6 ドレスアップでメイクアップ
お着替え回。
「お待たせいたしました」
お耳ぴこぴこなマキナに抱えられているうちに、芋虫蜘蛛のシルクさんが、その手に何着かのワンピースを持って現れた。どれも少し大きめに見えるんだけど。
「わたくしめの布と縫製は、着たときにその方のカタチに整います。ですから、大きめに見えて正しいのですよ」
「便利~~」
私が感心していると、また少しマキナがむっとした。独占欲強いなおい。
「マキナ、下ろして」
「なぜ」
「着替えるから」
「俺が着せ――」
「やだ」
「そうか」
という攻防の後、私はシルクさんから服を受け取った。
「そちらに更衣室をご用意しておりますから、一着ずつお試しくださいね」
渡されたのは3枚のワンピース。
さっき着ていたのと同じようなシンプルなイエローのワンピースに、胸元が白、その下から切り替えて濃紺の、ハイウエストのAライン。黒でフレアスカートのシャツワンピース。どれもシンプルだけれど、形がとてもきれい。
まずイエローを着てから、更衣室を出て、くるりと回ってみる。
「似合っている」
と真顔のマキナ。
続いて白と紺のハイウエストAラインに着替えて、同じくお披露目。
「似合っている」
同じく真顔。声が低い。
最後に黒のシャツワンピース。くるりと回るとまた真顔。
「似合っている」
どれも感想同じじゃん?
私がちょっとムッとしたのに気付いたらしいシルクさんが、
「着心地はいかがですか」
と聞いてくれる。
そう! 着心地!
「すごく良いです! 体にピッタリなのに、柔らかくて苦しくないんです!」
答えると、嬉しそうに――昆虫顔なのであまり表情はわからないんだけど――うなずきながら、シルクさんは
「そうでしょうそうでしょう」
と答えた。
「わたくしの糸と、わたくしが織った布、わたくしの魔法。すべてを縫い込んでおりますからね」
多分全知で調べれば、私も『作り方』はわかると思う。でも、この糸とか、縫い方とか、デザインとか、そういうのは、シルクさんが積み上げた技能だ。私の手ではできないこと。
「すごい。ほんと、すごいです、シルクさん」
「ありがとうございます。お嬢様」
合わせてシルクさんがかわいい白い靴をくれて、それを履いて、今日はイエローを着ていくことに決定。残り2着と、他の服も部屋に届けてくれることになった。
っていうか、一瞬で三着用意できるのも魔法なのかなすごいな魔法。多分シルクさんだから使える固有魔法なんだろう。できることを限定することで、効果を上げている感じかな。
で、私がシルクさんの服と技能にすごいすごいと喜んでいたものだから、またマキナが少しすね気味に私を抱えあげて。
「次は宝石だな」
って衣装部屋を後にした。
なんか、本で読んだのだと衣装部屋に宝飾品も仕舞ってあって、ドレスと合わせて着付けたりするもんじゃないのかな?
私を抱えて廊下を歩くマキナに、尋ねると、ああ、と頷いて。
「今まで宝飾品をあまり作っていないからな。ほぼ全て石の状態で保管してある。好きな石を選べばいい」
そこからかー!
「マキナはあまりつけないの?」
「宝石か? 好まん」
「好まないのに私につけるの?」
「お前をより輝かせるためにあると思えば良い。お前は何を纏っても好ましい」
盲目~~! めっちゃ照れるー!
「あ、ありがと」
「ああ、そうだ」
そして思い出したように彼が言う。
「あまり、他人を褒めるな」
流石に理不尽に感じて、私は首を左右に振った。
「だって、私のためにその技術を使ってくれたなら、お礼も称賛も対価じゃない?」
「この城の者たちへの対価は俺が与えている。お前のために俺の部下が働くのは、それが仕事で、使命だからだ。礼などいらない。お前はただ当たり前に受け取ればいい」
「それはやだ」
「……なぜ」
仕事でもお礼言われたら嬉しいじゃん!
コンビニのレジでありがとうございますって言うし、バスの運転手さんにも降りる時言うでしょ。言いましょうって、小学校で習ったでしょ!
私だって言われたかったもん! 世界を救って当たり前って顔、結構しんどかったもん!
「当たり前のことだって、それが仕事だって、だからって、お礼を言われて嬉しくないことないでしょ? だから、私は言いたいな。
ありがとう、マキナ。私のために色々してくれて。それが、マキナにとって当たり前で当然でも、私は嬉しいよ」
だからちゃんと、私もマキナにお礼を言おう。
こうして大事にしてくれているんだもの。ちゃんと言わなきゃ。マキナに言ってないのに、他の人にお礼言ってたら、そりゃあマキナも面白くないよね。これは私の配慮不足だったわごめん。
マキナはまた耳をぴこぴこっと動かして少し頬を赤らめた。あらかわいい! えっ! かわいい! 強面イケメンなのに顔赤くなると可愛いとかずるくない?
「……構わん」
「う?」
「お前の望むままでいい」
「うん。そうする。ありがとう、マキナ」
マキナは私を尊重してくれる。というか、私を一番に大事にしてくれている。すっごく甘やかしてくれるけど、マキナは無理してないだろうか。それだけ、ちょっと心配。
マキナに抱えられて、わたしたちはまた別の部屋に入った。
その部屋は、見るからに工房だった。
赤々と燃える炉があったりとか。いろんな器具が置かれた木机とか。
「おお、魔王様、ようやく飾り付ける気になったのかい」
すすで汚れた小さな男の人。多分、ドワーフのおじさんが、そう言って顔を上げた。
「お前は今日は何をしていた」
マキナが尋ねると、ドワーフのおじさんは白い歯を見せて笑う。
「ちょうど魔銀が届いたんでな! 使いやすいように練っていたのよ! 急ぎの用かい?」
「ああ。カナン、俺の伴侶だ。彼女のための宝飾を」
腕の中の私を示して、マキナが言う。
ドワーフのおじさんは目をまん丸にして私を見て、それからマキナを見て、また私を見た。
「小さくねえですかい?」
「幼体だ。これから育つ」
「はあ。まさかもうお手つきに?」
「殺されたいのか」
マキナの雰囲気が一気に氷点下だ。炉の火も凍りそうだよ!
「いえいえ! 滅相もない!」
ドワーフのおじさんは怯むことなくかっかと笑う。
「いやあ。良かった。幼体とはいえ、ようやく魔王様に同族ができたんだ、めでてえこってす。ドワーフ族の宝飾職人ジェームズ、喜んで鎚を振るわせていただきます! となりゃあまずは石を選ばねえと。
お嬢様、欲しい装飾品はなんですかい?」
「えっ」
急にふられると私もびっくりしてしまう。ずっとテンポ良くマキナと話してたから、私に話題が来るとは思わなかったよ!
「普段遣いの、赤い石付きのネックレスを一つ、それに重ね使いするドレス用の首飾りとイヤリング、髪飾りを数揃欲しいな」
私に聞かれたと思ったらマキナが答えてるし!
ドワーフのおじさん――ジェームズさんは深く深くうなずいた。
「なるほどご自身の色をつけていてほしいってこってすね。他の飾りは成長した後も使えるように、直しがしやすい形にいたしやしょう。こちらへ」
ジェームズさんは部屋から続く隣の部屋のドアを開く。
そこには。
まばゆいばかりの宝石に、金銀財宝としか言いようのない、沢山の宝物が積み上がっていた。
マキナの褒めるための語彙力が足りなくなってるやつです。