スタイン・スタイン・ルビー 3
あー、間が空いたー!
お久しぶり!
3
俺は急いで後に引き返した。美樹の負傷は何とかなったが、戻る途中で何人かの特殊部隊の人間とすれ違った。
奴らは俺達の姿も、言葉すらも無視して奥へ奥へと進軍していく。
真紀のスキルが無ければ俺も危険だった。彼女には感謝だが、それでも奇妙だ。軍とは一緒に作戦を遂行すると言う話だったはずだ。始めに同行した軍の人間は何だったんだ?
九群の化け狐と出会ったフロアまで戻ると、そこには黒焦げで身体中に銃弾の穴が開いて大の字になっている狐面の女の子が椿と軍の人間に囲まれていた。スゲェ、倒したんだな・・・・・・スペクターズの一人だぞ? 俺は見逃してもらったような敗走だったのに。
「椿、コイツを倒したんだな」
「貴様に名を呼んで欲しくないわ、愚か者。だが、そうだな・・・・・・この化け狐、実力を出し切れていなかった様な。スッキリしない奴だった」
「本気を出していなかったのか?」
「違う。本気だったが、状況が整っていない場面での全力と言った感じだ」
椿は完全に伸びている化け狐の頭を軽く蹴りながらそう言う。
なんだそりゃ? コイツが本気じゃない? いや、本気になれない状況にいた?
「ぐふぅ・・・・・・フルボッコだよ。折れた肋骨が肺をかすめている、嫌な感覚」
「意識あるのかよ!? 化け物か、こんなにやられていて!」
足元の化け狐に俺はつい反射的に銃を構えてしまう。だが、彼女は全く怯える様子もなくそんな俺を鼻で笑った。
「化け物だよ。身体が人間ではないのだろう、それ以外に考えられないのだ。この存在はもしかしたら現状の魔法の在り方を歪める技術の一端を持っているのかもしれないな」
「アイツが紫の瞳の男と話していた事と、関係があるのかもな」
人外化施術とか言う、得体の知れない魔法技術の名前。
身体を改造する魔法はいくらでも存在する。中には人間の姿を辞める事が出来るモノも、だが、これはそんな生易しい魔法じゃない。
「あーっと・・・・・・私を生け捕りにしようとしてる? それなら、少し遅かったね」
足元の化け狐がそう言うと、軍人の一人が容赦なく彼女に銃口をつきつける。
その時だった。
「暴力が、来たよ」
化け狐の言葉と共に影が俺達を覆った。
「単騎潜入特攻型超攻撃的兵器装備パワードアーマー・RPG。やられたよ、国家魔法部隊!」
そこにいたのは、バカデカい装甲に身をまとったパワードスーツ。いや、これはそんなものじゃない! アニメや漫画とかに出て来る、ロボットって奴だ!
身体の他にも武器の収納用だろうか? ポッドの様な付属品が付けられて、腰から伸びる二つの帯の様な金具には長物の武器、バズーカが何本も突き刺さっている。背中には巨大なブースター、ボディーには大量の魔力を経由させるラインが走りサファイアブルーに輝いて見える。大きさは自動車二台分ほどあるだろうか? 人間が、乗るサイズをしていやがる。
「う、うそだろ!? 奥にいた連中はどうした! コイツは、なんだ!?」
「パワードスーツの上位互換、パワードアーマー。ズルいだろ? 死にはしないが、凄く痛いぞ」
軍の人間は慌てて発砲するが、パワードアーマーはそれ以上の機動力で収容施設の天井を吹き抜けにして飛び立った。その瞬間に魔力弾の雨が降った。
俺は防御魔法で真紀や美樹を守る。軍の人間もそうしているが、次々と防御壁がガラス片のように砕け散って行く。
「なんて威力の魔力弾なの!? 軍人の防御魔法なんて魔具で壊せる物じゃないわ、出来る代物なんか超高級品か、翔太郎みたいに魔力量が桁外れの魔法使いだけだわ!」
美樹のセリフに俺は上を見る。
もうそこには空が広がって、空中にいる奴の姿だけが映る。両腕にバカデカいガトリングガンを持っていやがる。アレをぶっ放しているんだな!?
