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2 納豆魔王との遭遇

勢いだけです

 次に目覚めたとき、私は裸でおっきな木の麓に横たわっていた。だいたい8歳の頃くらいの体格だろうか。

 起き上がると、周りに居たのは、ケモ、だった。

 獣、ではない。野生とかそういうのじゃない。

 いわば獣人。二本足で立ってるけど毛むくじゃらで、色んな動物モチーフっぽい。そういうのが半ダースくらい。


「雌だ」

「魔王様の雌だ」


 そんなふうな声が聞こえる。

 魔王様の雌。なんだろう。ロリコン的なあんあんでらめえな感じにされるんだろうか。甘える甘やかすってそういうことじゃないと思う!

 ケモたちがざわっと左右にはけて、間を真っ黒な人が歩いてくる。二本の大きな角、背中に羽。黒い長髪。真っ赤な目。白い肌。


「……これか」


 きっとこれ、魔王だ。

 全知が教えてくる。神々が異なる三つの世界を抑えた魔王。私が呼ばれなかったのは、世界を滅ぼす系ではなかったから。私が呼ばれるのはその世界そのものを破壊したりしそうな問題が起こったとき。そうでないなら、基本神様ノータッチ。なので、この魔王は、くっそ強いけど世界は滅ぼさないっていう……何だそれ納豆菌か。ナットウキナーゼか。一部の生き物にとってはくっそ有用だけど一部にとってはくっそ邪魔っていうやつか。そうなんだな?


 納豆魔王は、その赤い目を細めて幼女な私を見下ろしてくる。おう。やんのか。


 私はまだ口を開かず、じっと睨むだけだ。


 納豆魔王は手を伸ばし、私をひょいと抱え上げた。なお、この時点のわたしは全裸である。全 裸 ! でもここは様子見だ。私がどういう立場でここにいるのかをきちんと認識しなければいけない。羞恥心はある世界か。私は羞恥してよいのか。声を出していいのか。何も知らないフリが必要なのか。

 でろんでろんに甘やかしてくれる世界と神様には言ったけどゼロからそう作るわけでもないのに、どうやってそうなるっていうんだ相手は三界の魔王だぞ。納豆だけど。


 納豆魔王、私を見る。

 私、納豆魔王を見返す。

 納豆魔王、微笑む。

 私、困惑する。え、こわ……


「え、こわ」


 思わず口に出た。

 納豆は目を丸くした。


「話せるのか」


 話しちゃったしな。うなずく。


「話せる」

「名前はあるか」


 どうしようかな。名前なー。納豆が魔王してる三界で勇者とか聖女とかしたおぼえはないけど知ってたらまずいしなー。名前で縛る系の呪いとか多分私には聞かないだろうけど厄介だしなー。


「好きに決めて」


 なのでそう応えた。

 ないとは言わない。嘘は言ってない。ここが気に入らなくて自力で帰る事になったとしても、本名知られてなければ逃げやすいだろうし。

 納豆魔王はふむ、と唸りながらあるき出した。全裸の私を抱き直して抱えたまま。


 肩越しにケモたちが追いかけてこようとするのを。

 ぎろり、と納豆魔王が振り返りにらみつける。しっぽがしゅんとするケモ。歩き出す納豆魔王。付いてくるのをやめたっぽいケモ。二本足だししゃべるけど、本能獣寄りっぽいな。全知もそんな感じだし、納豆魔王をボスとして群れをなしているって感じかな。


 納豆魔王は石造りの回廊をスタスタと歩いていく。全知のおかげでもうこの城の内部構造はバッチリ把握済み。これなら脱走もできそう。空に浮いてるけど。まあなんとかなるでしょ。召喚スキルも健在っぽいし天馬(ペガサス)とか騎竜(ドラゴン)とか呼べば行けそう。

 しばらく歩いて一つの部屋のドアの前にたどり着くと、納豆魔王はなにか呪文的なものを唱えた。

 『開錠』っぽい。重そうなドアが音もなく開くと、そこは魔王の城というよりはお姫様の部屋だった。

 真っ白な壁。赤いカーペットに黄色で刺繍が細かく施された床。壁と同じく真っ白な塗装がされた天蓋付きのベッドにかかるレースの御簾。柔らかな木の家具。

 納豆魔王は私をそのベッドの上にうやうやしくおろし、シーツを巻きつけた。一応全裸なことは気にしていたらしい。もっと早くしろ。その背中のマントをかぶせてから移動するくらいしろ。

 私のその不満を感じ取ったのか、納豆魔王はフッと笑う。怖いけども。


「娘、お前はあの木で生まれたのだから、俺のものだ」

「はあ」

「気のない返事だな。俺の娘、ゆくゆくは俺の伴侶として生きるのだからしゃんとしろ」

「……伴侶」

「そうだ」


 子を伴侶にするって近親相姦か。ペドフィリアか。


「……変態?」

「そうではない。お前半端に知識があるな?」


 全知が伝えるところによると。

 納豆魔王はあの木の股から生まれた。

 あの木から次に現れるのは納豆魔王の伴侶となるモノである。なのでもし幼体として生まれたなら慈しみ育て伴侶として教育する、らしい。

 全知が伝えることと同じことを、納豆魔王は語って聞かせた。

 光源氏か。源氏物語か。紫の上か。

 古典と日本史あんまり得意じゃないんだけど。世界史も。異世界史と混ざっちゃうんだよね。テストは全知任せだったから高得点だったけども。

 ちなみに、納豆魔王以外のケモたちは普通にオス・メスで繁殖しているそうだ。種族によっては分裂したりもするらしい。


「へえ」


 説明に頷いて見せると、納豆魔王は一つ咳払いをした。


「お前は衣類すら持たないようだから、明日にでも側仕えをつけて服を用意させよう。今日はもう休むぞ」


 納豆魔王はそう言って、私を抱えてベッドに横たわった。いや、ベッド、クイーンサイズくらいあるけどさ。

 納豆魔王は寝る時は角と羽をしまうらしい。消せるなら消しとけばいいのにとじっと見ていると、


「あれは魔王としての威厳だ」


 だって。気付いてたか。私の視線に。


「それから」


 私を胸に抱き直し、魔王は赤い目を細めて笑う。


「私のことは、マキナ、と呼ぶがいい」


 納豆魔王、改め、マキナか。うん。覚えとこ。

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