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成長型魔法使いと死神の飼い猫  作者: 稲狭などか
悪魔が死神と出会う時編
110/289

勇者である 2

戦いは終わらない


「これはいけない。俺はまだここでみんなと会うわけには行かないんだ」


 土煙で見えないが、声が聴こえてその後に微かに見えたのは飼い猫の仮面の頬にキスをする一人の男姿だった。

 男はその後にまるで消滅したかのように消えていた。


「チッ! あの野郎!」

「飼い猫! 落ち着けって!」

「うるさい! あの五股繁殖兵器め! 絶対に殺してやる!」

「死にますよ!? 構えなさい、ネタ切れで貴方が一番足手まといなんですから!」


 癇癪を起している飼い猫を魔眼の闇鴉が抑えて、鋼夜の鬼が拳を構える。でも、全員が満身創痍だぞ? かなりの怪我だ。

 普通なら動けない程の傷だ。

 九群の化け狐は肩口を焼かれ、更には前の椿たちとの傷も完全には癒えていない。


「チャンスよ! 畳みかけるわ!」


 美樹が叫ぶ。

 それと同時に軍隊が動く、そして、宙を人間が舞った。


「舐められる訳には、行かないですね! 見せてあげましょう私達のもう一つの姿!」


 鋼夜の鬼が動き出した連中を空中へ浮かせてしまう。

 奴のスキルは重力操作、厄介な奴だが、それだけじゃ無かった。角がマグマの様に発光し、手が人間のそれよりも巨大化した凶悪な鉤爪に、それを握り込んだ岩石の様な拳、それを手甲が変形して包み込んでいる。骨格が変化している所為でまるで両腕に巨大なアーマーを装備しているみたいだ。

 肉体の変形、九群の化け狐が見せた変身と同じだ!


「取り囲め、九群の化け狐と同じだ! 数で一気に潰せ!」

「へぇ? どうするの?」

「な、に!」


 俺の顔の前に突然狼のマスクが現れた。それはガバッと口を開けるとパニッシャーのブースター兼砲身の片方を噛みちぎった。


「ぐおおお!? 人狼!」


 俺は剣を振るが、顔面への蹴りの方が先に飛んで来た。

 彼女も脚が変形して逆関節、そして狼の様な足の形、そして、頭からはマスクの耳の後ろに本物の狼の耳が生えていた。更には彼女の手も爪が伸びたものになっている。その姿は、おとぎ話に出て来る怪物の物と変わりない。


「う、うわああああああ! ば、化け物ぉ!」

「撃て! 殺せ! 殺せぇ!」


 軍人たちはいきなり大声で彼女達に引き金を引く。飼い猫を見ると、奴の左目が軍人達を睨んでいた。

 だが、その銃からは魔力弾が出てきていない。


「崩れたよ」


 そう言ったのは魔封じの身代わり羊だ。騎士風の仮面から二本の山羊の角、足は人狼と同じく関節が逆になっており、蹄が見える。その姿は悪魔のタペストリーの様だった。一番怪物じみている。混乱する軍人達に鋼夜の鬼が殴り込む。

 奴のスキルは、魔法の不完全化? とか情報が流れて来ていたな。


「黒岳と椿を先に潰していたのは、これが目的か・・・・・・残酷な死体をばら撒いたのは、普通の女子高生でしかないオーダー隊員を精神的に動揺させるため。そして、軍との衝突の時にパワードアーマーを繰り出したのはこの切り札の存在を隠すためか! 飼い猫!」


 俺はナイトになって飼い猫に突っ込む。

 だが、それも爪先に撃たれた弓の一撃で止められた。直後に飼い猫に顔面を掴まれて床へと叩き付けられた。バランスを崩した所に体重をかけてのしかかって来たんだ。


「偶然だよ・・・・・・僕は切り札なんて実は用意してなんかいないよ? それに、良いのかな? 僕に触れていて」


 俺の脳裏に飼い猫が言った即死魔法と言う言葉がよぎった。


「やって見ろ、お前はそうした瞬間に全部を失うぞ」


 俺は彼女をマスクを外して睨み付ける。


「お前は人を殺した連中を狙っていた。それなのに、オーダーの俺を殺したらお前について来る人間はいなくなる! 独りになるぞ」

「殺しはしないよ? 顔面の皮膚を高熱で焼いて引きはがすだけだ」


 俺は背中を何かに這い回られるような感覚に襲われてブースターを吹かして起き上がると彼女に魔法を叩き込んで吹き飛ばした。それなのに、パワードスーツの装甲が少し溶けていた。

 飼い猫は背中から翼を生やした魔眼の闇鴉に受け止められて無傷で着地した。


「なんだ? 魔法を使えば一人で解決出来ただろ?」


 俺がそう言うと、彼女は辺りを見渡す。

 そして、一言。


「場所が悪い」

「は?」


 魔法に場所? 何を言っているんだ?


