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第4話 仕様変更

挿絵(By みてみん)


世界地図です。右下のキャラクターはキングペッパー。本作とは一切関係はありません。

「さて、こうして実際に見ると現実味が増すなぁ」


 俺がそう思った理由が、目の前で横たわったまま動かないドラグワームたちだ。


「いや、自分でやったんだけどさ。まぁまぁえぐいな」

「なにー?」

『見てはいけません』


 フィーラに両目を閉ざされた燐が聞いてくる。

 この光景を燐に見せるのは憚られるのでありがたい。


 全身を火炙りにされて血肉を焦がしたような嫌な匂いを漂わせるドラグワームが一頭。

 首から上がバラバラに散らばり大量の血を垂れ流すドラグワームが二頭。

 脳天に爪を刺されたあげくぐちゃぐちゃに回されて脳だった液体が飛び出たドラグワームが一頭。

 猟奇殺人鬼にでも襲われたのかと思うほど背中に無数の傷跡があるドラグワームが一頭。


 全て俺が殺したものだ。

 なかなかにグロテスクな光景だが、重要なのはそこではない。

 死体が消えていない点だ。


 これがリアルならば一切疑問はないだろう。

 だが、ここはFGの世界。

 そしてFGにおいてモンスターは倒した瞬間にアイテムボックスへ自動直行され、ドロップアイテムの素材や武器になる。

 例外としてアイテムボックスが容量限界の時は地面に落ちたままだが、それでも死体のまま残るということはなく素材や武器の状態で落ちているはずだ。


 僅かだが経験値も入っているので、まだ生きているわけではないと思う。

 一応警戒は怠らずに一番近いドラグワームに触れる。


 鱗は硬質で手でたたくとコンコンと鉄でも叩いたような音がした。

 確かこの鱗は重くて硬いため動きが遅いタイプの前衛職向け防具になったはずだ。知り合いのタンクが中級者の頃に使っていた覚えがある。

 いい素材になりそうだなと思いつつ、今度は足蹴りにして逆の腹側を向かせる。

 大木のような重量でもSTRでゴリ押しすれば、見事にくるっと一回転した。


 腹についた土をはらって耳をあててみるが呼吸は聞こえない。看破スキルは持っていないがしっかりと死んでいると思う。

 念のため他の個体にも石を放り投げてみて起きるかどうか確かめる。

 だが、そろって反応はなかった。


 そんな俺の行動を疑問に思ったのだろう。

 燐の目隠しを続けたままフィーラが首を傾げる。


『何をしているのですか?』

「いや、ドロップアイテムにならないから実は生きてるんじゃないかなと」

『あぁなるほど。そういうことでしたか』


 俺の理由に何やら納得するフィーラ。

 彼女は少し思案する様子を見せ、考えがまとまったのか話を始める。


『マスター、現在ドロップアイテムというシステム(・・・・)はこの世界にありません』

「システム? 引っかかる言い方だな?」

『そもそも死んだら自動的にアイテムになる。おかしいと思いませんか?』

「世の中のゲームを全否定しちゃったよ」

『?』


 あんまりなことを言うフィーラに思わず突っ込みをいれたが、彼女は首を傾げる。

 だが、すぐに俺と彼女ではそういうゲーム的な常識に差があると気づいて先を促す。


「いや、続けてくれ」

『では……ともかく、生物が死んで別のものになる。変換システムとでも言いましょう。これは普通に考えればおかしいこと、ありえないことです。ですから元に戻っただけ(・・・・・・・)です』


