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闇堕ち

あちきが部屋でべべーん♩と三味線を弾いていると庭から酒泉しゅせん童子が声をかけてきた。

「弁財天さまッ!天照大御神さまがお呼びですッ!」

「そうかえ。それなら急ぎ出立しよう」

あちきは羽衣をまとい酒泉童子と共に金斗雲に飛び乗った。

天照大御神さまは山の上の立派なお屋敷に住んでいる。金斗雲はあっという間にそこまで運んでくれた。

自分で飛ぶよりはるかに早い。

門は開かれており玄関の戸を叩くと人型の鹿が顔をだした。鹿は天照大御神さまの神使しんしの一匹じゃ。ほかにもカラスやニワトリなどいろいろおる。鹿に案内されて大広間にたどり着く。そこに天照大御神さまはおられた。あちきを見て相好を崩す。

「おおっ。よくきてくれたのお、弁財天よ」

あちきは用意されている座布団に座り三つ指ついてこうべを垂れる。

「ごきげんうるわしゅうございます天照大御神さま。あいかわらずお美しすぎてまともに見ると目が焼かれそうにございますじゃ」

「そうじゃろうそうじゃろう。ところで今日は、ひとつそなたにお使いを頼みたいのじゃ」

「なんなりとお申し付けくださいませ」

「地上で招きウサギをこうてきて欲しいのじゃ」

「ネコではなくウサギですか?」

「そうじゃ。ネコはもうあるでな」

天照大御神さまは招き猫を抱えて頭をなでなでする。

「わかりました。すぐに買ってきましょう」

わたしは立ち上がった。お使いを頼まれたのは1500年ぶりじゃ。地上への使いは若い神が頼まれることが多い。あちきもまだまだ若く見られておるの。いっこうに美貌が衰えぬ。

天照大御神さまは地上全土を見守る使命を持つお忙しいかた。買い物代行を任せられるのは信頼の証でとても光栄なことじゃ。あちきは天照邸を失礼して地上へと続く大穴に向かった。

郊外に飛んでいくと雲に大穴が空いている。あちきは酒泉童子を降ろした。

途中で降ろしてもよかったが見送りたいというので連れて来た。

「すぐ帰るぞよ。熱い風呂を沸かして待ってて欲しいでありんす」

「かしこまりました」

「では行って参る」

地上へのお使いは1柱で行くのがルールじゃ。眷属の手を借りず自分の手に汗をかくことが天照大御神さまへの誠意となりの高評価につながる。

天照大御神さまから覚えがめでたくなればさらなる神の力を授けてくれる可能性もある。瞬間移動とかの。あれば便利じゃ。他人を瞬間移動させる力も欲しい。他の銀河の惑星を管理する神に任じられるかもしれぬ。張り切ってまいろう。あちきははちまきをしめたつもりで地上に向かった。すぐに呼び止められる。

「弁財天さまッ!」

「なんじゃ?」

「霊体では人に見えませぬぞ」

「これはうっかりじゃ。かたじけない。

あちきはこつんと自分の頭をこづいて舌を出した。なにしろひさかたぶりじゃ。すっかり忘れておった。

地上に降りる途中で手を合わせる。

「受肉ッ!」

自然界のエネルギーで肉体を形成する。肉体は重いしだるいのじゃ。早くお使いを済まそう。

無事、天孫降臨を果たす。繁華街に降りると周囲の人間はざわついていた。

「空から降って来たぞ?」

「美しすぎるっ!天女だっ!」

ざわざわして取り囲まれる。うっとうしいのぉ。1500年ぶりに地上に来たら人の数がめちゃくちゃ増えておる。服装も変わっていた。昔は庶民はボロをきておったが、いまの庶民はそれなりのものをきておる。

鉄の塊がビュンビュンと道路を走っていた。空気が臭い。昔のほうがきれいじゃ。

当たり前じゃが高天原のほうが100万倍落ち着くの。

「もし、そこな小僧。招きウサギを売ってる店を知らぬか?」

囲んでいる人間の中から帽子を反対にかぶった小僧にものを訪ねる。

こやつが1番運気が強い。徳を積んでおる善人じゃ。

「すぐにネットで調べますッ!」

顔に喜色を浮かべた小僧は小型に箱を操作しはじめる。なんじゃあれは?いまの人間は変わった発明品を持っておる。

「わかりました。案内しましょうか?」

「頼む。礼はするぞ」

「はいっ!」

有能じゃ。16童子なみじゃな。あちきはタクシーという乗り物に乗って雑貨屋という店に向かった。雑貨屋ですぐに招きウサギは見つかった。あちきは懐から巾着を取り出して金子きんすを用意する。

「それって小判ですよね?古銭の買取専門店に行って現金にしてもらわないと買えませんよ?」

「そうかえ。じゃあ、立て替えておくれやす。代わりにこれを差し上げるでやんす」

「ええっ!多すぎですよッ!」

「さっきのタクシーとやらでもおごってもらったし案内してもらったお駄賃じゃ」

「ありがとうございますッ!」

小僧のおかげで招きウサギは簡単に入手できた♩風呂敷に包んで大事に抱える。

小僧は記念に写真を撮りたいと言ったのでそれも許可した。

このあとバイトがあるという小僧と別れたあちきは少し散策してから高天原に戻ることにした。

すれ違う人間たちはみんな驚いて振り返る。まあ、あちきは美の女神じゃからしょーがない。嘘じゃけど。

ものすごい騒音の店があったので気になって入ることにする。人間たちは座って箱型の機械に向き合っておる。口に咥えた棒から煙がでてくさい。いったい何をしておるんじゃ?不思議に思って肩越しに覗いておると腹の出た中年親父は振り返る。

