後編 「着信拒否された少女の新たな野望」
都市伝説のヒロインとして名高いメリーさんを論理的に言い負かし、妖怪としてのプライドをギッタギタに挫いて、オマケに頭まで下げさせた。
戦果としては上々だね。
「もしもし。私、飛鳥ちゃん。キチンと過ちを認めたんだから、きっと閻魔様もメリーさんを許してくれるよ。」
「う…うん…」
さっきの動揺が尾を引いているのか、携帯から聞こえてくるキンキン声は、随分としおらしくなっている。
前から気になっていた疑問を解消するなら、今が千載一遇のチャンスかな。
「もしもし。私、飛鳥ちゃん。だけどメリーさんは、今まで殺した人にも謝らないといけないんだよ。」
「な…?何言ってるの?私、人を殺した事なんてただの一度もないわよ!後ろを取られて驚いた人間の間抜け面を見るのが、ただ好きなだけよ!」
この口ぶりから察するに、メリーさんの言葉に嘘は無さそうだね。
閻魔様に舌を引き抜かれると言われて、あれだけ動揺していたんだもの。
「もしもし。私、飛鳥ちゃん。じゃあ、人形に変えて連れ去った人は何人いるの?」
「一人もいないってば!私、人は驚かせても命までは取らない事だけは自慢なのよ!」
どうやら例の都市伝説は真っ赤な嘘で、メリーさんは人を驚かせるだけで満足する愉快犯的な妖怪だったんだね。
人畜無害な妖怪なら、一連の舐めた態度は改めた方が良いのかな。
「もしもし。私、飛鳥ちゃん。メリーさんの潔白は私が信じてあげるよ。」
「さっきから気になっていたんだけど…その『もしもし。私、飛鳥ちゃん。』って止めてくれない?小馬鹿にされてるみたいで、嫌なのよ…」
もっとも、メリーさんは私の事を毛嫌いしているみたいだけど。
「もしもし。私、飛鳥ちゃん。悪気は無いんだけど、癖になっちゃって…」
「だから、止めてって言ってるじゃない!」
今にも泣き出しそうな、ヒステリックなキンキン声。
これじゃ完全に、私の方が悪者だね。
「ああ…ゴメン、ゴメン!じゃあさ、御詫びの品としてプレゼントをあげるよ!バナナとベッコウ飴、好きな方を選んでね!」
「どっちもいらないわよ!誰かと勘違いしてんじゃないの?!」
さっちゃんや口裂け女だったら、これで喜んでくれたのに。
メリーさんったら贅沢だなぁ…
「もうウンザリよ!あなたには二度と電話なんかかけないから!」
そして吐き捨てるような罵声を最後に、向こうから一方的に通話を切られちゃったんだ。
「あっ、待って!切らないでよ、メリーさん!ねっ、冷静に話し合おう!きっとやり直せるよ、私達!」
虚しくツーツー音を鳴らす電話に向かって、私は必死に呼びかけていた。
これじゃ、彼女さんに別れ話を切り出されたダメ男みたいだね。
「チェッ、こっちからかけるのもダメかぁ…」
何回リダイヤルしても、繋がる気配はまるでない。
どうやら私ったら、メリーさんに着信拒否されてしまったみたい。
悪い事をしちゃったなぁ…
メリーさんには申し訳の無い事になっちゃったけど、今回の一件は私にとって決して忘れられない最高の思い出になったんだ。
オカルト絡みの都市伝説を見聞きするのは面白いけど、リアルに体験するのはそれ以上に面白いんだね。
このままズブズブと都市伝説に深入りしていたら、そのうち洒落にならない事に巻き込まれちゃいそうだけど…
それはそれで、「私らしくて良いかな」ってワクワクしちゃうんだよね!