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1 世界救いまくり

思いつき不定期勢いだけですが、お楽しみいただければ幸いです。

 芦屋(あしや)明里(あかり)は救世主である。

 それも一つや二つの世界ではない。

 彼女が高校を卒業するとき、彼女が救った異世界は両手に余る数になっていた。


 なんて、ラノベの導入に書かれそう。

 初めては8歳のとき。魔法少女にあこがれていた私に与えられたのは、私を召喚した世界の神様からの『頑強』の加護。簡単に言うと、傷つかない、怪我しない加護。毒にも強い。疲労はある、って感じだったかな。魔法も使えて、回復魔法を覚えたら、それには疲労回復も含まれてた。苦しむ人々を早く助けたくて、限界まで進んで、回復魔法で回復して、また限界まで進んだ。誰もそれを止めなかった。むしろそれでこそと褒めてくれた。8歳は嬉しかったんだよ。自分そのものを認められたみたいでさ。

 で、進軍、魔法で回復、進軍、その間に魔力回復するから魔法で回復、また進軍。多分全体で一ヶ月くらいだったと思う。途中で回復魔法もカンストしてたけど、冒険としては短いよね。

 でも、8歳が行方知れずになっているには、結構長い間だった。

 両親も驚いたと思う。帰ってきた8歳の発達加減に。

 そう。生身で召喚されていたから、肉体の成長はそのままなのだ。その上、異世界で得た加護やスキル、魔法もそのまま。回復魔法が使えることを最初は自慢したかったけど、心配している両親にそんな事を言ったら、恐怖で記憶が混濁していると思われた。だから、言うのはやめた。

 復帰した小学校は、なんだかつまらなくなっていた。


 二回目。10歳のときだ。

 与えられたのは『癒やし』の加護。前回の『頑強』の加護と回復魔法カンストに加えて、『癒やし』。これは回復魔法を自動発動しているようなもの。しかも自分の影響下にある全員。ゲームっぽく言えばパーティー全員自動回復。なんぞそれって感じ。なので今度はパーティー全員で進軍回復ループをやって、同じく一ヶ月で帰ってきた。

 また両親は泣いた。この頃には一般魔法もレベルカンスト。


 三回目。11歳のとき。

 与えられたのは『全知』の加護。肉体的な加護は与えきったらしい。頑強と癒やししかもらってないけど、それ以外はレベルカンストと同義で与えにくくなったっぽい。仕方ないね。

 全知の加護は、今まで年相応+2回の冒険分しかなかった子どもにとっては大きな戦力だった。何せ、見たり触ったりすればだいたい分かる。『どうすればいいだろうか』と考えると答えが勝手に浮かんでくる。超便利。作戦とか罠とかそういったことに悩まなくなったおかげで、進軍回復効率化によって二週間で済んだ。


 四回目。12歳の春。なんで季節を言ったかって? ここから年一じゃなくなるからだよ。

 全知の加護のおかげで現実に戻っても優等生でいられたのは幸いといえば幸いだけど流石に三回目になると神隠しされやすい子から家出癖のある子扱いになってくる。それでも優等生でいれば表立った非難は避けられるってのをこの頃学んだ。だから加護はありがたかったな。三回の冒険のおかげ? で体育も子供の遊びにしか思えなかったし、勉強は加護のおかげと加護のせいで分かっちゃうし。発見っていう喜びはあまりなくなっちゃった。

 召喚されたら仲間とか言わずにさっさと解決した。魔王を倒してくれ系はこれで最後だったと思う。飛んでいって殴れば終わるから。そうそう、四回目の加護は『魔力無尽蔵』だった。もう与えられる加護が出尽くした感じがある。


 五回目の加護は浄化。汚染地区でも一瞬で緑の草原にできる。思い出したのは社会で習ったいろんな環境汚染とか核汚染だった。あれも多分一発で行ける気がする。やらないけど。魔王が倒れた後の呪われた大地を浄化してくれ、だったかな。三日で終わらせた。


 魔力無尽蔵と全知が重なったせいか、六回目の召喚の前に『未来予知』ができることに気付いた。割と具体的な『虫の知らせ』程度のやつ。精度の高い占いくらい。でもこれは使える、と思ったから、いわゆる数字を選ぶ宝くじを買って元手を作って、父に頼んで保護者のサインをもぎ取って株取引を初めた。父の年収より低いくらいの所得を『狙って』売買をして、お金をコンスタントに稼げるようにした。で、家に入れる。こうすると、多少行方不明になっても、優等生でお金を入れられるちょっと変わった子、になる。頭が良すぎておかしい、っていう言い方になった。ご近所はもう少し語彙力を高めたほうがいい。

