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第16話 クラレンス・トリビュート

「そろそろ止めますか?」


 俺は城壁に設けられたやぐらの上、石壁に背を預けながら豪奢な服を羽織った金髪碧眼の男性に声をかける。

 だが、俺より少し若そうな彼は、まるでそんな声は聞こえていないように目の前の惨状の方が気になるらしい。

 隆起して荒れ果てた大地とそれを引き起こした存在を、どこかワクワク(・・・・)とした目で興奮したように、今にも城壁から落ちそうなほど身を乗り出して見つめていた。

 外見だけなら滅茶苦茶出来そうでエリート感がある人なのに、今の姿を見ると無邪気な大人という印象だ。愛嬌はあるが、カリスマ性は若干下がっていた。

 釘付けの彼に今度は先ほどより大きめの声で聞いてみる。


「あのー? 止めますかーッ!?」

「うおッ!? あ、あぁ、すみません。そうですね。……それではそろそろ止めましょうか」


 大声に驚いた彼は名残惜しそうにそう言い、城壁から少し離れる。


「私はここ(・・)が境界ですので、代わりにお願いします」

「スッー。……別にそう畏まらなくてもいいですよ? 領主様(・・・)

「いえいえ、あなたにはこの街を救ってもらいましたし、そういうわけにはいきません。それに、私個人としてはあなた方のファンでもありますし。……寧ろジャミル様には気軽にクラレンスと呼ばれたいですね」

「いや、流石にそれは失礼でしょう。せめてさん付けとか」


 俺がそれでも失礼かと思いつつ提案すると、彼は一瞬で反応して嬉しそうに手を握ってきた。


「おぉ! 言ってみるものですね! では少しばかり硬いですがクラレンスさんでお願いします。いつも陛下以外は畏まった敬称ばかりなのでとても嬉しいです。試しに一度呼んでくれませんか!?」

