七福神
運がよくなる本にしたがってビニール袋を持って登下校中にゴミ拾いもした。ゴミは人が落とした運だから宝物だと思って拾うといいよってイナバちゃんがアドバイスしてくれたけど宝物とは思えない。みんなの視線も痛い。好感度アップを狙ってると思われて偽善者のレッテルを貼られてる。でも、有名な野球選手やアニメ監督もゴミ拾いしてたし運気は必ず上がるはず。これで運レベルは3かな。一般人は運レベル10で成功者はレベル70以上と推測してる。わたしは一般人レベルを目指していた。死の運命が回避できればいいのだ。
家をきれいにした状態を維持することで咳も治って風邪もひきにくくなった。まじで体力消耗するけど、命を守るために続けていくよ。この星じゅうの運気を集めてやるんだ。
いまのペースでは運がよくなるまで1000年かかるからほかにも運がよくなる行動を実践することにする。イナバちゃんいわく徳を積み続けるとコップから水があふれるように幸運ばかり訪れるようになるという。運がコインのように降ってくるんだって。スロットの777だね。
イナバちゃんはみんなを笑わせると運が貯まるって言ってたからみんなを笑わせるギャグを考えた。ちょうど眼帯と腕に包帯を巻いているから中二病キャラで笑いをとろう。
わたしは覚悟を決めて休憩時間に教室の後ろで叫んだ。
「邪眼の力を見せてやるぜッ!」
右目の眼帯を押さえて見せる。シーンとしている。
「左腕の封印を解く時が来たようだッ!」
左腕の包帯をかっこよく解いて見せる。静寂が教室を支配した。寒い。わたしはひとり寂しく包帯を巻き直した。
みんなわたしに近寄ってこないんだった。不幸がうつるって思われてるからね。
みんなを笑わせるのはムリゲーなのか?いや、よろこばせればいいんだからギャグじゃなくても歌ならいいかも。歌は別に得意じゃないけど小さい女の子が歌ってたら微笑ましいから笑顔がこぼれるはず。
すべったらすべったでしょうがない。運気をちょっとでもあげないと死んじゃうから命がけなんだ。恥をかくぐらいどうってことない。わたしは駅前に向かった。
「古いギター譲ってくださいッ!」って書いた白い紙を掲げる。ギターはあったほうが格好がつくからね。弾けなくても持ってるだけでいい。
人通りが多いから売るか捨てるかするギターを持っている人に出くわすはず。あわれな子供にお恵みをッ!
1分ぐらい立っているとヒゲの長いおじいさんがギターケースをかついで歩いて来た。
「これをやろう」
わたしにギターケースを差し出してくれる。こんなに早くギターが手に入るなんてびっくりだ。日頃の行いがいいせいかな?両手で受け取る。まあまあ重い。
「おじいさんありがとうッ!お名前はッ!」
「福禄寿じゃ」
「万が一、プロミュージュシャンになったらきっと恩返しするねッ!福禄寿さんッ!」
「期待して待っとるぞ。ほっほっほっ」
福禄寿さんはヒゲをなでながら去っていった。ギターケースを開けてみた。
キラキラのアコースティックギターが入っている。真ん中の穴がハート型だ。
ちょうオシャレっ!えっ?これ新品じゃない?いいのかな?
わたしは興奮を抑えていったんギターケースを閉じる。よしっ!図書館に楽譜を借りにいこう。役割を終えた白い紙は折りたたんでゴミ箱に捨てて駅のすぐ近くにある図書館でギター入門の本を借りた。駅前に戻って練習しようと思ったら駅員さんに弾き語り禁止と注意されたので広い芝生の公園に移動する。大きな木の陰に陣取りギターの練習をはじめる。いよいよギターを手にして持ってみた。すごいしっくりくる。
なんだろ?前もやってたような感覚だ。本物のギターなんてはじめて触るのに不思議な感覚だった。運命の出会い?みたいな。わたしは30分ほど時間を忘れて練習した。
んっ?なにこれすごく簡単だ。もしかしてわたしって天才かも?
