はじまり
俺はいつだって冷静で居られた。
親父が死んだときも、母さんが出て行ったときも。
悲しいとか苦しいとか痛いのとか、そんなの一時的なもの。
だから俺は感情にとらわれたり流されたりしない。
しない……筈だったんだ。
こいつに出会うまでは…────
鹿間 淕 17歳
俺の後輩で同じ写真部。
いつも周りには友達が居てキラキラしてて笑顔で。
人懐っこくてイイコで。俺とは真逆のタイプ。そして俺が一番苦手なタイプだ。
「高島先輩!何やってるんですか?」
「カメラの掃除…」
「先輩のカメラってすごくイイやつですよね!どこで買ったんですか?」
嫌いだ。この馴れ馴れしい感じ。その無邪気な笑顔も腹立たしい。
同じ部ってだけで名前しか知らないやつと仲良くできるほど俺は出来てない。
無駄な会話もしたくないし、信頼関係や友達、もちろん愛情なんていらない。
俺は1人が好きだ。
「先輩…?」
ツンとしていると、鹿間が顔を覗き込んで犬みたいな丸い目で見つめてきた。
裏表のなさそうなやつだ…。
「淕ー!そいつあんま喋んないからほっとけよ。それよりこっち来てみ!面白い写真あんだよ」
数人で固まってるうちの1人が鹿間を呼んだ。
「……でも……」
振り返ると小さな声で呟き、すぐに俺を見た。
何で行かねぇんだよ、早くあっち行け!しっし!
「あの先輩…今日一緒に写真屋さん行きませんか?」
「はぁ?」
「俺のおじいちゃん!昔っから写真屋やってて。古いカメラとか面白い物あるから良かったら…」
「行かねぇよ」
「でも…っ、先輩ぜってー喜ぶと思う‥から」
何?
今まで挨拶しかしたことなかった程度の奴なのにいきなり親しげに話しかけられても困るし。
俺がいつお前と話したいって言った?
友達になった覚えもないし、気安く先輩とか呼ばないでくれ。
「だから‥今日の部活が終わったら門の所で待ってます!」
「は?ちょっ…」
「淕ー!早く来いって」
「はぁい!」
「はぁ‥‥」
今、慌ただしく一気に時間が過ぎた気がする。勝手に約束させられたし。チビで小型犬みたいなくせに強引な奴だ…。
「よーし!今日はこれで終わりだ。来月コンクールに出す用の写真がんばれよー。何かあったら先生に聞いて来いよぉ」
「はぁーい」
只の暇つぶしの為に入った写真部。
静かそうだし1人で自分だけの世界に行ける。他人と協力することはあまりないから割と好きだったりする。むしろ今は一番居心地が良い。
でも鹿間が入部してから何だか男子がやたら騒ぎ出し目障りになってきた。可愛い女子ならばともかく、何故男の鹿間が皆からチヤホヤされているのか分からない。
俺の唯一の『好き』の場所が荒らされていくようだった。
写真を無くしたら、俺は次に何を理由にして生きていけばいい……?
何を……──────