第12話 裏切り者
『おねぇちゃぁぁぁぁん!!!』
腹に大穴を開けて落下する女が、最後の力を振り絞るように叫ぶ。
すると俺の放った雷の矢は寸前で避けられて空の彼方に消えていった。
「避けられたか」
敵視界外からの同時攻撃。
フィーラが自分から提案をするなんて初めてだ。
面白そうだったから案に乗ったが、タイミングを合わせ損ねた。
「まぁこっちはやってくれたしいいだろう。――フィーラ、降りてこい」
インカム越しに伝えるとフィーラはすぐに降下してきた。
『申し訳ありませんマスター。タイミングを合わせられませんでした』
「いや、それについてはいい。お前の落ち度ではなく俺が遅かった。それよりあれの方は?」
俺は上空の敵。冷たい目で地上を見下ろす赤髪の女を指す。
『右腕が欠損。左腕は何やらエネルギーを溜めております。武器として使用していた十本の突撃槍の内六本は落としました』
フィーラが簡潔に敵の報告をする。
地上のやつと戦っていた感じ敵はフィーラより格上だと思っていたが、右腕を吹き飛ばしたり武器も半分以上落ちしていたり随分ボロボロらしい。
「上出来だ。残りは俺がやるから燐のところに戻ってくれ」
『YESマスター』
フィーラを下がらせて地上に落ちてきた青髪の女のところに向かう。
赤髪の女はてっきりすぐに燐を狙いにいくとかそこで横たわっている仲間を助けに来るとかすると思っていたが、動く様子はない。
フィーラの言っていた通りエネルギーを溜めて込んでいるのか。それとも……
「躊躇しているな? ってことならまずはこうしていこうか」
俺は青髪の女。腹に大穴を開けて地に伏せながらも、まだ生きているそれの首根っこを持ち上げる。そして、空いた左手で首元に鉤爪を突きたてつつ、拡声の指輪で話を始める。
「あーあーあ。よし、おい、浮かんでるやつ。今から少し交渉をしよう」
しっかりと俺の声が聞こえたらしく赤髪の女が睨んできたのがわかった。
『ぐっ……メーヴェ、構わずう――』
「はいはいちょっと黙ってろ」
何か言おうとしたので電気を流して遮る。
『あああぁぁ!』
耐性のない人間なら即死レベルのものだが、しっかり耐えている。それに鈍そうではあるが痛みも感じるらしい。
ただ、余計なことを言われるのも面倒なので先に黙らせる。
「エア・コントロール」
暴風爪牙・フウジンのスキル。俺の半径2.5m以内の空気を自由に操作できる能力だ。
機械っぽいので窒息することはないだろうが、真空で覆うことで音、つまり声を遮断する。通信で喋られたらどのみち同じだが、やらないよりはいい。
さっきお姉ちゃんと叫んでいたことからコイツは妹なのだろう。さて、こちらのカードに彼女はどうでるか。
◇◆◇◆
Side―メーヴェ―
最悪の状況に歯嚙みせずにはいられなかった。
私には痛めつけられて叫ぶドゥーエの声と同時に通信からも必死の訴えが届いていた。
【メーヴェ! 何をしている、早く撃て! 今ならこいつは油断している。私諸共やれるはずだ!】
我らは兵器。ただ最高機関の意のままに動く者。
それでも、造られてからずっと共に動いてきた妹をこの手で殺そうとする事実にチャージの完了した砲が震える。
【何故躊躇う!? 私一人と管理者の首。どちらが優先事項かはわかるだろう?】
【分かっている。だが……だがッ!】
【……あくまで撃つ気はないのか? ならば私は自爆するぞ】
【自爆だと!?】
【それだけでは仕留めきれないだろうし警戒もされるだろうが、決心はつくだろう】
【ま、まてドゥーエ、分かった。コレは撃つ。だが、その前に一つ試したいことがある】
ドゥーエの自爆を止め、私は一縷の望みをかけた博打をすることにする。
使えるのは三本。勝負は一瞬でつけなければならないし、もっと近づく必要がある。
