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第45話 ズレた未来

「絶対に行かなければいけないか?」


 俺は渋い顔で船長室のソファに横たわるパジャマ姿のツヴァイにそう聞く。

 蛍光灯の光が辺りの闇夜を照らす室内には、この部屋の主であるマレーナもいるが、同じようにツヴァイの提案には不安があるようだ。


「うーん。まぁ、絶対かなぁ。マリアちゃんの動きがさ、なんだかボクのイメージと違うんだよねー。彼女の根本(・・)自体は変わっていないっぽいけど、急に焦ってる感じ? 少しでも過程(・・)をすっ飛ばそうとしてる。……特にカルア君の口説き文句を知っていたのが不思議だね。そもそもの話、千里眼で視た“未来”ではあの場にマリアちゃんはいなかったし? どうしてか、いろいろズレてるんだよねぇ~」


 想定外の事態が起こったようにツヴァイが唸る。


「その未来視が違うってことはないのか?」

「ツヴァイちゃんの千里眼を疑うのー? 後付け(・・・)とはいえ、ボクが用意したインチキスキルの一つだよ? そうだね……試しにジャンケンしよーよ。それぐらいなら集中しなくても視れるし。じゃーんけーん、ポン♪」

「ほい」


 ツヴァイ、グー。

 俺、チョキ。


「ボイ♪」

「ほい」


 ツヴァイ、パー。

 俺、グー。


「ボイ♪」

「ほい」


 ツヴァイ、パー。

 俺、グー。


「ボイ♪」

「ほい」


 ツヴァイ、チョキ。

 俺、パー。


「ボイ♪」

「ほい」


 ツヴァイ、グー。

 俺、チョキ。


「ね?」

「ギルマスよえーw」


 後出ししているわけではないのに全敗。マレーナに笑われる。


使いにくい(・・・・・)能力とはいえ、ボクの視る未来はボクが自身が変えなければ絶対さ。それがあり得ないぐらいズレている。……とっても不気味☆」

「それで目指すのがここかぁ?」


 俺たちは広げられた地図の一点、ツヴァイが丸をつけた場所を見る。


 そこはエールライト大陸の中央付近。かつて大陸の中でも特に繁栄して豊かだった国であり、一夜(・・)にして滅んだ場所。

 クウガの投下地点(・・・・・・・・)。今ではかの竜により広大な砂漠に変えられた名もなき場所。

 俺たちにとっても因縁の深い地だ。

 今ではここに魔族の暮らす国があるらしい。


「シアルルの国ならテラもマリアちゃんも、そう簡単に手出しは出来ないからね♪ あのギルドハウスも強固だけど、特級レベルの戦力相手では少し心もとない。特に構造と仕掛けを知っているカルア君なんかに来られると砂の城も同然さ」

「カルアが攻めるならどんな城塞も砂の城と同じだろう?」

「そうだね。この世界(・・)にあるならそうだけど、シアルルの国は特別だから」


 まるでこの世界にはないような言い方に引っかかりを覚える。

 そんな俺の様子にツヴァイがクスクス笑った。


「行ってみれば分かるよ♪ とにかくここなら仮にカルア君が来ても、ある程度の時間稼ぎは出来る。ボクとシアルル、それに魔族のみんなもいるし大丈夫だよ☆」

「ふむ、安全性に自信があるのは分かったが……。さっきからまるで将来的にカルアが敵対するような言い方だな?」

「するね。間違いなく」


 ツヴァイが確信を持って言い切る。


「どうしてそんな確信をしている?」

「ボクが君たちよりもカルア君のことを知っているからさ」

「これでも同じギルドのメンバーだったわけだが? お前はそんな俺らよりカルアに詳しいと?」

「詳しいよ☆ ストーカーのティアちゃんよりも更に詳しい」

「「えぇ……」」


 ストーカー(ティア)よりやべーやつ自白にマレーナと共にドン引きする。

 彼女がインサイダーである以上、カルアとは存在した時代(・・)が違うはずなのに目がガチだった。


「ま、カルア君“が”敵対するんじゃなくて、カルア君“と”敵対するわけだけど」

「? どっちも同じじゃねーか」

「……アハ☆ うん、そうだね。……どっちにしても全く変わらないや♪」

「……」


 マレーナは言葉の意味を読み取れなかったようだが、言い方的にツヴァイが攻撃を仕掛ける。……ということだろうか。


 まぁ考えても仕方ないのでこれは後々ツヴァイとカルアの関係を明らかにしていこう。


 どのみちカルアがギルドを離れた時からあの拠点に戻るかは悩んでいたのだ。ツヴァイの話に乗ってみようか。


「とりあえずカルアの件は置いておくが、ツヴァイ、あんたの話に乗ろう」

「いいのか? ギルマス」

「正直行く当てにも悩んでいたところだしな。それに、魔族の国なんて面白そう(・・・・)じゃないか」

「君は相変わらず(・・・・・)、未知が楽しみで仕方なさそうだ☆ 全てを知っておきたいボクとは大違い」


 ツヴァイがどこか憧れを見るような目で俺を見てくる。


 俺は昔、どこかでこんな目を見たような気がする。あれはいったい誰だったか。今の俺には思い出せなかった。



◇◆◇◆



 船長室での用事が終わり自室に戻ろうとしていると、食堂の明かりが目に入る。

 マレーナとツヴァイはまだ船長室だし、燐はフィーラと寝ているはず。消去法でイナリかオニグマのどちらかだろうと思って覗いてみると、そこには意外なことに燐がいた。

 寝る直前まで傍にいたのにどういうことだろう。

 何やら一生懸命に冷蔵庫をゴソゴソと漁っているので、後ろから声をかけてみる。


「燐、何してるんだ? フィーラは?」

「わっ!?」


 すると、燐はイタズラがバレてしまったかのような声で驚き、こちらに振り向いた。

 手を後ろに回し、何かを隠しているようだ。


「パ、パパ、どうしたのかなっ?」

「ん? どうしたのかな……?」


 少しおかしな喋り方に燐がやっべという表情になる。

 目が下を向き、俺と合わせない。


「おい、お前、天華だろ」

「……『はぁい』」


 か細い声で天華が返事をする。いつものプレッシャーを感じなかったため、危うく騙されるところだった。


「こんなところで何してやがる?」


 まさか食材に変な薬か毒でも入れようとしていたのか。俺は少しきつめの声で聞くと、諦めたように天華が隠していたものを見せてくる。

 手にはバニラ味のアイスが乗っていた。


「これは?」

「『食べたくて……美味しそうだったから……』」


 今にも泣き出しそうな声で食べたいことを訴えかけてくる。


 ここで断れば関係が悪化するだろうか。

 正直燐の健康を考えるならダメと言いたいが、“お願い”を聞いてくれない、逆らう意思有りと判断されるのも良くない。

 本当は何をしようとしていたのか知らないが、様子を見るに事前に防げたようだし、今後は定期的に毒判定のマジックアイテムを使えばいいか。


「チッ。夜だし半分だけだぞ」


 天華の持つアイスとスプーンを二つ持って適当な席に腰かける。

 天華はぽかんとしてその場で佇んでいた。


「なんだ? 食わないのか?」


 俺が聞くと天華は満面の笑みになる。


「『食べる!』」


 別に普通の味だったが、天華はとても嬉しそうにアイスを食べていた。

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