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贄月と桜の契り~稀血の彼女は神使の旦那に溺愛される~  作者: 嘉神かろ


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第12話 月は緑育む


「うん、こんなものかな」


 燦々と朝日の降り注ぐ中、美乃梨は神術で水を出すのを止めて、満足げに頷く。居住区の庭の片隅で青々と茂っているのは、鉢植えに植わった夏野菜たちだ。(いず)れも色鮮やかな実をたわわに実らせていて、収穫が近いのが分かる。


 美乃梨が初めて神術を教わった日から早三か月。彼女の同期生たちが、夏休みを目前に試験や期末レポートに追われる季節となっていた。

 けっきょく彼女は、三回生の後期から一年間の休学を申し入れることになった。堕霊(だりよう)の印はあまりにも強力に刻み込まれており、安全に解呪しようと思えば一年はかける必要がありそうだと分かったのだ。


 美乃梨はいくつかの新芽を取って燃やし、灰を鉢植えの中に戻す。簡単な神術の扱いには、もうすっかり慣れた。


「上手く育てたものだな」

「あ、桜真。おはよう」


 建物を回り込むようにして姿を見せたのは、夏だというのに格好の変わらない桜真だ。黒の夏用ワンピースを着た彼女とは色々な意味で正反対で、美乃梨はつい笑ってしまった。


「まめに世話をしていたようだが、好きなのか?」

「うん。割と」


 普段の美乃梨ならここで口を閉じるのだが、桜真が相手だからか、そのまま話を続ける。


「なんでか分からないけど、昔から植物を育てるのが得意でね。育てた野菜をあげたら、お祖母ちゃんが凄く喜んでくれたの。美乃梨の作る野菜が一番美味しいって」


 美乃梨は懐かしむように目を細める。それから、最初はたしか小学校で育てたミニトマトだったと続けた。


「作り方は皆と同じなのに、私のだけ大豊作でね。持って帰ったら、家族みんなが驚いて……。お祖母ちゃん達と食べたあのミニトマト、甘くて美味しかったなぁ」


 その祖母は既に他界しており、二度と言葉を交わすことは叶わない。それでもずっと、彼女の心の拠り所になっていた。


「そういえば、美乃梨に神社へ逃げ込むよう教えたのは、そのご祖母君だったな。ご祖母君も我々が見える人間であったのか?」

「うん。私ほどははっきり見えてなかったみたいだけどね。あと、お祖母ちゃんも野菜作りは得意だったみたい」


 桜真は顎に手を軽く当て、ふむと声を漏らす。何か思い当たる事でもあったのだろうかと、美乃梨は彼の木面を下から覗き込んだ。


「もしかすると、美乃梨に混じっているのは農耕に関わる神の血かもしれんな。強い血は、そこにあるだけで周囲にも影響を及ぼすことがあるのだ」

「ふぅん、農耕の神……」


 美乃梨も神域に住むようになってから、多少神や妖について調べていた。スマホを使っての検索ばかりだったので得られた情報は人間視点、かつ非情に偏ったものだったが、関係しそうな神の名を探すには十分だ。記憶を掘り返して、農耕に関わる神を思い浮かべようとする。


「……多くない?」

「そうだな」

 

 しかし、パッと思い浮かんだだけでもかなりの数があり、特定するには至らなかった。殊に農耕に関しては、有名無名問わず様々な神が他の何かと兼ねて司っている場合が多い。

 潔く諦めて、鉢植えの世話をしながら考えていた件を桜真に相談することにした。

 

「ねえ、庭の一部を菜園にしたいんだけど、大丈夫?」


 当初は一年もかかると思っていなかったため、夏野菜のプランター栽培にとどめた美乃梨だったが、一年以上滞在するのなら話は別だ。どうせなら、もっと多くの野菜や花を育てたいと思っていた。


「大丈夫だ。深部であれば改めて主様の許可を取る必要があるが、この神社に関しては好きにして良いとお許しをいただいている」

「良かった。じゃあ、次は道具と種か、苗を探さないとね。蔵にあったっけ?」


 それっぽいものがあった気がする、と美乃梨は参道との境側にある蔵へ向かおうとする。しかしその前に桜真が制止した。


「代用できるものはあるが、農具そのものは無い。せっかくだ。植物関連や農具全般を扱っている店に案内しよう」

「ほんと? ありがとう!」


 善は急げと二人は本殿から神域深部へ移動する。その暗い階段を降りることにも慣れたもので、初めのような得体の知れない恐ろしさは感じない。家の階段を下りるようにするすると下っていく。桜真を迎えに行くときや、食材の買い出しで利用する必要があったのだ。

 もう美乃梨が桜真の庇護下にあることは知れ渡っており、下手に手を出そうとするものもいない。人目のない所に行ってしまえば分からないが、少なくとも、人通りのある場所で怖い思いをすることは無かった。


 目的の店は時守町の南側の商店街にあった。美乃梨の住む時守神社に繋がる入り口がある側だ。

 彼女が普段使っている食料品関係のお店から更に奥の方まで歩くと、『草木と農具の店 紅玉(こうぎよく)』という看板の掲げられた店があった。やはり京都にあるような佇まいの建物で、日本古来の伝統を感じられる。

 表には綺麗に咲いた花や観葉植物の大きなものが陳列されていて、中も木々や草花で溢れている。その大半は彼女も知るものだが、よくよく見れば馴染みのない、不可思議な植物も混じっていた。

 ――けっこう広いなぁ。植物園みたい。


 美乃梨のよく知る花屋や園芸屋とは違う。どちらかと言えばホームセンターの園芸コーナーに近く、しかしそれとも微妙に異なる印象がある。少し弾む足取りで中へ入ると、そこは緑と土の香りに溢れていて、胸が密かに高鳴った。


 活き活きとした草木たちに視線をやりながら奥を目指す美乃梨。その後ろ姿に、桜真は柔らかく目を細めた。



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