第51話 ぅゎょぅι゛ょぉぉぃ
転移ゲートの先、街があった場所よりも更に濃い夜にその城はあった。
魔王城という言葉に反しておどろおどろしさは感じられない。どころか、華美に飾られてもおらず、質素とすら感じる城だ。城というよりは城にも見えるデカイ建造物といったところか。
そんな魔王城の完全に開け放たれた城門を跨ぐ。
「たっだいまー☆」
ツヴァイが大声で帰還を知らせると、城からはわらわらと文官・武官のような魔族が出てきて街中と同様にツヴァイの帰還を喜んでいた。
そんな魔族たちの中からツヴァイは一人の人物を捕まえる。
掴まったのは薄い青色のボブヘアに髪と同じ色の綺麗な瞳を持った童顔の女性。
背丈はツヴァイよりも低く、燐とオニグマよりかは少し高い程度。身長だけで見れば中学生ぐらいにしか見えないが、仕立ての良い軍服を着ているので一応成人なのだろうと判断できる。
そして、何よりも、彼女が子どもではないと証明できるものを彼女自身が持っていた。
たわわに実った、メロンのようなそれを、ツヴァイがガッシリと鷲掴みにして揉みしだく。
「ぐへへへ☆ 久しぶりだねぇウィフィールネ♪」
「ちょ、ツヴァイ様!? アンッ! や、やめれくださいぃぃ」
「お? お? ここか? 相変わらずちんまい体でええものをお持ちしてはるなぁ。ツヴァイちゃんにも半分ぐらい分けてくれ」
「小っちゃくないで、ン! はぅッ! も、もうやめてぇぇ」
「へっへっへっ。この女、いい声で鳴きやがるぜぇ――あべしっ!?」
揉むにつれておっさん化しているとはいえ、美少女×合法ロリ巨乳は非常に眼福な光景だ。
だが、流石にウィフィールネと呼ばれた女性がかわいそうなので、ツヴァイにチョップして止めさせる。
ツヴァイの拘束から逃れたウィフィールネはその恥辱に泣きだすと、
「もうお嫁にいけないよぉぉぉ」
と叫びながら城の奥へ走っていった。
だが、彼女を嫁に貰うやつは巨乳好きかロリコンのどちらかが確定だろう。そう思っていると、チョップをくらったツヴァイが少し涙目になって睨んでくる。
「うぅ~痛いなぁ。せっかく人が幸せな光景を見せてあげてたのに! 何てことするんだッ!」
「お前がしたかっただけの間違いじゃないか?」
「――別にそうだが、何が悪い!?」
「えぇ……」
図星をつかれたらしく開き直って逆ギレされた。
俺が思わずドン引きの声を出すと、それがさらに気に食わなかったらしく、ツヴァイがまくし立ててくる。
「えぇってなんだい! 君だってあの男子会で乳か尻かだったら断然乳派と言っていたじゃないか! あの乳に対する熱弁は嘘だったのかい!? 乳の良さとはその包み込――むぐっ!?」
「ばっ、おま、こんなとこで乳とか尻とか言うな!? てか、なんで俺が熱弁してたって知ってんだよ!?」
公衆の面前でとんでもないことを言い出したツヴァイの口を押える。だが、すでに時遅し。周りが俺を見る目はとても冷たいものだった。
『ツヴァイ様になんてことを……』
『変態……』
『ツヴァイ様の乳を……? ゼッタイコロス。グチャグチャニシテヤル』
『我、ここに永久の闇を請う――』
中にはかなり物騒な言葉や魔法の詠唱まで聞こえてきた。
俺は理不尽な死の恐怖を感じながら、あのウィフィールネという合法ロリ巨乳のように走ってその場を後にした。
◇◆◇◆
長い長い廊下の先、一つの部屋の前で足を止める。
扉の前に立っただけでわかる。この先には化け物がいる。
隠しているのか抑えているのか魔力は全く感じないが、扉一枚越しでも中から感じる威圧感はあのクウガを前にした時と同レベルであり、体中から変な汗が止まらない。
俺と同じくイナリも威圧感を感じているのか、緊張した様子だ。
逆に強敵とあまり戦ったことのないマレーナや非戦闘職のアルトなどはどんな人物なのだろうとワクワクしているように見える。燐とフィーラも同様だ。
「やっぱ凄いね、君たち」
ツヴァイが俺とイナリに一瞬笑いかけ、扉を勢いよく押す。
開け放たれたその先、玉座には美しい銀の長髪と深紅の瞳を持った男がおり、―――
「よふひた。ひゃくじんよ。よこしょは、まおーしあるる。すへてのまほくを、たばへるものだ」
―――何故か二人の幼女に両頬を引っ張られていた。
その光景に張り詰めていた緊張が一気に抜ける。
意味の分からないというのもそうだが、緊張が抜けたのは二人の幼女の内、片方を知っていたから。
魔王シアルルの右頬を引っ張る白髪に翡翠色の瞳をした幼女。少し遠慮がちに引っ張るその子の名前はメリアナ。
俺たちギルドの最年少メンバーであり、連絡が取れなかった子だ。
メリアナは俺たちに気づくと、ぱぁっと明るい笑顔で走ってきて燐とオニグマにぎゅっと抱き着いた。
「りんちゃん! オニグマちゃん!」
「めりーちゃん!」
「ん」
メリアナが安心したように二人の胸に顔をうずめていると、今度はシアルルの左頬を引っ張っていた幼女が、銀髪に赤目、元気そうな褐色肌の子がツヴァイに抱き着く。
「ゆうしゃよ、かえりがおそいぞ! われはきょうもきのうも、いいこでまっていたのだ! とってもほめるがよい!」
「ってことだけど、いい子だった? シアルル」
「余の腫れた顔を見てもそう思うか?」
「うん。いっぱい遊べてえらい!」
「ふふん。えへへ」
ツヴァイがいたずらっ子を甘やかして、頭を撫でる。
それを見た魔王は大きくため息をついた。
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