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贄月と桜の契り~稀血の彼女は神使の旦那に溺愛される~  作者: 嘉神かろ


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第17話 秋の雨

◆◇◆


 その日は朝から雨が降っていた。美乃梨は居住区の、本殿までの道のりだけ傘を差す。異界である時守町(ときもりまち)で雨が降ることは無いが、この(かん)だけは頭上を守ってくれるものが必要だった。

 

 時守町への階段を下る前に、彼女は少しだけ参道側の扉を開けて境内の様子を覗き見る。こんな日でも参拝に来る人間はいるようで、前日に彼女が整えたばかりの砂利は少し乱れていた。

 雨が上がったらまた整え直さないとと、少し憂鬱になる。雨の後は泥が上がっていることもあるのだ。


 ――まあ、晴れてからまた考えよう。

 今考えても仕方がない、泥が上がっていないことだってあるし、と美乃梨は頭を切り替えて、祭壇の仕掛けを作動させる。現れた階段を下るのは、もう何度目かも分からない。

 

 巫女服で出歩くのもすっかり慣れた。片手に下げているのは、高校時代から愛用しているトートバッグだ。丈夫なそれはかつてのスーパーへ行くときのお供で、今も食料品や消耗品の買い出しに向かう際の必需品だった。


 時間は昼を過ぎたころ。この時間であればあまり混まないだろうと思っての外出だ。生活習慣が各々でバラバラすぎる人ならざるモノたちとの日常に、美乃梨もようやく慣れてきた。



 ――ちょっと急がないとかな。

 買う物の一覧を眺めながら美乃梨は足を早める。既に遅めの時間である上に、もう九月の後半で日も短い。加えて、人間の町のような複合商業施設は時守町には無かった。


 買い物が終わったのは、けっきょく日の暮れようとしている時間だった。逢魔が時だ。

 道行く者たちに妖の姿が目立つようになり、昼を生きる者の数も増える。その意味合いは変われど、夕飯という表現で一致する目的を持ってのことだった。


 美乃梨はぱんぱんに膨らんだトートバックを肩にかけて、帰路を急ぐ。人目のある場所を通っている限りは危ないことは無いはずだが、それとは関係なく、桜真が帰ってくる前に食事の用意を終えてしまいたかった。


 ――自分にも神術かけようかな……。

 自分を強化する神術は最近覚えたものだ。調節が難しいので普段使いはせず、荷物を軽くするのみが常であった。しかし、今日は、なんとなく急いだ方が良い気がした。


 少しだけ脚力と心肺機能を高めて、美乃梨は駆け出す。ジョギング程度の速度だ。

 時折チラチラと視線を向けてくる住人はいるが、切羽詰まった様子が見られないと知るとすぐに意識を逸らす。

 そんな彼らの視線など美乃梨も普段は気にも留めないのだが、今ばかりは気になって仕方がなかった。


 急ぐこと暫く。もう少しで時守町の出口の祠だという時だった。


「すんませーん! 桜真様の奥さん、ちょっと手伝ってもらって良いですか!?」


 妙な訛りのある声が聞こえた。

 美乃梨は少し足を緩めて前方に目を凝らす。声の主は、少し先の路地から顔を出していた。

 それは二足歩行のイタチのような姿をしていて、麻を染めた古い着物を身に纏っていた。体は動物のイタチと変わらない大きさだ。しかしその大小は人ならざるモノにはさほど関係が無い。重要なのは、扱える力の大きさと、知能。

 ――小妖怪……。


 あまり良い印象のある相手ではない。皆が皆そうではないのは美乃梨も分かっているが、最も襲われた回数の多い類いだ。警戒せずにはいられない。

 

 とは言え、本当に困っている可能性もある。せめて誰かについて来てもらえたら、と辺りを見回すが、町の外れの方だからか人通りは少ない。その中に頼りになりそうな者はおらず、考え込んだ。


「奥さん、お願いします! 俺ら小物じゃどうにもならんのです!」


 そうしている間に痺れを切らしたのか、イタチの妖が飛び出してくる。本当に切羽詰まった様子に見えて、美乃梨の中の天秤は一気に傾く。

 ――とりあえず、話を聞くだけ聞いてみよう。


 無視をするには、彼女の善性は強すぎた。


「どうしたの?」

「ダチがやばくて……。とにかく付いて来てくだせぇ!」

「あっ、ちょっと!」


 イタチの妖が急に美乃梨の手を引いて走り出すものだから、彼女は前につんのめってしまう。そのまま強引に連れて行かれる先は、イタチの妖が出てきた路地だった。



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