 ついでに次の召喚にも気付けるようになったので、六回目のときは家族に


「また神隠しされる気がする」


 って言い出して顔を青くさせた。実際神隠し=召喚されて、三日で帰ってきた結果、


「ちょっと頭良くなりすぎて考え方が不思議なのね」


 に落ち着いた。さすが神隠しされすぎる子を持つ親は強くなったものだ。ご近所の語彙力とそう変わらないのは問題だが。


 召喚を重ねるごとに、私は常人離れしていく自分を自覚した。

 両親はもう、私のことを『神隠しから帰ってきて不思議になった子』扱いだ。放任と言ってもいいかもしれない。手がかからなくていい、と言っているのを聞いた。

 自分が桁外れに『強い』のを知ってしまっているから、甘えにくくなった。風邪も引かないし、疲れないし。体力あるし。マラソン大会とかそういうのはむしろ手を抜かないといけない。


 本気になるってなんだっけ。


 中学卒業の頃には、出席日数がちょっと少ない、冷めきった優等生になっていた。周りがみんな子どもに見える。新任の教師だってそうだ。自分たちを庇護の対象、弱々しい子どもだと思っている。自立した個人ではなく、導くべき子ども。それは正しい。けど。私のことを見てくれる人は、もう居ない。

 テストも。勉強も。体育も、スポーツも。本気になるなんてできない。私の『本気』は『世界を救っちゃうレベル』の本気なのだ。そんなことしたらどうなるかなんて全知じゃなくてもわかる。

 それで体力や加護が衰えれば、ただの人間くらいには戻れたんだろうけど、頻繁な召喚と、世界を超えても消えない加護とスキルによって、私の体は最適で最善なまま維持され続けた。


 不死身の怪人が殺してくれって懇願するのはこういうときかな。


 私を慰めるのはフィクションの中だけになった。フィクション、ファンタジー、SF。そういったものだけが私の拠り所になった。

 いつか王子様が。とか。いつか私より強い何かが、とか。そういうわかりやすい『救い』が欲しかった。

 チート最高なんて言えるのは最初だけで、私は自分から作った壁で社会から隔絶した。

 手加減しなきゃ何もできないなんて、ありのままで居られない。


 地元でそこそこの進学校の高校に進学した。やっぱり平日土日問わず召喚されるので、神隠しされやすい子はそのままだった。ただ、テストの成績は良かったので、お目溢しされた、という程度。テスト期間に召喚しないのは神様なりの優しさなのかもしれない。知らないけど。

 それでも私は召喚され続け、魔王を倒し、人々のいざこざを平定し、あるときは聖女、あるときは勇者、あるときは賢者、などなどなどまあともかく各世界の神様方の都合で色々世界を救ってきた。


 呼ばれて、解決して、エピローグなんてなくはいお疲れ様で帰される。だんだん世界を救うためのシステムみたいになってきた。神様方も、8歳のときとは扱いがかなり雑で、はいつぎここねー、みたいな。何だ私はバイトか。バイトより扱い悪くないか。


 だからこれが高校最後だなと思ったとき思い切って帰りを送ってくれた神様――なんと異世界送迎付きなんである――に言ってみた。


「この待遇のままなら引退したい。次に召喚されても何もしない」


 神様は微笑んだまま応えた。


「構いませんよ」

「そうなの?」

「はい。拒まれなかったので、承諾したものと解釈されています」

「なるほど? テスト期間とかこの期間はやめてくれ、みたいな時期が外されてたのは」

「そういう意思を感じたからですね」


 何だその便利な能力。それなら私の悩みも救ってほしかった。


「正直、あなたは救世主、世界の意思の代行者(ワールド・オーダー)として優秀で、神々の加護も絶大。真面目で勤勉。任せておけば救われない世界はない。正直言って、小さな世界の神ではもう太刀打ちもできません。

 なので、あなたが己から辞めたいとか報酬がほしい、といった時は、それに応じる協定になっています。ちなみに、ここまでの情報開示は、あなたが何もしないと口にしたことで発生しています」


 神様方もだいぶシステマティックだというのはこれまでのやり取りで学んでいたけど、望まれないと情報も出せないのか。面倒くさい。


「じゃあさ」


 ――私だけがでろんでろんに甘やかされる世界に行きたい。


 構いませんよ、と、最初の問いかけに答えたときと同じように、送迎の神様は口にした。


 私にとって、これが最初のホントの家出である。私の未来予知が便利なのは、加護の混合でもたらされているおかげで、自動発動ながら望まないと見えない、という点だ。ランダムに預言が降ってくるようなものでもないし、問答無用で未来を知らせてくるでもない。そういえばレベルアップで虫の知らせレベルからホントに未来視してるレベルにまでなってるけどこれも黙っておこう。

 送迎神様は穏やかな微笑みのままこう言った。


「あなたなら帰りたくなったらおそらく自力で帰れるでしょう。加護はそのまま、甘えやすいように肉体年齢は少し下げておきましょう。生まれ変わりと思っても構いません。あなたには、幸せを求める権利がある。

 あなたはあの世界の神の被造物としては、他の世界の神々に十分以上の貢献をしています。救われた世界の神々は加護だけでなくあなたへの祝福を持て余している。それらを含めて、あなたの望みを叶えましょう」


 めっちゃチートじゃんそれ。


「では、良い人生を」


 送迎神様はとても晴れやかな微笑みで私を見送った。




 

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