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碧い月、似ている二人 2

危険な物とは時に、とても美しい。

続きです!


 スキルのトリガーが解ったが、俺にはそれだけでは不十分だ。


「翔・・・・・・私にいう事ないの?」

「うん? なんだ?」

「無事に帰るって約束したじゃない!」

「怪我は無いだろ」


 魔理はほっぺを膨らまして座っている状態で両足をバタバタと動かしている。

 今は午後の時間で優等クラスは自由に時間が使える。その中で、俺と魔理はテラスで勉強をしていた。俺自身は勉強が飛びぬけて出来るわけではないから教えてもらっている訳だ。

 だが、制服の上からこのコート羽織るのは少し恥ずかしい。

 オーダーの所属を周りに見せる事で校則違反の抑止となるらしいが、それも美樹が考え付いた事だ。


「はぁ、それに今回は大怪我を負う人も出たんでしょ? 私、翔の事じゃないかって気が気じゃ無かったんだよ?」


 魔理は唇を噛んでほっぺを膨らませる。

 俺は昔から変わらない彼女の頭を撫でる。こうすると、魔理は機嫌を比較的に早く治してくれる。頬を少し赤らめて魔理は「もう」とだけ言って教科書を指で突く。

 続きをやるぞ、と言っている。


「はいはい、続きな?」

「バカ、見てられないよ・・・・・・私も、オーダーに入ろうかな」

「止めておけ、お前は普通に生きろ。俺は少しでもこの力をコントロール出来ないとな」


 その時、俺は俺達の方へと歩いてくる人影に気が付いた。

 亜麻色の髪に紅い髪留め、美樹だ。


「大丈夫なのかよ、師匠」


 俺は軽くそう言うが、彼女の表情は暗いものだった。


「どうしたんだよ? まだどこか悪いのか?」

「翔太郎、私の・・・・・・両親にあって欲しいの!」


 はい?

 突拍子の無い発言に魔理も目を丸くして固まっている。

 俺も解らないが、とにかく彼女の家に行くことになるのだろうか?



「魔力の無限増殖か・・・・・・いや、僕の意見は外れたね」

「そうだね、僕だって同意見だったよ。アイリスが正解だったね」

「私は、Doctor」

「発音良すぎだよ」


 正明は授業の間の休み時間に正明達は空き教室に人払いの魔法を張って話していた。その中には正明、八雲、アイリス、そしてその中でも背の低い女の子の姿があった。

 前髪を切り揃えて、艶やかな髪を背中に縛らずに流している。その姿はまるで日本の昔話に登場するお姫様の様だ。

 だが、背が正明よりも低い。下手すれば小学生にも見られてしまうだろう、しかし、雰囲気では中学生には上がっているように見える。何とも不思議な見た目をしている女の子だ。


「しかし、彼の力が危険だってみんな言うけど。私は良いと思うな~、その力」

「京子は気に入った?」

「うん、だって最高の魔力供給源だよね? 彼のスキルって利用できないかな?」


 小さい女の子、京子は無邪気な笑顔でそう言うと牛乳パックに挿したストローをチュウチュウと吸い始めた。

 その言葉に八雲も興味を示した様だ、デバイスを取り出すとそれを投げて空中でまるでスクリーンの様に広げる。そこに映し出されていたのは何かの設計図。


「貯蔵か・・・・・・今までは随分アナログな方法で貯めてたよね。正明の船にあるワインセラーの一角に瓶詰めにしてとか、彼のスキルを利用するのなら僕の居る領域にこれを作って、魔力を貯めればいいよ。大きな魔装のコストもタダで大量の魔力が手に入るなら削減できるよ」


 八雲が広げた設計図を正明は軽く眺める。どうやら魔力を一か所に留めるための少々大掛かりなものらしいが、その為には足りないものがある。


「スキルが必要だね」

「目星は、ある」


 アイリスが正明にデバイスに映した写真をみせる。

 そこには魔力強奪犯。


「あっ、丁度良すぎない? さてと、彼には退場してもらおうかな?」

「その前に、確認しないと」


 正明はおもむろに電話をかける。


「巧? 今大丈夫?」

(オレのセリフだ。今授業中だぞ?)


 時計を見ると既に休み時間は終わっていた。だが、正明は気にも留めずに巧へ通話を続ける。


「魔力強奪犯さ、必要なこと聴きだしたらバラして良い?」

(構わないぞ。奴は人殺しだ・・・・・・この学校では被害が出ていないらしいが、他校の生徒の中には焼死体で見つかった女子生徒もいる。オレも今、志雄と動いている。速くしないとまた死ぬぞ)

「そっちは?」

(さっき会ったよ。自分が由希子を倒したって言いふらしている様だ、2人じゃキツイなギリ追い払うのがやっとだ)

「君と志雄の二人で仕留められないの?」

(オレ達は、心が穢れるほど成長する。京子の使い魔を貸してほしい、そこにいるか?)

