勇者である 4
隣にふさわしいのが、私じゃないのは知ってる
4
あの事件から一週間。
世間では飼い猫の発言が信憑性が増す物的証拠が発見、と言うよりは発掘されて来ていた。
中国では現在の都市よりも優れた形状の、それこそ未来都市の様な遺跡が発見された。そこで発見された人間の死体は数千年以上も前の物だったにも関わらずに衣服が風化していなかったらしい。そして、塔までも見つかっていた。
アメリカには中国以上の街が湖の底に沈んでいた。まさしく時の止まった楽園の様な場所が発見されたまるで示し合わせたかのように見つかった。
これは世論が黙っていなかった。半分パニック状態だ。
その煽りを受けてか、猫狩り部隊が招集されていた。
「君達に集まってもらったのは他でもない。昨今で話題となってる死神の飼い猫についてだが」
国のお偉い方、総理大臣まで居やがる。
今の日本を引っ張る代表は俺でも焦っているのがわかるぐらいに狼狽えていた。それもそうだ、セフィラにすべき戦力が殺人鬼でしかも最強の魔法と言っても良い即死魔法を所持している。
奴らから強者からの解放を錦の美旗にされてクーデターを起こされたら国としては堪ったものじゃないからな。世界でも十人程度のセフィラを2人抑えてほぼ無傷で、目標は綺麗に達成して逃げ遂せる連中だ。
「我々は、再び死神の飼い猫をセフィラに迎え入れようと思う」
その言葉に、口よりも先に目の前のテーブルを蹴り飛ばしたのは黒岳だった。奴の腕があった場所には何もなく、ぶらぶらとあまり布の様に服の袖が揺れている。
奴は瞳を深紅に光らせると、口を開いた。
「俺が受けた命令は平和を乱す、兄弟達及び危険因子の完全抹殺。死神の飼い猫は危険因子なんて物じゃない、既に存在してその場にとどまって街を見下ろす巨大な災害だ。お前達は災害を飼いならす気か? 俺が信じた正義は媚びを売る様な弱気な物じゃない!」
あぁ、コイツの精神汚染の対象は正義感だ。
俺は冷静にそう思いながら黙って聞いていた。
「俺は降りる。飼い猫を懐柔したいならやればいい、だが、俺は殺戮兵器だ。俺は俺の信じる正義の名の下に、脅威を殺す」
そう言うと黒岳は部屋を出て行った。
次に口を開いたのは椿だった。
「某も、奴となれ合うためのマツリゴトなんぞに興味はない。某の望むモノは、全ての人間の記憶に某を刻み付ける事! 強さをアピール出来ると踏んだが、期待外れも良い所だ。某も降りる、飼い猫も黒岳も三神翔太郎、貴様の首も斬り落とし頂点に立ち英雄となる覇道には遠のく選択はしない」
椿も部屋を出て行ってしまう。
「き、貴様等! 国の危機なんだぞ! ガキの様なわがままが通るか!」
総理が叫ぶが、2人の兄弟達には届く事無く虚しい残響を残して言葉が消える。
「総理、俺は残る」
「翔太郎君! 君は、解ってくれるか!」
「飼い猫は確かに、イカレている様だが・・・・・・やって見る価値はある。せめて少しでも話をするだけでも」
俺はそう言うと隣で俺を不安気に見上げる真紀の頭を撫でる。
「心配するな。俺が守る」
「・・・・・・飼い猫は、絶対にこんな条件飲まないよ」
真紀はそう言うと、総理やお偉いさん達を見ると怯えたような顔をする。
「ごめんなさい、気分が悪いので外します」
ぺこりと頭を下げると真紀は部屋を出て行ってしまった。俺は真紀を見る総理やお偉いさんの顔が酷く醜悪なモノに感じた。まるで、金になる珍獣を檻の外から覗き込んでいるかのような。
「私もこの作戦には参加できません・・・・・・戦力外も良い所です」
言葉を切り出したのは華音だ。
「何を言うんだ! 華音君、君の力こそ切り札なのだよ。その歌は、スキルは強大な魔法と同格。一年前には神話の魔法である言霊を発動した事も知っている。君を手放す訳にはいかない」
