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<2>

 


 「い、異端審問官が、どうして異端(バケモノ)と組んでいるのだ!?」

 

 「組んでるのではありませんよ……コイツが勝手に付きまとっているだけです」

 

 「カッカッカッ! なにヲいウテオル……わらわノたいせつナものヲ、ごういんニうばッタのはオぬしジャロ?」

 

 異端者とは、異なる者。

 思想のみならず、種の違いもまた異端と看做される。

 

 それが“今”の聖光教会の方針であり。異端審問官の審判基準でも有る。

 

 「……ないわー」

 「……ないな」

 

 「違う! 誤解です!? 

  ―――ロイ! もう少し言葉を選んでくれませんか!!」

 

 「ナント! ぬしハわらわがワルイトもうスノカ? ヨヨヨ……マサカかようナしうチをうケヨウトハ!?」

 

 故に魔物もまた、異端として狩られる対象であり。

 

 蒼い血を流した少女もまた……異端であることは間違いない。

 

 例えそれが、フラリと、わざとらしく泣き崩れ。顔を両手で抱えてすすり泣く少女の姿をしてようと……異端は異端である。

 

 「チラチラと様子を伺うのは止めてください。あと、実は笑ってるのも分かってますから……。

  

  それと、あなた方も、そんな目で見るのはやめて下さい。ボクは、変態じゃありませんから!!」

 

 だが、それでも見た目は麗しく可憐な少女であり。演技だと分かっていても庇護欲を掻き立てられるのは仕方がないことだ。

 

 もっとも、ソレが日常となったギルガイアにとっては、ただひたすらにウザいだけであるのもまた、仕方がないことだ。

 

 「キサマ、本物の異端審問官なのか?

  ……まあどちらでも良いか。

  

  おい、そこの用心棒! ワシに付け! どの道ここで小奴らを始末せぬとお前も破滅じゃぞ!」

  

 「魔導剣をへし折るようなバケモノ相手に、どうしろと?」

 

 「ワシが英雄化(エインヘリヤル)の法術を掛けてやる。寿命が少し削れるが……ここで死ぬよりはマシじゃろ!」

 

 「その聖句を、祭司長(アークビショップ)の許可なく使用するのは、禁忌に触れますよ?」

 

 「それこそいまさらだぜ……異端審問官さんよぉ!

  ―――いいぜ、やってくれ」

 

 副官が聖句を朗々と歌い上げ。それに合わせて、魔法剣士が予備のショートソード型の魔導剣を取り出す。

 

 「罪に罪を重ねると……地獄で余計に苦労しますよ?」

 

 パンッ! パンッ! キ、キイン!

 

 聖句の詠唱を見て取り。型通りに禁忌を咎めながらも迷わず、ギルガイアは断罪のための銃弾を連続で打ち込む。

 

 だが、それらは尽く。魔法剣士の魔導短剣(ルーンダガー)によって弾かれ防がれた。

 

 「―――天上の神に捧げ祀らん。

 

  英雄化宣言(エインヘリヤル)ッ!」

 

 そうこうしてる内に、副官が聖句を唱え終え。禁呪が発動。そして、白色の荘厳なオーラに魔法剣士が包まれる。

 

 「はははっ! コレが噂に聞いた教会の切り札って奴か……大したもんだ。

  たとえ相手が魔王みたいなバケモンだったとしても、負ける気がまるでしねえぇぇぜッ!」

  

 「ああ、それも誤解ですよ。

  対象の寿命を対価に、一時的な祝福を人為的に与える邪法ですから、とうぜん歪みはあります。

  

  例えばそう、今の貴方が感じている万能感ですね」

  

 「ばんゆうヲもたらス。きょうせんしかノまほうトおなジジャナ……カッカッカッ!」

 

 「それよりも性質が悪いです。

  狂戦士化(ベルセルク)の魔術は、術者自らに行うモノですが……コレは、他者に使いますからね」

  

 格上だった魔法剣士が、更に強化された絶望的な状況にも関わらず。ギルガイアは淡々と会話を交わす。

 

 それに答えるロイと呼ばれた少女姿の龍神もまた、地に撓垂れるような姿のまま、全てを嘲るような……不敵な笑みを浮かべている。

 

 「異端審問官が教会を批判するのか?

