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意識がふわふわと遠退いていく。
それを繋ぎ止めるかの様にあの人が必死に声を荒げているのが聞こえてくる。
そんなに必死になるなんて、いつもポーカーフェイスのあなたが珍しい。これはもう明日は雨か嵐が来る事間違い無しね。なんておぼろげに考えながら力無く笑ってみた。
僅かに腕を持ち上げようとするとすかさずその腕を掴まれ、壊れ物に触れるかの様に優しく私の手が彼の頬に触れた。縋り付くかの如く握られた手から伝わる熱が心地よくて、切なかった。
言いたい事や伝えたい事は数え切れない程あるというのに上手く声が出せない。
絞り出した声が貴方に届いているのか否か、それすらよくわからない。
もう喋るな。と彼が口を動かした。
ぎゅっと抱きしめられて温もりに包まれる。あたたかくて、離したくなくて、涙が出そうになる。
「なんでお前が…!!」
ぽつりと絞り出された悲痛な声と共に頬に滴が伝った。
これはわたしのじゃない。彼の涙だ。
ほんとはね、わかってた。気づいてたの。
私も貴方も勇気が無かった。
新しい道を進む勇気が無かった。
ごめんね。
両手でくしゃりと彼の髪に触れる。きらきらした銀色が瞬いた。
「さよなら、私の…」
私は閉じていく世界の中で、彼の瞳から光が失せていくのを見つめることしかできなかった。