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まずはここから

 一通りのことを話終えたら、俺は父さんの執務室から退出していった。

 全く、顔は怖いくせにすぐに泣くからな、あの人。

 ある意味怖いよ。


「はぁ〜疲れた」

「大丈夫でしたか?」


 部屋へ帰ると、紗枝さんが心配してくれたのか、おどおどしていた。


「別に、何も。むしろ、父さんが俺に協力してくれてるのは、紗枝さんも知ってるだろ?」

「そ、そうですが...」

「ん?」

「周りの使用人が騒がしかったので、話を聞いてみると執務室から大きな音がしたと言っていたので」

「...あぁ〜」


 多分それ、父さんの頭とテーブルがぶつかった時の音だ。


「心配しなくて大丈夫だよ。父さんの頭は頑丈だからね」

「はい?」


 何を言っているのか分からないといった顔だな。

 俺は部屋で話してきた内容を軽くつまみつまみに紗枝さんに教えていった。


「ぷ、ぷ。ふ、ふふ」


 必死に笑えを堪えようとする紗枝さんが出来上がった。

 まぁ、分かる。あの顔であれだからな。



 ♢



 翌日、俺がボコった集団は全員が休んでおり、正直ビクッた。

 そんなに強くやってはないんだけどな。

 とはいえ、やったのは自分だ。少々反省。


「最後に、来週の予定を確認するぞ」


 朝のホームルームがいつも通り流れていたと思ったら、急に周りの空気が変わるのを感じた。


「お前らももう高校二年だ。やることは分かっているだろうな」


 へ、なんのことだ?


「来週の中間試験——」


 時は流れ、お昼。

 俺は指輪と共に、約束通りお昼を屋上で一緒にしていた。


「すっかり忘れてた」

「中間試験のことですか?」

「あぁ」


 学校なのだから、勉強したことの内容をテストするなんてことは当たり前だ。

 テストがないわけがない。


「今度の試験って確か実技でグループを組むんじゃありませんでしたっけ?」

「...詰んだ」


 グループってなんだよ。

 それってぼっちに対してあまりに酷なテストじゃない!?もうそれがテスト内容なんじゃないの?!

 (グループを集めるのはテストを行う最前提である)