「ほい、京子」


 正明はデバイスを京子に投げる。彼女は器用に片手で挟みとって指でデバイスをくるりと回して持ち直すと耳にあてる。


「ほい、私だよ」

(京子、ハンゾーを貸して欲しい。調べられる範囲を広げたいんだ)

「草餅」

(わかった、高い奴な? 抹茶パフェも付けるから強化もしといて欲しい)

「戦力になる奴を五体送るよ!」


 京子はそう言うと通話を切って正明にデバイスを投げ返す。彼は魔法でデバイスを受け止めると、それをポケットにしまう。

 子供のような容姿の京子だが、うきうきした様子で飛び跳ねながら魔法陣を五つ展開する。魔装によって補強されたものだが、彼女は召喚魔法「だけ」は天才レベルだ。

 一斉に膝を付いた忍者・ハンゾーが五人程彼女に召喚される。


「神井巧の為にその命を使え! 命令に従い動け!」

「「「「「はっ‼‼‼」」」」」


 一斉に返事をすると、忍者は立ち上がる。

 京子は腰に差している扇子を取るとそれを振る。魔装に施されていた魔法の一部が染み込んで行き、ハンゾーが強化される。今のハンゾーはそこいらの戦える魔法使いよりは強力だ。


「行け! 力無き者の為に死ね!」

「「「「「御意に‼‼‼」」」」」


 ハンゾーは目にも止まらない速さで教室から消えた。

 京子は満足そうに無い胸を張る。


「まぁ、奴の処遇は決まったね。生け捕りにしてから、素材にしてしまおう。その前に・・・・・・はぁ、真紀にも困ったものだな~勝手に動いたらダメじゃん」


 正明は何かを感じ取ったかのように鼻を動かしている。

 まるで猫が匂いを嗅いでいるように見える。アイリスと八雲が何かを言う前に、正明は転移魔法で姿を消した。

 

「さて、僕達も動こうか」

「そう思って迎えに来てしまったのですよ! 変態共!」


 素っ頓狂な声が何もない所から聴こえ、その声の場所から犬耳の様に髪がぴょこんと跳ねたショートヘアーの女の子が現れた。

 

「加々美ちゃん、そこにずっといたでしょ?」


 加々美はニッと笑うと、空間にゲートを開く。


「さてと! 行きますか、御膳立てに」


 何かを悟った笑いをすると八雲に続いて全員が顔に仮面を着けてゲートをくぐる。



 俺の前に現れたのは巨大な屋敷だった。

 その庭を俺と何故が付いて来た魔理が横切るよ玄関先に若い男が燕尾服を着て立っていた。


「お待ちしておりました。三神翔太郎様、そしてお連れの方は、杉崎魔理様ですね?」

「は、はい」


 魔理は無理矢理ついて来ただけだ。なにか、外堀から埋めに来ているー! とか変な事を言っていたが、珍しい所に行ってみたかっただけだろう。

 少し面食らった顔をした魔理だが、執事の男は玄関の扉を開ける。


「お、おい。変な事しないようにな」


 俺は小声で魔理に注意するが、内心は緊張でガクガクだ。


「わ、わかってるよ! でも、凄いね」

「あ、あぁ・・・・・・アイツ、すっげぇ金持ちだったんだな」


 魔理と話していると応接室へと通された。

 豪華なソファに座るように執事に促され、用意された紅茶と茶菓子を前に待っていると部屋に美樹と何やら、スーツに身を固めた偉そうな男が入って来た。

 多分だが、あの男はかなりの権力者だろう。


「君が、例の天才君か。彼の竜王の剣部隊隊長であり、操魔学園学生部隊オーダーの総取締役である竜崎由希子の推薦で入隊した異例の男」


 低めで威圧的な声だ。

 俺は少し不快になる、どこか、このおっさんは俺の事を見下してバカにしているようにも見えた。


「あぁ? 知らねぇよ。その言葉は挑発か? 俺が天才だろうと何だろうと関係ないだろ」

「ちょ! 翔! ごめんなさい!」


 魔理の平手打ちが頭に炸裂し、彼女は俺の代わりに頭を下げてくれている。

 だが、おっさんは鼻で笑うとドカッと俺の真正面に置かれている豪華な椅子に腰掛ける。


「天才とは傲慢で、恐れ知らずなものだ。身の程も知らないのは仕方ない、世を知らない若輩者なぞに苛立つ事なんてありはせんよ」

「で? 俺に何の用だ。美樹がお前に会えって言うから来たが、クソみてぇな煽りをしたいなら帰るぞ」

「ほう? 私が父親と? 何を根拠に」

「魔力の質を見れば簡単だろうが、同じ感覚がする。魔力の生み出す時のクセが美樹にソックリだ」

「魔力視覚化でも使っているのか? それでも血縁まで言い当てるとは、成程これが貴様のスキルか」

「違う。俺のスキルは魔力の無限増殖だ、美樹から聴いてねぇのか? 今のは魔法なんて使わなくても簡単に見えるだろうが」


 男は少し黙ると、顎をさすりながらギロッと美樹を睨む。

 その目線にいつもは強気な美樹がブルっと身体を震わせる。


「ほう、ほうほう・・・・・・彼女に、出会って生きて帰って来れる訳だ」

「彼女?」

「死神の飼い猫」

「またソイツか、ドイツもコイツも死神の飼い猫を酷く持ち上げるんだな」

「それとは違うな。彼女は殺人鬼だ、許される者ではない。だが、彼女を見た時に私は真の美しさを垣間見た気がした。星々を蹂躙したかのように、夜空に蒼い月しか登っていない夜だった」


