パラレルワールド
「今回の件については黒子さんに詳細をしてもらうわ。黒子さん、お願い。」
「解りました。」
柏木総理に任せられ、黒子は液晶モニターの前に立った。
「それではご説明いたします。私はこの銀河のこの地球のこの日本の危機に深く同情します。」
黒子はそう言うと頭を深々と下げた。
「……まぁ、心配してくれてありがとう。」
森下国防大臣が礼を言った。
「そこで私は皆さんを支援する為、大日本帝國海軍連合艦隊をタイムスリップさせて出現させます。」
「タイムスリップ!?」
閣議室が騒然とした。生命体の管理者はタイムスリップまで言い出したのだ。
「それは有り難いです。しかし大東亜戦争時の連合艦隊を派遣されても、改装が必要でしかも大中華帝国の空母に対抗出来るかどうか……」
「藤咲さん、大東亜戦争時ではありません。」
柏木総理は藤咲財務大臣の疑問に含みを持って答えた。
「大東亜戦争時ではない?どういう事ですか?」
大河内官房長官が柏木総理に聞いた。
「そのままですよ。タイムスリップしてくるのは大東亜戦争時の大日本帝國海軍連合艦隊ではなく、2030年の大日本帝國海軍連合艦隊なのよ。」
「2030年!?」
再び閣議室が騒然とした。今から12年未来の世界である。しかし今以て祖国は『日本国』であり、帝國主義はとっくの昔に廃れたものである。しかし黒子ははっきりと2030年の大日本帝國海軍連合艦隊だと言った。いったいどうなっているのか?
「皆さんの混乱は解ります。しかしご心配無く。この国が12年後に大日本帝國になるのではありません。別次元の世界に存在する大日本帝國です。其処に救援を仰ぎます。言うなればこれは、次元を超えた救出作戦です。」
黒子の言葉に閣僚達……柏木総理を除いて……は呆然としていた。話の規模が大きすぎる。未来の連合艦隊をタイムスリップさせて大中華帝国を叩き潰すのを手伝ってもらうのである。しかも未来となれば原子力空母やイージス艦も保有しているだろう。戦略原潜も当然ながら保有しているので、これなら大中華帝国の核に怯える事は無い。日本は非核三原則を自衛隊クーデター後の国会で破棄している。核兵器開発中でもあるのでそれが一瞬で、一時的ではあるが手に入るのだから喜ばしい限りだ。
「それで、タイムスリップするあっちの大日本帝國は了承しているの?」
高橋外務大臣が黒子に肝心な部分を尋ねた。確かに肝心だ。こっちが助けて欲しいと言っても向こうがイヤと言えばそれ迄だ。
「大丈夫です。その点は救出作戦成功後にあちらの大日本帝國軍の近代化を私が援助しますので。」
「対価は十分ってわけ。向こうにとってこっちを助ける意味はあるわ。」
柏木総理は閣僚達を見回しながら言った。
「そしてこれからが大事なの。未来の、それも別次元の大日本帝國に助けて貰うわけだけど、我が日本政府として正式に要請しなければならないの。だから閣議で聞きたいわ。反対は無いわね?」
「はい。」
誰も反対する訳が無い。未来の大日本帝國に助けて貰い、占領された国土と東亜細亜諸国を解放出来ればそれに越したことはない。日本に点在する東亜細亜各国の亡命政権が、この閣議決定を聞けば涙を流し感謝するだろう。
「黒子さん、無事閣議決定したわ。連合艦隊タイムスリップの時期は何時になるのかしら?」
「閣議決定おめでとうございます。タイムスリップは早いほうが良いでしょうから、明日の正午はどうでしょうか?」
黒子は柏木総理に尋ねた。
「そうですね。」
「場所は四大軍港に分散してタイムスリップしてきますので、その点は注意して下さい。」
「漁船やタンカー・輸送船は海上保安庁に頼みます。」
「お任せ下さい。」
川村幸人国土交通大臣が自信有りげに答えた。
「さてタイムスリップ件は片付いたので、支援してくれる未来の大日本帝國の発展の歴史について説明しましょう。」
黒子はそういうと液晶モニターに映像を出した。電源が入っていないのに映像が流れた所を見ると、これも黒子の力の1つなのだろう。映像には大都市が映し出されていた。
「ご覧の映像は未来の大日本帝國連邦中央州中京都帝都名古屋です。」
「連邦!?名古屋!?」
久野法務大臣が叫んだ。他の閣僚達も驚いている。
「詳しく話しましょう。先ほど言いましたように正式には大日本帝國連邦となります。領土は日本列島に留まらず、シベリア地方・中国大陸・東南亜細亜諸国・オーストラリア大陸・南洋諸島全てが大日本帝國連邦領です。」
映像は世界地図に切り替わり今黒子が言った場所は、大日本帝國連邦領を示す青色に染まった。
「何故此れ程までの規模に?」
藤咲財務大臣が質問した。
「全て織田信長が原因です。」
「織田信長!?奴は本能寺の変で死んだんじゃ?」
黒子の言葉に大河内官房長官が噛み付いた。
「死ななかったのです。それが原因で日本はここまで拡大しました。織田信長はたった1代で大日本帝國連邦の骨格を築いたのです。」
「骨格?」
「はい。2代目の濃女帝が大日本帝國連邦を完成させます。濃女帝とは織田信長の妻濃姫です。」
高橋外務大臣の質問に黒子は答えた。
「それから産業革命を大日本帝國連邦は成し遂げ驚異的な発展を遂げます。そして第一次世界大戦・第二次世界大戦・等々の数多くの戦争を乗り越え、大日本帝國連邦は2030年の東西冷戦を迎えています。」
「東西冷戦!?」
閣議室は驚きに包まれた。
「敵は?」
「大日本帝國連邦と大英帝国の冷戦です。」
「大英帝国と!?」
川村国土交通大臣は驚きのあまり椅子から転げ落ちた。
「つまりその大英帝国との冷戦に勝利する為に私達を助けてくれるの。過去の大中華帝国を叩き潰して軍備増強出来れば安いもんでしょ?」
柏木総理は閣僚達の顔を見回しながら言った。
「そう言う事です。では私はあちらの大日本帝國連邦に派遣兵力やその方法について協議がありますのでこれで。」
黒子はそう言うと閣議室の隅に歩いて行った。しかしそこで振り返った。
「私を呼びたい時は強く念じて下さい。では。」
黒子はそう言うと歪みが再び出現し、その中へ入って行った。歪みは黒子が入ると何も無かったように消えた。
「では皆さん、タイムスリップしてくる大日本帝國連邦海軍連合艦隊を待つまで、大中華帝国の対応を協議しなければなりません。忙しくなりますよ。」
柏木総理はそう言うと閣僚達を再び閣議に引き込んだ。敵は直ぐ其処まで攻めて来ているのである。のんびりしてはいられない。