前夜祭
宮本と喜田は別れた。喜田は今度こそ旅館に帰ろうとした。しかし塚本が現れることで帰路に着くことは出来なくなった。
「喜田さん。前夜祭には参加しないのかい」
「前夜祭ですか」
「陰陽師伝説の神楽をする」
神楽と聞き喜田は悩んだ。喜田は日本武芸に目がないのだ。毎年神楽を見るために旅に出かけるほどだった。喜田は一言行くことを伝え塚本に着いていった。
十九時。神社では盛大に前夜祭が行われていた。神楽は舞台で上演している。橘炎帝の役は宮川黄介だった。喜田は塚本に尋ねた。
「橘炎帝の役はいつも宮川さんなのですか」
「はい。彼以外には考えられない」
そこへ中川が現れた。
「そうそう。そろそろ新しい橘炎帝役が欲しいぜ。彼の演技はいいけどいい加減あきるだろう。客は観光客十数人しかいないこんな神楽やる価値ない」
「私語を慎め」
「はい。はい」
彼はそう言うとすぐに帰った。その後ろでは田辺彩花が祭りの写真を撮っている。喜田は彼女を見つけると声を掛けた。
「取材ですか」
「はい。送り火祭りの取材を兼ねるよう編集長に言われたので」
「大変ですね」
「この送り火祭りを見物することができたから良いですよ」
彼女はそう言うと再びカメラを持ち取材を再開した。




