対中大同盟
2018年10月20日午前9時
日本首都東京
日本軍と大日本帝國連邦軍の合同訓練が始まって20日。訓練中であるのを良い事に、大中華帝國は更なる侵攻を続けていた。中東全土は占領され、油田地帯は大中華帝國の手に落ちた。これは世界経済にとって大きな痛手となった。欧州各国は北海油田等を頼りとし、南北アメリカ大陸はアラスカ油田等を頼りとした。しかし日本はオーランチオキトリウム石油で完全に国内で賄えた為、問題は全く無かった。だが中東全土占領の事態に日本国内は早期開戦を求める世論が大きくなった。だが柏木総理は訓練を行い合同作戦が可能な状態にする事を優先した。日本はあくまでも大中華帝國の横暴に対抗する事を明言したのである。そして大中華帝國を共通の敵と認識する欧州各国と日本は、対中大同盟を締結。これが10月11日の事である。欧州各国もタイムスリップしてきた兵器が本物である事を認識し、更に中東全土が占領された事に危機感をもっての事でもあった。
これまで事態を静観していた南米各国も大中華帝國の横暴に対抗する事を宣言。だが軍事行動にでる事はなく、日本への戦略資源輸出を行う事にしたのである。これは日本にとって好機であった。そして輸送船が日本へ出港したその瞬間、輸送船は全て爆沈した。南米各国と日本は大中華帝國の仕業と予測したが、爆沈から2時間後アメリカ合衆国が南米各国に侵攻を開始。アメリカ合衆国も日本にタイムスリップして来た兵器が本物である事に危機感を抱き、日本が大中華帝國に負けるべく動きだしたのである。
霞ヶ関首相官邸2階閣議室
「これは確実に我が国の隙を突いています。今すぐにでも東南亜細亜を解放し、少しでも姿勢を見せないと!!大東亜戦争直前の状況ですよ!!」
「……」
森下国防大臣が柏木総理に開戦を強く迫った。しかし柏木総理は無言で腕を組んでいた。
森下国防大臣の言う通り、今の日本は大東亜戦争直前の状況であった。『ABCD包囲網』ならぬ『AC包囲網』に日本は石油では無いが物資を止められた。そして国内では開戦世論が大いに盛り上がっている。
「確かに現状を打開するには早期開戦しか道は無いと思います。現に内閣支持率も3割を下回りました。決断を!!」
大河内官房長官も柏木総理に強く迫った。内閣支持率は先日の世論調査により遂に3割を下回った。それに引き替え早期開戦に賛成する意見は8割を超えた。
「早期開戦は確かに私の望むものとなる。だが共同作戦が行えるかが……」
「私が全て解決致します。」
柏木総理の言葉を遮るように声が聞こえた。閣僚全員が声のした方を向くと、そこには黒子が立っていた。
「皆さんお久し振りです。私がゆっくりしている間に大変な事になってしまいました。」
黒子はそう言うと頭を下げた。
「いえ、お助け頂き感謝申し上げます。」
「有難い御言葉ありがとうございます。」
黒子は柏木総理の言葉に再び頭を下げた。
「早速ですが大中華帝國は帝都の遷都を決定し、既に進められています。」
「遷都ですか!?」
藤咲財務大臣が驚きの声を上げた。
「大中華帝國の新帝都はウズベキスタンの首都タシケントを改名した『中京』となるようです。」
「何故遷都を?」
「皆さんが大中華帝國に戦いを挑みますと、北京は余りにも日本に近過ぎます。その為日本からも欧州各国からも同じ距離、現在の大中華帝國領の中心がタシケントであった為遷都を行った模様です。」
高橋外務大臣の言葉に黒子は答えた。黒子の言う通りタシケントは現在の大中華帝國領の大まかに中心にある。現在の大中華帝國領はロシア連邦全土と亜細亜地域・中東全土、パプアニューギニアも占領されオーストラリアにも大中華帝國軍は侵攻している。ロシア連邦も抵抗虚しく占領されイギリスに政府は亡命した。更に大中華帝國は欧州にも侵攻を開始し、NATO軍と全面戦争に突入した。
「もはや事態は最悪です。アメリカ合衆国もその牙を南米に向け、日本を干上がらせるように仕向けました。私はそれを放置しておくことは出来ないとし、再び現れました。」
「何をしてくれるのかしら。」
「現在共同訓練を行っている日本軍と大日本帝國連邦軍全ての将兵に、一種の催眠術を掛け長年の同盟国であったように思わせます。それにより意思の疎通が捗り、今直ぐにでも作戦を実行できる筈です。」
黒子はそう言うと、手を一回叩いた。
「はい。これで両軍は催眠術に掛かりました。これで問題ありません。」
「……」
余りにも突然の事で閣僚全員は呆気にとられた。しかし黒子だけは平然とし笑みを浮かべた。
「それでは私は失礼します。また何かあれば現れますので、では。」
黒子はそう言うと姿を消した。
「国防大臣。」
「はい、何でしょう。」
森下国防大臣は柏木総理に声をかけられ驚いて立ち上がった。
「作戦計画は?」
「出来ています。訓練を待つのみでした。」
「それじゃ黒子さんの言葉を信じ、作戦開始を命じます。」
「了解いたしました。」
森下国防大臣はそれに対して敬礼をしながら答えた。遂に作戦が始まるのである。
日本・欧州各国対米中の世界大戦になるような……