始まり
「はぁ、夜か」
無骨な音が鳴り、深い眠りから意識がもどる。
辺りは暗い。この時間になると施設の電気が徐々に明るくなり、起床時間を教えてくれる。
あくびよりも先に悲しみに近い感情から来る愚痴が口をつく。
「おはようございます」
フードを目深に被って、寝転がった状態だから見える綺麗で可憐な顔が、これまた綺麗な声で、夜の挨拶をしてくれる。
彼女は@1のアイドル枠、雪道葵。
大人しい性格で、雛鳥凪紗を慕ってくれる存在だ。
「未だに慣れないよ、夜におはようなんて」
雛鳥がベットから起き上がって、雪道に話しかける。
「仕方ないですよ、世界は狂ってしまったのですから」
そう、世界はある意味では終わった。
今では昔を思い出して懐かしむことも無くなったけれど。
「今日って、討伐隊休みだよね」
雛鳥はスケジュール管理は全然覚えてない。
そういうのは苦手で、良くもまあここに居られるものだと思う事もある。
何もかも雪道が完璧なのがいけない。
もう、雛鳥は雪道無しでは生きられなかった。
「そうですけど、訓練行かなくていいんですか?」
「相変わらず葵は熱心というか、真面目だよな」
雪道が次の指令のことも考えて少し不安そうに言う。
寝起きで欠伸をしながら、雛鳥と雪道のそばにやって来て雪道にそういうのは、灰色がかった髪の少女。
「道下、今日もいいメガネだねー」
「なんだそれ、適当なことばっかいいやがって」
雛鳥が、灰色がかった髪の少女、道下アリスに挨拶がわりに何も考えてない様な言葉を投げかれば、道下はテンション低めにツッコミを入れる。
寝起きは弱そうだ。
「あれ、狐日は?」
雛鳥が立ち上がって伸びをして身体を慣らして部屋を見渡して、部屋に居ない@1のメンバーを探した。
「狐日ならさっき寧々に連れてかれてたな」
道下は狐日と言われてる人物の行き先を知っている様で、雛鳥にそう言った。
「あいつら付き合ってるんじゃね?」
「そう邪推してやるな、一応リーダーなんだから亀裂を生むようなことは言うな」
ニヤニヤしながら雛鳥が居ない人達を茶化せば、道下が窘めるように雛鳥を軽く小突いた。
「はーい」
雛鳥も過剰に痛がった振りをして、子供みたいな返事をする。
雪道はそんなふたりのやり取りを見て柔らかく微笑んでいる。
外は今日は満月が綺麗に映る。