プロローグ
高校生、空木逐人は一つの能力を持っている。
起きうる現象を二択で考えた時、不幸な方の現象を引き寄せる力。
それは、物理法則をねじ曲げる異能であり、数多に広がる未来の可能性を収束させる権能であり、世界のシステムに干渉する資質であり、そして、
彼を世界に絶望させた、重い鎖であり枷であった。
ザラつくアスファルトにうつ伏せになった逐人が前を向くと、十五メートルほど離れた位置に壁面工事用の踏板が転がっていた。
塀の向こうにある高層マンション、高さ十七階から落下してきたものだ。
支えから外れ重力に引き落とされた踏板は、逐人めがけて飛来してきた。逐人は前方に跳んで、すんでのところでそれを回避した。
しかし──、
「なんだよ……、これ」
同時に、踏板は空木逐人に激突してもいた。
けれども、地面に伏せた逐人の体にはアスファルトに転がった際の擦り傷しかついていない。
では、踏板は何にぶつかったのか?
地面に伏せた逐人は目を固くつむってから開き直し、もう一度前方を見る。
そこには、踏板に巻き込まれ血まみれになり、片腕片脚がおかしな方向を向いている、ありえない人物が倒れていた。
それは、空木逐人──────、自分がもう一人いて、瀕死の重傷を負って倒れていた。