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贄月と桜の契り~稀血の彼女は神使の旦那に溺愛される~  作者: 嘉神かろ


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第22話 残したいもの


 そこからはもう、ただの宴だ。各々が自身の前の料理に舌鼓を打ち、お喋りに花を咲かせる。主賓の話が主にはなっているが、それも酒の回らないうちだけだろう。

 楽しそうに笑う友人たちを見て、美乃梨は頬を緩める。この光景を失いたくないと、自然に願っていた。


「ねえ、桜真」

「なんだ」

「ありがとう。あの時助けてくれて」


 美乃梨は友人たちの方へ視線を向けたまま言う。今、伝えないといけない気がした。


「私がしたくてしたことだ」

「それでもだよ。……どうして、あの時私を助けてくれたの?」


 彼女がずっと疑問に考えていたことを思い切って聞いてみる。あの日二人は初めて出会ったはずなのに、桜真は駆け付けた。偶然ではなくて、美乃梨を助けるために来たような様子だった。


「……そのうち話そう」


 それはつまり、たしかな理由があるということで、同時に、まだ話したくないということでもあった。


「分かった。じゃあ、話せるようになったら教えて」

「ああ。必ず」


 桜真は約束を守ると美乃梨は知っている。だから、焦る必要はない。

 それより料理の話をしようと彼女が桜真の方を見ると、彼が今日は狼面のままでいることに気が付いた。ただしその口元は人間の男のものが露出する形になっている。いわゆる半面だ。


「今日は仮面、外さないの?」

「ああ。人が多いからな」


 言われて、美乃梨は思いだす。彼との外食はいつも個室か半個室で、基本的には美乃梨以外に顔の見えない状況だった。

 ――素顔って訳でもないのに、変なの。


 美乃梨は笑うが、内心、少し嬉しくも思っていた。


「なぁ蓮ちゃん。この野菜めちゃくちゃ美味いな。どこの野菜だ?」

「あら、それは美乃梨ちゃんが育てたやつよ。ほら、あの畑の」


 そういえばと、数日前に蓮から庭の野菜をいくつかもらって良いかと聞かれたことを思い出す。何気なく許したが、まさか自分の誕生日会のためだとは美乃梨も予想していなかった。

 なんにせよ、こうして美味しいと喜んでもらえることが嬉しい。贈り物を貰った気分だ。


「道理で! なんか良い匂いすると思った!」

「え、その匂いって野菜にも移ってるの?」

「ぽい?」


 美乃梨は自分の皿から野菜をつまんで、じっと見つめる。嗅いでみても当然、料理としての匂いしか分からない。他に明葉と同じことを言っている者はいないので、植物に関わる存在に限った話なのかもしれないと彼女は桜真を見た。

 ――どういう仕組みなんだろう……?


 稀血っていったい、という呟きは、桜真の耳にだけ届いた。


 宵も(たけなわ)の頃となるとやはり、主役が誰かなど関係なくなっていた。美乃梨としては自分の作った野菜を美味しいと言ってもらえた時点ですっかり満足しており、不満の類は一切ない。


「あら、みんな食べ終わったみたい。桜真様、急いで菓子を持ってきますね」

「ああ。こちらも準備しよう」


 美乃梨は首を傾げる。菓子とは恐らく誕生日ケーキのことであろうが、桜真の準備というのが分からなかった。そもそも誕生日を祝うという習慣が無いらしく、誕生日プレゼントというものについても知っているか怪しい。

 

 もしかしたら蓮から聞いているかもしれないが、彼女の情報源は主に店頭の広告と言っていた。それでは誕生日会や誕生日ケーキは知り得ても、誕生日プレゼントについて知るのは難しいだろうとうのが美乃梨の認識だ。


 蓮と桜真が席を外す。まず戻ってきたのは桜真だったが、特に変わった様子はなかった。


 少しして蓮も帰ってくる。彼女の手にはやはり、大きなケーキがあった。

 ケーキは高さもそれなりにあったが、蓮はろくろ首らしく首を伸ばして視界を確保していた。

 ――ちょっと便利そう……。


「あら、台が無いわね。ちょっとあんた、隣の部屋にある机を持ってきてくれない?」


 蓮が首だけを大入道に向けて言う。普段この部屋にある座卓だが、誕生日会の為に隣の部屋へ移されていた。

 大入道は了承の返事をして、立ち上がろうとする。


「いや、それには及ばない」


 制止したのは桜真だ。彼が手を一振りすると、畳の一部が木となって幹を伸ばし、ケーキより一回りほど大きな机となった。いとも容易く行われた術の行使に、周囲からおおという声と遠慮がちな拍手が起きる。その理由は、今の美乃梨になら分かった。