「お前、もしかして魔力が切れたんじゃないか? もう、立っていられる量しか身体に無いだろ?」

「見れば?」

「お前は隠して空に見せるだろ?」

「それが出来ると思うか? 人質にしようとしたが、失敗した。僕は仲間に頼るしかもう打つ手がない」


 俺は魔力可視化で彼女を見るが、魔力が空っぽだ。

 それなのに動けるのはおかしい。


「お前の攻撃で僕の服の力も消えた。全く、一撃で全部の防御魔法を砕くなんてね」

「あんな牽制でか? 冗談だろ?」


 俺はバカにして来た飼い猫にそう言うと、彼女は少しだけ驚いた様だ。


「マジで? 牽制? 今のが?」

「牽制だろ? 死なないようにしたのに」

「あの、死にます。一般人が喰らったら、いや、少し戦える人間でも即死する程の衝撃波だったよ? それを牽制? 冗談じゃないぞ?」


 俺を調子づかせようとしているな?

 だが、次の瞬間に俺は伏せていた。大鎌が俺の首のあった所を通過したからだ。


「お前の仲間は容赦なしだな!」

「見くびるな、避けられる攻撃に決まっているだろ? そうだろ、ウサギ」

「首を狙った」

「嘘でも言いから僕の顔を立ててくれない?」

「うるさい」


 どうやら魔医学の兎は本気だったようだな。こいつら、本当に統一感が無いような・・・・・・てか、自由なのになんでこんなにもまとまってんだ?

 でも、飼い猫は仲間の後ろにいる。魔力切れは本当かもしれないな。逃げられるはずだ。


「っち、時間が掛かるなぁ」

「何かしてるのか!?」

「あ、ヤベっ!」


 飼い猫はそう言うと子猫に化けて逃げ始めた。人間より速いかと思ったが、足が短いせいかそんなに速くない。簡単に追いつけるが。

 奴を闇鴉と兎が守っている。


「どけ! 手加減は出来ないぞ!」

「それは困ったな。俺達は手加減しないといけないのによ」

「殺す」

「兎ちゃん? 冗談だといってね?」


 兎は相変わらず殺意が高いが、闇鴉はそうでもない様だ。後ろでは美樹たちが必死に鋼夜の鬼と境界の人狼を抑えている。魔封じの身代わり羊は幸いな事に妨害しかしていない。

 九群の化け狐は休んでいる様だ。彼女が一番ダメージが酷い。


「てか、そろそろヤバいんじゃないか? 活動限界」

「そうだ! そこを退け!」


 俺はパニッシャーのライフルで飼い猫を撃つが、横から闇鴉の射撃が割り込んで狙いが外れる。そして、兎が大鎌で斬りかかって来る。彼女は凄まじい身体のバネをしている、一足飛びで間合いを詰められた!

 ブースターを片方破壊されてもパニッシャーは高速の力だ。俺は後ろへ下がるとライフルを彼女にぶっ放つ。

 兎は鎌で防ぐが、威力を殺しきれずに吹っ飛んでいく。


「ライフルが強い、羊! カバー!」

「了解したよ!」


 闇鴉が叫ぶと、身代わり羊が手斧を片手に滑り込んで来た。俺は構わず射撃するが、奴の張る防御魔法に曲げられてしまう。正面から防ぐよりも魔法の逃げ道を作って散らしている様だな。


