第43話 ツヴァイ
少し前に投稿した43は情報が多すぎてダメだと思ったので直しました。
◇◆◇◆から下しか変わっていません。
一度読んでくださった方は本当に申し訳ございません。
ティアの魔法により真ん中で綺麗に二分されたグラヴィリオス。
普通の船ならばもう二度と航海はできないが、マレーナは違う。
船員系統超級職『大船長』。
同じく船員系統である多数の船を同時強化する『大提督』に対して、こちらは単一の船のみを大幅強化する。
そして、『大提督』にはないとある性質を持っている。
それこそが、
「直れ」
大船長の真骨頂。船限定の回復魔法である。
マレーナの回復魔法により分割された船体が光り、時間を巻き戻すかのように直っていく。
「これっていつ見ても不思議な感じだね~。機械なのにまるで生き物みた~い」
グラヴィリオスが直る様子をアイドル服の少女が珍しそうに眺める。
数秒後、光が収まった時にはグラヴィリオスは完全に元通りになっていた。
「ギルマス、もう出航できるが……どうする?」
回復魔法を使ったマレーナが聞いてくる。
どうする。とは、まぁこの少女についてだろう。
「どうするってどうしたんだい? 早く出航すればいいじゃないか? あ、その前に最強アイドル系勇者ツヴァイちゃんの直筆サインが欲しいってことかい☆ 仕方ないなぁ。ここでいい?」
ツヴァイがアイテムボックスからマジックペンを取り出して主砲に直接書こうとするが、それをマレーナが止める。
「てめぇオレの船に落書きすんな!」
「落書きとは失礼しちゃうなー。今、魔都ヘルヘイムでは、ボクの直筆サインは10万ルピで出回ってるよ?」
「10万だろうが、何万だろうが知るか。変なもんを書くな! それより、お前はなにもんなんだよ? オレたちの味方か? 敵か?」
ここにいる者の全員の疑問をマレーナがする。
「――ボクが味方か。敵か。気になるかいッ?」
ツヴァイが顔の半分を手で覆い隠し、くっくっくと笑う。めちゃくちゃうぜぇ。
「さっさと、答えやがれ!」
「あぁぁぁ。痛い痛い! ちょ、割れちゃうって!」
マレーナもうざく感じたのだろう。頭をぐりぐりして強制的に答えさせようとする。
「わかった。答える、答えるから!」
マレーナのぐりぐりから逃れたツヴァイが涙目で再びかっこいいポーズを決める。
「ぐすん。ボクの名はツヴァイ。魔都ヘルヘイムの超絶売れっ子アイドル兼魔王シアルルのお嫁さん(予定)☆ 現在は危機迫る世界のために休止していた勇者活動を再開中♪ 君たちの心強い味方だよっ。どうぞよろしく☆」
ツヴァイの自己紹介に俺やイナリの大人組は胡散臭いという視線を向け、燐とオニグマはぺちぺちと拍手をする。
その対応が気に入らなかったのか、ツヴァイは不快そうに口をとがらせる。
「ちょっと~久しぶりの再会なのに、拍手が少ないぞ~? ツヴァイちゃんかなし~」
「……生憎あんたほどキャラが強い知り合いに覚えがない」
「ひっどいなぁ。ジャミルも、スケスケも、アルトンも、マレマレも、本当にボクに心当たりないの~?」
「ないですねぇ」
「ないッス」
「ねーよ」
怒涛のナイナイコールにツヴァイが再び涙目になって、至近距離から俺の顔を覗き込んでくる。
「ほんっとうに、ボクがわからない?」
顔がいいだけに不覚にも少しその仕草にドキッとしてしまう。
「ぷぷぷ。アハ☆ 今ボクにどきってしたでしょ? したでしょ? いや~でもダメダメ♪ ボクにはもうシアルルって旦那様(予定)がいるからね☆ アイドルとしてなら応えてあげられるけど、ガチ恋までしちゃダメだぞ☆」
イラァ。
引っぱたきたいのを我慢して笑顔で彼女の目的を聞く。
「おたくがどちら様かは分かりましたけど、俺たちにどういったご用件でしょう? 助けていただいたのは感謝していますが、お答えいただけないなら船から降りてもらいます」
ここまで言ってようやくこちらが彼女の素性を全く分からないということを理解したのだろう。
やれやれとでもいうように、手を振る。
「もう、仕方ないにゃぁ。それじゃあ君たちにボクという人間を知ってもらおうか」
ツヴァイはまるでグラヴィリオスの内部を知っているかのように、勝手知ったる我が家のような気楽さで入っていく。
俺たちも警戒しつつ、それでも不思議と敵視は出来ず、彼女の後をついていった。
◇◆◇◆
グラヴィリオス艦内、会議室。
普段は百名ほど入れるだけの無駄に広い部屋だが、現在この部屋はまるでどこかのクラブかのように派手にデコレーションされ、ミラーボールが回っていた。
全体的にチカチカしていて目に悪い。
俺は渡された青と紫のペンライトに目を落としていると、派手な音楽が鳴り始め、正面のステージ中央から勢いよく白い煙があがる。
煙の中からは人影が飛び出し、華麗に一回転を決めると全てのライトがそこに集められる。
困惑した俺とイナリは動けないが、状況を楽しもうとしている燐やオニグマたちがペンライトを振り始めた。
「一曲目! やっちゃうよー!」
ツヴァイが満面の笑みで叫び、コミカルな音が流れ出す。
俺氏、娘や友人とともに知らないアイドルの初ライブが始まった。
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