「姉ちゃん美人だね。ちょいとわけてやるよ。隣に座んな」

あちきは隣に座る。機械の受け皿にじゃらじゃらとコインをわけてくれる。

「これはどうすればいいんじゃ?」

「なんだはじめてかい?コインを入れてこのレバーを倒してボタンを3つ押せばいいんだよ」

やってみる。画面上でそれぞれ違う絵柄が止まる。

「ぜんぜん面白くないぞよ?どうすれば楽しめるんじゃ?」

「7を3つそろえれば楽しいことが起きるぞ」

「7を3つ?」

あちきは首をひねった。機械に向かって「7よそろえ!」と念じて操作する。簡単に7がそろう。

「楽勝じゃが?」

「姉ちゃんすげーなッ!」

おっさんは驚愕しておる。

「つまらぬ。どうしてこれが楽しいんじゃ?人間は変わっておる」

「これは金に変えられるんだよッ!」

「ほーん。なるほどのぉ。博打じゃったわけか。欲深い人間なら楽しめるかもの」

あちきは飽きたので辞めることにする。

「この台はくれてやる。コインをわけてくれた礼じゃ」

「ありがてえッ!恩に切るッ!」

おっさんは自分の打っておった台を捨ててあちきの台に移る。あちきはおっさんから使った分の運気を吸収した。運気のぜんぜんないおっさんじゃからこのあと事故にあったりするかもしれんがそれはあちきの知ったこっちゃない。得ることのできたお金を自分のためだけじゃなく誰かのために使えば助かるかもの。騒がしい店から出ようとすると黒メガネに白い服の男が立ち塞がった。

「強運だな姉ちゃん。もっと面白い遊びをしねえか?」

この男はさっきあちきのとなりで打っておった。あちきとおっさんのやりとりをすべて見ておったようじゃ。

「あちきは忙しいんじゃ」

「刺激が欲しいんだろ?ひりつく勝負を用意するぜ?」

「あちきは博打うちじゃござーせん」

「ほんのちょっとでいいんだ。頼むよ」

男はグラサンをはずす。おおっ!こやつなかなかのイケメンじゃッ!頬に傷があるのもええ。侠客のようじゃな。体も鍛え抜かれておる。運気の量もかなり多い。仁義を大事にする男と見た。子分の面倒見も良さそうじゃ。花柄のシャツもおしゃれで匂い立つほどの伊達男じゃな。

おなごにモテそうじゃ。

「ちょっとだけなら行ってやってもええぞ?」

あちきの言葉に伊達男は花が咲いたように笑った。それからあちきは賭場を連れ歩かれた。チンチロや花札、ポーカー、麻雀、競馬に競艇、競輪ありとあらゆるギャンブルで勝負した。当然、連戦連勝じゃ。

運気を使って勝っておるだけじゃ。運が減れば対戦相手から補充すればええ。

地下カジノや博徒の集まるお座敷、競艇場、競輪場、競馬場、雀荘などいろいろめぐったのは面白かった。いろんな風景がある。絶望する対戦相手の顔も面白い。絶対に勝てぬ博打なのに必死じゃ。ついケラケラと笑ってしまう。夜は料亭でご馳走になった。肉体があるので食事も酒もうまい。

霊体は腹が空かぬが食欲もなくなる。味覚も肉体がある時ほどではなく酒もすぐ分解されてしまう。

「そういえば姉ちゃんの名前をまだ聞いてなかったな。なんてんだい?」

「弁財天じゃ」

「いい源氏名だな。どうだうちの博徒にならねえか?」

「ならぬ。あちきは天に帰らねばならんのじゃ」

「そこをなんとか頼むよ。おまえさんみたいな美人で博打にめっぽう強い女は見たことねぇ。おりゃおまえさんに惚れちまったんでえ」

「口がうまいのぉ。わらわもおぬしが嫌いじゃないがの」

「だったら、なぁいいだろ?」

「あちきは気が多いんじゃ。高天原にも恋人は山ほどおる。おぬし1人のためにあしはらのなかつ国に滞在する気にはなれん」

「ほう。おれ1人じゃだめかい。だったら・・・」

伊達男はパチンと指を鳴らした。ふすまが左右に開きしゃれた格好の美丈夫たちが笑顔で並んでいた。均整の取れた引き締まった肉体に長い手足にそれぞれ個性的な男前たちじゃ。

「おひょーこれは壮観じゃなッ!」

「これでどうだい?」

「しょうがないのぉ。しばらく世話になってやるか」

「そいつはなによりだ。今夜はたっぷり楽しんでくれ」

伊達男はうれしそうにお酌する。肉体があるということは情事も霊体より感度が増す。その晩からあちきはすっかり欲におぼれてしまった。ギャンブル欲、食欲、情欲にどっぷりと浸かったあちきは足が抜けなくなった。あちきがなかなか帰ってこないので心配した愛敬あいけい童子が迎えに来たが招きウサギを渡して追い返してやった。当分は戻らぬと伝えて。

あちきは富くじにも手を出して大金持ちになり歌舞伎町一帯の支配者となった。ビルの屋上に専用のホストクラブを作ってイケメンのハーレムで遊蕩生活を送る。完全に堕落し切ったが楽しすぎて浮上できない。イケメンたちのシャンパンコールを聴きながら考える。

愛敬童子を追い返したから、次は強い奴があちきを連れ返しに来そうじゃな。なにか対策を打つべきじゃ。こやつらがいくらあちき好みに体を鍛えておっても武神には敵うまいて。

あちきはイケメンを両脇に抱えたままシャンパンを飲み干した。





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