「ア、ハイ。ク、クラレンス、サン」

「くぅ~っ!」


 勢いに気圧されながら名前を呼ぶと、彼は悶えるように体を捩じった。

 相手が相手だけに口が裂けても言えないが、正直ちょっと……いや、かなりキモイ。

 好きなものがあるというのはいいと思うが、こんな風にはなりたくないと思わせる姿だった。


「あぁぁぁ~。何だかとても新鮮ですね! ありがとうございます、ジャミル様! いや失礼、このような時はまじせんきゅー! でしょうか!?」


 圧が、圧がすごい。

 悪気はないのだろうが、眼前の殺伐とした光景と比べて温度差に風邪をひきそうだ。


「……マジセンキューは親しい間柄で軽い感謝を伝えるときに使いますね。初対面では避けた方がいいかと」

「そうでしたか! 実際に使うのは初めてなので勝手がわからず申し訳ありません」

「いや、大丈夫っす。それより、そろそろマジで止めますね?」


 彼を下げさせて一歩前に出る。

 割とのんびり話していたが、よく見るとイナリは随分ズタボロにされている。

 見たところあのスキル(・・・・・)は使ってないので、まだまだ本気ではない。だがそれも時間の問題だろう。

 あいつは性格的に相手を舐めてかかったり油断はしないが、自身の手の内を渋る癖がある。

 あの力とかつての事件(トラウマ)を考えればそうしてしまうのも分からなくはないが、これ以上追い込まれたら最悪必殺(・・)スキルも使いかねない。

 そうなれば止めることも難しくなるので、その前に行動に移るとしよう。


 俺は両手を広げて手のひらに二つの雷のオーブを生成する。


「おほー! 生で見れるぅ~! 生ナノオーブの力! それも第十形態! キタキタキター!」


 隣の貴族様はテンション爆上がりでうるさいが、無視して二つのオーブをぶつけ合わせる。


「轟雷を呼び込め!」


 瞬間、一条の雷が天に上り、弾ける。―――そして、晴天だったはずの空は重く暗い暗雲に飲み込まれた。



◇◆◇◆



――時は遡り約一時間前――



 人混みに流れながら甘い香りに誘われて一つの露店前までくる。

 そこにはリアルでもある見慣れたものとこちらにしかない珍しいものが何種類も共に並び、色鮮やかに露店を飾っていた。


「おっちゃん、これいくら?」


 俺はその中の一つ、こちらでは『モネの実』と呼ばれているリンゴと桃の間を取ったような色と形の果物を指す。


「二つで150ルピ。三つなら200だよ」

「ふーん。じゃあ三つ……いや、フィーラは食わねぇか。やっぱ二つで」

「あいよ」


 財布から銀貨一枚と大銅貨五枚を取り出して渡す。

 こういう時5や50ルピ刻みの硬貨がないと面倒だなとも思うが、売れ残りを作らずお得に買える。お互いがWIN-WINな買い物をするためにこの値段設定なのだろう。


 丸裸で渡された二つのモネの実をアイテムボックスに仕舞う。

 ビニール袋がないのは仕方ないことだが紙袋も渡されないのは、この世界の一般家庭ならアイテムボックス持ちがほとんどだからだ。

 といっても俺の特注品と違い一般向けは容量が少なく、入る量もデカイ鞄一個分が精々だが。



 購入を済ませたので再び人の波に戻る。

 病み上がり(?)である我が愛娘のご要望は“甘いもの”だったが、あとは適当に砂糖菓子でも買おうか。

 幸いにして俺たちプレイヤーが広めた甘味文化は衰えていない。先ほどもホイップクリームの看板が下げられたケーキ屋を通り過ぎたばかりだ。


 どんなものなら燐は喜ぶだろうと考えながら街中を歩く。

 甘いものを食べて笑顔になる燐。それを考えるだけで俺は楽しい気持ちになれるのだから、やはりあの子は俺にとっての特別だ。



 ―――だが、それでも時折考えてしまう。

 俺はしっかりとあの子の親代わりを出来ているだろうか。あの二人、燐の本当の親である彼らとの約束(・・)を守れているのだろうか、と。


 自覚しているが俺は親に向いてない。結構わがままだし、自己中だし、欲張りだし、何よりプレイヤーだ。

 本当にあの子の親足らんとするならば、どこかに定住してしっかりとした学校に通わせてあげるべきなんだろう。俺にはその力も財力も伝手も問題ないぐらいにある。


 だが、俺にそれは出来ない。

 何故なら、それは俺がこの世界に望んだことではないからだ。


 自由気ままな世界の探求。そして、その中での命を燃やせる瞬間。それこそが俺がこの世界に求めるもの。

 つまり、燐の最善たる未来とはあまりにもかけ離れたものだ。


 これまでの、そして、これからも続ける旅が、彼らとした約束を果たすためでも、俺自身の在り方を貫くためでも、俺が燐を縛りつけているという事実は変わらない。

 本来あの子が得られるはずだったものを、出会いを、数々の選択を、機会を、誰よりも大切にあの子を想う俺自身が奪っているのではないのか。

 あの子が将来、俺といたことを後悔(・・)しないか。


 ずっとずっと長い間、それだけが胸につっかかっている。


「はぁ、ダメだな。俺は一人だとどこまでも後ろ向き。……なかなか前を向くのは難しい」


 アイテムボックスからモネの実を取り出して一口齧る。

 リンゴのようなみずみずしい爽やかさ、その中にある桃のような優しい甘さが口に広がり、少し憂鬱な気分が晴れた気がした。

 実は少し硬いが、熟しすぎてぐちょぐちょになったものは嫌いなのでちょうどいい。


「結構甘いな」


 寒い時期が旬のはずだが、今まで食べたモネの実より特別甘く感じる。

 よく食べられるものだし品種改良でも進んだのだろうか。


 二口目を口に運びつつ路地を曲がる。

 すると丁度路地を曲がったところで視線に気づく。


(見られて……いるな)


 前方、後方、左方、右方、そして上方。空も含めた全方位(・・・)からの視線。


 三口目。よく噛みつつ落ち着く。

 初見なら慌てふためくだろうが、俺はこれに似た感覚をよく知っている。

 どこの誰も俺を見ていないのに、確かに感じる視線。


あいつ(・・・)の天神眼を思い出すな)