 まるで当然のことを話すようにフィーラが続ける。


『では元に戻るとどうなるのか? それが目の前の現状です。変換システムはなくなり、死体は当然そこに残ります』

「なるほどな。『ドロップアイテム』は消えて死体のみが残るようになった。……察するにこれも管理者絡みか?」


 予想というよりはほとんど確信をもって聞いてみる。

 フィーラはドロップアイテムになることをわざわざ『システム』と表現した。

 とすると、そんな世界の根幹に関わるような『システム』を操る存在は管理者だけだろう。


 俺の確信にフィーラが肯定し、


『その通りです。管理者が消えたその時から同タイミングで変換システムが消えました。―――』


 そして、否定(・・)した。


『―――ですが、ドロップアイテム自体はなくなっていません』


 変換システムはなくなったのにドロップアイテムはあるという。

 だが、周りを見回してもそれらしいドロップはない。


『説明を少し省きました。要するに “自動”と“手動”の違いです。生物が自動でアイテムに代わるのはありえないことです。ですが、実際に行われてはいました。つまり手動で同じことをすればいいのです』

「……可能なのか? そんなことが?」


 管理者とはこの世界でまさしく神のような存在。そんな神が行うことを一体どうしろというのか。

 方法に心当たりがない俺にフィーラが説明を続ける。


『可能ですよ。というよりも、本来そのためのジョブシステムです。解体人、宝人、分別者などが持つスキル。変換システムは死んだ瞬間に合わせてそれらの複合スキルのようなものを“自動”で行っていたに過ぎません』


 答えと俺が持つジョブスキルの知識でようやくフィーラの言っている意味が分かった。


 『解体人』『宝人』『分別者』。

 この三種のジョブはいわゆるハズレジョブ。それもハズレの中のハズレ、最底辺レベルだ。

 理由は意味がない(・・・・・)ため。

 FGというゲームにおいて討伐モンスターの解体、つまり変換システムは自動で行われる。だが、この三種のスキル説明ではその解体前、または解体時にスキルを発動させる。

 そして、それは自動で解体が行われる変換システムに効果がない(・・・・・)

 故にゴミジョブ、ゴミスキル。取得可能な四つの下級ジョブ欄をただただ圧迫するだけのものだった。


 だが、死体が残るというなら別である。

 フィーラの言う“手動”でなら。とはそういうことだろう。


 と、そこまで考えたところで服を引かれる。

 引かれた先を目で追うと燐の手があった。見えないなりに手を振り回して俺を見つけたのだろう。

 燐は自分だけが蚊帳の外にいたのに不貞腐れているようだった。


「ぶー」


 俺も自分の世界に入っていたことに反省し、抱き上げようとして―――


「あ。あぶね」


 ―――先にドラグワームを死体のままアイテムボックスにぶち込んでいく。


 明らかに口のサイズと入るものの容量が噛み合っていないのだが、それは管理者云々のシステムに関係ないのかと思いつつ、急いで燐のもとに戻る。


 すでにフィーラの目隠しはなくなっており、久しぶりの光に眩しそうにする燐を天高く抱きかかえた。



◇◆◇◆



「なんだこれ?」


 そう呟いたのはキャンプ椅子に座り燐を膝の上に乗せた俺自身。

 燐の口にマヨネーズ(モドキ)をつけた野菜スティックを運びつつ、目の前の情報に困惑する。


『どうされましたか?』

「いや、これなんだが……見てくれ」


 隣に座ったフィーラが心配したように聞いてくるので開いているウィンドウを見せる。



―――――――――――――――――――――――


ジャミル(男)

Lv2,246


メインジョブ:爪演(チェレール)(超級職?)※秘奥義・スキル作成使用不能

サブジョブ:紫電術師(上級職)・疾走兵(上級職)・拳士(下級職)・蹴撃士(下級職)・走り屋(下級職)・スピーダー(下級職)


HP…70,260

MP…129,369

SP…0/330

STR…24,830

DEF…6,210

RES…14,470

SPD…83,500

AGI…57,920

DEX…9,680

LUC…3,450


頭…なし

胴…精霊郷・風加護のベスト(EXR+)

脚…突竜鎧骨・アルヴィー(逸話級UBM特典武装)

背中…なし

腰…石眼蛇のベルト(UR+)

手套・腕輪…炎々のブレスレット(MR)

靴…岩突きの靴(UR+)

指輪(右)…毒災支配・バシュム(伝説級UBM特典武装)