「それなら!」


 俺はナイトになって奴に斬りかかる。

 身代わり羊は手斧で受け止めて来る。やっぱりだ、魔力を強く込めた一撃を弾く防御魔法を展開するには時間が掛かる。


「防御魔法は構造は単純だが、奥深い魔法だ! 俺の魔力量を弾ける魔法には時間が必要なようだな!」

「その通り! 僕の固有能力が効いていないね。魔法の効力が消えるはずなんだけど」

「椿と似ているな! アイツは無効化する!」

「僕は無効化じゃない、発動の阻害だからね。威力が弱いと消せるけど、強い魔法は消せない」


 やけにあっさりと自分の力を教えるんだな。と思っていると、俺は闇鴉が弓を引いているのを見た。


「パーティーメンバーだもんな!」


 俺は体勢を背中のブースターを吹かして変換する身代わり羊はバカ力だが、推進力は無い。俺はいとも簡単に奴を蹴りを撃ち込んで体制を崩して、闇鴉が放った弓への盾に使う。

 身代わり羊は矢の威力に弾き飛ばされ、俺は奴から取っていた手斧を闇鴉に投げる。


「なに!?」


 驚く闇鴉だが、胴体にまともに刃が突き刺さる。連中はこの程度じゃ死なないだろう、だが、手斧は氷の魔法を発動させると闇鴉を凍らせてしまう。

 スゲェな、あの手斧。


「つ、強いわね。アイツ、順調に」


 後ろにいる美樹がボソッと言葉をこぼしているのが聴こえる。俺は子猫の姿で逃げる飼い猫へと突っ込むと拾い上げる。


「捕まえたぞ! スペクターズ! 戦いを止めろ! お前達のリーダーは確保した!」

「ニャー」


 子猫が鳴くとスペクターズは一瞬だけこちらを見るが、何も感じていない様に無視して戦いを続けている。


「な、なんだ? コイツ、飼い猫か?」

「ウミャーン、ミャー」

「止まるとは隙を見せたな!」


 闇鴉が倒れた姿勢のまま矢を撃って来る。俺はナイトの魔力で作る盾を展開して矢を防ぐが、下手すればコイツは死んでいたぞ!?


「こ、この猫は・・・・・・罠か! しまった! 飼い猫は何処に隠れた!?」

「ニャー」


 子猫は俺の腕から逃げる。


「クソっ! いつ変わったんだ? アイツめ!」


 闇鴉、身代わり羊、兎の攻撃を受け流しながら俺は辺りを見渡すが、飼い猫の姿は見えない。

 奴はどうやって忽然と姿を消したんだ!? 魔力が切れていたはず、ネタ切れと言う状態でもあったはずだ。なんで、ここまで巧妙に隠れられるんだ!


「はははっ! ギリギリだ、かなり、かなりギリギリだぞ! 飼い猫ぉ!」


 闇鴉がマシンガンの様に矢を連射しながら叫ぶ。仮面で表情は解らないが、かなり追い詰められているかのように見える。

 でも、連中の身体能力はどうなっていやがるんだ!? 魔力で底上げしている俺の身体能力、そしてスーツのパワーアシスト、それを満身創痍の状態で押している。

 化け物。

 まるで、本当に人間を辞めている様じゃないか!


「うおおおお! どけ! 飼い猫! 仲間だけを戦わせて自分だけ逃げるのか!? 卑怯者!」

「君に飼い猫を卑怯者あつかいする権利ないよ?」


 俺の顔面に拳が叩き込まれ、頭の角で弾き飛ばされた。身代わり羊の攻撃だ、それに、怒り? アイツ怒っているのか?


「戦う場所が違うだけだ」


 身代わり羊は壁の中に埋もれていた鉄パイプを引き抜くと氷の魔法で巨大な斧を作り出すと肩に担いだ。


「くっ、俺だけだときついんだけど?」

「相棒! 背中任せな!」


 ゴッツイ滑空砲を抱えて遠山が俺の背後に降りて来た。

 遅いっての。


「油断するな、コイツらのパワーは人間じゃない!」

「おいおい、弱気だな。無限の魔力で解決しようぜ!」


 それと同時に、華音の歌声がフロアに響き渡った。

 

「女神の応援付きだぜ?」

「華音!」


 彼女の歌があれば!

 俺の鎧、手甲の紅いラインが輝きだして全身に巡って行く。


「いくぜ? スペクターズ!」


 俺はナイトの剣を振り上げて三人とぶつかる。

氷雨の夜に誰かが一人

歩みは遅く、目付きは鋭く

延び上がる影に悲鳴を刻む

勇者よ立て 

剣は抜かれた


悲しい王を伐て

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