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前編 「迫り来る都市伝説の妖怪」

挿絵の画像を作成する際には、「AIイラストくん」を使用させて頂きました。

 勉強机の上に置いた携帯電話が、着信音を奏でている。

 電話帳には登録されていない番号だけど、今となっては御馴染みの相手だった。

「私、メリーさん。今、南海本線の七道(しちどう)駅にいるの。」

 もうスッカリ聞き慣れた、女の子の甲高い声。

 この「私、メリーさん。」で始まる怪電話は、今日の午後九時頃に初めてかかってきてから、これで三回目になる。

 最初の電話は国鉄環状線の大阪駅からかかってきて、その次は南海線との乗り換えポイントである新今宮駅。

 そしてとうとう、大阪府と堺県の県境である大和川を越えて、私の家の最寄り駅までやって来たんだ。


 最初のうちは、単なるイタズラだと思って軽く見ていたの。

 だけど、各駅の構内アナウンスに盛り込まれていた遅延の御詫びを照合してみたら、ネットの路線情報と一致していたんだ。

 どうやら電話の主は、実際に国鉄と南海線を乗り継いで私のもとに向かっている事になるみたいだ。

 イタズラにしては、ちょっと手が込み過ぎているよね。

 居間のテレビで観ていたホラー映画に夢中で適当な応対をしちゃったのは、まずかったかな?


 そうこうしているうちに、また着信が来たよ。

「もしもし。私、メリーさん。今、堺市立土居川小学校にいるの。」

 いよいよ、私の通う小学校にまで迫ってきた。

 私の家に来るのも、この分だと時間の問題かな。

「面白くなってきたなぁ…留守番の退屈凌ぎに丁度良いよ!」

 しかしながら、都市伝説の妖怪と御対面出来るチャンスに、私は何時になく興奮していたんだ。

 ひょっとしたら、テレビの洋画劇場でやっているホラー映画「燃える三眼スフィンクス」よりも面白いんじゃないかな?

 幸いにして、父は帝都に出張中で、母は親戚の法事に出席するべく名古屋に行っている。

 要するに、メリーさんとの御対面に水を差される心配は無いって事。

 あの「メリーさんの電話」って都市伝説には、前から興味があったからね。

 その張本人であるメリーさんからのコンタクトは、私としても興味津々なんだ。


 受話器の向こうにいるメリーさんが徐々に近付いて来る事で、「ジワジワ追い詰められていく」という恐怖が募り、「あなたの後ろにいるの。」という最後の一言で恐怖が頂点に達する。

 そういう話の構成上、メリーさんに後ろを取られた後の展開はあまり重視されない傾向にあるんだよね。

 絶対数は決して多くないけど、「メリーさんに殺された」とか「メリーさんの持っている人形にされた」とかいう後日談もあるにはあるんだ。

 だけど、この手の後日談は都市伝説が広まる過程で付け加えられた創作じゃないかって、私としては睨んでいるんだよ。

 だって、仮に死ぬなり人形にされるなりして視点人物が現世から御退場されたならば、話が伝わっているのは無理があるよね。

 相談を受けた第三者が語り伝えたという可能性も否定出来ないけど、それにしては細部があまりに具体的過ぎるんだもの。

 以上の点から、メリーさんの都市伝説に対する一つの仮説が導き出せたんだ。

 それは、たとえメリーさんに後ろを取られたとしても、ちょっと恐ろしい思いをするだけで、無事に生還して第三者に怪談を伝える余裕があるって事だね。

 そして、この仮説に思い至った私の胸の中に、メリーさんの到着を待ち望む気持ちがムクムクと膨らんで来たんだ。

 悪趣味な電話で無辜の善男善女の背筋を凍て付かせるメリーさんを、私なりに歓待してあげようじゃないの。

「おっと…こうしちゃいられないね!お客さんを迎える準備をしなくちゃ!」

 そんな格好の暇潰しを見つけた私は、居間のソファーからバネ仕掛けの人形みたいに飛び起きたんだ。

 テレビで垂れ流されているB級のホラー映画に、漫然と現を抜かしている場合じゃないね。

 どうせレコーダーに録画しているんだから、後でゆっくり観れば良いんだよ。


 一通りの準備を整えて、ホッと一息。

 そんな私の携帯に、あの番号から着信が入ってきたんだ。

「もしもし。私、メリーさん。今、あなたの家の前にいるの。(おおとり)という表札が見えるわ。」

「待ってたよ、メリーさん。戸締まりと火の用心はキチンと確認したし、私の家は警備会社と契約しているから、あなたがメリーさんを騙る変態さんなら、ここで手を引くのが賢明だよ。ついでに言うと、御隣さんは子供110番の家だし、お向かいさんは民生委員だからね。本物のメリーさんなら、鍵なんか簡単にすり抜けられるし、警察も民生委員も怖くないよね?」

挿絵(By みてみん)

 うーん、ちょっと挑発的過ぎたかな?

 だって、単なる変質者じゃ詰まらないもん。

 だけど相手が本物のメリーさんだったら、警備員さんや民生委員さんの手に余るだろうな。

「まあ、そういうオカルティックな相手だからこそ、面白いんだよねぇ…」

 私はワクワクしながら、次の着信を一日千秋の思いで待ち望んだんだ。

 ナマハゲを待つ秋田県の子達や、サンタさんを待つ西欧の子達も、今の私と同じような気分なのかな?

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