わたしには楽器の才能があったようだ。あっという間に基本的な弾き方はマスターしてしまった。
好きな曲も一曲だけ覚えた。
じゃあ、さっそく歌いますか。犬の散歩している人やベンチでうなだれているサラリーマンがいる。
わたしは立ち上がりジャーンとギターを鳴らした。はじめますよって言う合図だ。
大きく息を吸って歌いはじめる。マイクないしなるべく大きな声で。
わたしは音楽の授業で本気で歌ったことは一度もなかった。不幸が続いて人生に嫌気がさしてとても歌を歌うような気分じゃなかったからだ。大好きだったやさしい父が早くに亡くなったり、車によくひかれかけたり、バナナの皮で転んだり、犬に追いかけられて噛まれたり、花瓶があたりまえのように空から降って来たり、強盗に巻き込まれたり、さんざんな人生だった。ケガするたびに母にはギャン泣きされるし。この人は体も心も弱いから置いて行けないなと思った。
絶対わたしと父を追って死にそうだ。死ぬわけにはいかないから必死で運を良くするために恥をかいても動き回った。この星は行動の星で行動すればするだけ運が良くなるんだと信じて。
そしたら今日はタダでこんなにいいギターくれるおじいさんに出会った。
人生で1番ついている日だ。今日ぐらいは思いっきり歌おう♩
わたしは浮かれ気分で熱唱した。ご機嫌だったのでくるっと回ったりジャンプしたりはしゃぎまわった。どうせ誰も聞いてないし、めちゃくちゃはじけちゃおう♩
最高の気分だ。気持ちいい♩歌い終わって目を開くと驚きの光景が広がっている。
目の前にひとがきができていた。えっ?えっ?どうしたの?ここで歌っちゃいけなかった?
とまどっているとみんながいっせいに拍手をしてくれた。みんなの顔が輝いている。
ベンチでうなだれていたサラリーマンのおじさんが泣いていた。
「きみの歌声はすばらしいねッ!花が咲いて見えたよッ!」
ほめられた。わたしって楽器だけじゃなくて歌の才能もあったんだ?音楽の天才か?
「今日はこれで失礼しますッ!あしたは学校お休みだから朝から歌うよッ!」
わたしは頭を下げて引き上げようとした。ギョッとする。ギターケースに大金が投げ込まれていた。
おひねりってやつだ。そんなつもりでギターケースを開けてたわけじゃないのに。
眼帯と包帯しているからみんなの同情を誘ってしまったのか。
運を良くするためにみんなをよろこばせようと思っただけなのにお金もらっちゃった。どうやって持って帰ろう。
「フォフォッ。わしもひさびさに聞いて元気をもらったぞ。ほれこづかいじゃ」
大きな白い袋をかついで小槌を持ったおじさんが小槌を振るとどういう仕組みなのかジャラジャラと小槌からお金が出てきた。すごい手品だッ!魔法みたいッ!
「持ち帰るには重かろう。両替じゃ」
手品師のおじさんが小銭とお札を数える。大きな袋からお札を取り出した。
「ちょうど10万円じゃな。財布もやろう」
大きな白い袋から取り出した黄色い長財布に10万円を入れて渡してくれる。わたしはギターケースに財布を大事にしまう。
「ありがとうございますッ!あなたのお名前は?」
「わがはいは大黒天じゃ」
「大黒天さんありがとうッ!この借りは出世払いでッ!」
「またいい曲を聞かせてくれたらそれでええ」
わたしは恵比寿さんにペコペコ頭を下げて公園を駆け去った。走りたい気分だった。心臓がバクバク言ってる。体が熱い。わたしの生きる道って音楽だったのかもッ!
