プロローグ
処女作ではありますが、少しでも読んでいただけたらと思います。
プロローグ
魔法が一つの学問として科学の代わりに発展した世界。
その世界にかつて一人の天才である男と、一人の魔法船の女船長がいた。
天才は、人々に魔法の力を飛躍的に高めた。
女船長は、人々に魔具を作る技術を教えた。
時は経ち、現代。
魔具は人々の生活を豊かにし、魔法はより強力となり歴史を動かす有力者達の武器となった。
その時代に、四人の天才が生まれた。
かつてのその天才の様に、突然に、唐突に、この時代に現れた。
そして、かつての彼女の様にもう一人生まれた。
愛し合った二人の様に、憎み合った二人の様にまた訪れた歴史の節目。
これは、その節目の物語。
いつしか出会い、歴史を繰り返す二人の物語。
1
魔法使いの力は才能こそが全てを決める。
俺にはそんな才能は殆ど無い。いや、隠れてたんだ。俺よりも強くて凄い奴なんか沢山いるし、力のみで自分の存在を評価されたくもなかった。
だが、その力が突然自分の中にある事が解ったら、どうする。
力の根源は何処にある? 俺はこの力を何に使えばいい? どうして俺なんかに?
俺はその典型的な例だ。
突然芽生えた力、無限に続く強さの片鱗。
どうすればいい?
俺は・・・・・・何をすればいいんだ⁉
「父さん‼」
汗だくで彼、三神翔太郎は自室のベッドから跳ね起きた。
夏も終わりに差し掛かって来たと言うのに、まだまだ暑い。しかし、翔太郎の汗は暑さによるものではない。
心臓が痛いぐらい拍動を行っている。
彼は咄嗟に左胸を抑える。
「クソっ! 戻れ! 戻れぇ!」
荒い息を吐きながら翔太郎は必死に自分の心臓に叫び続ける。が、興奮は中々収まらない。
彼は乱暴にベッドの横にある机からいくつかの錠剤を乱暴に掴みあげ、口の中に放り込む。
精神安定剤だ。
それと一緒にとっていたペットボトルの水を一気に錠剤と共に胃に流し込むと、身体の力が抜けたのか、彼は崩れるように倒れ込んだ。
「ハァ、ハァ・・・・・・まだ、コントロールできねぇ!」
苦悶の表情で頭を抱える彼は、精神を焼く焦りと恐怖を身体から出すように息を吐く。
魔法使い三神翔太郎の力は現在、覚醒しつつある。
稀だが、魔法使いには魔術的な特殊能力である<スキル>と呼ばれる力が出現する者がいる。それは詠唱も技術も必要なく強力な力を常時発動できるという物だ。
その力の覚醒は、不思議とこのトレライ・ズ・ヒカイント以外の土地では見られていない。
覚醒する力の概要は、実際に目覚めなければ理解は不能である。
「何なんだ、この・・・・・・妙な感覚」
落ち着かない。
動きたい、走りたい、叫びたい、そんな生易しいものではない。
壊したい。目に映る物全てを破壊したい。
そんな凶暴な衝動が冷めないのだ。
翔太郎が目をつぶって思考を頭の外に飛ばす事に努めていると、窓から小さなノックの音が響いて来た。
そちらを見ると、そこには一人の女の子が部屋の中を覗き込んでいた。
亜麻色の短めの髪にパッチリとした目が特徴的だ。顔つきは幼い感じがするが、体付きから翔太郎と同い年程だろう、小動物を思わせる可愛らしい笑顔で手を振っている。
「魔理? ッ‼」
翔太郎は魔理の顔を見るやいなや、机の上にあった精神安定剤を大急ぎで隠した。
魔理は窓に鍵がかかっていない事を確認すると、窓を開けて部屋に入って来る。
「おはよ、翔。どうしたの? なんか慌てて、えっちい本ぐらい別に隠さなくていいよ?」
高めの艶のある声だ。
「ちげぇーよ!」
「男の子なんだし、興味あるのはわかるよ?」
「お前はどうしてもソッチに持っていきたいようだな?」
「逆に男子高校生の部屋に性的な物資がないってどうよ?」