  ―――背信者はキサマの方ではないかッ!!」

  

 「気に入らねえな。さっきのオレと今のオレを一緒にすんなよ?

 

  さあ、ぶっころしてやらぁッ!!」

 

 「教会に盲信する狂信者(ファナティック)もまた、異端ですよ? ……っと!」

 

 魔法剣士から放たれた魔刃をひらりと避け。くるりと横に回転しながら、シリンダーを外し、空の薬莢を捨てる。

 そして、正面を向き直す頃には、手早く再装填(リロード)を終わらせていた。

 

 だが、魔法剣士がリロードの、その隙を見逃すはずもなく。再度、目にも留まらぬ早さで間合いを詰める。

 英雄化による大幅な身体能力強化の影響で、さっきと同じでありながら……遥かに上回る速度。

 

 先程の動きが、目にも留まらぬ早さ(・・・・・・・・・)なら、今のは眼にも映らぬ速さ(・・・・・・・・)であった。

 

 だが……結果は変らない。

 

 ガキンッ!? パキッ

 

 「な!? バカな!! 今度は、きっちりと剣を硬化させたはずだぞ!?」

 

 「カッカッカッ! あまイノウ……ジャガこうかハチャントアッタゾ?

  ―――ホレ、みテミイ?」

 

 切り込んできた魔法剣士と、ギルガイアの間に、少女が割り込む。座っていたはずなのに、次の瞬間には割って入っていたのだ。魔法剣士が驚愕するのも当然である。

 

 さっきと同じく、魔導短剣を素手で受け止め。逆に砕いて見せた少女の細腕から、僅かに蒼い血が流れる。

 

 ―――言われてみると、先程より出血は多いようだが……かすり傷であることは変らない。

 

 むしろ、折れずに砕けた分だけ、魔導剣の方が被害が大きいと言えるだろう。それは、英雄化による強化が裏目に出た結果であった。

 

 英雄化してなければ、折れるどころか、ヒビが入る程度で済んだはずであろう。

 

 だが、それはつまり。魔力で硬化させた魔導剣よりも……少女の細腕の方が、素で頑丈だという事実を示している。

 

 「………冗談じゃねーぞ」

 

 ココに至り、ようやく魔法剣士は気づく。目の前の少女は、正真正銘のバケモノである……と。

 

 英雄化の影響で、恐怖を感じなくなっているはずなのに……魔法剣士の顔は真っ青である。

 

 副官の方は、魔法剣士ほどに事態を把握できてないが、ヤバそうな雰囲気を感じ取ったのか、言葉を出せないでいる。

 

 「さあ、断罪の時間です

  異端審問官“ギルガイア・クラス”の名において、裁きを行います。

  

  民を苦しめ。教会の威信を傷つける。汝が罪は明白であり。酌量の余地は有りません。

  

  ―――よって、有罪(ギルティ)を申し付けます」

  

 「な、なにを言っている!? ワシが何をした!!

  ま、まだワシは何もしとらんぞ!!

  

  それにじゃ! その異端(バケモノ)を何故放置するのだ!

  

  先に其奴を殺すのがキサマの役割ではないのか!!」

  

 「違いますよ?」

 

 「は……?」

 

 追い詰められ、逆切れ気味に攻め立てる副官に対して、ギルガイアは淡々と答える。

 

 魔法剣士は、すでに完全に戦意を喪失している。


 「異端を狩るのは異端審問官の役目ですが……異教徒を改宗させるのは、宣教師(ミッショナリー)の仕事ですよ?」

 

 「バカな!? そやつはバケモノであって、異教徒ではなかろう!

