未知との遭遇
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2018年9月20日午後11時
日本首都東京永田町首相官邸2階閣議室
広い閣議室の中央に置かれた円卓を囲むように閣僚達が座っていた。皇居での認証式を終え初めての閣議が開かれたのである。その新閣僚達を率いこの国の新しい指導者そして初の女性総理となった、柏木麗子はゆっくりと話し始めた。
「皆さん。私はこの国の現状を非常に憂いております。この事態に陥った元凶は排除し、裁判に掛けました。後は失われた国土を奪還し、叶うのなら同胞である東亜細亜諸国も解放しなければなりません。」
柏木総理の言葉に閣僚達は驚いた。尖閣諸島・沖縄を奪還出来ればそれで良いと思っていた。否、今の日本軍ではそれしか出来ないだろう。期待の空母はようやく船体が完成したにすぎない。しかも蒸気カタパルトを輸出してくれると約束してくれていたアメリカはクレア大統領が輸出を拒否した。その為日本の空母復活という野望は躓いている。それにも関わらず柏木総理は東亜細亜諸国を解放すると言っているのである。閣僚を代表して官房長官の大河内耕助が質問した。
「しかし総理、我が軍に尖閣諸島・沖縄を奪還した後に東亜細亜諸国を解放出来る余力があるかどうか。それに期待の空母もアメリカがカタパルトを輸出拒否を決めた為、建造は頓挫しています。尖閣諸島・沖縄奪還は本土からの航空支援を受けられますが、東亜細亜諸国解放には空母の航空支援が欠かせません。東亜細亜諸国解放は難しいです。」
大河内官房長官の言葉に他の閣僚も頷いた。
「私もそう思います。大中華帝國の海軍は空母4隻を有し強大な戦力を有します。特に空母鎮遠級は満載排水量7万3000トンを誇り、イギリス海軍のクイーンエリザベスやロシア海軍のアドミラルクズネツォフ等々を凌ぎ、空母保有国の中では、アメリカ海軍のジェラルド・R・フォードそしてフランス海軍のリシュリーに次いでの巨艦です。更に空母経遠級も満載排水量6万トンを誇ります。我が国が建造中の空母と同規模です。それだけでなく、空軍戦力についても我が国とは桁違いに離れています。第5世代戦闘機J−20は現在約800機が作戦配備されています。このJ−20はアメリカ空軍のF−22やロシア空軍のT−50よりやや、性能は低いですが数で第5世代戦闘機最大の勢力を誇っています。そして陸軍も99改式戦車を筆頭に機甲車輌を揃え、強大な機甲師団を形成しています。それだけで無く特殊部隊も精強を誇っています。今や大中華帝國は亜細亜で強大な軍事大国と言っても過言では無いでしょう。」
森下朱美国防大臣が柏木総理に説得するように言った。他の閣僚も柏木総理を説得しようと口を開こうとした。しかしそれを柏木総理は手で制しゆっくりと、だがはっきりと断言した。
「皆さん、大丈夫です。私達は勝てます。尖閣諸島・沖縄を奪還して東亜細亜諸国を解放するだけで無く、大中華帝國を崩壊させる事が出来ます。」
閣僚達は唖然とした。柏木総理は頭が狂っている。こんな人が総理になったなんて最悪だ。閣僚達は呆れ果ててしまった。大河内官房長官が勇気を振り絞って、柏木総理に尋ねた。
「あの……総理…」
「待ってちょうだい。」
大河内官房長官の言葉も柏木総理は手で制し、再び話し始めた。閣僚達の顔に諦めの表情が浮かぶ。
その時、森下国防大臣は閣議室の隅が奇妙に歪んで見えるのに気が付いた。それた雑巾を絞るかのように少しずつ歪んでいっていた。不気味に思った森下国防大臣は右隣の高橋万里江外務大臣に声を掛けた。まだ柏木総理の演説は続いている。
「高橋さん、あの歪み見えますか?」
「歪み?」
高橋外務大臣は森下国防大臣が指指す方向に目を向けた。
「!?何あれ?」
「分かりません。」
「目の錯覚かしら?」
「目の錯覚にしてははっきりしています。」
2人が議論しているとその歪みが消え、その歪んでいた場所から女性が立っていた。
「柏木総理、閣僚の皆さんは貴女を呆れていますよ。」
「あら、やっぱりそうだったの?何だか心此処にあらずって感じだったから。当たってたのね。」
女性は柏木総理と親しそうに話し始めた。その女性は全身真っ黒の服装で髪は腰まで真っ直ぐ伸びていた。目は神秘的でじっと見ていれば吸い込まれそうなほど透き通っていた。女性は柏木総理の隣まで歩いてくると立ち止まった。
「皆さん、彼女は宇宙を管理する生命体の管理者黒子さんよ。」
「初めまして。黒子とお呼び下さい。」
柏木総理が紹介すると黒子と紹介された女性は律儀にも頭を下げた。
「宇宙を管理する生命体の管理者!?」
藤咲遥香財務大臣が驚きの声をあげた。他の閣僚達も同様の反応をしている。全く持って今日は驚く事が多い。閣僚の何人かは寿命が確実に縮んだと心の中で叫んでいる事だろう。
「嘘だと思う人もいるでしょうね。私も最初に会った時は当然そう思ったわ。でも嘘じゃなかったの。」
「論より証拠。私が生命体の管理者である証拠を皆さんにお見せしましょう。柏木総理、テレビは見れるでしょうか?」
「勿論よ。」
柏木総理は秘書官に液晶モニターにテレビを映し出すよう命じた。するとニュース番組が始まったところであった。
「今から私が指を鳴らしますのであの男性にご注目を。」
黒子はそう言って注目させると、パチッっと指をならした。
「どうなるの?」
高橋外務大臣が呟いた次の瞬間、男性キャスターが口から血を吐いて倒れた。
『どうした!?』
『救急車!!』
『カメラ止めろ!!』
様々な声が飛び交い遂にテレビは、お詫びのテロップが流れ中断された。
閣議室が静寂に包まれる。ただ平然としているのは柏木総理だけである。
「……あのキャスターは?」
静寂を打ち破るように大河内官房長官が黒子に尋ねた。
「お亡くなりになられました。」
「そんな!!犯罪だ!!」
久野雅彦法務大臣が叫んだ。
「証拠はありません。それに皆さんが早く信じていただければ助かりました。可哀想に彼には奥さんと3歳の女の子がいたのに。」
黒子の言葉に閣僚達は黙り込んだ。確かに黒子が生命体の管理者と言われた時に疑ったのは自分達である。しかしいきなり自分は生命体の管理者だ、と言われて信じる人がいるわけが無い。精神障害者だと思うのが普通だろう。しかし黒子は指を鳴らしただけで人を殺した。もはや生命体の管理者と言うのは揺るぎの無い事実だろう。
「部屋の隅から現れ、指を鳴らしただけで人を殺した。もはや黒子さんは生命体の管理者で間違い無いでしょう。」
森下国防大臣は全てを受け入れ、落ち着いた表情で言い切った。
「私もそう思います。」
高橋外務大臣も頷きながらそう言った。
「信じるしか無いわね。」
藤咲財務大臣は未だに目を白黒させながらもそう言った。
「現実を受け入れるしかないです。」
大河内官房長官も水を飲みながら言った。他の閣僚も黒子を生命体の管理者と認めた為、柏木総理と黒子は漸く今回の計画について話す事が出来るようになった。