だからこそ、あちらが交渉したいと言ったのは幸運だった。
こちらも拡声機能を使い返答をする。
『交渉の話に乗る。今から降下するが、決して攻撃しないでほしい』
「いいだろう。その槍は捨てて早く降りてこい」
許可が取れたので残った突撃槍を手に持ち、四方に放り投げていく。
確実に街の外まで飛ばしたことを確認させたので降下を始める。
だが男の命令に完全に従うわけでもない。誤って怒りを暴発させないギリギリを見極めて出来るだけゆっくりと少しずつ降りていく。
やがて目指していたもの。1res1baa2rCF0LeQに撃ち落とされた水晶の突撃槍が再び私の影響圏に入る。
落とされた六本のうち三本は真ん中を撃ち抜かれてひび割れてしまっているので動かせないが、残りの三本の状態はそこまで悪くない。
1res1baa2rCF0LeQの相手は四本あれば十分だったので、いざという時の急降下奇襲に使うつもりだったものだ。
私はそれを動かし一つだけ柄の部分を長くして位置に着かせる。
幸いなことに戦闘で人が離れた街中。気づかれることなく三方向別々の位置に配置できた。
そしてこの賭けを実行するのに最適な高度まであと10mを切る。
【ドゥーエ、これから私は閃光弾を使う。その瞬間手を真上に、合図の瞬間強く握れ】
【分かった】
【では行くぞ……】
残り3m、2m、1mを切り――
【――今だ!】
瞬間、私は左太ももの機械部に収納しておいた極小アイテムボックスを放出。
即座に真下目掛けて正確に蹴り抜く。
それを攻撃と思ったのだろう。一瞬のうちに男が反応。アイテムボックスは雷撃にあっけなく破壊され―――百を超えるスタングレネードがばら撒かれた。
即座に信号を送り全てのスタングレネードを起爆。
私自身も大音響と強烈な光を受けながら、突撃槍を飛ばす。
一本目は男の頭を、二本目は腹を、三本目はちょうど手を挙げたであろうドゥーエの拳に。
【掴め!】
合図とともに柄の長い突撃槍が僅かに重くなったのを感じた。
ドゥーエが突撃槍を掴んだのだ。
即座にそれを上昇させて回収。
私は腕がないながらもドゥーエを抱きしめようとして―――その突撃槍にはドゥーエの右手しかついていなかった。
「いや~惜しかったなぁ? こちとら紙装甲の速度特化。一撃も貰わねぇよ」
煽るようなその言葉に地上を見下ろすと、男は傷一つなく指で首から下げた指輪を弾いてみせた。
「明暗疾駆・センセム。銘の通り俺にはどれだけ明るかろうが暗かろうが関係ない。どんな光量の中でも決してその足は止まらない。俺の友達が残した最高の贈り物だ」
男が自慢げに装備の性能を話す。
だが、それはあのスタングレネードを防いだ理由の全てではない。光は分かった。しかし、音はどうやって防がれたのか。まるで聞こえなかったかのように平然としている。
分からない。
この男はあとどれだけの手札を隠しているのか。底が全く分からない。
これがプレイヤー。あの臆病者が勝てないと確信していたのも頷ける。私は、私たちは所詮歴史の遺物だからと過小評価してしまった。
これを、こんなものを復活させる代行機関の判断は間違っていた。これでは我らの計画にすら影響が出かねない。
もはや私にできることはこの最後の一手を使うことのみ。
この左腕の砲を用いてドゥーエ諸共街ごと吹き飛ばすしかない。だが、―――やはり引き金は引けない。
ただ男を睨みながら、砲を向けることしかできない。
「まぁ無理だろうな? ……俺だってそうさ。一番大切なものはどんな状況でも決して犠牲にできない。だからこそ俺はお前たちを絶対に許しはしない」
男はそう言い爪に風を纏わせていく。
「先に逝け。すぐに追わせてやるよ」
私は数瞬後に迫る自身の死を確信し目を瞑る。
それでもなお引き金は引けず、そして、―――砲の制御権が乗っ取られた。
「は?」