 ギルドメンバーのとある少女が持つ特殊な義眼のナノオーブ。これはその能力の一つ、戦場全てを空から覗き見る俯瞰能力に似ている。

 だが、彼女と違うのは空に何もないところ。もしもこれが天神眼なら上空に巨大な目があるはずだ。


 それに視線は感じても敵意や殺意はないし、天神眼のようにデバフを受けているわけでもない。ただ、じっと見られているだけ。沢山の監視カメラに囲まれている感じだ。


 俺は試しに適当な路地裏に入って人がいないことを確かめる。

 そして、適当な壁に背中を預けて残ったモネの実を少しずつ、味わいながら食べていく。


 握り拳より少し大きい程度の果実だ。そう掛からず食べ終わり―――


「そこか」


 ―――見つけた場所、真正面に種だけ残った芯を投げつける。

 芯は空中を回りながら飛んでいき、放物線を描が―――かず、何かに弾かれる。


 間をおいてそのナニカが、周りの景色をズラして現れる。

 空気(・・)が変わり、この場を彼が支配する。


 男は金髪に碧眼、誰よりも目立つような豪奢な服を着こみ、自信に満ち溢れた表情をしていた。分かりやすく貴族。ここまで正体がはっきりとしているのもそうそういないだろう。

 彼はどこか大袈裟に、わざとらしく笑い始める。


「ハハ、ハハハッ、ハーハハハハッ! 素晴らしい! 本当に素晴らしい! まさかこんなことがあるなんて! クックックッハーハハハッ!」


 彼は笑って、笑って、笑い続けて、息を詰まらせて激しくむせるまで笑った。


「ゴホッゴホッゴホッ……ハァハァ、ふぅー。いやいや、突然失礼しました。まさかこの目で見られるとは思ってもいなかったので、取り乱しました。――初めまして。私は王より辺境伯の爵位を賜った者。名をクラレンス・トリビュートと申します。ガスパーとディスティア様から活躍のほどは伺っております」


 彼はそう自己紹介し、握手を求めるように手を差し出してくる。恰好や雰囲気で分かっていたが、やはり貴族らしい。

 いきなり爆笑するなんて癖の強い貴族様だなと思いつつ、俺もその手を取るように手を伸ばす。


「―――あなたにお会いできて光栄です。八大ギルド(・・・・・)が一角、“黄昏の雷雨”のギルドマスター。霹靂(へきれき)のジャミル様」


 だが、この時代の者が知るはずのない、俺の正体を言われて咄嗟に手を引いた。


「何故俺のギルド名、それに二つ名まで知っている? ガスパーって人には話してないぞ」

「フフッ、知りたいですか? 私が何故あなたの二つ名を知っているのかを」


 全てを見透かしたように微笑むクラレンスへ敵意を露わにして手のひらを向ける。

 どんな思惑があるかわからないが、これはとても不気味だ。


「あぁ是非とも教えて欲しいね。俺について知っているならわかるだろう。既にこちらの間合い(・・・)だ」

「それはどうでしょう? 私のジョブは超級職、水晶王(クリスタル・ルーラー)。ありきたりなものですが、支配領域では他超級職に一歩勝るものがありますよ?――例えば、こう」


 クラレンスが指を鳴らし、少し離れたところに短距離転移。そして、二十を超える光の槍、中級光魔法のシャイニングジャベリンを展開する。


 無詠唱と並列詠唱の重ね技。魔法使いがよく使う技術だが、通常の同時展開数は精々八~十が限度だ。

 つまり彼の水晶王(クリスタル・ルーラー)の特性は魔法強化系。

 だが、展開数をたった(・・・)二倍化するとは弱すぎる。


 水晶王(クリスタル・ルーラー)唯一(・・)複数人が就ける超級職。その能力は土地と支配範囲、管理するクリスタル(セーブポイント)によって千差万別だが、これはあからさまなフェイクだ。

