでいる。だが、可愛らしいその表情の中に怒りの感情が滲んでいるのも近くにいた加々美は理解していた。


「ほら、やっぱり取られるのが嫌なんだ? 打ち明けたら? 自分が男だって」

「信じてくれない」

「脱げば?」

「ヤダ」


 ほっぺを膨らませてそう言うと正明は開き直ったのか顔が赤いままだが、堂々と叫ぶ。


「華音に僕のライヴを見て欲しいんだ。笑いなよ、僕は彼女の視線を釘付けにしたいだけだよ。みんなの為なんて言っておいて、結局自分の為」

「はいそこまで」


 巧は正明の言葉を遮ると彼の顔を手で挟むとムニムニと撫でる。


「なーに言ってんだ? オレがお前とつるんでんのはこの電子タバコのカートリッジが欲しいからだ。俺の為だよ、それが悪いか?」

「悪いなんて」

「それと同じだよ。わがまま野郎、もっと堂々としろ。好きな女の気を引きたいんだろ? 手ぇ貸すぞ、面白そうだ! ダチだろ、利用しろよ。悪い気はしねぇ」


 巧はそう言うとタバコの煙を正明に吹きかけた。

 甘い匂いが正明の鼻孔をくすぐる。正明はくしゃみをすると恐る恐る仲間達を見る。


「はぁ、仕方ないですね。官邸への武装を作ってからですよ?」

「作った」

「は?」

「RPGの設計はあるから、分解して個人武装レベルまでスケールを落として使う。魔力の出力は35パーセント上げておいたから気を付けてね? みんなに会った装備を提供出来るから戦況は以前よりも立ち回りが激しくなるかも・・・・・・僕は鎧持って行くから単独行動はしないよ? セフィラ戦では僕も前線に出るよ」


 仕事はしていたようで、正明はデバイスから別の情報魔法を組み替えてみんなに見せる。突入様ではなく個々の戦力の底上げを目的にした装備となっていた。準備自体は出来ていた、後は仲間達がそれぞれの装備の手入れと戦闘スタイルの提案だけだ。

 正明の作っていた装備は飛行用のパワードアーマーではなく、一見普通の車の様に見える。多分だがこれが武器庫に変形するのだろう。しかし、仲間達は気付いてしまった。

 これは、それだけじゃ無い。


「準備は出来ているよ? 僕は」

「はぁ・・・・・・さて? 私達の準備は」

「みんなは僕程の準備は要らないでしょ? 二日寝なければ楽勝だったよ」

「今日は寝なさい」


 正明は油断していた所に志雄からの睡眠魔法を直撃して気絶する様に眠ってしまった。


「コイツ、バカだな?」


 巧はそう言うが、京子は満足そうに正明を担ぐ。


「何だろうね? こんな奴だからみんな好きなんじゃない? 正明って、自分が嫌でも目的の為なら私達を巻き込むからね。それに好き好んで巻き込まれてバカ騒ぎするのが私達」

「俺はしっかりして欲しいけどな。全く、そんな悠長な事・・・・・・本気になっちゃうだろうがぁ!」


 京子にそう言いつつも空間からギターを引っ張り出してポーズを決める宗次郎は一番ノリノリだ。ギターには(華音・命)と書かれている。改造魔導ギター、華音が持っているもの以上に魔力の出力がデカい怪物楽器だ。

 だが、宗次郎は華音の歌う曲以外は全く弾けない。

 ドラムとかも必要だが、誰も叩けない。

 アイリスがピアノを弾けるぐらいだ。


「ボーカルは、正明?」


 八雲は寝ている正明をもしゃもしゃと撫でまわしながらそう言うが、事実そうだろう。

 だが、正明は体力が無さ過ぎる。三曲は歌えないだろう、それにステージでは動かないとパフォーマンスとしては悲しい。

 それを加味すると。


「あれ? 意外と詰んでる!?」


 加々美がそう言うとメンバーは一斉に頭を抱えた。

 完全な見切り発車で一週間未満の練習時間、楽器経験者の不足。


「取りあえず、アタシはドラム!」


 加々美だけが能天気にはしゃいでいた。

流線形になって

運命の悪いクセが剥がれる

煮える暑い夜

紅と蒼の意地の張り合い

悠久の時を越えた


小さないくさ、貴方の正体

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