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贄月と桜の契り~稀血の彼女は神使の旦那に溺愛される~  作者: 嘉神かろ


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第11話 月は自ら輝くを望む

「あ」


 地面で弾けた水が美乃梨の方まで届いて、着流しの裾や草履が色を濃くする。濡れた足に初春の風は冷たくて、少し痛いくらいだ。


「乾かそう」

「ありがとう」


 桜真が神術で乾かしてくれるのを見ながら、美乃梨は口角を柔らかく歪める。補助をされた時に彼の神力から伝わった愛情が嬉しかったのと、とうとう自分も神術を使えた興奮が抑えきれなかったのが理由だ。


「もう大丈夫。ありがとう」

「ああ。術の方はコツを掴んだようだな。次はその場で維持する事も意識すると良い」

「うん。……光の玉でやってみてもいい?」


 また濡らしてしまったら悪いと思ってのことだった。


「ああ。ぼんやり照らす程度を意識すると良い。それでも、思った以上に明るくなるはずだ」

「分かった。ぼんやり、ぼんやり……」


 思い浮かべているのは、先日訪れた時神の屋敷の雪洞(ぼんぼり)だ。紙の内側で蝋燭の火が揺れ、周囲を柔らかく照らす明り。眠気を誘う影。

 先ほどと同じ手順を辿って神力を放出する。できるだけ弱い光をイメージしたはずだった。それなのに彼女の手から放出された神力は、カッと光って、美乃梨は咄嗟に目を瞑らせる。


「び、びっくりした。水の時の半分しか力込めてなかったのに」

「ふふ、神力は生み出すものが重い程に使う力の量が増えるのだ。先に言うべきだっただろうか?」

「そうね、先に言ってほしかった」


 美乃梨は少し不貞腐れて口を尖らせる。実を言えば口角が少し上がりそうにもなっていたのだが、それがバレるのが癪で口の端に力を込めていた。

 ――桜真ってそういう事もするんだなぁ。


 彼に表情が見えないよう少しそっぽを向き、もう一度、今度はもっとずっと少ない力で神術を発動する。種明かしがあったおかげで、今度はランタン程度の明るさでその場に留まる光球を生み出すのに成功した。


「どう?」

「上出来だ。このまま神力の操作を熟達すれば、より便利な術を使えるようになる」


 桜真の返答に美乃梨は笑みを浮かべ、改めて自分の生み出した光球を見る。桜真の使っていた術に比べれば、至極単純で、簡単な術だ。しかしそれでも、本の中の魔法使いのように不可思議な現象を起こせていることは、彼女の胸を高鳴らせるには十分すぎた。


「ねえ桜真」

 

 だからこそ、美乃梨は確認しておかなければならなかった。


「いずれは、攻撃用の術も使えるようになる?」

「美乃梨……」


 使えるようになるかどうかでいえば、そうなるのは美乃梨だって分かっている。ただ、桜真が教えてくれる気があるのかだけ、明確にしておく必要があった。

 それ次第で、美乃梨のすることが変わるのだから。


「私が教えなければ、どうする?」

「安心して。自力でどうこうするつもりはないから。ただ、別の誰かに聞きに行くだけ」


 先ほどの失敗で独学が危険すぎることはよく分かっていた。加減が分からず暴発して、取り返しのつかないことになりかねない。


「危険な事をする必要は無い。この神域にいる限り、私が全てどうにかする」

「うん、桜真がそれをできるのは分かってる。けど、それじゃあ嫌なの。あなたに頼ってばかりが嫌。私一人でも、ある程度はどうにかできるようにしておきたい」


 桜真の桜色の瞳をまっすぐ見つめて、美乃梨は訴える。二人の間に沈黙が降りて、妙な緊張感が辺りを満たした。堕霊や彼女を狙った妖と対峙したときとも違う、しかし確かに息の苦しくなるような空気だ。


 どれほどそうしていたか、二人には分からなくなった頃、ようやくその張り詰めた糸が緩んだ。


「はぁ……」


 不意に漏らされた溜息は、桜真のものだった。


「分かった。妙なやり方を教えられても困る。私が、戦う(すべ)も教えよう。ただし」


 桜真は一度言葉を切って、美乃梨の肩へ手を添える。


「あくまで、逃げること、私が来るまでの時間を稼ぐことを優先するのを忘れないでくれ」


 眉尻を下げて懇願するように言う桜真へ、美乃梨は分かった、と頷いた。


◆◇◆

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