第55.5話 急転
とある一室。
その日は日々労働に追われる女王にとって、とても貴重な三時間の休み時間を作れた日だった。
しかし、前々からその日に時間を空けるために調整していたとはいえ、彼女自身はそうも思い通りいくとは考えていなかった。
そのため、予約しておいたレストランの来店時間まで一時間ほどの暇が出来てしまったのだ。
「どうしましょう」
うざったいドレスを脱いで下着同然の姿で自室のベッドに寝転がる。
常に何かをしている女王にとって、何もしない時間なんてほとんどなかった。故に信頼できる部下はいても共に遊べる友人はいないし、流行の食べ物は知っていてもそれがどこにあるのかまでは把握していない。
とりあえず十分ほど考えて何も思いつかなかったら、城下の様子でも見て回ろう。
彼女はそう判断して、軽く目を瞑る。
―――そして、三 時 間 後。
女王はレストランの予約も完全に寝過ごし、執務室の椅子で涙目になって仕事をしていた。
彼女の机には『プレイヤーによる街道封鎖偵察書』『勇者らしき人物の発見報告書』『監獄島ノヴァスの脱獄犯一覧』『ナノオーブに関する研究結果』など重大な資料が山積みにされている。
そして、その中の一つには、『辺境都市フレミアにてプレイヤーによる大量虐殺事件が発生』というものがあり、クリップにはフユという少女の顔写真がついていた。
◇◆◇◆
とある遺跡。
退屈そうにレトロゲームをしていた機械と水晶の女に、待っていた連絡が入る。
「ん? やっときたー。もしもーし、せんぱーい? 待ちくたびれましたよ~」
「え? はいはい。もうとっくにここのシステムは掌握しましたよ」
「マジすか? やーっと事態が動くんすね。……あの堅物先輩は本当に生きて落ちてくると思います?」
「いやまぁ、そうですけど。相手はあの将軍閣下とお連れ三名ですよ? 全力で回収にはいきますけど、死んじゃっても文句は言わないでくださいね」
女はそう言い保険をかけて、何日かぶりにその場から立ち上がる。
「大型機械兵全機起動。月面基地からスカイダイブする堅物先輩を助けに行くよ!」
静まった闇夜に向けて百を超す機影が飛びあがった。
◇◆◇◆
とある廃れた街。
死霊が蔓延るその街に、捻じれた角を持った悪魔の男が一人いた。
「やハリここデなくナッてイるな」
元はとある高級宿屋があった場所で彼は気を落とすと、その後ろから何体ものゾンビが同時に襲い掛かる。
だが、ゾンビたちと悪魔では強さの次元が違う。
「むダダ」
悪魔が指を鳴らすと、どこからか音もなく現れたキャリーケースに撃たれて、ゾンビたちは蜂の巣にされた。
「零号、ドこだ。ドコにいル」
僅かに感じた残影を頼りにここまで来たが、この街は人がいないどころか、人がゾンビにされていた。そのため零号もすでにここにはいないだろう。
六号はどうやってこの先を追うか考えていると、突然次元が裂けてその先に校舎が見える。
裂け目からは校舎の倉庫に閉じ込めておいたはずの獣のような男が飛び出してきた。
「ナにッ!? 三号!?」
「グルルルル……ガァァァ」
またいつものように見境なく暴れだすのか。
六号はそれを警戒してすぐに裂け目へ押し戻そうとするが、長年の付き合いで少し様子がおかしいことに気づく。
「ナんだ?」
まるで何かを探るように三号が動き回り、南の方をじっと見つめる。
「マさカ、コノ先ニイるノか?」
理性を失ってしまったため三号は答えない。だが、普段は暴れるばかりの三号の変化に六号はこの先には必ず何かがあると確信した。
◇◆◇◆
とある基地。
一切の争いすらなく静かに完全制圧された月面の基地へ、それを成し遂げた四人の人物が足を運ぶ。
男が二人に女も二人。いずれも水晶でできた体をしていた。
四人は最奥に続く扉を無理やり破壊して、目的地である水晶で埋め尽くされた空間にたどり着く。
そこには眠ったように立つ水晶の男が待っていた。
「やぁ堅物。君が作った新世代を貰いに来た」
「将軍……何故裏切った」
「あれは有用な兵器だ。ここで眠らせておくなんてもったいない」
「何故裏切った。答えろ」
「……はぁ。それ、重要?」
将軍と呼ばれた男は呆れ果てたように、理由を話さなければならないのか聞く。
「当然だ。我らの存在意義は王と女王がいてこそ。貴様らの行っていることは我ら種族の生き方に反している」
「……生き方、ね。もうあんな無能共に従うのはコリゴリだ。戦力を整えてくれた時点でお前はもう用済み。話すこともないし、やりたきゃ勝手にしていろ。―――まぁ、今ここで死ななければだが」
将軍のその言葉と共に、月面基地では巨大な爆発がおきた。
これにて第二章は終わりです。
一度人物紹介を二話分挟んでから第三章を始めます。第三章は戦闘多めの章になりますので、楽しみにしていただければと思います。
二章も面白いと感じていただければ、ブックマーク・ポイント評価の方をよろしくお願いします!