勇者である 3
強くなる紅い正義
進み出した蒼の悪
3
華音の歌で俺のパワードスーツは大幅に強化され、徐々に俺達が優勢になって行った。
「行ける! 1人でもいいから鹵獲しろ!」
軍人の一人が叫ぶ。
現状は俺を中心に、遠山と美樹の援護で飼い猫を除いたスペクターズを相手にしている状態だ。飼い猫の姿は見えないが、独りでも捕まえられたら良い!
コイツらは俺達の想像を絶する技術や秘密を握っている。
「ヤバくない!?」
「十分ヤバいです! あと何分持ちますか!?」
人狼の叫びに鬼が返す。闇鴉が息を切らしながら弓を構えているが、そうも行かないと言わんばかりに首を振った。
それにスペクターズは構えを解くと、身体を人間へと戻した。
「戦意喪失を確認! 確保!」
軍の号令で俺は連中の意識を刈り取るべく突進をするが、異変は突如として起こった。
アカペラだった華音の歌に音楽が追加されたのだ。俺はその違和感を無視できなかった。顔を上げて辺りを見渡すと、床や壁に手書きで魔法陣が描かれていた。
「音色が導くは我の浅はかさへの償いか? 問う私を見ることも無く答えを呟く者共は孤独の答えを蹴り込んでくる。先より見入るは朝の蒼白の空で、共に歩む旅路への感謝の儀。私の望みは叶わないのでしょう。叶えないのならば・・・・・・失意へと私を沈める冷たい風の水槽に、還るだけ」
凛として澄んだ毅然とした声。
小さな体に強大な魔法を携えたであろう彼女が俺達の背後に立っていた。
「飼い猫っ!? なんで、何処に! 今まで消えていたのに!?」
軍人が騒ぎ始める。プロである彼らが学生部隊である俺達よりも取り乱している理由は解らないが、確かに飼い猫の再出現はかなりヤバい。
それに、今のは詠唱か?
「凍てつく風よ、河を凍らせ、海を侵せ」
飼い猫は大きく息を吸い込むと両手を交差させて持ち上げてゆっくりを降ろす。その姿は皮肉にも神の子を抱く聖母の様にも映ってしまった。
そして、スペクターズが消えた。
「は?」
「大成功」
「後ろ!?」
俺はライフルを放つが、身代わり羊の防御魔法で弾かれてしまう。そこには、メンバーが集まり連中は両腕に俺以外の連中の武器を抱えている。
「いつの間に!?」
「はぁ、お前が間抜けで助かったよ。僕は目の前で変身したんだよ?」
やっぱりあの子猫か! 仲間が容赦なく撃ったから深読みしちまった!
「ふぅ、みんなありがとう。武器回収、無力化完了・・・・・・逃げよっか」
「待て、俺が逃がすと思うのか!?」
俺はナイトになって飼い猫に斬りかかるが、鬼、人狼、身代わり羊の三人がかりで防がれる。その後ろから仮面の隙間から紅い光をのぞかせている女の子が見えた。
「またな、俺達はもっと先で君を待っている」
飼い猫の言葉が妙に響いて聴こえた。
そして、連中は霧の先へと消え去っていった。
*
「ひゃあああ! 緊張したぁ!」
正明は船の甲板に倒れ込むと大きく息を吐く。それは仲間達も同じだった。
「はぁ、正明が軍人の動きを恐怖で縛っていなければ全滅ですよ。RPGは壊れましたが、アレが無ければ死んでいましたね」
「ギリギリの賭けだった。でも、世界は少しだけ知った事になるよ。ここは、2回目の世界だって事にね」
正明は志雄に言葉を返すと大きな溜め息を吐く。
不安があったのだ
「強い! アイツ、強くなってる!」
正明はここにいない翔太郎へ向けて声を張り上げる。強くなるアイツに負けるのは危険だ。
並び立てなくてはならない、いつか、あの男を倒すために。
貴方を消した夜に奇跡を落とした
悲しみを結ぶ紅い糸
私の小指には蒼い糸
電話に出ない虚しさに夏の香りがした
雨が降る様な、日が暮れる様な
蒼い夜に紅の黄昏を踏みつけて