その時、それに飛び掛かる椿を俺は見た。
アイツ、魔力弾を無効化しながら奴へと特攻をしかけている。
「的のデカい敵など、恐れるに足らず! 真っ二つにしてくれようぞ! 死神の飼い猫!」
「無理だな、君は強いけど卑怯じゃない!」
襲いかかる椿に身体を向けたパワードアーマーは胸部装甲を展開する。すると、そこから死神の飼い猫本人が上半身だけ飛び出して来た。
彼女が折り畳み式のバズーカを両手に持つとまるで拳銃でも扱う様に椿へと撃ち放った。
「笑止!」
椿は日本刀で砲弾を斬る。
が
「やると思ったよ、みんなやるよね? よければ良いのに」
砲弾は大爆発を引き起こした。
椿は冗談のように吹き飛ばされると、床を破壊する勢いで叩き付けられる。防御魔法で身体を守っていたから彼女は動けてはいたが、飼い猫はバズーカを更に連発して彼女に打ち込むと、床を粉砕して椿は地下通路へと落ちて行った。
その最中でもパワードアーマーの腕は自動で俺や軍人達を撃っていた。
「ふん、魔法が効かないお前は魔法を使わないで不意打に限るね。火薬の味はお気に召したかな?」
パワードアーマーに引っ込んだ飼い猫は何かを俺の方に投げた。
何だ? 扇子?
「使え、化け狐! 奥で合流しよう!」
飼い猫の行動の意味が解った時はもう遅かった。扇子を受け取った化け狐は、それを開くと美しい舞を舞いながら静かに構えを取る。
「人使いが荒いんだから! 翔太郎くんだけはどうにかしてよ!」
「了解! って! ははっ、ヴァルキュリアだ! 俺は向こうの相手だな!」
「うへぇ、了解!」
この化け狐、まだ戦えるのかよ!?
「出でよ、我の声に耳を傾けし異端の同胞よ! 我の障害を力を持ってして灰燼へ還すがよい、我は災い私は夢、貴方は居ない者! 知らぬ隣人よ、我の背後よりて道を開く剣となれ! 眷属招来!!!」
「「御意に! 我が主よ!」」
俺はその光景に口を開いたまま塞がらなくなった。
鬼だ、強大な体躯を持ち、紅い鬼は周りの鉄や壁を溶かす程の熱。青白い鬼はその周りを凍てつかせる冷気を身に纏っている。
そして、さらに化け狐は詠唱する。
「孤独な王、独りを選びし愚かなる少年。私の愛を受け取らずに消えゆく哀れな少女。忘れたもうことなかれ、深き蒼に沈みこむ月夜にまた私達は会おう! 召喚術式・孤軍増幅召喚!!!」
ズラァアアア! と、刀を持つ武者の群れが俺の前に現れる。
片膝を付いて命令を待つその姿はまさしく、従順な兵士たちだ。
「聞け!!!」
「「「「「「はっ!!!!」」」」」
「召喚せし主、九群の化け狐が命ずる! 私の為に・・・・・・死ね!!!!」
「「「「「「御意!!!!」」」」」
号令と共に一斉に抜刀した武者が俺達に襲い掛かって来た。
成程、本気を、出せないはずだ・・・・・・狭すぎたんだ。この建物自体が、彼女の魔法を封印していたんだ! 飼い猫が天井も、壁もぶっ壊した。彼女を止める者はいない!
「きゃあああ!」
「隊長! ああああ!」
通信魔法でヴァルキュリアの女子隊員の声が聴こえて来る。そして、俺の前に女子隊員の一人が墜落してきた。
傷だらけで、腕はあらぬ方向へと曲がっている。
「大丈夫か!」
「翔太郎! 前を見なさい!」
美樹が援護射撃をして襲い来る武者を撃ち抜いた。
俺はその隙に女子隊員に駆け寄ると、彼女を抱き上げる。虫の息だ、くそ!
