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第18話 招雷神殿

 フユちゃんの怪我を治したのも束の間、すぐにディスティアの強烈な殺気が飛んでくる。

 俺はそれを受け、一歩前へ。イナリ達に下がるよう合図する。


「さてと、こっちとしてはいい感じにまとまりそうなんだが……あんたもそうはいかないか? フィン・トリビュートのご友人?」

「クラレンスか」

「そういうこった。あんたとフィン君、そしてフユちゃんについて教えてもらった。あんたのフユちゃんへの怒りもわかる。だが、ここは頭を冷やして話し合いにしないか?」

「ワシがそれに応じると?」

「いや? ミリも思ってない。ただ、一応の確認だ。あんたを止めるとしたら、その方法はたった一つ。力、だろ?」

「そうだ。ワシを止めたくば“力”でやってみせろ。何ならそこの熊男と二人がかりでも構わんぞ?……人間ッ!!」


 その言葉を最後にディスティアが突撃。

 部分竜化で竜の剛腕に変化した右腕を振りかぶってくる。


「一人で十分だよ、クソジジイッ!!」


 こちらも鉤爪に雷光を纏わせて正面からぶつける。


 俺は単純なパワーに押し負け、ディスティアは鉤爪の纏った雷撃の追撃を受けて、お互いが後ろに吹き飛ぶ。


「バカ力が!」


 一言悪態をつき、すぐに足を動かす。

 恐らく俺が上回っているのはこれだけ。力も、硬さも、あちらが上。

 特殊能力メインではなく、純戦闘力がバグっているタイプ。初見殺しが少なそうなのはありがたいが、ないわけでもないだろう。

 捕まったら即終わり。

 だが、


「捕まえてみせろよ!」


 速度アップのスキルを何重にも重ねて加速した時間の中、ディスティアの放つ風刃を確実に避けていく。

 そして隙を見つけては近づき、鉤爪と足蹴で攻撃する。


「疾ッ!」

「くっ」


 しかし、流石といったところか。手と足、上下の攻撃を上手く捌いてくる。

 インパクトの瞬間には欠かさず送電もしているが、効いている様子もない。『嵐』を司っているだけに雷耐性は高いらしい。



 頭上に強力な魔力反応。咄嗟にバックステップ。

 直後、ディスティアごと俺のいた位置に風圧が掛かり、地面が陥没した。


「ちょこまかと……厄介な」


 なんでもなかったかのように風圧の中心にいたディスティアが文句を言う。

 だが、文句があるのはこっちの方だ。


「あんたこそ人化状態でその強さは反則だろ」


 今とは強さのレベルが違うが、センセムだって人化状態で模擬戦した時、それほど強くはなかった。

 同じ竜王とは思えないほど人化で戦闘慣れしている。


 これなら問題ないだろう(・・・・・・・)