私は混乱のあまり間抜けな声を出して目を開ける。
誰がこんなことをしたのか。すぐに砲を確認すると、先ほど回収したドゥーエの右腕が付いていることに気づく。
【姉さんは、優しすぎる】
ドゥーエはその言葉を最後に一度笑って、砲を起動。
既に十分なチャージタイムを過ぎた『模倣《淵龍砲》』が発射される。
私にそれを止めることはできず、かつて最高機関が滅ぼした世界。その頂点に立つ龍の極点。その一割模倣の力があらゆるものを破壊するべく地上に迫る。
だがそれは―――
「憤怒の終局」
―――そう聞こえた瞬間終わったことになり、私の視界には最後、いつ、どうやって現れたのかも分からない竜王の顎が映った。
◇◆◇◆
Side―ジャミル―
俺は破壊の砲撃を、少なく見積もってこの街を地図上から消し去るはずだった砲撃をただ一つの感情で防いでみせた男に手をあげる。
彼はこの世界には似つかわしくない紺のスーツを着こなし、黒髪に明るい緑のメッシュを入れた髪と翡翠色の目が特徴的な温厚そうな男性だ。
3mを超える巨大な熊を引き連れる彼こそ俺の友人、助六丸その人である。
「よく間に合ってくれた。助かったぞイナリ」
「連絡ありがとうございました。ギリギリでしたが間に合ってよかったです。お久しぶりです、ジャミ」
イナリはそう言い、遠慮がちに俺の手を叩く。
「オニグマも久しぶりだな」
『ガウッ!』
俺の言葉を理解して甘えるように体を寄せ付けてくる熊を撫でる。するとすぐに体格差で押し倒されて頬を舐めてきた。
「うおっ、久しぶりだからってやめろ」
この大熊はイナリのナノオーブ、プロテクト&レギオン型第十形態の『山脈巨獣 オニグマ』だ。
「オニグマ、あまりジャミを困らせてはいけないよ。―――残りは君かい?」
イナリはオニグマに軽く注意しつつ、姉だったものの残骸に這ってでも向かおうとする青髪の女に近づく。
「よくも僕の友人とその大切な人に武器を向けてくれたね。―――僕はとても怒っている」
言葉と共にイナリの目が黒く淀み、素肌が見える部分に刻印が浮かぶ。
そして青髪の女の周りが一瞬歪み、
「死ね」
巨大な拳に握られたように空間が潰れた。
◇◆◇◆
Side―???―
「いや~危ない危ない。回収出来てよかった」
私はそう言い、フレミアという街から四方向に散らばって落ちていたメモリーチップの最後の一枚を手のひらで握り潰す。
「まさかあの突撃槍にこんなものを仕込んで飛ばすとは。……わざわざジャミングしていたのにしてやられるところだった」
私は安堵にため息をつくと近くにあった倒木に座る。
「だが、アレは少しあからさま過ぎた。だからこうして私が回収できてしまったんだね」
私はまるで生徒にアドバイスする教師のように空へ言葉を投げかける。だが、当然返ってくる声はない。
「はぁ。……死ぬとわかって送り出したくせに。本当に我らが獲得した心とは厄介なものだ」
私は目を瞑り、ほんの一時、300年ほどの時間を共にした機械の姉妹を思い出す。
お互いを大切に思いながらも、最高機関の犬で在ろうと、機械らしく在ろうとした二人の姉妹。
結局最後の最後まで私のような裏切り者には心を開いてくれなかったが、それでも姉妹と共にいたのはよかったこと、と思えるような時間もあった。
私は今後も、私の願いのために仲間を騙し、煽り、裏切り、殺す。
今回の二人はそんな始まりの一幕に過ぎない。
「後悔するな私。私の選択は間違っていない。そのための犠牲だ。私は彼女を必ず救う。―――いずれ来たる日に全てを清算すればいい」
私は自分にそう言い聞かせ、倒木から立ち上がる。
本当に自分は全てを清算できるのか。その答えすらわからないまま。
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