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8 魔王の話

いきなり暗い。

 マキナ・エクス・マキナは三界の魔王である。

 はるか昔、ある世界にあった大きな木の股から、今の姿で生を受け、それから姿を変えぬまま現在に至っている。


 魔力に満ち、魔物しか居ないその世界で、マキナは魔物たちの王として君臨した。

 しかし、魔物たちの世界の割を、マキナは早々に察した。

 魔物たちは生産することしない。作り出さない。育てない。それがいわゆる食物連鎖のように食うもの食われるもので一定のバランスを保っていれば良かったのだろうが、なまじ死ににくいくせに増えやすいために、世界はそのうち食らい付くされるだろうと思われた。

 マキナは、その世界で唯一、十分な知性と理性を持っていた。おそらく、その世界の神の企みであったのだろう。世界を滅ぼさぬために、魔物たちの王として作られたのである。


 だが。

 マキナからみて、己が作られるのは遅すぎていた。

 支配し、統治したところで、失ったものを取り戻せる線を、すでに過ぎていたのである。


 マキナはそれこそ、寝る間を惜しんで考え、実践し、そしてまた考えた。

 そのために作られたなら、そう生きるしかできなかった。魔獣たちは言ったところで聞かない。暴力で支配し、統制し、数を減らし、制御をしても、追いつかない。


 この世界では足りていない。


 マキナがその結論に至ったのは、ある意味、当然の帰結だった。

 そこからマキナは、世界を渡る方法を思案し、思索し、考え、そして実践した。


 過剰な世界から資源を引き込み、不足する世界へ魔物と魔力を送り込んだ。

 そうして最終的に、滅びに瀕した三つの世界を『救った』。


 三つの世界をほぼ同時に救い、滅ぼすでもなく一部の――魔物や魔族と言われる者たちだけを――統治し、バランスを保ってみせた、世界の天秤。


 三界の神たちにとっては、思いもよらぬ幸運だった。

 それらの世界に住まう者たちから見て魔王でも、神々から見ればそれは救世主に等しい。

 しかも、与える前に成したのならば、祝福を与えるにふさわしかった。

 それぞれ、何らかの手段で解決を図らねばならなかった中で、突如として現れたこの『魔王』を、神々は密かに祝福した。


 マキナは三界を行き来しやすいよう天空に城を作り、己の母樹をその庭へ移した。

 城にはマキナを慕う魔物だけが集い、彼の世話を焼いたけれど、マキナはそれを不要と思った。

 ずっと一人であったので。

 魔物たちはやがて番って子をなして、死んでいく。

 死なずに置き去られるマキナはずっと、それを見ているだけだった。


 神々にも、なぜ彼がそのように在れるのかはわからなかった。

 ただ、彼に残されるのは常に孤独だけだった。



***



 なにそれ。

 お昼食べて、お昼寝したいって言って、お昼寝がてらマキナの過去を全知で調べてたら結果がこれ!

 これ!!

 なにこれ!


 それで?

 木の股から生まれれば同類になってくれるって思ってたってこと!? そういう! ことか!


 あー。おもたーい!


 マキナがほしいのは同類だ。自分を孤独にしない誰かだ。

 それを『伴侶』とか『番』って呼ぶなら、多分それは正しい。けれど、その相手に求めるものが、重い! ものすごく!

 そもそもマキナが生まれたのが、少なくとも私が想定する一生の五回分よりもっと前だ。オールドミスならぬオールドミスター。若作りと言うより形の経年が止まってるっていうほうが正しいかも。どういう作り方したんだ神様。


 でも。

 だけど。

 それなら思う存分甘えさせてもらおう。

 それで、もし、マキナが私の害になるほど私に依存するなら――逃げよう。

 それならWin-Winの関係っていうかトレードオフっていうか等価交換でいいんじゃないかな。

 これ私のご褒美のはずなのに。神様ちょっとそこに正座しろって言いたいけど。マキナのご褒美も兼ねてるじゃんこれ。どういうことなの。


 マキナが私を甘やかすのは、私が今の所マキナにとって一番『同じイキモノの可能性が高い』からだ。その私を、逃さないため。

 だから、それが甘やかしとかによる引き止めから、監禁に移ったりするなら、逃げ方も考えなきゃ。


 私は、お昼寝をしていたベッドの上に起き上がる。

 朝、私を抱き枕にしていたマキナはいない。丁度いい。


 部屋に戻ったときにすでに用意されていたネグリジェから、改めてワンピースに着替えて靴を履く。

 マキナは――お仕事中かな。一応魔王だし。予知、しておいたほうがいいのかな。うーん。いっか。とりあえずそのままで。


 考えてみれば、私はマキナを嫌いじゃない。

 イケメンだし。優しいし。今の所、信頼していいと思う。知ってしまった背景から考えても、多分、裏切りはしない。ただ、私の扱い方がどうなるかわからない、というだけ。


 ――私が彼の、ほんとうの意味で同類じゃないって知ったら、彼は私をどうするだろうか。


 怒って殺すかな。でも頑強があるから簡単に死ねないんだよね。首を一刎にしてもらわないと多分無理だしそれは私逃げると思う。命の危険には流石に予知が自動発動だし。


 やっぱり逃げ道の確保が大事だな。うん。嫌われる前に消えられるようにしないとね。


 ――マキナが優しいって知っちゃったし、甘やかされるって気持ちいいってわかっちゃったから、一人で平気、なんて耐えられる気がしないんだよね。


 私も、まあ、半分以上自業自得だけど。神隠しされやすくて、その分いる間は優等生して、そのくせ、手加減してるような相手、って割とはれもの扱いだったからね。

 それで仕方ないし、手加減してなきゃだめなんだから、って一人でいたし、一人で平気だって思ったし。

 世界を救うのだってそう。色々カンストしてから呼ばれる時は、パーティーメンバーはLv.1、私だけLv.99みたいな状態で、かばいながら戦うとか、まずはメンバー育ててからとかやってられないし。

 その世界の王様とかが準備した、初対面のパーティーメンバーがさ、本気出してくださいよ早く世界を救わなきゃっていうから、本気だすと、だいたいあっちがやる気なくすんだよね。


「貴方だけでいいじゃないですか」

「よそ者のくせに」

「僕らを馬鹿にしてたんでしょう」

「なんで早く来てくれなかったんですか」


 とかとかとか。気付いてからは、パーティー組むより単独RTAだった。そのほうが楽。


「うん、そのほうが、楽だよ」


 私は小さく呟く。ネガティブになるからこういうの思い出すのやめよう! やめやめ!

 真っ白な靴を履いて、予め全知で知っておいた城の中をまずは探検ですよ!


 『開錠』を唱えて部屋の外に出ると。

 ぬん。と。

 マキナが立っていた。

溺愛とは。

溺愛、とは。

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