「なぁディスティア」

「なんじゃ」

「あんた初めて会ったとき、俺のナノオーブが見たいって言っただろ?」


 俺は彼に向けていた鉤爪を、紋章のある左手の甲を、暗雲が広がる天に向ける。


「見せてやるよ。来い、ライジン」


 一瞬、鉤爪に隠れた紋章が輝いて光が漏れる。

 だが、変化はない。


「なんじゃ? 何もないではな――ッ!」


 ディスティアが弾かれたように動き、直後、彼のいたところに轟音と共に雷の柱が落ちる。

 そして、天を見上げてようやく気付いたらしい。


「なんじゃと!?」


 天から暗雲を突き破り、巨大なピラミッド状の建造物が現れる。


「これこそが俺のナノオーブ! 招雷神殿ライジンだッ! まずはこの質量爆撃、受けとめてみろ!」


 宣告と共に俺とディスティアを逃がさず囲むように、落下してくるライジンから何重もの雷の檻が展開される。


「馬鹿な! あの巨大さ、お主も巻き添えだぞ!?」

「自分の攻撃でやられる馬鹿がいるか!」


 雷の檻、その一部を解除して落下地点から離れる。


 残されたディスティアがとれる行動は二つのみ。

 一辺200m、総重量2万トンを超える落下物を正面から受け止める。

 もしくは、何重にも囲まれた雷の檻を強引に突破する。


 ダメージは免れないだろうが、現実的なのはまだ檻の突破だろう。

 だが、UBMとはこちらの想定など大きく超えるものだ。



 真っ直ぐに、天に向かって巨大な何かが飛び上がる。

 高速で飛翔するそれは数秒でライジンに辿り着き、真下から衝突した。


 大きな衝撃音と共に一瞬、時が止まったかのようにライジンの落下が止まる。

 しかし、それだけでは止められない。衝突したモノを押し潰すように再びライジンの落下が始まる。


『GAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!!』


 ライジンに張り付いた六翼の竜。ついに竜形態になったディスティアが裂帛の気合でライジンを押し返す。


「おいおいおい。イカレてんな」


 すると徐々にライジンの落下する速度が落ちていく。


 今までにもライジンの必殺コンボ(・・・)である初手の質量爆撃を受け止めるヤツはいた。

 しかし、それはあくまで地上での話。踏ん張りの効かない空中で完全に止められたのは初めてだ。


『返そうか』


 竜が腕を振りかぶる。

 それに合わせてライジンも傾き、


『OOOOOOOO!!!』


 咆哮と共に投げられる。

 落下時よりも速度が増して近づいてくるライジン。それは俺の人間三つ分ほど横に着陸し、衝撃と轟音を響かせた。


「ご返却どーも」


 ライジンは傾き、倒れてしまったが問題ない。

 この神話級金属と同等硬度の外郭が破壊されない限り、内部の発電所は一切傷つかない。ライジンはそういう仕様だ。

 それに落ちてくる前にしっかりディスティアにもダメージを与えた。


 未だ空に羽ばたく六翼の竜。

 だが、その右腕は、ライジンを投げた腕は麻痺したようにだらりとぶら下がっていた。


「どうだ? 流石に神殿本体からの雷撃だ。結構効くだろう」

『まさか、ワシが雷撃にこれほどのダメージを受けるとはな。なんという威力じゃ』

「普通はもうちょい食らうもんだが……炭化してないだけ驚きだよ」


 ディスティアがライジンを投げようとした時、神殿の雷撃を直接右腕に食らわせた。

 結果狙いが逸れて俺が引き殺されなかったのはいいが、これはこれで問題だ。


 ライジンの雷撃。

 第十形態であるということを考慮しても分不相応なほど高火力なのは、一つの縛り、神殿放出の最大火力か指輪放出の最小火力かでしか攻撃を撃てないという点にある。

 そして、ディスティアは最大火力の雷撃放出に片腕麻痺という軽傷(・・)で耐えきった。

 つまりそれは、更に警戒されるこれより後の戦闘、雷撃だけで仕留めるのが難しくなったということだ。


 雷術師系統超級職から引退した身ではあるが、俺は全プレイヤー中でも最高レベルの雷使いの自負がある。その雷撃に余裕をもって耐えきるとかこの竜王はインチキすぎやしないか。