指輪(左)…ライジンの指輪(接続中)

首飾りorピアス…明暗疾駆・センセム(伝説級UBM特典武装)

右手…暴風爪牙・フウジン(逸話級UBM特典武装)(非装備状態)

左手…暴風爪牙・フウジン(逸話級UBM特典武装)(非装備状態)


―――――――――――――――――――――――



「なんか超級職に“?”ってついてんだけど」


 超級職とは上級職を極めたその先にある一代に一人しか就けないジョブ。

 その特徴は何と言っても上級職とは比べ物にならないほどの強力な奥義の数々。そして、上級職に定められた限界レベル1000の突破解禁。


 だが、それが原因不明のバグ(?)によって超級職たる所以である秘奥義とコスパは高いがカスタム自由なオリジナルスキルの作成が使用不能になっている。

 使用不能なのはその二つだけらしいが、一番強力なものと便利なものを一度に封じられるのは結構由々しき問題だ。


『本当ですね。これはどういうことでしょう……?』

「うーむ。わからん。爪演(チェレール)は超級職。持つのは俺だけ(・・)なのに“?”がつく要素なんてないだろ。バグってんのか?」


 思いもよらないところに能力制限を受けていることにため息をつく。

 だが、すぐに俺の言葉に何か気づいたフィーラが手を叩き合わせた。


『! それですよマスター!』

「え?」

『ですから、この時代にはマスター以外(・・)にも爪演(チェレール)がいるはずです』

「俺以外? あぁ、そっか。そりゃいるわな」


 言われて気づく。俺自身が時差を自覚していないからついつい時間が経っている前提条件を思考から放棄してしまう。


 つまり“?”があるのは、俺のいない間に超級職に就いたやつがいて、俺がこうして戻ってきたから。


「一代に一人しか就けないはずの超級職が同時に二人存在している。……それが原因かもしれないってことか」

『そうですね。マスターがキーアイテムと条件を広めましたしその可能性が高いかと』

「なーるほど。めんどいな」


 幸いなことに爪演(チェレール)転職のためのキーアイテム。その片割れ(・・・)タンク(・・・)にして俺が持っている。

 紛失防止の共鳴機能を使えば現在の爪演(チェレール)を見つけるのも難しくはないだろうが……


「うん。こっちから探すのもめんどいし、これは放置でいいや」

『良いのですか?』

「まぁ向こうも同じなら焦ってきてくれるだろうしな。それに俺は今、そんなことに構うほど余裕がない。……逆に考えろ、秘奥義とスキル作成以外は使えるんだ。そこまでデカい制限じゃない」


 ステータスウィンドウで既に作ってあるスキルは使用可能なのを確認する。

 そして、俺たちが一番初めに解決すべき優先事項を話す。


「それに俺たちはまず、このだだっ広い草原を抜けることが優先だろ? 最新の地図をくれ」

『YESマスター』


 まだまだ元気そうではあるが燐は子ども。この環境が長く続くのはとてもよくない。

 余裕のある内に安全地帯への移動は急務と思われた。


「パパ」


 呼ばれて見下ろすと顔だけ振り向きつつ、小さく口をあけた燐が待機していた。

 口が小さいから時間がかかったようだが、次の野菜スティックに再びマヨネーズ(モドキ)をつけて口元まで運ぶ。

 にんじんのような色合いのそれを口で咥えるともしゃもしゃと食べだした。

 その様子はどこか小動物のようであまりの可愛さに胸がキュンと締め付けられる。やはり俺の娘はあまりに尊すぎる。神かもしれない。

 本当にそう思っていると丁寧に折りたたまれた地図をフィーラが渡してくる。


『マスターこれを』


 端々が少しボロボロなったそれを受け取って開くと、いくつか読めない字でメモと六ケ所にバツ印があった。


『現在私たちはこのあたり。ヒルベニア王国の北方やや西寄りの場所にいます』


 フィーラはそういい地図の上の方、北半球にある一番大きな大陸の東にある国を指し示す。


『ここから近い場所は村規模のものが東側と東南側に一つずつ。そこよりも更に距離はありますが、街規模のものが南側にあります。王都は遠いので行くにしてもしばらく後ですね』