翔太郎は溜息を吐くが、心臓の動きがなだらかになっていくのを感じていた。
彼女の影響があるのかは不明だが、翔太郎は体調が回復していくのが実感としてある。実際にこの現象が起き始めてから、病気やケガも殆どしていないのだ。
発作以外での体調は良好な状態の方が多い。
「で? なんだよ」
「今日から学校なの忘れてない?」
「は? 明日からじゃねーの?」
「そい」
魔理が差し出してきたのは学校の日程表だった。
そこには、今日の日付がある。
「・・・・・・今、何時だ?」
「六時」
「あっぶねぇ!!」
翔太郎は叫ぶと、ベッドから降りる。
Tシャツにハーフパンツと言う風体だが、翔太郎は一言だけ唱える。
「衣装変換」
その言葉の後に、翔太郎は現れた魔法陣を潜る。すると、彼は学校の制服姿になった。
学校の紋章に、指定の蒼いネクタイ。翔太郎は魔法の失敗がないか確認すると、魔理の方へと顔を向けた。
「やっぱり、この制服は嫌いだ」
「しょうがないよ。決まりだからね」
魔理のネクタイは紅色、それも所々に金糸によって刺繍されている高価な逸品だ。
ネクタイの色は、翔太郎達の通う学校<操魔学園>の方針であり、蒼いネクタイは弱者の証となり紅色のネクタイは魔法的強者として分別されている。
翔太郎の気持ちの沈みを察したのか、魔理は明るい声で彼の手を引っ張る。
「そんなことより、ご飯作ってあげる! 適当になんか作るよ」
「おっ、悪いな。てか、部屋同士が向き合ってるからって窓から来るなよ」
「やだ。その侵入方法は私だけの特権なんだから」
「特権って、バカだろ?」
「鍵かけないのが愛だよね。なんつって」
翔太郎は魔理の顔を見る。
昔から全く変わらない彼女は今の翔太郎には心の支えになっている。母親は生まれた時に死に、父親は男手一つで育ててくれたが、今は多忙であり家には帰ってこない。
「お前がいないのは、流石に寂しいからな」
「え?」
魔理はキョトンとした顔で翔太郎を見上げる。
一八〇センチの翔太郎は、魔理の顔を覗き込むようにしてその顔を面白いと言わんばかりに見つめる。
「なんだよ?」
「この、朴念仁」
「はぁ?」
「朴念仁!」
顔を真っ赤にした魔理はそう叫ぶと台所へ小走りで入って行った。
翔太郎は不思議そうに首を傾げると、テレビを付ける。すると、大きくそこには魔力連続強奪事件と言う文字が出ていた。
「またかよ。オーダー達は何やっているんだ?」
オーダーは天才とされている優秀な学生による治安維持部隊だ。
そして、優秀な魔法使いを中心に襲い、魔力を抜き取ってしまう犯罪者。
警察やオーダーはその犯人を絞っているものの、その犯人の尻尾を掴めずにいる。
ニュースキャスターがその犯人の呼び名を読み上げる。
「「一連の事件は、依然として死者が出ており、警察はSPECTREsのリーダー格と見られている。魔法使い、通称<死神の飼い猫>の仕業であると捜査を進めています」」
翔太郎は興味無さ気にテレビから視線を外した。
殺人も起きている事件だが、少し用心はしようかなと言う気持ち以外には何も感じない。実感が湧かないと言う方が正しい。
だが、一つだけ気がかりがある。
他人の魔力を奪う魔法は、存在しないのだ。
翔太郎はそう考えるも、直ぐに頭を切り替える。
「魔理、俺も手伝う」
彼は魔理のいる台所へと向かった。
手の届く人間を守れれば、翔太郎は十分と考えていた。
察しの通り、ド素人です。今回が初めての投稿という事もあり、至らない部分が多々あると思いますが、せめて暇つぶしぐらいの気概で楽しみいただければ幸いです。
ご意見、ダメ出しがあれば教えていただけたらうれしいです。
投稿ペースが安定しないかもしれませんが、定期的にあげていけたらと思いますのでよろしくお願いします。