 恨み言を言う暇も、超級職を手放した後悔をする暇もなく、風の刃が降り注ぐ。

 それも今までのものとはまるで違う。威力も、数も、桁違いの攻撃を神殿召喚で出力の増した電磁バリアで凌ぐ。

 しかし、それでも自動迎撃が間に合わず貫通し始める。


 頬に浅い切り傷が走り、血が流れる。

 このまま立ち止まっていてはいい的なので、何とか命中率を下げるためにも走り回る。



 さてと、これからどうしようか。

 ディスティアは遥か空中。降りてくる様子もないし、警戒してか近くの暗雲を風の力で除去り始めた。

 本来俺の得意な対空中戦。だが、相手がああも雷耐性が高いと不利なのは攻撃が届きにくい俺の方だ。


 ライジンの必殺スキルもあるにはあるが、アレはどちらかといえば雑魚をまとめて薙ぎ払う対軍用。

 離れたディスティアにピンポイントで当てるのは難しい。


「――となるとやっぱ時間稼ぎかな」


 今頃ちょうど半分(・・)ほど昇ったところだろう。少しでもこちらに注目させなければ。

 そう考えているとディスティアが魔力を放出し始める。


「何しようとしてんだッ!」


 邪魔するためにも雷撃を打ち込むが、全て風の超加速で避けられる。

 あの巨体でなかなか素早い。もっと近づかなければ攻撃は当たらないか。


 接近の判断が遅く、その間にディスティアの周りにいくつもの竜巻が生まれていく。

 街はクラレンスが守っているとはいえ、あの魔力量、ここら一帯を吹き飛ばすつもりか。


「完全にキレてんな」

『我が真髄、見せてやろう!』


 ディスティアの姿が巨大な嵐に隠れる。

 あれに巻き込まれれば死あるのみだろう。故に俺がとる手段は一つのみ。


「ライジン必殺スキル!」


 俺の言葉に神殿が割れて(・・・)中から円柱状の物体が飛び出す。それは神殿の真上に浮遊するとディスティアの方向に倒れて巨大な砲門に変形する。

 そして、内部装置が急速に回転を始め、貯めこんだ電気をただ一点に収束する。


 先に必殺を撃ち放ったのはディスティアだった。


『滅びよ、トラジック・テンペストッ!』


 いくつもの破壊の嵐が広がり、大地が巻き上げられて地割れが起きる。

 それに合わせて俺も己の必殺を撃ちこむ。


「撃ち抜け、崩滅電磁砲(ライジン)ッ!」


 砲門が輝き、雷撃が発射される。それは一つの嵐を消し飛ばして天を穿つ。

 だが、これでは焼け石に水。そのことは俺も理解している。なのでそれを――


「薙ぎ払えぇぇぇぇぇ!!」


 ――真横に薙ぎ払う。

 紙に一本の線を書いたように、嵐の中間が抜け落ち、崩壊する。


『馬鹿なッ!』

「ライジン!」


 体に雷を纏い、音を置き去りにしてディスティアの真下に駆ける。

 最高速を見誤らせたのと必殺を撃ち破ったかいあり、飛んでくる攻撃は全て明後日の方へ。

 真下に辿り着いてすぐ、脚装備『突竜鎧骨・アルヴィー』のスキルを使い右足で地面を蹴り抜く。瞬間、大きな爆発と共に空へ跳ぶ(・・)