 本来の同時展開数はこの倍か。それとも更にその倍なのか。魔法の威力まで上げられるのか。

 能力を予測できず、底が見えないのが、水晶王(クリスタル・ルーラー)の恐ろしいところだ。


 クラレンスが手を掲げ、光の槍が俺に照準を済ませる。そして振り下げると同時、俺目掛けて一直線に飛翔してきた。


 俺も迎撃すべく鉤爪を装備しようとするが、――やめる。



「……何故避けなかったのですか?」

「殺意が微塵もなかったからな。こうなると思った」


 俺のことを刺し貫くはずだった光の槍。

 しかしそれは俺に命中することなく、全てが薄皮一枚のところで止まっていた。


「それに俺を殺すつもりなら姿を見せずにやればよかった。そんな常識的判断だ」

「フフ。バレてましたか。では、次は本気でいきますよ!」


 クラレンスはもう一度指を鳴らし、今度は今の五倍(・・)以上。空を覆いつくすように百を超えるシャイニングジャベリンを展開する。


 夜ならば美しい星のようで見惚れただろうが、生憎先ほどのものを遥かに超える膨大な魔力が込められていた。


「凄いな。ここまでできるのか」


 各クリスタル(セーブポイント)に一人就けるという都合上、今までも多くの水晶王(クリスタル・ルーラー)と出会ってきたが、これほどの力を持つ魔法強化型はそうそういない。

 領域内での純粋な魔法戦ではトップレベルだろう。


 いつの間にか空中に転移したクラレンスが俺の言葉に答える。


「いきなりで申し訳ないですが、全力でいかせてもらいます。ですがあなたが本物なら、このくらい訳はないでしょう?」

「まぁそうだな」

「ハハッ自信満々ですね。流石です。……いいですよ。では、言葉通り見せてください。あなたの力を。―――全弾、発射ッ!」


 合図と同時に放たれる百を超えるシャイニングジャベリン。

 膨大な数と込められた強大な魔力量でいえば、逸話級魔法さえ優に超えるそれらが一斉に降り注ぐ。



 だが、その光槍は――


「シールド展開」


 ――俺を守るように展開された半透明なドーム。電磁バリアに触れた瞬間雷撃に破壊されていく。


 しかし、数が数だ。一本、また一本と自動迎撃が遅れて電磁バリアに突き刺さる。


 次第に穂先が食い込んで突破される寸前、真横に飛んで貫通した槍を回避。そして、


「解放」


 半壊したドームが爆速的に、風船が膨れ上がるようにして急速拡大。

 街の建物ごと全ての光槍は崩壊した。



◇◆◇◆



 光と雷のぶつかり合い。

 僅か十秒にも満たなかったその攻防は、電磁バリアの拡大により辺り一帯を破壊することで終わった。


 俺にはかすり傷一つないが、落下するように降りてきたクラレンスは激しく呼吸を乱してひどく汗をかいていた。全力で魔法を行使した故の魔力枯渇だろう。

 だが、彼に悔しそうな様子はまるでなく、寧ろ興奮したように口角をあげた。

 そして、その感情を抑えきれないように、フラフラになりながらも、再び高らかに笑う。


「ククッ、ハハ、アハハハッ、アハ、ハーハハハハッ! ハーーーハハハッ! アハハハハハ!」


 それと同時に周りの景色が歪んでいき、俺の壊した街並みもまるで時を巻き戻すかのように元通りに戻る。


「ハハハッ! これも驚かないのですね!」

「光の槍が出現しても街中からは一つの悲鳴も聞こえませんでしたから。すぐに分かりましたよ。……それでも魔法スキルの奥義の一つ。固有空間の展開をあれほどの大魔法と同時に行使するとは、本当に素晴らしい才能と技術、そして努力です」


 街の一部を別空間に上書きしつつ、短距離転移や薄皮一枚レベルで精密な操作の光魔法を行使。そして、最後はあの百以上はあった魔法の並列詠唱。

 言葉にすれば簡単だが、とんでもないことだ。

 それ相応に消耗もしているが、空間の上書きという手加減(ハンデ)がなければ電磁バリアもあっさり突破されたかもしれない。


「ハハハ。憧れの英雄に褒められるのは嬉しいものですね。きっとこの幸福を味わえるのは世界でたった一人。この私だけだ。死ぬほどきつい師匠の修行を耐えてよかった」


 クラレンスは満足したように、泣き出しそうな声でそう言い、後ろに倒れこんでしまう。


「お見苦しくて申し訳ない。ですが、今は立てそうにありません。魔力不足が酷くて最高の気分なのにとても気持ち悪い。あぁ、それと私のわがままで戦わせてしまって申し訳ない。どうしてもあなたが本物かどうか、それをこの目で確認したかったのです」