「あら、ありがとうございます桜真様。じゃあ早速切り分けちゃいますね」


 続けて妖術を使う気配を見せた蓮に美乃梨は慌てる。


「あ、蓮さん待ってください!」


 思わぬ声だったのだろう。蓮は伸びた首を器用に傾け疑問を伝える。


「あら?」


 二度目の制止の理由は、歳の数だけ蝋燭を立てたかったからではない。


「写真撮りたいです!」

「あらあら、写真!」


 美乃梨がスマホを取り出してケーキのほうに向かうと、存外に大きな反応が返される。蓮だけではない。明葉や大入道、小豆洗い、果ては桜真まで興味深げに寄ってきた。


「ほー、今時はこんなもんであの写真が撮れるのか」

「あら、あんた知らなかったの? これのせいで私らはやりづらくなってしょうがないのよ」

「最近は修行ばっかで力を維持してるからなぁ……」


 蓮たち夫婦の会話が気になりながら、美乃梨はケーキを写真に収める。時守町の方で撮るのは憚られたが、神社では何も問題ないはずだ。


「そうだ、皆のことも撮っていいですか? 記念に残したくて」

「いいね! 撮られてみたい!」

「そりゃいい! けど、桜真様や明葉の姿も残るのか?」


 たしかに、と美乃梨は桜真と明葉を見た。心霊写真などもあるが、特定の条件が重ならないといけない可能性もある。


「んー、私ら精霊は自分で人間の目に映るってできないからなー? 桜真様、どう思う?」

「美乃梨の持ち物ならば大丈夫であろう。神力の影響を受けている筈だ」


 つまり、美乃梨のスマホは心霊写真を撮り放題ということだった。それに思い至って、彼女は自身のスマホへ微妙な表情を向ける。


 兎も角、写せるのなら問題ない。美乃梨はケーキの後ろに皆に並ぶよう促して、スマホを構えた。


「美乃梨ちゃんも写りなさいよ。主役でしょ?」

「え、みのりん写らないの? 写りなよ!」


 美乃梨としても写りたかったが、生憎と丁度良い台などはない。人数や各々の身長的にも自撮りの形で写すのは難しく、彼女は眉根を寄せながら笑みを作る。

 ――神術で浮かせる、のは私だとたぶんブレブレになっちゃうなぁ。


 美乃梨はちらっと桜真の方を見た。

 

「私が浮かせておこう。操作は必要か?」

「あっ、うん、ありがとう。操作はタイマー、じゃなくてえっと、時限装置? で写るようにするから大丈夫!」


 視線を向けただけで気付いてくれるのだからありがたい。この察しの良さには何度も助けられた。


「こんな感じかな? 桜真、お願い」

「ああ」


 ケーキと友人たちが綺麗に写るように微調整をしたあと、美乃梨はタイマーを起動する。それから空けてあった中央、桜真の隣の空間に急いで収まった。

 数秒後、カシャっと音がして、アルバムの写真が一枚増える。美乃梨が小走りでスマホのところに戻ると、写真はぶれることなく、綺麗に写っていた。


「どんな感じ?」


 明葉が美乃梨の左肩に両手を置いて後ろから覗き込む。キラキラと輝く若草色の瞳がスマホ画面に写っているのが美乃梨の目にも見えた。なかなかに新鮮な反応だ。


「おー! 凄い! こんな綺麗に残るんだね! ……あ、目瞑ってる」

「ホントだ」


 各々が良い笑顔で写っているのだが、よく見ると大入道だけ目をつぶってしまっていた。

 他の面々もぞろぞろとやってきたので、美乃梨は画面を見せてやる。


「あら、ほんと。あんた、しっかりしてよ」

「……ああ、ホントだな。すまん」

「まあ、もう一回撮ればいいだけですから」


 相変らず分かりづらいイチャイチャをしている『誰そ彼亭』夫妻に生暖かい視線が向けられる。当たりは強いが、こうした顔を旦那にしか見せないことは蓮と親しい者なら誰もが知っていた。要は甘えているのだ。

 ――こういう、夫婦だからこそって関係が築けたらいいなぁ。


 こっそり向けた美乃梨の視線に気が付いたらしく、桜真が首を傾げた。なんでもないと首だけ振って返せば、首肯が戻ってくる。

 つい先程まで蓮たちに向けられていたのと同じ視線が自分たちを見ているのには、美乃梨も桜真も気が付かなかった。

 

 その後撮った二枚目は皆しっかり目を開いていて、映る者は皆、どこまでも楽しそうだった。



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