 弾かれたような最大の加速を受けて一直線にディスティアへ迫る。

 当然、真上の存在もその隙を見逃すはずがなく、動揺しながらも手のひらに魔力を集める。


『舐めるな! 嵐よ!』


 手のひらに生まれたのは風の球体。それは手のひらから落ちると同時に小規模な嵐のようになって俺に降ってくる。

 自由の効かない空中では踏ん張りも効かず、ボロ雑巾のように嵐の中心に吸い寄せられる。


 好都合(・・・)だ。

 抵抗する事なく風の勢いに乗り、嵐に呑まれる前にスキル《空蝉》を発動。

 攻撃を受けた瞬間、陽炎のようにディスティアの背後(・・)に現れる。


『SYEEE!!!』


 風の流れで周囲一帯を把握しているのだろう。背後に転移したにも関わらず、一瞬で反応して鋭利な爪で攻撃してくる。

 俺はその攻撃をまともに受けないように出来るだけ体を捻る。

 攻撃箇所は体を捻ったことで爪から手首に。インパクトの寸前に腹に力を入れる。


「くっ!」


 腹に力を入れておいたのに巨人にでも殴られたかのような痛みだ。爪をもろにくらったらやばかった。

 そのまま横に吹っ飛ぶが、『突竜鎧骨・アルヴィー』。スキルが残っている左足で()を蹴り抜き、ディスティアの背中に張り付く。

 そして、


「避雷針!」


 直接接触で発動できるマーキングスキルをディスティアに付与する。


『クソ! やってくれたの人間ッ!』


 すぐに振り払われて地面に落ちるが、問題ない。


「必中状態! とくと味わいな!」


 暗雲の展開と同時に仕掛けておいた複数の雷のオーブ。隠しておいたそれらが残った暗雲から顔を出す。そして、地上にあるライジン本体。

 狙う必要はない。


「ライジン、連続放射!」


 数え切れないほどの雷がディスティアに集中していく。


『魔力全解放ッ! GAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!!!!!』


 迫る雷撃に対し、ディスティアが魔力障壁を展開する。

 彼自身の雷耐性が高いうえに、UBMの膨大な魔力量。ほとんどの雷撃は障壁と拮抗するようにぶつかり、激しく輝く。


 ライジンの連続放射のオーバーヒートが先かディスティアの魔力切れが先か。


 地面が迫る中、このまま(・・・・)では敗北することを理解する。

 俺は空を“跳べる”が、“飛べ”はしない。アルヴィーの再使用時間(リキャストタイム)は60秒。残り時間は半分を切っているが、地面の到着後だろう。

 胴装備の『精霊郷・風加護のベスト』の効果で落下ダメージによる即死はないだろうが、ライジンの連続放射が切れる可能性がある。

 そうなればディスティアは展開中の膨大な魔力を風に変換し、落下の推進力に変えて仕留めにくる。


 天中の輝きの中、センセムの効果で勝利を確信したように俺を見下ろすディスティアを見る。



 ―――だからこそ、俺も勝利を確信できた。



 地面まで後十秒。

 俺の待っているものに気付いたディスティアが、魔力障壁を維持しつつも風刃を放ってくる。


 地面まで後八秒。

 まだ余力があることに驚きつつも、できるだけフウジンの遠隔爪撃で風刃を落としていく。


 地面まで後五秒。

 だが、全ては捌ききれない。風刃が俺に接近するものに襲い掛かり、地面付近で炸裂。土煙で隠れる。


 地面まで後三秒。

 土煙から一つの影が飛び出す。


 地面まで後二秒。

 俺はここまで無事に辿り着いたものに労いの声をかける。


「よく間に合った」


 地面まで後一秒。

 フィーラが手を伸し、俺を回収する。


『当然です。マスターの命令ですから』



 しばらく滑空し、そのままお姫様抱っこされて地面に降り立つ。


「本当によく間に合ってくれた」

『マスターはいつも無茶ばかりですからね。流石に二回目(・・・)にもなれば対応できます』

「前回は背中打って痛かったからなぁ」

『無茶をするマスターが悪いです。私だって毎回間に合うとは限らないですからね』

「へいへい。気を付けます」


 少し怒ったような戦闘形態のフィーラに軽く答えるとライジンが連続放射のオーバーヒートに入る。

 やはりフルパワーの連続放射はすぐにオーバーヒートする。搭載した特典武装のおかげで冷却速度は昔よりも格段に早いが、それでも一々オーバーヒートするのはウザったい。


 上空を見上げると流石の竜王サマでも相当疲弊しているようだ。見るからに肩で息をしている。


「さて、俺の役目もここまでかな。離れるぞ、フィーラ」

『畏まりました』


 ディスティアに手を振って歩き出そうとすると、待ったがかかる。


『ハァハァ。待てお主、逃げる気か!?』


 風の力だろうか。俺の拡声の指輪のようによく離れているにも関わらずしっかりと聞こえた。

 俺も叫ぶことなく、普段通りの声で返す。


「え? そうだけど?」

『ふざ――』

「だってここにいたら危ないし」

『なに……?』


 俺の言葉にディスティアが怪訝そうな顔をする。


「んんっ。それでは。えー今日の天気予報です。ここら一帯は暗雲が広がっておりますが、じきに晴れ。ところにより()が降るでしょう」


 空を、烈火オニグマが埋め尽くした。

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