「まぁ、これでも貴族様の相手は慣れているのでいいですよ。それで? 俺はあなたの御眼鏡に適いましたか?」


 俺の質問にクラレンスが驚いたように目を見開き、笑う。


「ハハッ。この結果を見てそれを聞きますか?」

「確認とは重要なことですよ。特にいきなり仕掛けてくるようなやんちゃな貴族様が相手ですと」

「そうですね。全くもってあなたの言う通りだ。――えぇ、認めましょう。あなたは紛れもなく本物だ。この目、この力、私のすべてで確認しました。……初めまして、古き英雄ジャミル。私の街へようこそ。心の底から歓迎致します」


 彼は魔力不足により震えた手を何とか持ち上げ、今までで一番の笑みをする。

 俺はその手を取り、強く握り返した。



◇◆◇◆



 場所を移し適当に目に入った喫茶店の中。

 魔力枯渇から回復したクラレンスが、アイテムボックスから一冊の古びた大きな本を取り出す。一瞬魔法道具(マジックアイテム)の類かと思ったが、違う。魔力は全く感じない。


 彼は何度もそれを読んだのか。中身が分かっているように素早くページを捲っていき、挿絵の入ったページで俺の方に向けてきた。

 その絵には雷を纏った男、陰陽師のような恰好をした少女、錨を担いだ女、巨大な熊を引き連れる男などそれ以外にも複数人の人物が描かれている。


 初めて見る本なのに、俺はそれらが誰なのかよく知っていた。


「それは……俺たちか?」

「はい。これは私が幼いころに書斎で見つけた英雄譚……というよりは歴史記録本でしょうか。ある時から突然現れて幻のように消えたプレイヤーという英雄たちの旅の記録。『異邦見聞録』の大魔竜封印編。私お気に入りの一冊です」

「大魔竜……封印ってことはクウガですか」


 確認すると一瞬でクラレンスの目の色が変わった。


「そうです! 二つの大国を滅ぼしたあの伝説の大魔竜! そして、それを討伐するために初めて八大ギルド全てが協力して臨んだ戦い! 死闘の果て、四度(・・)の大魔竜消滅と“断界”のアントム様を軸とした隔離封印の儀式大魔法! 誰が欠けても決して成し遂げられなかった今までで一番熱い戦いでした!」

「お、おう。懐かしいですね」


 彼の熱い語りでかつての超大規模レイド戦を思い出す。

 二つの国を丸ごと更地に、否、砂漠(・・)にした上でなお、倒しきることが出来なかった伝説の大魔竜。

 結局奴の不死身のギミックは最後まで分からないまま。封印する以外の手段がなかった。

 確かにあの戦いなら文章になったとしても十分な読み応えだろう。


「この本は私が強くなろうと決意したきっかけです。“地響”の助六丸様も、“無貌”のセラ様も、“断界”のアントム様も、そしてあなた“霹靂”のジャミル様も、この戦いに参戦してくれた、この世界を存続してくれた方たちは、全て私の憧れなのです」


 彼は更にページを捲り、物語の後ろ。人物紹介のページまでいく。

 そして、数えきれないほどの獣に囲まれた一人の男のところで捲る手を止める。


「ちなみに私の“最推し”はこの方! 大魔竜討伐の旗印、この戦いに参加した二人の九席(ナンバーズ)の第二席。“虚栄王座”クレアール様です! 九等竜(・・・)の同時攻撃を最果ての獣で三度も防いだのは激アツでした! ジャミル様と絡んだ話ですと――」

「分かった! うん。そちらが俺に詳しいのはよく分かりました」


 これ以上喋らせると永遠に続きそうなのでその前に止める。



 そしてコーヒーを一口飲み、そろそろ彼が接触してきた目的を聞くことにする。俺たちを知る理由が歴史書というのも分かったし、ちょうどいい頃合いだろう。


「それよりそろそろ教えていただきたいのですが、領主様が俺に何の用ですか? 護衛もつけずに来るのはいささか不用心で威厳に欠けますよ」

「あぁ忘れていました。そういえば私のことばかりでまだ話していませんでしたね」


 クラレンスは本当に忘れていたようにそう言い、アイテムボックスから一冊の日記と二枚の写真を取り出して机に置く。

 日記は何度も繰り返し読まれたのか随分古びており、写真も同じように二枚とも色褪せていた。

 写真の一枚目にフィン君とフユちゃんが。二枚目には車椅子に座った年老いた男性とそれの隣に立つディスティアが。それぞれに写っていた。

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