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003 初仕事と初めての味方



夕食は野菜の屑か味のしないスープかと思っていたが、そんな私の予想はいい意味で裏切られる。

運ばれてきたのは野菜やお肉がゴロゴロと入っているビーフシチューや焼きたてのパンなどどれも美味しそうな料理ばかり。

一応毒が混入している可能性もあるため警戒はしたが杞憂だったようで、最後まで美味しくいただいた。

ある程度の毒であれば耐性もついているし、最悪解毒剤も所持しているためそこまで心配はしていなかったのだが…

それに公爵家に来た使用人が初日に毒殺されました、なんてことが起きたら公爵家は完全に取り潰しになってしまう。

公爵閣下にとっても私を消すことなど全く利益がないのだ。

あの女性にその理性があったのか、そこまでの決定権がないか、それともそこまで頭が回ってないか…は定かではないが。



そして次の日、東から太陽が顔を覗かせ、空が薄いベールを纏っている時間帯に私は目覚めた。

本日から公爵家の使用人としての勤務がスタートする。しかしまだ肝心の公爵閣下に会っていないのだ。

昨晩の夕食後、使用人に挨拶がしたいという旨を伝えたが、まだ屋敷に戻っていないと言われてしまった。

もしかしたらとても忙しい方なのかもしれない。


仕事着に着替えた私はキッチンへと向かう。

キッチンにいるシェフであれば公爵閣下とコミュニケーションを取っている可能性がある。

もしかしたら帰宅時間に合わせて食事を作っている可能性もあるため色々と知っていることが多いかもしれない。


キッチンの扉を開けると屈強な男性が1人いた。もしかしたら朝早くて誰もいないのではないかと思っていたためほっと胸を撫でおろす。

男性は私に気づくと顔を上げてまじまじと見た。


「新人ちゃんか?」

「はい、今日から公爵様付きの使用人となりましたエルフィと申します。」



するとぱちぱちと大きく数回瞬きをした後、大きな口を開けてゲラゲラと笑い始めた。

何が面白いのかわからない私はどんな表情を浮かべればいいのか分からずその場に立ち尽くすしかない。

右手で目尻に浮かんだ涙を拭いた男性は私の方へ向きなおす。



「ごめんごめん、アンタならあの女に負けずに生き残りそうだなって。」



“あの女“ というのは昨日の女性のことだろう。

私の何を見てそう感じたのかは分からないが、彼は私の敵ではないということは容易に理解できた。

彼が作る料理であれば毒が入ることもないだろう。

男性は作業をしていた手を止め、私の方へ近づく。そして右手が私の前に差し出される。

反射的にその手をまじまじと見るがところどころに傷や縫った痕があり、料理人の手といった様子。

私はその手を左手で握った。


「俺はバークライト。ここの料理長だ。」

「よろしくお願いいたします。バークライトさん。」


この握手はきっと『お互いに頑張って行こう』という意味が込められているだろう。

しっかりと握られた左手は女性と握手をするには力が強すぎる。

この強さは意思の強さ、そして料理人としてこの屋敷や主人を守りたい・支えたいという気持ちの表れなのだと感じた。

きっと今から知っていくこの屋敷の現状は良くはないだろう。しっかりと職務を遂行しなくては、と私も気合を入れなおす。



「さっそくなのですが、閣下は何時ごろに朝食を召し上がることが多いですか?」

「あ~日によってずれはあるが…今日は9時頃だろうな。昨日、帰ってくるのが遅かったから。」



やはり、公爵様はとても忙しいようだ。

忙しい人間は自分のことに精一杯でなかなか周囲の状況を理解することが難しい。初めてこの屋敷を見た時の手入れが最後まで行き届いていない異質な状態もきっと認識できていないことだろう。



「ありがとうございます。」



感謝を述べるとニコニコと穏やかな笑みを浮かべたバークライトさんがバシバシと私の背中を叩いた。

「気合を入れて行ってこい」というメッセージを感じたが女性に対する力加減ではない。

背中に手形が残るのではないかと心配になりながらも私は食堂の扉を開けて屋敷へと一歩踏み出した。









只今時刻は8時半頃、私は公爵閣下の部屋の前にいた。

初対面で起こしてしまうのは申し訳ないし失礼だとは思うが、こちらも ”仕事” でやっているだけなのだ。

理解してほしいが ”使用人” というのはなかなか下に見られやすい職業なため難しい。

寝坊するよりかは私が怒られた方がまだマシだろう。

そう考え、重厚感のある扉をノックする。


…が返答は返ってこない。


静かに扉を開けると中はアンティーク調の高級感のあるローテーブルやソファ、棚などが置かれたとても広い部屋だった。

しかし家具を使用している形跡はなく、ただの置物のように感じてしまうほど。

使用頻度が高そうなガラス張りの棚でさえ何も入っていないというありさまだ。


部屋の奥に進んでいくと大きなベッドが1つぽつんと置かれた空間があった。

人が何人も寝られそうな大きさで大きな天蓋がついている。

そこに1人、寝ている人の影が見えた。きっと公爵閣下に違いない。


ベッドの方に回り込むとスヤスヤと寝息を立てて休まれている男性がいた。

サラサラとした藍色の髪の毛に長い睫毛、スッと通った鼻筋

寝ていてもわかる、美男子っぷりに一歩後ずさりをする。

こういう男性は人気が高く、女性の対立の火種となりやすい。

深く関わってはいけない、関われば面倒事に巻き込まれる。

そう本能が危険信号を発しているような感覚。


そんな美しい顔の中でも違和感を感じる部分が1つだけあった。

それは、目元のクマの濃さだ。

この屋敷のように、美しいものの中にある異質さ。

くっきりと濃いクマが両目の下に出てしまっている。



顔を覗き込んでいると瞼がピクリと動き、瞼が開いた。



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