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第53話 のどかな風景に響く声

 ―――ゴーン――ゴーン――ゴーン。


 ちょうどシアルルにフィーラとオニグマを紹介し終えたタイミングで、部屋の外から鐘の音が響く。


「あぁ、もう時間か」


 シアルルは自身でも懐中時計で時間を確認すると、玉座から立ち上がる。


「客人よ。すまないが、余とマオは席を外させてもらう。お互い聞きたいこと、聞かれたくないこと(・・・・・・・・・)。いくつもあるだろうが、詳しい話し合いと待遇(・・)についてはまた後日としよう」


 シアルルはそう言い、一度喉の調子を確かめるように咳払いをする。そして、


「ウィフィールネ!」

「――此処に」


 名を呼ぶと同時、城の前でツヴァイに弄ばれた合法ロリ巨乳が片膝をついて現れる。


「彼らにヘルヘイムの各階層を案内しろ。ついでに用意しておいた住居への案内も任せる」

「御意」

「では客人よ。先に失礼する。マオ、調整(・・)をするからついて来なさい」

「えー。いやなのだ! われはめりあなともっとあそんでいたいのだ!」

「こーら。わがまま言っちゃめっ。終わったら行ってもいいから、シアルルについていくよ♪」


 ツヴァイに抱っこされたマオが、手足をバタつかせながら退室する。

 マオのような元気が有り余った子どもを見ていると、心底燐が落ち着いた子で良かったと思う。たまにはもっとわがままも言ってほしいが、あれはあれで毎日が大変そうだ。


 マオの嫌々声が完全に聞こえなくなると、片膝をついていたウィフィールネが立ち上がってこちらに振り向く。

 その様子は城の前で見たようなポンコツさはなく、軍人らしいキリッと鋭い雰囲気を纏っている。


「改めて挨拶を。私は魔族軍第三軍団副軍団長ウィフィールネ。先ほどは少し恥ずかしい姿を見せてしまったが、案内は安心して任せてほしい」

「お、おう。お願いします」


 雰囲気に押されて少しどもってしまうと、ウィフィールネがくすりと笑う。


「いや、すまない。客人対応で接するつもりだったが、プレイヤーは硬い口調が苦手なんだったな。ツヴァイ様にフレンドリーに接してほしいと言われたのを思い出した。構わないだろうか?」


 ウィフィールネの纏ったものが柔らかいものに変わる。確かにこっちの方が話しかけられても息が詰まらない。


「あぁ。俺たちは偉くもなければ、大した礼儀もいらないプレイヤー(よそもの)だ。そうしてくれるとありがたい」

「そうか。ではまず、ヘルヘイム第一階層から案内しよう」


 ウィフィールネはそう言い、転移ゲートまで歩き始める。俺たちもその後ろに続いた。



◇◆◇◆



 どうやら砂漠の下にあるこの地下世界(ヘルヘイム)(異空間らしい)は、いくつもの空間がミルフィーユ状かつ蟻の巣状に存在しているらしい。

 各階層は半径が5~10キロほどの巨大な円柱状であり、それぞれの階層は中央にある白の神殿から自由に行き来が出来るほか、円柱の端には近くの階層に繋がる通路が張り巡らされている。



 魔王城を出て一時間と少し。

 今はヘルヘイム第五層の日本風の茶屋で軽い休憩タイムだ。この第五階層は今まで見てきた四つの階層と違い、空中には人工太陽が出ており、大地を眩しいまでに照らしている。

 その都合上第五層とここから下の同じく太陽が出ている数層分は農業層らしく、中央の街も小規模でほとんどは畑が埋め尽くしている。

 そして、そんな自然豊かな農業層には、今、苦悶の声(・・・・)が響いていた。


「う、う、ぼおえぇぇぇぇぇ!!!」


 少し離れたところでアルトがエチケット袋に胃液を吐き出す。

 横にはウィフィールネが付き添い、背中をさすっていた。


「本当にすまない。まさか転移酔いをするなんて……」

「僕も言うのが遅かったッス。すみま、ぼぇぇぇぇ」


 最初はオーバーリアクションで面白かったが、本当にきつそうなアルトの様子に可哀そうになってくる。

 レベルが高くて体が頑丈な俺、イナリ、マレーナ、オニグマと機械であるフィーラは何も問題ないが、燐、メリアナ、セフィロトはアルトほどではないにしろ、少し体調が悪いそうだ。


 そのため汚い声が響いても大して迷惑が掛からなさそうな、畑の真ん中にポツンとあった茶屋で休憩している。


「おまたせねぇ。お茶だよぉ」


 茶屋を営んでいるという年老いたおばあちゃん魔族が人数分のお茶を持ってきてくれる。


「ありがとうございまっす」


 全員に配らせるのも悪いのでお盆ごと受け取ると、中にはほうじ茶のような色合いのお茶が入っていた。

 紗世のいるヤマトでもないのに珍しい。回していくとイナリも少し驚いているようだった。


「ありがとねぇ。お団子はもう少し待っててねぇ」

「急がなくても大丈夫ですよ」


 おばあちゃんに一声かけてお茶を啜る。

 淹れたてで熱いが体に染み渡る。


「はぁー」

「ふぅー」


 同じ日本人だからか自然とイナリの吐息と重なった。


「ははっ。美味いな」

「そうですね。ほっこりします」


 俺たちが飲んだのを見て、隣の長椅子でダウンしていた燐とメリアナもお茶に手を付ける。だが、熱かったのか二人は同時に舌を出すと外気で冷やしていた。

 その様子が可笑しくて思わず笑ってしまう。すると燐に頬を膨らまして怒ってます。という顔を向けられた。


「ごめんごめん。二人ともコップ貸してみ」


 謝罪ついでに二人から湯呑を受け取って、とある特典武装の力で手のひらに氷を生成する。

 適当に数個ずつ入れてやると、良い温度になったのか美味しそうに飲み始めた。


「おいしい!」

「にぃに、ありがとう!」

「どーも」


 お礼を言ってきた二人に返事をすると、一番遠くに座っていたセフィロトもやってくる。


「ありがとうジャミルちゃん。私もいいかしら?」


 既に半分ほど飲んでいるので、一つだけ入れてセフィロトに席を空ける。


「あら。どうしたの?」

「ちょっと聞きたいことがあるから座ってくれ」

「分かったわ」


 セフィロトが座ったので、まだアルトの体調が悪そうなのを確認する。

 よし、まだウィフィールネの気を引いてくれそうだ。念のため見えないように左だけフウジンを装備して、真空の壁を作る(音漏れを防ぐ)


 別に悪い話をするわけではない。ただ、聞かれたくない話をするだけだ。

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