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贄月と桜の契り~稀血の彼女は神使の旦那に溺愛される~  作者: 嘉神かろ


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第7話 贄の月

 暫しの間、薄暗い室内が沈黙で包まれる。息の詰まるような空気で満ちていて、雪洞(ぼんぼり)の明かりでは照らしきれそうにない。

 せめて明確な理由が分かれば対策の立てようもあったのかもしれないが、時神はそれを明かさなかった。


「その、ここ以外の神域でも、前例って一切無いんですか?」


 先に沈黙を破ったのは美乃梨だった。藁にも縋る思いからの問いだった。


「短期間ならば」


 桜真は苦しげに言って、首を横に振る。

 美乃梨の場合、言うまでもなく、長期間を想定する必要があった。

 彼女の右甲にあるのは元神の刻んだ印だ。解呪にどれ程の時間がかかるかは分からないのだから、数日ほどの滞在例に光明を見出す訳にはいかない。


「長期間となると、私も把握していない」

「そう、ですか……」


 手を伸ばした先に藁を見つけられず、美乃梨は再度俯く。このまま死ぬくらいならば、我が儘を言った方が良いのではないか、なんてことも思い始めていた。


「だが、記録を探せばあるかもしれない」


 一筋の光だった。蜘蛛の糸を垂らされたようにも感じた。


「書庫に行ってみよう。主様も、今すぐ立ち去れとは仰っていない」

「はい」


 あまりに頼りない糸であったが、美乃梨は掴まずにはいられなかった。眠気は、疾うにどこかへ去ってしまっていた。


 二人は屋敷内の書庫へ移動した後、夜を徹して書物を読み込んだ。古い時代のものも多かったが、幸い美乃梨は古文の授業を真面目に受けていた上、文字を読むのが苦にならない性格であった。

 カビと古紙の香りの立ち込める中、紙をめくる音ばかりが響く。そんな時間が何時間と続いた。月はいつの間にか、地平線の向こうに姿を隠していた。


「一つ、見つけた。だが……」


 桜真がそう漏らしたのは、朝日の差す頃であった。美乃梨はそれまで読んでいた巻物を置いて、彼の持つ書を覗き込む。そこには、生贄の文字があった。


「生贄……」


 古今東西、あらゆる地域にある風習だ。ではあるが、その(いず)れも命を捧げるものであった。実際、手元の書に記されたものも最後には供物として食われてしまっている。

 ただ、一つ、美乃梨は生贄となっても生きられる道に思い至っていた。


 ――伴侶として捧げられる生贄なら……。

 狐の嫁入り、水神の花嫁、神に見初められた乙女。これもまた、洋の東西を問わず、各地にいくつも伝わっている話だ。

 美乃梨は桜真を見る。仮に妻となるのなら、会ったことの無い時神の妻よりも桜真の妻が良かった。彼の横にいるのが当然のようにも感じられた。

 彼女の脳裏に過ったのは、桜真を待つ間に見た夢だ。あの夢の中の時間に美乃梨は、心地よさを感じていた。


 問題は、美乃梨を妻とすることを桜真が受け入れてくれるかと、それで時神が彼女の滞在を許してくれるかだ。

 美乃梨は一つ深呼吸をして、桜真の桜色の瞳を真っすぐに見つめる。異性への告白は初めてであったが、覚悟を決めるのは難しくなかった。


「桜真、私を、あなたへの生贄、伴侶にしてくれませんか?」


 無限にも感じられる一呼吸の間があった。頭で大丈夫だろうと考えてはいても、覚悟していても、美乃梨の心臓は早鐘を打つのを止められない。桜真が答えを口にするまでの短い間すら、彼女には永遠に感じられた。


 仮初めでもかまわない関係の要求のはずなのに、答えを待つひと時が耐えがたい。彼の濃い桜色をじっと見つめながら、胸を締め付ける苦しみに忍ぶ。


「……良いのか?」


 その返事は肯定を示すものでもあった。だから美乃梨は首肯を返す。その頬は上気して、燃えているのかと錯覚するほどの朱に染まっていた。


「本当に、君には敵いそうもない」


 桜真はどこか嬉し気に微笑む。その意味は美乃梨に推し量れるものではなかったが、歓迎されているのは分かった。


 ピンと張り詰めたままだった空気が弛緩して、書庫内を朝日が照らす。


「主様に伺いを立ててこよう。美乃梨は少し休むと良い」

「はい、ありがとうございます」


 結果を言えば、時神の許しは得られた。神使の伴侶となるならば神域に留まる理由としては十分だろう、ということだった。美乃梨に混じっている血が神のものであったことも大きい。

 ただ、美乃梨は時神が最初から許可を出すつもりだった気がしてならなかった。



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