家までの長い距離を飛び跳ねるように帰る。母におひねりの10万円を渡したら目を丸くしていた。わたしはその晩、あしたのためにたくさんの曲を覚えた。
翌朝、早めに公園に行くと小規模のライブ会場が設営されている。あちゃー、他の路上ミュージシャンと場所がかぶったか。
今日は歌えないな。昨日、来てくれたお客さんに悪いことしちゃった。今日、来てくれるかもしれないのに。
がっかりしていると背中から声をかけられる。
「そこな少女よ。ステージを用意しておいてやったぞ」
振り返ると福耳の釣竿を持ったおじさんがニコニコ笑っていた。
「えっ?もしかしてわたしのためのステージですか?」
「そうじゃ。昨日の歌に感動してな。明日もやると言っておったから作ったんじゃ。許可も取っておるぞ」
「いやいやいや、わたし昨日、ギターはじめたばっかだし、いきなりこんな立派なステージじゃ歌えないよッ!」
「でも、そなたが歌わぬとこのステージがもったいないぞ?設営してくれたみんなの労力を無駄にするのかえ?冷たいのぉ」
「わかったよ。歌います」
わたしはしぶしぶ了承した。たぶんわたしは音楽の天才だしなんとかなるはず。ほんまか?
「ステージ裏でみんな待っておるぞ」
「はい」
ステージの裏に回ると多くのスタッフの人たちがいた。あいさつする。
「おはようございます。今日はよろしくお願いします」
みんなからあいさつが返ってくる。スタッフさんの着ている黒いティシャツには宝船と書いてあった。そういう会社の人たちだろろうか。ステージに案内される。
お客さんはまだいない。
マイクスタンドだけじゃなくてドラムセットやキーボードまである。バンドマンも来るの?
疑問に思っていたらぞろぞろとミュージシャンっぽくない出立の人たちがステージに出てきた。
「今日はよろしく頼むぞ」
6人のミュージシャンたちの中には知っている顔もあった。
「福禄寿おじいさんッ!大黒天さんッ!さっきの釣竿のおじさんもッ!」
「昨日ぶりじゃな。今日はよろしく頼むぞ。ほっほっほっ」
「腕がなるわい。フォフォッ」
「オイラは恵比寿じゃ」
「拙者は毘沙門天でござる」
「それがしは寿老人である」
「わいは布袋やで」
6人はみんな福耳だ。いちおうわたしも福耳。運が悪いのに福耳ってかっこ悪いからいつも髪で隠してる。
大黒天さんはドラム、毘沙門天さんはハーモニカ、福禄寿おじいさんはキーボード、寿老人おじいさんはベース、布袋さんはタンバリン、恵比寿さんはマラカスだ。
スタッフさんにサウンドチェックをしてもらう。用意は整った。ちらほらお客さんも来はじめた。昨日のサラリーマンのおじさんは最前列にいる。
心臓がドキドキして緊張してきた。そういえばバンド名決めてなかった。
「バンド名どうしますか?」
「七福神ッ!」
いっせいに返事が返ってきた。もとから決めてたのかな?七福神ってお正月に宝船に乗って来る幸運の神様のことだよね。そういえば、この人たち七福神に似てる。好きでコスプレしてるんだな。
縁起がいいバンド名だ。わたしはマイクに向かって叫ぶ。
「おはようございますッ!寄せ集めバンドの七福神ですッ!わたしはボーカルの幸子ッ!幸せになりますようにって親が願いを込めて名付けたけど、生まれてこのかたずっと不幸続きの人生を送ってますッ!でも、最近、ようやく風向きが変わりはじめたかな?運が良くなってる気がしますッ!今日は聞いてくれるみんなの運が良くなるように祈りながら歌いますッ!」
わたしは大好きな曲を歌い始める。楽器隊のみんなはとても演奏が上手で心強い。
お互いが鳴らすメロディが優しく重なり合って、はじめてバンドを組んだと思えないほど心地良かった。お客さんはどんどん増えていって夕方には広い公園を埋め尽くした。
前世でやっていたことは魂が覚えてるから来世で続きからスタートできる説好き。
歌ってる曲は「明日はきっといい日になる」です。言霊ってあるからね。サビは何度でも叫びたい。歌声は「daydream believer」を歌う高畑 充 希さんをイメージしました。