「私の歌は道具じゃありません! 一年前に友達に教えてもらったんです、この歌は人を操ったりするんじゃなくて一人一人の背中を押せる歌って事に」
「あー、誰だったかな? 伊達正明だったかな? 君と仲が良い女の子の名前だ」
華音の顔色が変わる。
「劣等クラスに籍を置く、出来損ない。魔法訓練では全教科赤点ギリギリ、運動は壊滅的にダメ、いままでここに居た真紀君の実の姉にして・・・・・・君の大の親友だってね」
「そ、それが何ですか?」
「良いのかな? 彼女、学園に居られなくなるかもしれないよ? 最近の子供は残酷だね、死ぬまでいじめ通しても優秀なら見逃される」
「っ! ひ、卑怯者」
華音はぎりっと奥歯を噛みしめる。
これが、政府のやり方か・・・・・・黒岳と椿は1人だ。守るものはない、だから脅せない。
「まぁ、力を貸してくれるのなら私達が彼女を守ってあげよう」
「正明は貴方達に守られるような器じゃありません、彼女はここに居る誰よりも強い心を持っていますから」
華音はそれだけ言うと、部屋を出て行った。
その後ろ姿を美樹、魔理、双葉が見送った。そこで、双葉がポツリとつぶやく。
「なんで、飼い猫さまを思い出すんでしょうか。彼女、凄い女ですよ?」
「ふん、知っているわよ。彼女、顔面を焼かれても敵に拳をぶつけて来るような奴なのよ?」
「え!? そんなに怖い人なんですか!?」
美樹は思い当たる節があるのだろうか、ぶるっと身体を震わせた。
「この場に残った諸君には、これから国家直属の部隊としてオーダーを率いて欲しい。本日をもって猫狩り部隊を解散とする」
総理のこの言葉で俺は確信した。
この国にはもう一つのトップが存在する。まるで、この総理やお偉いさん達はマリオネットだ。自分の意思じゃなく、権威や金と言う糸で動いているだけだ。
だれだ? 動かしている奴は、何者だ?
*
「正明、ごめん・・・・・・ごめんね」
(泣かないで、華音。僕を守ってくれて、ありがとう)
「守ってない! 守ってないよ・・・・・・守れてなんて、いないよ。私は、私を守っただけ」
(そんなの、当たり前だよ。でも、僕も一緒に守ってくれた)
「また前と同じ! こんなの、私の歌がまた利用されて!」
(利用されてなんかいないよ。敵は僕だろ? だったらいつでも君の歌が聴ける、僕は嬉しいよ! 戦っている時に華音が助けてくれる。なあ、みんな! そうだろ!? 戦ってでも華音の歌が聴けるぞ!)
後ろで宗次郎が叫んでいるのが聴こえて来る。そして大きな音、恐らく志雄に殴られたのだろう。他にも加々美が歌う声やバンザーイと抑揚の無い声で拍手するアイリスの声、宗次郎を笑う京子の声、八雲の爽やかなお礼のコメント、そして「戦場ライブかよ! ロックだな!」と叫ぶ巧の声。
にぎやかな声、大好きな人々の声、でも何処か虚栄の様な感覚が華音を襲った。
まるで誰もいない映画館で、コメディ映画を見ている様な気分だった。
「正明・・・・・・私ね」
(なに?)
「・・・・・・えへへっ、何でもない。ごめんね、変な事で通信して」
(変じゃないよ、凄く嬉しかった。ありがとう、華音)
「またね、正明」
(じゃあね、華音)
デバイスを切ると、華音は悲しい顔で笑うとデバイスの待ち受けで笑う正明へと呟いた。
「置いてかないで」
疎外感が彼女を包んでいた。
世界が違うのはわかっている。でも、いつかは会うことも声を聴くことも出来なくなりそうで。
記憶を再生すると酷く歪なものだ
擦りきれて、飛ばし飛ばし
セリフはメチャクチャ
俳優は声が変
女優は顔が映らない
音楽が止まる、君がいなくなる




