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(こっちかな)

 張り巡らされた不可視の障壁をたどって先へと進む。

 予想通りではあったが抵抗は激しく、敵は怯むことなく立ちふさがってきた。

 それだけ相手も必死という事なのだろう。

 魔術的な防壁もそれを裏付けている。

 普通の人間だったら、何となく無意識に避けるように意識をそらす魔法があちこちに施されている。

 それなりの備えがなければ、おそらく目的地にたどり着く事もできないに違いない。

 直接的に行く手を阻むような備えでないので、気軽に設置できるという利点もある。

 ある程度人通りが出来るようにして置く場合は便利だろう。

 今回のような場合にはさして意味をなさなくなるが。

 用意があればある程度簡単にくぐり抜ける事ができるし、妨げになるような物理的な障害というわけでもない。

 単に「なんとなくそっちの方に行く気がしない」という作用をもたらすだけなので、それなりに意志を強くもてば突破は何の事はない。

 むしろ、それらが強く張り巡らされているという事が、目的地を見定める重要な要素となりうる。

 どんなものでもそうなのだろうが、良いところもあれば問題点もある。

 そこをどう用いるのか、また、どうやって無効化するのか。

 攻守共にそこは常に悩む所なのだろう。

 仕掛けがあれば、確かに攻めにくくなるが、上手く利用すれば逆に利用されかねない。

 男からすれば、今の状況がまさにそれだった。

「さてと」

 侵入者対策である人除けの魔法をくぐり抜けたところで足を止める。

 ここから先は面倒な事になっている。

 人を除けるところを抜けたら、物理的に影響のある仕掛けを設置する。

 悪くないやり方だった。

 定石通りと言える。

 だからこそ、ある程度備えがあれば対処もしやすい。

「悪く思わないでねー」

 そんな事を言いながら対処法の準備をしていく。



 奥の間にこもる男は、迫ってくる敵を迎え撃つべく用意をしていた。

 物理的、および魔法的な手段によって作られた迎撃態勢はそれなりのものと自負していた。

 その動力源となる魔力も、霊脈・竜脈などの魔力の大きな流れからとっている。

 事実上、半永久的に稼働し続ける。

 相当な実力を持った者でなければ突破は無理であろう。

 そんな力をもった者などそれほど多くはない。

 仮にそんな存在が来たというなら、もう諦めるしかない。

 だが、今回やってきた者は、それほど巨大な力を感じる事はなかった。

 多少は心得があるようではあるが、感じ取る魔力は大きくはない。

 物理的な技術の持ち主であるかもしれないが、だったら彼が控える場所に到達する事はまず無理であろうと思えた。

 よほど奇想天外な手段を使わない限りは。

 だが、男はしばらくして驚いた。

「なんだと?」

 魔術的な探知機構によるならば、侵入してきた男は奥へと向かうことなく立ち去っていったのだ。

 何かしら作業はしていたようだが、それが周囲の魔法的な装置に影響を与えた様子はない。

 まさか、入り口を少し越えたあたりで引き返すとは思ってなかったで驚く。

「一体何を……」

 こうなると逆に気になる。

 あまり必要性を感じていなかった監視カメラに向かい、そちらで捕らえた画像を確かめていく。

 だが、それもすぐに無駄な事だと悟る。

 魔法的なものはともかく、こうした物理的な装置は簡単に見破ったようで、侵入者はほとんどの監視カメラは手にした拳銃で破壊していた。

 小型のマイクロカメラも含めて。

 おかげで侵入者が何をしていたのか全く分からない。

 そこまで出向けば何があるのか分かるだろうが。

「ふむ」

 少しばかり考える。

 ここから出て行く危険性と、確認をしない危険性と。

 どちらがより問題であるかについて頭を働かせる。

 相手がまだ近くにいるなら、ここから出る方が危険だった。

 だが、もし相手が既に立ち去っていたならば、何も知らないほうがより危険である。

 それを考えて男は、あとしばらくしたら部屋から出て外に出ようと考えた。



 そして。

「ほう」

 部屋から出て入り口の方に向かった男は、相手が何を仕掛けたのかを悟った。

 入り口近くの部分には、物理的な罠が仕掛けられていて、そこを越えようとすると爆薬が派手に吹き飛ぶようになっていた。

 設置された物の規模からして、通路を粉々にするくらいの威力はあるだろう。

 踏み込めば男とてただでは済まない。

 おまけに、仕掛けられてるのは人除けの魔法の内側だ。