「なるほど」


 概ねの地名は変わっていないことに安心しつつ、燐に次のスティックを渡して自分も一本食べる。

 一応“食べる”という機能もついているのでフィーラにも渡そうとしたが首を振って遠慮された。


 そこでふと部品の変わった関節部が目に入り、行きたい場所を一つ思いつく。


「よし、今日目指すのはとりあえず南の街にしよう」

『了解しました。……ちなみに何故こちらを?』


 距離も遠く、日暮れごろに着くことが予想されるような場所だ。

 一応提案はしたが、燐優先の俺が選ぶとは思わなかったのだろう。フィーラが不思議そうに聞いてくる。


「確かに俺もいつも通りなら近い方に行って早く燐を休ませてやりたい。それにこの街に特に用事もないしな」

『では何故?』


 ますますわからないといった表情のフィーラに地図を使い答えを指し示す。

 地図のさらに南方、海を超えたロストシヴァという国だ。


「ここに用事ができた」


 その選択によほど驚いたのかフィーラが確認してくる。


『ロストシヴァですか!?』


 思ったよりも反応が大きくてビックリしたが、それも仕方ないだろう。

 何しろロストシヴァという国はかなり特殊だからだ。フィーラの反応を見るに、現在もあの国は変わっていないのだろう。


 『黄金郷』『金の国』『財宝楽園』などなどそう呼ばれるこの国は、金さえあれば何でもできる場所だ。

 人も、物も、心も、暴力も、権力も、金さえあれば王にもなれるという。

 闇のオークション会場と巨大なカジノが乱立し、金に魅入られた者が夢に酔い、享楽に溺れ、絶望に堕ちる夜の国。

 それがロストシヴァだ。在り方自体は金が全てと単純明快。だが、そこには倫理も秩序も正義も一切がない。


『何を買いにここへ行くのですか?』


 わざわざ危険なロストシヴァに、この国でしか手に入らないものとは何なのかとフィーラ聞いてくる。予想も言わないことからどうやら見当もつかないらしい。

 だがその答えはフィーラ自身にあるため、俺は彼女を指し示す。


「お前のパーツだ」

『え?』


 俺の答えが全く想定外だったのか、フィーラは滅多に出さないような素っ頓狂な声をした。


「そんな驚くことか? 言ったろ、感謝してるって。だからまずはそのボロイ体を修理しよう」


 幸いなことに俺は金に困っていない。

 湯水のごとく金を使う戦いをするわけでもないし、使う機会も燐のためにというのがほとんどだ。

 そのため目的のものが見つかれば、オークションだろうと確実に落札できる自信がある。


「反対か?」


 燐と残り一本になった野菜スティックを半分ずつにして問いかける。


『いえ、滅相もございません。……ですが、本当によろしいのですか?』

「金か? 別に問題なく買えると思うぞ?」


 心配そうに答えるフィーラを安心させるように答える。

 だが、彼女の表情は優れない。どうやら心配事はまた別のことらしい。


『確かにお金も心配ですが、私のことよりギルドの皆さんはいいのですか?』


 言われてギルドの、最も信頼できる仲間たちを思い出す。

 燐とフィーラ、そしてこの世界のことばかりで考えが及んでいなかった。


「そういえばそうか。あいつらも回収しないとなぁ」


 ウィンドウを開きメニューをスクロールして今度は『フレンド』を開く。

 そこには計七十ほどの名前が連なっており、半数以上が灰色、残りが赤色、そして二人が青色で表示されていた。


 この色表示は灰色が非ログイン状態、赤色がメッセージのみ送れるログイン状態、青色が同じ国内におりメッセージ送信とプラスして念話をすることができる状態となっている。


 俺はその中の一つ、青色で表示された『助六丸』という名前で動かしていた指先を止めた。

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