 蒼い月? 凶兆じゃないか、普通の魔法使いましてやこんなにも傲慢な奴は嫌う光景だろう。


「私が数年前にとある殺し屋に狙われた夜の事だ、橋の上に彼女は座っていた。腰には無数の蒼い瓶が輝き、細身の肢体に輝く液体をまとい、その顔には異様な仮面が付けられており、左目だけが腰の瓶よりも、その夜の月よりも輝いていた。彼女は私を狙って現れた男に瞬く間に近づくと、その男の顔を撫でたのだ」


 興奮して話すおっさんの目は完全に血走っている。


「そして、その男は・・・・・・死んだ。一撫でされただけで、恐ろしくてたまらなかった殺し屋はただの肉塊になって転がった。そして、私を見る彼女の無機質な仮面、細く白い手足、蒼く輝くその眼が・・・・・・この世界で見た何よりも美しかった」


 魔理もその様子に蒼い顔をしている。

 このおっさんはどうかしている。


「で? 奴が何だよ」

「強さとは、美しくそして敗北を知らないものでなければならない。我が娘にもそうあって欲しい! だが、この出来損ないは負け! 負け! 負け続ける! 何がオーダー隊長だ! 魔力強奪犯に無残に負けを晒し、挙句の果てにはこの天才の師匠を自称する身の程知らず!」


 俺の心臓が跳ねる。

 このおっさん、なんて言った?


「おい、もう黙れ」

「そこで、君に頼みがある!」

「黙れ」

「この役立たずの代わりにオーダー隊長を務めてはくれないか!」

「黙れってんのが聴こえねぇのか! そのふざけたにやけ面を止めろぉ!」


 俺は立ち上がると背中に深紅の羽を広げる。

 爆発しそうな魔力を背中から逃がしているだけだから正確には噴射だが。


「美樹の気持ちを考えて物を言え! 実の娘になんでそんな事が言えるんだ!」

「う、美しい! コレだ! この力強さ! 神々の血統の証、その深紅の瞳が見たかった」


 俺は拳をおっさんに突き出していた。


「翔!」


 魔理の言葉よりも早く、美樹が俺を風で抑え込んでいた。突発的な強風で俺は入り口の扉を吹き飛ばして廊下に転がる。


「やめて、翔太郎。私は、大丈夫だから・・・・・・弱い私が悪いの」

「違う、そんなんじゃない!」


 魔理が俺に肩を貸してくれるが、俺の身体に無数の切り傷があることに気付く。


「お父様、話し合う必要もありません。弱者は強者に全てを差し出すのみ、オーダー隊長の席を彼に譲渡いたします」

「それでいい」

「まて! 勝手に決めるな! ふざけんなよ! 美樹、俺に力の使い方を教えるって張り切ってたじゃねぇか! 一回の失敗で、簡単に諦めるのか!」

「それでは、翔太郎君の活躍に期待しているよ、では」


 視界が勢いよく後方へと遠ざかるような感覚に襲われ、俺は学校のテラスに戻っていた。

 魔法で返されたのだろう。


「ふざけんな・・・・・・認めねぇ、美樹が弱いなんて俺は絶対に認めねぇ!」


 魔力の増殖が止まらない。

 視界が霞んでいく、だが、感情は燃え上がる。


「翔! しっかりして! 翔!」

「魔理、離れろ! 俺は、いつまで正気かわかんねぇ!」


 拳が勝手に動く。

 全てを破壊しようと、背中の魔力の噴射が勢いを増していく。


「うおおおおおおお! 止まれ! 止まれぇえええええ!」


 その時だった。

 鼻歌が聴こえた。だが、華音の声ではないもう少し大人しめの声質だ。

 そして、少しずつだが俺の気持ちが安らいでいく。


「っ! なんだ?」


 背中の噴出が止まり、俺はその場で意識が途切れた。

白い仮面に隠した慈愛、緩やかに美しい花弁は刹那の命を知ることは無い。

夜が歩き回る、死に魅了された人々の螺旋階段が目指す先は月夜が照らす絶望か、何も感じぬ白い奈落か

そして紅い彼は、彼女にお帰りと呟く

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― 新着の感想 ―
[良い点] 設定が面白いとは思いますが、何処か違う作品の影がチラチラと見えますね。あ、文章も面白いですよ?どうなるのか、ワクワクしますし。 [気になる点] 悪印象だった相手やほとんど知らないはずの人物…
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