「真紀! 彼女を頼む! なんで、飼い猫・・・・・・どうしちまったんだよ!?」
俺は空でオーダーの女子隊員達をなぎ倒す死神の飼い猫に叫んでいた。
*
「なんだアイツ!? ワザときりもみ回転して落ちて行きやがった! 死ぬぞ!?」
パワードアーマー内で正明は電磁パルスランチャーで撃墜したオーダーの女子隊員に驚きの声をあげていた。
完全に機能を停止した訳ではない、少し優秀なグライダーになる程度で転落死させるつもりはさらさらない。と言うか、正明の方が多くの魔力弾を浴びている。装甲の塗装に採用している正明の小瓶と同じ素材のガラスが魔力を分解し、ダメージの数割をエネルギーに変えて、装甲の強度でダメージをカットしているとはいえやはり撃たれると正明も怖い。
「さて、距離を取って」
正明は身体を操縦桿ごと上へと上げる。
コックピットは前に身体が倒れる姿勢になる仕組みになっている。この格好は他人には見せたくないし、このまま撃墜されて死ぬのは御免だと正明は考えている。女の子が乗ればコックピットを後ろから見るだけですっげぇエロいをコンセプトにした宗次郎にミサイルを撃ち込んでやりたい。
正明はため息を吐きながら「隊長の為に!」とかほざいている奴に体当たりする。
「スキャン、黒岳は何処だ?」
建物を左目でスキャンした正明は黒岳の影を発見する。
「加々美?」
(ぐっえ! な、なに!? 死んじゃう! 助けてー、私、殺されちまうよー)
「大丈夫そうだね! 今そこにピンポイントで、最大火力行くから!」
(も、もしかして! あ、RPG!? 使ったの!? やめて! 1人で戦った方がマシ! 助けて!)
正明は微塵も容赦なく武器格納ボックスから抱えるほど巨大な滑空砲の様な銃を取り出すと構える。
魔力を魔法陣で加速させる、そして、魔素と呼ばれる魔力としての力を失った状態に還元する時に生じる爆発によって防御魔法でコーティングされた実弾を発射し、銃身に組み込まれた誘導魔法通路によって更に弾丸を加速させる変態実弾兵器。
黒岳は殺してもいい。
奴は人殺しだ。人間を好き好んで殺している。一緒だ、一緒だから、ためらいも後悔も哀れみも無い。
「吹っ飛べ!」
正明は引き金を引き絞る。
そして、暴力が放たれた。
*
「うわー! ぎゃあああああ!!」
加々美は急いで防御魔法が書き込まれた巻物を沢山出して身体に纏っていく。
その姿に黒岳は首を傾げてスタンロッドを変形させたランスを構えて警戒の動作を取る。
直後、閃光。
ズドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!!!!!!!!
天井から壁、そこから床、更に地面へとくり抜いたような破壊痕が残る。まるでクッキーの生地を綺麗に抜くように円柱状に破壊の軌跡が続いていた。
そして、黒岳はその範囲の少し外にいた。
正確には、急所は外れた位置に立っていたと言う事だろう。
「な、んだ? 今のは・・・・・・」
弾道を辿ると、その先に見えるのはロボット。
「パ、パワード・・・・・・アーマー。奴ら、いや、奴は!」
その時、黒岳は自分が身体のバランスを崩した事に気が付いた。
「なっ」
その原因は直ぐに解った。彼は右腕を失っていたのだ。
断面は焼け焦げており肉の焼ける匂いが立ち込める。出血も無かったのだ、余りにも素早い攻撃と、圧倒的熱量によって痛みが遅れていたのだ。その遅めに来た痛みが黒岳をその場に沈み込ませた。
「う、うおおおおお!? 腕がぁ!! クソッ!」
その瞬間、黒岳は目の前に迫る影を見た。ギラリと光るナイフの刃が彼のわき腹へと滑り込んでいく。この攻撃は明確な激痛を彼にもたらした。
「急所を外した!」
「くっ! うおお!」
黒岳はナイフの先にいる境界の人狼にありったけの魔力で電撃を撃ち込むと、ワイヤーを使って来た道を大急ぎで撤退する。
大量の出血と精神的ダメージ、この場に飼い猫がいたら確実に黒岳は殺されていた。片腕を失ったショックに漬け込まれ、心を真っ黒に汚染されていただろう。
「死神の、飼い猫・・・・・・くっ、なぜ国が俺たちを収集したか、わかった。勝てないからだ、奴は一人で、戦わない・・・・・・狡猾で、残忍で、嫌な奴だ。幹部と一緒に奇襲を仕掛ける、魔王の様に」
黒岳は破ったシャツでナイフの刺し傷を止血しながら本陣へと戻っていく。
彼女には戦って欲しくなかった
巨大な理不尽が彼女を睨んだ
臆する様子もない
強い眼差し、まるで少年の頃に見上げた真夏の日差しのようだ
理不尽が叫んだ、割れ響く歌の様に




