第48話 七魔天(ただのファン)
「なるほど。では我が友は魔族の国という場所を目指しているのか」
グレイトパンサーのポップゾーンに向かう道中、何故かついて来たタケミカヅッティが地図を見ながら頷く。
「あぁ。そっちは?」
「俺は愚妹との連絡が取れなくなってな。理由は知らないがこのような状況下、まだ初心者の妹では動きにくいだろうと思って向かっている最中だ」
「それがこんなとこで道草くってていいのか?」
「構わんさ。いつも顔を合わせれば何かと金切り声でチクチク言葉。最近では『おにいと一緒の洗濯物にしないで!』と、言われたんだ! あいつはもう少し兄のありがたみを知るべきだ!」
俺は一人っ子なので経験ないが、よく聞く兄妹事情に笑ってしまう。
「笑ってくれるな。我が友もいつか、その娘っ子に言われるぞ?」
一瞬後ろを振り返り、フィーラとツヴァイと手を繋いで歩く燐を見る。
「ハハハ、面白い冗談だ。燐はいい子だからな。そんなことは絶対言わない」
「……手と足が同時に動いているぞ」
言われて歩き方が変になっていたことに気づく。
すぐに戻すと同じくタケミカヅッティに笑われた。
「流石我が友。面白い男だ」
「うっせ。それよりとっととお前の要件を話せよ」
「要件?」
「お前が会いに来るときは大体決闘だろ。なのにすぐにやり始めない。ってことは何かあるんじゃないのか? まさか本当に偶然会ったとでも?」
コイツは俺がどこにいても必ず情報を仕入れてきて決闘しにやってくる。
そのため今回もそうだと思っていると、タケミカヅッティはこれまでを懐かしむように顎に手を当てる。
「思い返せばそうだな。ほとんど俺ばかりが出向いていた。……しかし、今回は本当に偶然だ。決闘も今はそういう状況下ではないしする気はない。……だが、そうだな。そういえば一つだけ聞きたいことがあった」
「なんだ?」
俺の疑問にタケミカヅッティが少し真剣な顔になる。
「我らがギルマスについてどういった事情か知らないか?」
「ギルマス……ティアのことか?」
「あぁ。この前ギルドの全体チャットに『カルアを見つけた者はすぐに報告せよ。私が殺す』と、物騒な書き込みがあってな。チャット固定はされているが、七魔天の皆も本当にあのギルマスなのかと疑っている。もしも本物ならそのカルアはどうしている?」
そういえばコイツは魔法協会の大幹部だった。
確かに今までずっとカルアを神のように崇めていた人物がぶっ殺すと豹変すれば、おかしいと思いもするだろう。
だが、どう説明しようか。あまりややこしく言っても伝わらないだろうから、簡単に説明するか。
「なんつーかな。虚栄王座は知っているな?」
「もちろん。知らない者はいない大物じゃないか。それが?」
「つい先日会ってな。ウチのカルアがクレアールの“王笏騎士団”に引き抜かれた」
「なんだって!? 大事件じゃないか!!」
最強プレイヤーの移籍にタケミカヅッティが大声で驚く。
だが、同時に納得もしているようだった。
「しかしそうか。事情は知らんが、そういうことか」
「何がだ?」
「ギルドチャットだ。お嬢様があのような書き込みをした理由が何となく分かった」
崇拝していた人が所属集団を少し変えただけで豹変する理由。
俺にはさっぱり分からなかった。
「どういうことだ? 説明してくれ」
「我が友よ。説明も何も、そう難しいことではないさ」
「?」
「お嬢様はあれで結構箱入り娘なんだ」
「あんなタフでどぎつい箱入り娘がいるかよ」
むしろ図太さと傲慢の塊だろう。
突っ込むがタケミカヅッティはそのまま話を続ける。
「まぁ大多数の者にとってはそうだろう。……だが、実際あの方も一人の乙女であり、好きな人を誰かに取られれば嫉妬の一つや二つもする。特にそれが近しい存在として扱われ、常から見下していた者に取られてはその嫉妬の怒りも増すだろう」
「……つまりなんだ? お前はティアがカルアを殺したいのは嫉妬心っていうのか?」
「恐らくな」
「ぶっ飛んでるだろ……」
どういう思考をしたらそうなるのかさっぱり分からなかった。
というか何故カルアがターゲットになるのか分からない。そこはクレアールが真っ先に嫉妬の対象になるのではないのか。
「だから言っただろう。箱入り娘だと。お嬢様は何でもできる万能の才を持っているが、その知識と実体験は全てが繋がっているわけではない。数年前から抱いておられるカルア氏に対しての感情も、未だ恋心だと気づいておらず、わけのわからぬ感情を持て余している状況だ。……故に“奪われるぐらいなら奪ってしまおう”と、拗らせてしまったのだろう」
タケミカヅッティがそんなところだ。と締めくくる。
「……それ、マジで言ってんのか?」
「マジだ。サブマスの次にお嬢様を傍で見てきたからな」
「あいつはガキか……。大事になる前に誰かあいつに教えてやれよ」
「お嬢様はプライドも人一倍高い。言って分かるものでもないだろう」
「まぁ、そういうもんか」
確かにあいつに『恋をしている』と教えても素直に聞き入れるとは思えない。
「それにそういうとんでもなく面倒なところが、お嬢様の可愛らしいところだろう?」
「あーはいはい。そうですね」
七 魔 天の言葉に俺は呆れるしかなかった。
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