「あ、あの。その、私でよければグループご一緒にしましょうか?」

「え...、マジ?」

「いやでなければ」

「そんなことない!こちらこそお願いしたい」

「それならよかったです」


 まさか先に指輪から誘われるとはな。

 お願いしようと考えてはいたが、あっさり話が進んでよかった。


「あ、他の誰かに誘われてたりしてた?」

「まぁ、何人かに一緒にグループを組もうと言われましたが、大丈夫ですよ」

「そ、そうか」


 あまりに素直さが滲み出てる笑顔から、本当に大丈夫だということを感じとり、俺はありがたく指輪のご厚意に甘えさせてもらおう。


「グループの人数は四人ですが、私から後二人連れてきてもいいですか?」

「あぁ、是非とも頼む」

「分かりました」


 筆記試験の方はなんとかなる。むしろ余裕だ。

 問題の実技が解決しそうで、とりあえず一安心だ。

 放課後、グループの残り二人を指輪に紹介してもらった。


「こちらは牧村(まきむら) 煌太(こうた)くん、柳沢(やなぎさわ) 凛音(りんね)さんです。そして、こちらが朝比奈 夕人くん。これから一緒に頑張りましょうね」

「牧村と柳沢な。よ、よろしく」

「おう、よろしくな」

「...よろしくお願いします」


 パッと見た時の感想は、牧村は陽キャ。柳沢は陰キャって感じだった。

 こうやって勝手に考えることも失礼だが、これが俺の初感だった。

 だが、最近思うようになってきたが俺はかなりの鈍感だ。

 こういった場面での自分に関してはあまり信用しない方がいいな。人を見かけで判断するのはあまりよくないからな。


「では、自己紹介も終わったことですし、早速来週の試験についてお話しいたしましょうか」

「おう、いいぜ」

「私も問題ないです」

「お、俺も大丈夫」


 実技試験での内容は単純な一対一。

 四人一組のグループ同士で先鋒、次鋒、中堅、大将に別れて順に勝ち残り方式で対戦していき、先に相手を全員倒したグループの勝ち。

 至ってシンプルなルールだ。


「ここで話すことは、基本的な自身のタイトルと戦闘力がどれくらいなのかの提示とそれを元にした対戦順を決めましょうか」

「...幸いなことに、やることは一対一の個人戦。共闘ではあるけど、戦闘中に互いの動きを合わせなきゃならない団体戦じゃないことね」


 確かに、グループを組まないといけないが、結局は個人戦だという。その点は優しいだろうな。


「それじゃあ、早速自身のタイトルとかについて——」

「ちょっといいか?」


 話しの進行をしていた指輪の言葉を割いて、少し大きめの声が上がる。


「タイトルとかの提示はいいだが、順番は先に希望を出していいか?」


 声の主は牧村だ。


「...そうね、私も希望を出してもいい?」


 続いて柳沢も同じように提案をする。


「私は大丈夫ですよ。朝比奈くんもそれでいいでしょうか?」

「あぁ、別に大丈夫だけど...」


 なんだろう。嫌な予感がする。


「じゃあ、俺は一番で!」

「...私は二番で」

「私は三番でお願いします」

「...え?」

「余ったのは大将の枠ですね。では、希望がないようなので、朝比奈くんが大将ということで」

「おう、いいぜ」

「...私も構わない」

「い、いやいや。ちょっと待て」


 何が起こってる?


「俺が大将とかおかしいだろ!?」

「何かおかしいですか?」


 指輪が牧村と柳沢に向かって話す。


「まぁ、正直俺も指輪が大将じゃないことには驚いたが、俺が最初に順番の希望を言うってことにしたからな。指輪が中堅がいいって言うなら、それを尊重しないとな」

「...私も同意見」

「な...。せめて順番の交渉は?大将以外ならどこでもいいから」

「その理由は?」

「え、そりゃ俺なんかが大将ってのは」

「そんな理由じゃなぁ」

「くっ、じゃあお前らの理由は?」


 俺の意見が通らないのなら、どうしてこんな順番になったのかの理由も聞かせてくれないと。


「俺は腕っぷしには自信があるが、スタミナがないからな。初手の方がいいだろ」

「...私は基本的に戦闘が苦手だから。一番目立たない次鋒で」

「自分で言うのもあれですが、私というSランク(イレギュラー)が大将ではなく、中堅にいた方が裏をつけていいと思うんです」

「は、はぁ...」


 それぞれ理由があるにはある。

 だが、本当に俺でいいのか?そう疑問が自身にチクチクと刺さってくる。

 だが、そんな迷いは強い風によって振り払われた。


「まぁまぁ、朝比奈なら余裕だろ?三十人以上の集団に一人で勝ってるんだし」

「...器用貧乏とか、噂とか私たちはどうも思わないんで」

「大丈夫ですよ。むしろ私たちは朝比奈くんだから、大将を任せているんですよ。私たちを信じ、自分を信じてください」

「...」


 普通に考えれば、相手が勝ち進んでも、指輪が全て倒してくれるだろう。

 万が一にも指輪がやられ、俺の番になっても負けるつもりはない。

 なら、やってみてもいいんじゃないか?


「変わりたいんじゃないんですか?」


 指輪は俺が変わるための場を用意してくれたんだ。

 なら...。


「分かった。俺がこのグループの大将を務める」

「はい」

「よろしくな!」

「...」


 グループの順番が決まったところで、自身のタイトルなどについて話していった。

 俺は、<器用貧乏>については牧村と柳沢には喋らなかった。

 まだ出会って数時間。そして、あまりに異質なタイトルだ。このタイトルについては慎重にならないといけない。

 明かしてもいいと思ったタイトルをいくつか話し、中間試験対策会議は終わりとなった。

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