 ここで爆発や何かが起こっても、誰もここに注意を払う事は無いだろう。

 一定以上の力をもった魔術師などはともかくとして。

「なかなかやってくれるな」

 相手が意外と頭を使ってる事を素直にほめて、男は携帯電話を取りだした。

 中から外に出られないなら、外から救援を呼べばいい。

 そう思ったのだが、そこで自分のいる場所が圏外である事に気づく。

 地下なので当然なのだが、その事を今になって思い出す。

「ううむ」

 とはいえ移動手段が無いというわけではない。

 魔法による転移を用いれば、今いる場所から別の場所に瞬間的に移動する事もできる。

 男自身にそこまでの魔術は使えなかったが、部屋に戻ればそのための装置はある。

 それを用いれば外に出る事は造作もない。

 あらためて部屋に戻った男は、そこであらたな事実に気づかされた。

 転移装置が動かないのだ。

「…………馬鹿な」

 いったい何がと思って自分の用いる事が出来る魔法などを使って確かめる。

 結果はすぐに出てきた。

 転移装置が利用してる霊脈・竜脈がふさがれているのだ。

 ここにある転移装置は、基本的に霊の通り道を用いている。

 その道は自由自在に作れるものではなく、天の動きや地の形にそって自ずとできあがったものである。

 そのため、思った通りに用いる事はできない反面、設置が容易という利点もあった。

 男が用いていたのは、この霊の通り道を利用するもので、それを遮られると転移が不可能となる。

 おそらく、通り道に魔法的な障害物を設置したのだろう。

 ただそれだけで、難攻不落の城は逃げ出すことが不可能な牢獄となってしまった。

 通気口などを通って、と思うも外部からの侵入を警戒してそれらは最低限必要な大きさにしている。

 人間が通り抜ける事はできない。

 ふと、ほとんど使ってなかった内線電話が目にとまる。

 期待しないで受話器を持ち上げたが、やはり通話はできなかった。

 何を押しても、何の反応もない。

 おそらく、電話線を切られてるのだろう。

「やってくれる」

 相手が意外と周到に準備をしていた事を認めざるえなかった。

 だからこそ、男もそれなりに準備をしている。

 出入り口は表にあるものだけではない。

 逃げ道もいくつか用意してある。

 あまり使いたくない手段であったが、背に腹は代えられない。

(まあ、しばらく落ち着いておくか)

 孤立しても一ヶ月は生きていけるだけの備蓄は用意してあった。

 あと数時間、場合によっては数日程度の間を置いて行動しても何も問題はない。

 それにすぐ動いては相手に行動を探知される危険もあった。

 急がば回れ。

 今はじっくりと時期を見計らおうと思った。



 それから十日後。

 予定より時間を置いて動き出した相手を察知して侵入使用としていた男は動き出した。

「やっとか」

 この十日ほど、相手がどう動くか分からなかったので、とりあえず探知の魔術をあちこちに仕掛けていたのだが。

 それがようやく効果をあらわしてくれてほっとする。

「んじゃ、やりますか」

 相手は強力な魔術師であるが、出てきてくれれば対処のしようもある。

 その為の準備も既にそろえてあった。

 もちろん簡単に倒せるとは思ってない。

 だが、やってやれない事はないとも思っていた。

 今回がそうであるように、どれだけ備えてあってもどこかに隙が出来る。

 それを上手く利用できれば勝ち目はあった。

 大事なのは油断しない事。

 相手がどれだけ弱くても、どれだけ無防備に見えても。

 それを怠ったが故に敗北した戦いは過去に数多ある。

 それと同時に、敗北したとて決して諦めないこと。

 負けて逃げても、大事な一戦で勝利をおさめれば一気に逆転するという事もある。

 まして相手は魔術師である。

 たった一戦で勝てるなんてこれっぽっちも思えなかった。

 だからこそ、勝てるまで何度も挑んでいく。

 相手が負けるのを待つ。

 その方法で男はこれまで生き残ってきた。

 決して連戦連勝ではなかったにも関わらず。

 立ち上がって男は魔術師のいる方向へと向かう。

 今回も、最終的には勝利をおさめるために。





 ちょっとした引っかけ要素的な話にしてみました。

 とはいえ大したものではありませんが。

 おそらくこういった話は他にも色々あるでしょう。

 もしかしたら同じような話が他にもあるかもしれない。というかあるだろうな。

 まあ、俺はこれが限界だという見本ということで(情けないですが)。

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