 いいや、亜人種(デミヒューマン)……異教徒であっても、討伐対象であろうがッ!!」

 

 「ああ、それは、今の教皇が勝手に言い出した戯言ですよ。

  異教徒も異種族(ディファレント)も討つべきものではなく……隣人であり。未来の同志です。

  

  それが“邪悪”でないなら、ボクが討つ理由はありません」

  

 「き、キサマは何を言っている!?」

 

 副官の顔色が変わり、信じられないモノを見て怯えるように一歩後ずさった。

 

 「ソレに、ボクが忠誠を誓ったのは神々であって、ただの人である教皇じゃありません。


  さらに言うなら、ボクが献身を誓ったのは信仰であって、教会じゃありませんよ?」

  

 「な!? キサマ!! 異端者か!!」

 

 「教会や教皇に反するものを異端者と呼ぶならそうでしょうね。

 

  ですから敢えて、もう一度名乗りましょう。

  

  ―――“異端”な審問官“ギルガイア・クラス” その名において、刑を執行します……とね」

  

 「カッカッカッ! ダカラぬしハおもしろイッ!」

 

 狂気に染まったワケではないが、ある種の信念を持った者独特の眼光を持つ異端審問官。


 その側で、可愛らしい顔で高笑いする少女。

 

 絶望と恐怖に彩られた眼で見る二人の外道。

 

 静まり返った倉庫に、カチリと撃鉄が上げられ、カラカラカラとシリンダーの廻る音だけが響いた。


 

 ――――

 ―――

 ――


 

 ここは港町“アールランス”に有る倉庫街。

 その一角で起きた、街の根底を揺るがすはずだった事件は、こうして幕を下ろした。

 

 聖光教会の副官が忽然と姿を消したことで、僅かな混乱はあったが街は変らない。

 

 倉庫で起きた、麻薬取引を巡った地下ギルド同志の抗争とそれに巻き込まれて殉職した、勇敢な6人(・・)の衛兵たちが話題になったが、それもすぐに別の話題に上書きされ消えていった。

 

 残ったのは、変らない活気ある港町と―――

 

 「オオ! うまソウジャノォ……ナア、ぬしヨ。わらわニソレヲけんじょうスルノジャ!」

 

 「知りませんよ。お金が無いなら働きなさい」

 

 「ソウ、ソレジャ! アア、ソレト、コレモジャ!!」

 「おうおう、元気の良い嬢ちゃんだな! ……で、支払いはどうするんだい?

 

  ああ、そこの巡礼者さんかい?」

  

 「ちょ、また勝手に!?」

 

 「だめカノォ……ウルウル」

 

 「おいおい、こんな子供を泣かせるのは、いくら巡礼者さんでも酷くないかい?」

 

 「ぐぬぬ、外堀から埋めてくるとは……」

 

 ―――屋台の前で言い争う。巡礼者とその連れの少女の姿と、それを微笑ましそうに見守る……通りすがりの人々の平和な光景であった。



 

 これは、魔王によって、世界が絶望に包まれる前の物語。

 魔王が生まれたのは偶然ではなく、必然であったと裏付ける……とある事件の物語。

 

 異端な審問官。銀の断罪者“ギルガイア・クラス”と、龍人の少女。龍神皇“ロイエンタール”の二人の物語。

 

 

 そして、物語は進む。

 

 

 「………うむ。報告ご苦労であった。

 

  やはり、不穏分子はいたか……だが、その少女の姿をした“何か”が気になるな……引き続き調査せよ」

  

 荘厳極まりない大教会。

 その片隅にありながら、清楚と清浄を良しとする聖光教会にしては豪華すぎる調度品に飾られた一室。


 死んだはずの衛兵の一人と対峙するのは、金糸をふんだんに使った豪華な法衣に身を包んだ男であった。

 

 その男から語られた言葉は、民を憂う為政者でもなく。神々を称える聖職者でもなく。

 

 己の野望を隠し、それを成そうとする……独裁者のものであった。


 「計画の障害に成らねば良いが……まあ良い。

  これもまた神の与えた試練であろう。粛々と乗り越えてみせようぞ! クククッ……ハハハハハハッ!!」

 

 高らかに咲う男は、聖光教会が誇る7人の枢機卿を束ね。聖王国の運営に大きく関わる……。


 ―――聖光教会の最高責任者。

 

 嗤う教皇“アインハイン・ヴァイワッハ”その人であった。


 こうして、教皇の思惑が絡み……二人の物語は、廻り始めたのであった。



 所謂ロリババアがメインヒロインです。


 誰得かもしれませんが、俺得なので変更予定はありません。


 ハーレムには成りませんが、ヒロインっぽい人物は今後も増える予定ですので、興味の有る方は、それをお待ち下さい。


 もちろん、増えるのは、俺得なヒロインっぽい何か? ……ですけどねw


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